M&Aで会社の売却を検討している際に、「株式価値はこれくらい」「株式価値の向上を目指すなら、企業価値を上げるべき」という言葉を耳にすることがあります。株式価値は、株価の総額である時価総額のことを指します。
「株式価値」「事業価値」「企業価値」はそれぞれ類似した言葉ですが、どのような違いがあるのでしょうか。また、「株主価値」という言葉の意味も理解する必要があるでしょう。
この記事では、「株式価値」「事業価値」「企業価値」の違いや計算方法について解説します。これから会社の売却を検討している経営者は、それぞれの言葉を理解するために、ぜひご覧ください。
目次
- 1 株式価値はM&Aで最も大事な指標
- 2 事業価値・企業価値との違いについて
- 3 事業価値とは
- 4 企業価値とは
- 5 企業価値とEVの違いについて
- 6 株式価値の計算方法
- 7 DCF法
- 8 フリーキャッシュフローの計算
- 9 割引率の計算
- 10 ターミナルバリューの設定
- 11 現在価値に割り引いて、事業価値の算出
- 12 株式価値の計算
- 13 株価倍率法
- 14 類似上場企業の選定ポイント
- 15 株価倍率の計算
- 16 株式価値の計算
- 17 修正純資産法
- 18 修正純資産法と、DCF法・株価倍率法との違い
- 19 事業価値・企業価値の計算方法
- 20 事業価値の計算方法
- 21 将来のキャッシュフローを過去の決算書から予測
- 22 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く
- 23 各年度の将来のキャッシュフローの現在価値と合わせて計算
- 24 企業価値の計算方法
- 25 「株式価値」と「株主価値」について
- 26 「株式価値」と「株式の価値」について
- 27 高く売却するために、企業価値を高める選択肢も
- 28 まとめ:株式価値の計算は専門家に依頼
株式価値はM&Aで最も大事な指標
株式価値は株式時価総額のことを指します。M&Aで事業を売却する際に「いくらで売却するか」を決める判断基準として、「株式価値」は最も大事な指標と言っても過言ではありません。
上場企業であれば、株価や時価総額が常に値付けされているのでわかりやすいのですが、非上場企業となると、改めて算出する必要があります。これから会社を売却予定の経営者で、非上場企業の場合は、多くの手間と時間がかかることは念頭に入れておきましょう。
株式価値の算出法としては、企業価値から有利子負債(債権者価値)を差し引いた分で、会社の株式の価値を指します。
企業全体の価値から、すべての借金を返済して残ったものというとイメージがつきやすいかもしれません。
貸借対照表の純資産とほぼ近い数字にはなりますが、厳密に言うと、被支配株主持分と新株予約権は、株式価値に含まれないため、純資産との完全一致にはなりません。
事業価値・企業価値との違いについて
「株式価値」「事業価値」「企業価値」は非常に密接な関係です。株式価値を知ると同時に、事業価値と企業価値の意味や違いについても知っておく必要があります。
事業価値とは
事業価値とは、その企業の事業活動における価値のことを指します。実際に明確な数字に表せない、特許権や商標権、営業権などの価値が事業価値に含まれます。
事業価値は貸借対照表には計上されず、将来的にどれほどのキャッシュフローを生み出すかを、予測して算出します。
企業価値とは
企業価値は、文字通りその企業の全体の価値を指します。売上に直結する事業価値をはじめ、債権(借金)も含めて、企業価値とします。
「企業価値=事業価値+株式価値+債権者価値+非事業価値」となります。
非事業価値とは、フリーキャッシュフローに直接的に関与しない資産のことを指し、主に「遊休資産」「出資金」「投資資金」「有価証券」「保険積立金」「余剰資金」などが該当します。
企業価値とEVの違いについて
EV(Enterprise Value)という言葉があり、直訳すると「企業価値」です。しかし、日本では「事業価値」という意味合いで用いられます。
事業価値と企業価値は異なるので、意味の違いについて覚えておく必要があります。
株式価値の計算方法
株式価値の主な計算方法として、以下の3つがあります。
- DCF法
- 株価倍率砲
- 修正純資産法
DCF法
DCF法はインカム・アプローチという企業価値を評価する方法の一つです。
ディスカウント・キャッシュ・フローの頭文字を取ったもので、会社が将来生み出すキャッシュフローの価値を算出し、そこから現在の価値に割り引いたものが、事業価値となります。
