ターミナルバリュー(継続価値)とは、DCF法において事業計画期間(一般に3〜5年)の終了以降、企業が永続すると仮定した場合に生み出される将来フリーキャッシュフロー(FCF)の現在価値の総和です。
企業価値全体の50〜80%以上を占める重要な要素であり、算出方法には主に「永久成長率モデル(ゴードン・グロース・モデル)」と「エグジットマルチプル法」の2種類が存在します。
本記事では、ターミナルバリューの概要を説明するとともに、DCF法における算出方法を紹介します。
この記事のポイント
- 実務の相場: 永久成長率は0%〜1%(インフレ率程度)で設定するのが一般的。
- ターミナルバリュー(継続価値)とは: DCF法において、事業計画(3〜5年)終了以降に企業が永続すると仮定して生み出す将来FCFの現在価値の総和。
- 重要性: 企業価値全体の50%〜80%以上を占める重要な要素。
- 算出方法: 「永久成長率モデル(ゴードン・グロース・モデル)」と「エグジットマルチプル法」の2種類。
ターミナルバリューとは?
ターミナルバリュー(継続価値)とは、DCF法において事業計画(3〜5年)終了以降に企業が永続的に生み出す将来キャッシュフローの現在価値の総和です。算出される企業価値全体の50%〜80%以上を占める、極めて重要な評価要素となります。
まずは、ターミナルバリューがどのような意味を持つのか、なぜそれほどまでに重要視されるのか、基礎的な概要から解説します。
ターミナルバリューの意味と定義(継続価値・残存価値)
ターミナルバリュー(Terminal Value)とは、M&Aにおける企業価値評価手法の一つ「DCF法」において、事業計画の予測期間(3~5年の計画)終了後から将来にわたって、企業が永続的に生み出すと期待されるフリーキャッシュフローの総計を指します。
日本語では「継続価値」「永続価値」「残存価値」とも呼ばれますが、いずれも同義です。本記事では「ターミナルバリュー」で統一して解説します。
なぜターミナルバリューが重要なのか?(企業価値の大部分を占める理由)
企業価値を算出する際、ターミナルバリューは非常に重要な役割を担います。 なぜなら、DCF法で算出される事業価値全体のうち、ターミナルバリューが占める割合は、一般的に50%〜80%以上にも及ぶケースが多いからです。
予測期間(直近3〜5年)のキャッシュフローよりも、その後の将来にわたって継続するキャッシュフローの合計額の方がはるかに大きくなるため、ターミナルバリューの算出精度が企業価値評価の信憑性を大きく左右すると言えます。
ターミナルバリューとDCF法の関係性
DCF法が「企業の将来キャッシュフローをもとに価値を評価する手法」であるのに対し、ターミナルバリューはその中で「事業計画期間を超えた残存期間の価値」を担う中核的な算出項目に位置付けられます。
この章では、DCF法の概要とターミナルバリュー・DCF法の関係性を詳しく紹介します。
DCF法とは?
DCF法とは、(Discount Cash Flow)の略で、企業の将来性をもとに価値を評価する手法。
M&Aにおける下記3つの価値評価手法のうち、インカムアプローチに分類されます。
- インカムアプローチ:企業の将来性をもとに評価
- マーケットアプローチ:市場における類似企業をもとに評価
- コストアプローチ:財務諸表をもとに評価
事業計画書をもとに、企業が将来生み出すであろう価値をフリーキャッシュフロー(FCF)で算出、リスクを考慮した割引率(WACC)で割り引いたものがDCFです。
これを現在価値に換算して企業価値を評価するため、DCF法と呼ばれています。
DCF法は、売り手企業の無形価値や将来性を正確に評価できるため、中堅企業〜大企業のM&Aで用いられます。
【関連記事】DCF法とは?なぜM&Aで重視されるのか?計算ロジックと他手法比較
DCF法の予測期間・残存期間
DCF法では、企業の将来的なフリーキャッシュフローを合理的に算出できる期間を「予測期間」、予測期間以降を「残存期間」と呼びます。
将来のフリーキャッシュフロー算出には、3~5年の計画を盛り込んだ中期事業計画書を用いるため、DCF法の予測期間もこれに準じて3~5年が一般的です。
ただし、DCF法では、予測期間以降も企業が永続するという前提のもと、残存期間のフリーキャッシュフローも評価対象に含みます。
ターミナルバリューは、残存期間のフリーキャッシュフローを現在価値に換算した総計のため、DCF法内で算出される企業価値と言い換えられます。
ターミナルバリューを計算する2つの代表的なアプローチ

ターミナルバリューの計算には、理論的でDCF法の本質に沿った「永久成長率モデル」と、M&A実務の市場相場を反映しやすい「エグジットマルチプル法」の2つのアプローチが存在します。
