事業継続が困難だと判断した場合、廃業を選択せざるを得ないシーンもあるでしょう。会社の解散・清算時には3回、確定申告をするタイミングがあります。
- 解散事業年度の税務申告
- 清算期間中の事業年度の税務申告
- 残余財産確定後の最終事業年度の税務申告
解散により事業が停止したとしても、清算期間中に資産売却等で収入があった場合には、消費税や法人税がかかります。
また、残余財産が確定した後、株主への分配により源泉徴収税がかかる場合もあります。
そしてそれだけではありません。会社の解散・清算手続きにはさまざまな諸費用が発生します。
思わぬ出費に悩まされないよう、顧問の専門家(税理士や弁護士など)が近くにいない場合は、一度本記事で事前知識を入れてください。節税する方法についても解説します。
目次
会社清算までの流れ
会社の廃業は単に書類を提出すればいいという話ではありません。廃業に伴い、解散・清算手続きが必要です。主な流れは以下の通りです。
- 株主総会による解散決議(特別決議)
- 解散・清算人を選任、就任の登記
- 解散の届出
- 財産目録と貸借対照表の作成と承認
- 債権者の保護手続き
- 解散確定申告書の提出(解散事業年度分)
- 債務弁済、残余財産の確定、株主等への分配
- 税務署へ清算確定申告書の提出
- 決算報告書の作成
- 株主総会での承認
- 清算結了の登記
- 各公的機関へ清算結了の届出
※会社清算のより詳しい流れについては「会社清算の手続きとは?残余財産の分配についても解説」で解説していますので参考にして下さい。
会社解散・清算手続きには多くの工程があり、会社が清算結了するまで早くても2ヶ月、長いと1年、2年以上かかるケースもあります。
そして時間がかかるだけでなく、会社清算時には費用や税金もかかってきます。
会社清算時にかかる税金
会社の解散・清算手続きを開始すれば事業の売上は発生しないので、税金はかからないのではないか?と思われるかもしれません。しかし、意外な税金の落とし穴もありますので、注意する必要があります。
法人税・地方税
「事業活動を行っていないため法人税はかからない」と思う経営者もいるかもしれません。しかし残余財産の確定の際、不動産や棚卸し在庫などの有形財産の売却によって収入が発生した場合、法人税がかかります。
消費税
消費税も法人税同様、清算期間中の収入で課税対象となるケースがあります。例えば土地の売却については非課税ですが、建物の売却益は課税対象となります。基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合には、消費税の申告・納税をしなければなりません。
源泉徴収税
残余財産が確定し、資本金を超えた部分についての株主への分配は、みなし配当とされ、所得税がかかります。そのため、源泉徴収税を差し引かなければなりません。
2022年現在の税法上、上場株式の税率は15.315%、非上場株式や大口株主の場合は20.42%が源泉徴収税としてかかります。
会社清算における消費税の注意点
消費税には課税対象・非課税対象があります。
例えば残余財産を調査・確定させる際に、土地の売却益は消費税法上では非課税対象ですが、建物の売却益については課税対象となります。
そしてその基準期間の売上高の合計が1,000万円を超えると、消費税を納税しなければなりません。
消費税がかからないと思っていて、後から納税義務が発覚するという事態にならないよう、気をつける必要があります。
何が課税対象で何が非課税対象か判断に困った時は、専門家(税理士や公認会計士)に相談しましょう。
会社清算時の税金を節税する方法
通常の経営と同様、廃業する際にもできる限り出ていくお金を少なくしたいと考える経営者は多いでしょう。源泉徴収税、消費税など、会社清算時にも節税が可能なケースがいくつかあります。
源泉徴収税の節税:役員退職慰労金に充てる
残余財産の分配で資本金や資本準備金を超えた部分については所得税におけるみなし配当とされます。残余財産が資本金と同額(またはそれ以下)であれば、源泉徴収税はかかりません。
例えば1,000万円の資本金の会社で、清算後の残余財産が1,200万円だったとします。これを全て株主に分配してしまうと、資本金を超えた200万円はみなし配当となり課税対象になります。
この超過部分の200万円を役員退職慰労金に充てることで、残余財産を資本金と同額またはそれ以下に調整することが可能です。
役員退職慰労金は節税で一般的に使われる方法ですので、残余財産が多く残る場合はまず検討することをお勧めします。
ただし、退職慰労金があまりにも高額すぎると、不当な節税だと税務署から指摘される可能性がありますので、注意する必要があります。
消費税の節税:簡易課税制度を使う