具体的には、
- フリーキャッシュフローの計算
- 割引率の計算
- ターミナルバリューの設定
- 現在価値に割り引いて、事業価値の算出
- 株式価値を計算
という流れになります。
フリーキャッシュフローの計算
FCFと呼ばれることの多いフリーキャッシュフロー。将来見込まれるキャッシュフローを、事業計画書を元に算出し、減価償却費を足したものに、設備投資費や運転資金増減額を引いたものになります。
事業計画は、3年〜5年先の将来を予測して作られることが通常です。
割引率の計算
FCFから金利を考慮し割引率を計算します。具体的な計算方法には「WACC(Weighted Average Cost of Capitalの略)」と呼ばれる加重平均資本コストを用います。計算式は、
- 有利子負債総額…D
- 負債コスト(金利)…rD
- 株主資本…E
- 株主資本コスト…rE
- 実効税率…T
とした時、
WACC=D/(D+E)×rD×(1-T)+E/(D+E)×rE
という計算式で求めることができます。
計算式だけ見ると非常にややこしいのですが、要は「株主資本コストと負債コストを、それぞれの時価で加重平均する」ということになります。
ターミナルバリューの設定
ターミナルバリューは、6年目以降のキャッシュフローを予測した総額のことを指します。DCF法を用いて計算する場合、会社は永久に存続するという前提で計算するので、6年目以降はターミナルバリューとして設定します。計算式は、
5年目のFCF×(1+永久成長率)/(割引率-永久成長率)
となります。
永久成長率は、一般的に0%〜1%で設定します。ターミナルバリューは一定の割合で永久的に成長し続けると仮定した上で算出されるため、このような数値が必要になります。
関連記事:「ターミナルバリューとは?DCF法における計算方法と注意点を解説」
現在価値に割り引いて、事業価値の算出
先述したWACCで割り引いて、現在価値を算出します。
株式価値の計算
事業価値+非事業価値-債権者価値(有利子負債)の計算式を用いて、株式価値を算出します。
債権者価値には、他人資本やデットライクアイテムも含まれます。デットライクアイテムとは、有利子負債に似たもので、
- 未払賞与
- ファイナンスリース債務
- 退職給付債務
- 役員退職慰労引当金
- 発債務
などが含まれます。
株価倍率法
株価倍率法は類似株化比準法やマルチプル法ともいいます。
上場している同業他社の株価や時価総額、財務数値などを参考・比較して倍率を算出し、評価対象の会社にその倍率を適用して算出する方法です。
比較対象の同業他社がいない場合や、サンプル数が少ない場合は、株価倍率法は使用できません。
類似上場企業の選定ポイント
- 同業種あるいは類似業種か
- ビジネスモデルが類似しているか
- 顧客・ターゲット層は類似しているか
- 収益・経営規模に大きな差はないか
- 軸となる地域に共通点はあるか
- 事業の成長見込みは同程度か
などの要素を判断材料とし、類似上場企業を選定します。
条件に当てはまる上場企業を複数社(5〜8社)選定できれば、株価倍率法を用いて算出することが可能です。
株価倍率の計算
選定した上場企業の株価倍率を計算します。PER倍率、PBR倍率、PSR倍率などがありますが、M&Aでは、EBITDA(イービットディーエー)倍率と呼ばれる、事業価値ベースの倍率を使用するのが一般的です。
株式価値の計算
株価倍率を算出したら、それを元に株式価値を計算します。
修正純資産法
修正純資産法は、貸借対照表の簿価純資産額を時価で評価できるものは時価で再計算して修正する方法です。ただし、時価に変えられるもの全てではなく、主要なものだけを時価で評価します。
資産や負債項目全てを時価で評価するものは、時価純資産法といいます。
修正純資産法と、DCF法・株価倍率法との違い
株式価値の計算方法としてそれぞれ、
- インカムアプローチの代表として「DCF法」
- マーケットアプローチの代表として「株価倍率法」
- コストアプローチの代表として「修正純資産法」
を紹介しましたが、DCFと株価倍率法は事業価値から株式価値を算出するのに対して、修正純資産法だけは事業価値の概念はなく、貸借対照表の資産や負債を元に、直接的に株式価値を算出します。
どの方法で計算するのがいいかは、事業によって変わってくると思いますので、各種専門家に相談したほうがよいでしょう。
事業価値・企業価値の計算方法
事業価値は、事業が生み出した価値で、企業価値の大半には、この事業価値が含まれています。しかし企業価値には、事業価値以外の非事情価値や株式価値、負債なども含まれます。