永久成長率モデル(ゴードンモデル)の特徴
永久成長率モデルとは、予測期間の最終年度以降も、企業のフリーキャッシュフローが一定の割合(永久成長率)で将来にわたって一定の割合で成長を続けると仮定して計算する手法です。
学術的にも理論的であり、DCF法の「企業が将来生み出すキャッシュをもとに評価する」という基本的な考え方に最も忠実なアプローチと言えます。
エグジットマルチプル法(倍率法)の特徴と実務での使われ方
エグジットマルチプル法とは、予測期間の最終年度末時点で対象企業を売却(エグジット)すると仮定し、その時点の企業価値を算出する手法です。
具体的には、評価対象企業と類似する上場企業の指標(EV/EBITDA倍率など)を用いて計算します。M&Aの実務現場では、市場の実勢や動向を反映しやすいため、永久成長率モデルよりも頻繁に活用される傾向にあります。
【関連記事】EBITDAマルチプルとは?メリットやEV/EBITDA倍率、評価ステップなどを解説
永久成長率モデルとエグジットマルチプル法の違い・使い分け
| 比較項目 | 永久成長率モデル(ゴードンモデル) | エグジットマルチプル法(倍率法) |
|---|---|---|
| 前提条件 | 企業が未来永劫存続し続ける | 予測期間末に第三者へ売却(Exit)する |
| 計算のベース | 将来のFCF・WACC・永久成長率 | 類似上場企業の指標(EV/EBITDA倍率等) |
| メリット | 理論的で本質的価値を見極めやすい | 市場のリアルな取引相場を反映しやすい |
| 実務での主な用途 | 中長期的な評価・理論値の策定 | M&Aの実務上の市場価格の反映 |
永久成長率モデルは「企業が未来永劫事業を継続する前提」の理論値であるのに対し、エグジットマルチプル法は「将来の一定時点で第三者に売却する前提」の市場ベースの値です。
実務では、市場の短期的な変動を排除して中長期的な本質的価値を見極めたい場合は「永久成長率モデル」を採用し、現在の市場相場を強く反映させたい場合は「エグジットマルチプル法」を採用するなど、目的によって使い分けたり、両方を併用して比較検討したりします。
※本記事の後半では、DCF法の基本となる「永久成長率モデル」での計算手順を中心に解説します。
ターミナルバリューの計算に必要な3つの要素
ターミナルバリューの算定に必要な要素は「フリーキャッシュフロー(FCF)」「割引率(WACC)」「永久成長率」の3つであり、これら各数値の精度と設定根拠が評価額の信頼性を大きく左右します。
各要素の概要と算出方法を順に紹介します。
なお、本記事ではDCF法におけるターミナルバリューの計算方法を紹介します。
企業価値全体を評価したい方は、こちらの記事を参考にしてください。
関連記事:企業価値とは?算定方法や企業価値を高める方法をあわせて解説
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフロー(FCF)とは、企業が事業で生み出したお金のうち、自由に使えるお金を指します。
フリーキャッシュフローを求める際に登場するのが、下記2つのキャッシュフローです。
- 営業キャッシュフロー
- 投資キャッシュフロー
営業キャッシュフローは、原材料の仕入れや商品の販売など、事業を行なう上でのお金の出入りを表すもの。
事業を継続するには、営業キャッシュフローがプラスであることが前提で、マイナスの場合は、売上不振や現金の回収ができていないなど、早急な対策が必要な状態です。
一方、投資キャッシュフローは、設備投資や企業買収など、事業拡大のための投資によるお金の出入りを表すものです。
フリーキャッシュフローを求める際には、税引き後の営業キャッシュフロー・投資キャッシュフローを用いて下記の式で算出します。
フリーキャッシュフロー(FCF)=「営業キャッシュフロー」−「投資キャッシュフロー」+「減価償却費」
減価償却費は、決算書上、経費として営業キャッシュフローに含まれます。
しかし、キャッシュフローは、あくまでもお金の出入りを表すもの。
減価償却費は、すでに支払いが完了しており、実際にはお金の動きがない非資金損益であるため、フリーキャッシュフロー算出時にはプラスする必要があります。
割引率
割引率とは、企業が将来的に生み出すであろう価値を、現在価値へ換算する際に用いられる係数のこと。
DCF法では、企業の将来性をもとに企業価値を評価するため、割引率を用いて将来生み出すフリーキャッシュフローを現在価値へ換算する必要があるのです。
たとえば、今もらえる100万円と1年後にもらえる100万円、あなたはどちらを選びますか?
おそらく多くの方は、前者を選ぶはずです。
これは、1年後にもらえる100万円の方が、今もらえる100万円よりも価値が低く、両者の価値に差が生じているということ。
DCF法でも同様で、企業が将来生み出すフリーキャッシュフローの価値と、現在の価値が異なるため、割引率を用いて現在価値へと換算するのです。
一般的に、割引率に用いられる値は、1円の資金を調達するのにどれほどのコストがかかるのかを示す「加重平均資本コスト(WACC)」です。
割引率と加重平均資本コストは言葉の意味こそ異なりますが、同じ数値を示すため「割引率=加重平均資本コスト」として用いられます。
割引率(WACC)の算出方法は下記の通りです。
資本総額×自己資本コスト/(資本総額+有利子負債)+有利子負債×有利子負債コスト×(1-実効税率)/(有利子負債+資本総額)
永久成長率
ターミナルバリューは、残存期間中に企業が一定の割合で成長する、あるいは予測期間最終年度のフリーキャッシュフローが継続する、などの仮説をもとに算出されます。
永久成長率は、前者の仮説を用いた際に使用する成長割合のことです。
従来、永久成長率には、日本のインフレ率や評価対象企業の成長性を考慮した値が用いられてきました。
しかし、不確実性が高い将来の成長率を合理的に設定することは困難であり、信憑性・簡易性の面から近年では0%を用いるケースが多く見られます。
実務における永久成長率の目安・設定基準(0%〜1%が一般的な理由)
永久成長率を設定する際、「企業は成長し続けるから」と高い成長率を設定しがちです。しかし実務において、永久成長率は「0%」または「0%〜1%程度(マクロ経済の長期的なインフレ率と同水準)」に設定するのが一般的です。
一つの企業が国の経済成長率を未来永劫上回り続けることは現実的に困難であり、高すぎる成長率を設定すると企業価値が非現実的なほど高く算出されてしまうからです。
近年では、不確実性や保守的な評価を重んじ、成長率を0%と置いて計算するケースが多く見られます。
【具体例あり】ターミナルバリューの計算方法
永久成長率モデルによる算出は、「最終年のFCFの確認」「ターミナルバリュー(将来価値)の算出」「評価時点への現在価値換算」の3ステップで行われます。
ステップ1:予測期間最終年度のフリーキャッシュフローを求める
まずは、事業計画書をもとに算出された予測期間(例:3年間)のうち、最終年度のフリーキャッシュフロー(FCF)を確認します。この最終年度の数値が、以降の残存期間の価値を算出するベースとなります。
ステップ2:計算式に当てはめてターミナルバリューを算出する
次に、以下の計算式に数値を当てはめて、残存期間のフリーキャッシュフロー総額(ターミナルバリュー)を算出します。
- 企業が一定の割合で成長すると仮定する場合:
ターミナルバリュー = 予測期間最終年度のFCF ÷ (割引率 − 永久成長率) - 予測期間最終年度のFCFが継続(成長率0%)と仮定する場合:
ターミナルバリュー = 予測期間最終年度のFCF ÷ 割引率
ステップ3:企業価値の算出にはターミナルバリューの現在価値が必要
ターミナルバリューの算出は予測期間の最終年度を起点とし、将来的なフリーキャッシュフローの現在価値を求めます。 つまり、ターミナルバリューを算出しただけでは「未来の時点の価値」であるため、企業価値を正しく評価するには評価時点(現在)の価値に換算し直す必要があります。 計算式は以下の通りです。
評価時点の現在価値 = ターミナルバリュー ÷ (1 + 割引率)^年数
【具体例】実際の数値を当てはめた計算シミュレーション
実際に以下の条件を用いてシミュレーションしてみましょう。
- 予測期間:3年
- 予測期間最終年度(3年目)のFCF:5,000万円
- 割引率(WACC):5%(0.05)
- 永久成長率:0%
- ターミナルバリュー(3年目時点):5,000万円÷0.05 = 10億円
- 現在価値(評価時点)への換算:10億円÷ (1 + 0.05)^3 = 8億6,384万円
したがって、評価時点におけるターミナルバリューの現在価値は約8億6,384万円となります。
ターミナルバリュー・DCF法の注意点
ターミナルバリューは企業価値に占める割合が大きいため、割引率や成長率のわずかな変化で結果が大きく変動します。そのため、前提条件の客観性を保つとともに、感応度分析(シミュレーション)を行うことが不可欠です。