事業価値、企業価値それぞれの計算方法(計算式)について解説します。
事業価値の計算方法
事業価値の具体的な計算の流れは以下のように進めていきます。
- 将来のキャッシュフローを過去の決算書から予測
- 将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く
- 各年度の将来のキャッシュフローの現在価値と合わせて計算
将来のキャッシュフローを過去の決算書から予測
根拠なく将来のキャッシュフローを予測するわけにはいきません。過去の決算書の「売上高」「売上原価」「販売費および一般管理費」「減価償却費」「運転資本増加額」「設備投資」を元に、将来のフリーキャッシュフローを計算します。
当然、予測した価値には、根拠がないといけません。
将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く
今の価値が100万円として、金利10%で運用し、1年後に110万円になるとします。
1年後には100万円が110万円に増えているわけですが、1年後の110万円は現在でいう100万円の価値にしかなりません。
これを、2年後3年後…と、将来の価値から現在の価値に割り引いていき、算出します。
各年度の将来のキャッシュフローの現在価値と合わせて計算
この現在価値の算出方法は、会社が途中で終わることなく、永久に続く前提で計算されます。割引率で計算されていくので、年数が経つにつれ、0に近づいていきます。
ここで算出された数字が、事業価値となり、企業価値の一部となります。
企業価値の計算方法
企業価値は、事業価値と株式価値に、有利子負債残高(債権者価値)も含めた合計で出せます。
企業価値の算出法として、主に「マーケット・アプローチ」「インカム・アプローチ」「コスト・アプローチ」の3種類がありますが、一長一短あるので、企業によっていずれかを組み合わせて算出することが多いです。
「株式価値」と「株主価値」について
「株式価値」と「株主価値」について、同じ意味として使われることがほとんどです。
株式価値は会社の株式の価値を示します。しかし、状況によっては「株式価値=1株あたりの価値」という意味で使用している場合もあるので、その時のシチュエーションによってどちらを指しているのか?判断する必要があります。
「株式価値」と「株式の価値」について
前述した「株式価値」が、状況によっては1株あたりの価値と同じ意味で使われるケースがあると言いましたが、これが正式に「株式の価値」という表現で使われます。
株式価値は企業の株全体の価値に対し、株式の価値は、1株あたりの株価という風に覚えておきましょう。
株式の価値の計算方法は、株式価値を、発行済み株式数で割る事で算出することが可能です。
高く売却するために、企業価値を高める選択肢も
M&Aで会社を売却するのであれば、少しでも高く売却したいと思う経営者が多いでしょう。いくらで売却できるか?は、株式価値や企業価値で決まります。
企業価値を高めることで、売却額も高く見積もる事ができるでしょう。
「企業価値を高める」というのは、単に売上をあげるだけではありません。他に、投資効率を改善したり、財務の健全化を図ったりなど、会社の経営全体を改善することで、企業価値が高まることはあります。
会社を買収する側にとって、引き継ぎにはできるだけ余計なものは避けたいはずです。不良在庫や不採算事業などが残っていると、それだけでマイナス評価になります。
取捨選択をしっかりして、綺麗な状態で会社を売却できるように心がけましょう。
まとめ:株式価値の計算は専門家に依頼
M&Aで事業売却、会社の売却を検討する際には必ずと言っていいほど、「株式価値」「企業価値」という言葉が出てきます。
特に、売却金額を株式価値を基準にしているのか、企業価値も含めて計算しているのかで、売却額がかなり変わってきます。
小規模の会社のM&Aの場合は、DCF法をはじめとするさまざまな算出方法を用いず、「利益の平均の何年分」というように、簡単な方法で計算するケースも少なくありません。
M&Aで自社を売却したいと考える経営者や担当者の方は、ぜひ弊社パラダイムシフトへお問い合わせください。
パラダイムシフトは2011年の設立以来、豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。候補先企業様のファインディング、デューデリジェンスの実施などのM&A全般の交渉をサポートするほか、買い手企業様の希望に柔軟に対応しながら、ニーズに沿ったM&A支援を行います。