客観性・信憑性が低くなる可能性がある
1つ目の注意点は、客観性・信憑性が低くなる可能性があることです。
先述のとおり、DCF法では、予測期間のフリーキャッシュフロー現在価値よりも、ターミナルバリューの方が企業価値に占める割合が大きくなります。
また、ターミナルバリューは仮説を踏まえた企業成長率を加味して算出されます。
つまり、採用した仮説によって算出されるターミナルバリュー、ひいては企業価値が大きく変動するのです。
さらに、予測期間のフリーキャッシュフローは、事業計画書をもとに算出されます。
言い換えれば、事業計画書の信頼性次第で企業価値の信憑性も左右されるということ。
これらを踏まえると、ターミナルバリュー・DCF法では、第三者が見ても納得できる合理的な仮説・事業計画書の策定が重要です。
数値を見ても直感的に判断できない
2つ目の注意点は、数値を見ても直感的に判断できないこと。
ターミナルバリューは、事業計画や仮説など不確実性の高い要素を用いて算出します。
算出された企業価値のみを見ても、背景にどのようなロジックがあるのかが不透明であり、直感的に判断できない点に注意が必要です。
M&Aの交渉で算出結果のみを提出しても、相手からすると数値・計算過程の信憑性が判断できないため、どのようなロジックでどんな計算過程を踏んだのかを伝えられるようにしましょう。
わずかな数値の変化で結果が大きくブレる(感応度分析の推奨)
ターミナルバリューの計算では、割引率(WACC)や永久成長率の設定をわずかに(例えば0.5%)変更するだけで、算出される企業価値が数億円単位で大きく変動する特性があります。
そのため、特定の数値だけで評価を決めるのではなく、「割引率が〇%、成長率が〇%の場合はいくらになるか」という複数のパターンをシミュレーションする「感応度分析」を行い、企業価値の幅(レンジ)を把握しておくことが実務上非常に重要です。
ターミナルバリューに関するよくある質問(FAQ)

ターミナルバリューに関するよくある質問をまとめましたので参考にしてください。
ターミナルバリューがマイナスになることはありますか?
結論から言うと、計算上マイナスになることはあり得ます。予測期間最終年度のフリーキャッシュフローがマイナスの場合、それを基準に計算するためターミナルバリューもマイナスとなります。 ただし、未来永劫キャッシュフローが赤字の事業は撤退・清算されるのが通常であるため、実務においてターミナルバリューをマイナスで評価することは現実的ではありません。
ターミナルバリューがない(ゼロになる)ケースはありますか?
あります。例えば、鉱山開発や特定のプロジェクトなど、事業の存続期間が明確に決まっており、予測期間終了後に事業が存続しない前提の場合は、ターミナルバリューはゼロとして扱われます。企業が「未来永劫続く」という前提でない限り、ターミナルバリューは発生しません。
割引率(WACC)と永久成長率の関係性はどう設定すべきですか?
計算式の構造上、必ず「割引率(WACC)> 永久成長率」となるように設定しなければなりません。もし永久成長率が割引率を上回ってしまうと、計算式の分母がマイナスになり、ターミナルバリューがマイナスになります。両者が等しい場合は、分母がゼロとなり、理論上計算できません。
ターミナルバリューを含んだDFC法で企業価値を算出しよう
本記事では、DCF法におけるターミナルバリューを紹介しました。
ターミナルバリューは、残存期間における企業のフリーキャッシュフローを現在価値に換算した総計のこと。
不確実性が高く、なおかつ企業価値の大部分を占めるため、ロジックや計算過程を明確にし、客観性・信憑性を確保することが重要です。


ターミナルバリューの算定でもっとも注視すべきは、計算式そのものよりも、前提となる事業計画最終年度のキャッシュフローが妥当かどうかです。なぜなら、TVは企業価値の過半を占めるため、ベースとなる最終年度の数値が甘ければ、弾き出される評価額全体が絵に描いた餅になってしまうからです。
実際のディールでは、割引率や成長率のコンマ数パーセントの調整で議論が空転しがちですが、買い手が本当によく見ているのは「その最終年度のFCFに再現性があるか」という点です。無理な成長シナリオを前提とした数値は交渉で簡単に見破られます。数式上の調整に没頭する前に、納得感のある堅実な事業計画を提示することが価格交渉への一番の近道です。