中小事業者の納税負担を軽減させるための「簡易課税制度」という制度があります。
「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した課税事業者は、その基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下の課税期間について、売上げに係る消費税額に、事業の種類の区分(事業区分)に応じて定められたみなし仕入率を乗じて算出した金額を仕入れに係る消費税額として、売上げに係る消費税額から控除することになります
清算年度開始日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届」を提出することで、残余財産確定時の税金が節税できます。資産の売却額が1,000万円を超えるという場合は、簡易課税制度を使うことで節税に有利になる場合があります。詳しくは、税理士にご相談下さい。
期限切れ欠損金の特例
繰越欠損金がある場合は通常通り使うことができます。さらに清算事業年度において、残余財産がないと見込められた場合は、期限切れ欠損金を利用して利益を相殺することができます。
清算期間が2年、3年とかかる場合は、各事業年度終了時に計算するので、期限切れ欠損金が使える年度と使えない年度が出てくるケースもあります。
また、債務免除益等によって資産が多く残ってしまい、残余財産としてみなされ税金がかかる場合もあるので要注意です。
損金算入ができるかどうか、税理士に相談したほうがよいでしょう。
法人税の節税:欠損金の繰戻し還付の請求
中小企業者の場合のみ、欠損金の繰戻し還付が請求できます。
概要
青色申告書である確定申告書を提出する各事業年度に欠損金額が生じた際において、その欠損金額をその前事業年度に繰り戻して法人税額の還付を請求できるという制度です。
補足:中小企業者とは、資本金1億円以下の法人を指します。ただし株式の50%以上を、資本金が1億円を超える法人(または資本金が5億円以上の法人との間に完全支配関係がある法人)に保有されている法人の場合は、解散する会社の資本金が1億円以下であっても、中小企業者には該当しません。
詳しくは、国税庁ホームページ:欠損金の繰戻しによる還付をご覧ください。
会社解散・清算にかかる費用
会社の清算にはさまざまな税金がかかることがわかりました。それだけでなく、解散・清算手続き自体にも、費用がかかります。場合によっては想定外の高額な費用がかかるケースもあります。
登録免許税
登録免許税は、各種登記手続きをする際に、国に納める税金です。
- 解散、清算人選任の登記費用:39,000円
- 清算結了の登記費用:2,000円
官報公告の掲載費用
債権者の保護手続きの際に、会社を解散しますという報告を、官報公告に掲載しなければなりません。費用は文字数、行数でも変わってきますが、目安として22字×11行で掲載した場合、39,482円がかかります。
※参考:「官報と官報公告・決算公告」
その他諸費用
必要書類を申請・発行したり、会社の規模によっては株主総会を開催したりするのに費用がかかります。
上場会社は特に、会場を押さえる費用や準備費用などもかかってきますので、必要に応じた予算を入れておく必要があります。
- 登記事項全部証明書:数千円
- 株主総会開催費用:規模に応じて
専門家への依頼費用
会社の解散・清算手続きを全て清算人1人で行おうとすると、とても大変です。税理士への依頼は避けられないでしょう。また、会社の規模や、取引先との契約状況などによっては、司法書士や弁護士に依頼する必要性も出てきます。
特に弁護士費用は高額になるケースがありますので、予算をしっかり考える必要があります。
- 税理士:10万円〜30万円
- 司法書士:8万円〜数十万※依頼範囲による
- 弁護士:必要に応じて。数十万かかることも。
解散・清算手続きの費用が高額で払えない時は一旦休眠も
会社解散・清算手続きの専門家への依頼費用が高額で支払い切れない。予算が合わないという場合は、一旦会社を休眠するという方法もあります。
会社の休眠とは、事業を一旦停止することで、ご自身で手続き可能です。税務署、都道府県税事務所、市区町村役場に書面を提出するだけなので、費用はかかりません。
休眠後、事業を再開することも可能です。
ただし、いずれは解散・清算の手続きをしなければならないので、選択肢の一つとして頭の片隅に置いておくぐらいでいいでしょう。
税金で苦しまないよう残余財産の確定には気をつける
残余財産を確定させる際、不動産や棚卸し在の売却によって得た利益に法人税や消費税がかかります。また、資本金を超えた分の株主への分配は、みなし配当とされ、源泉徴収税もかかってきます。
それぞれ、計算に入れておかないと、後々納税で苦しむ結果になる恐れがありますので、税理士や公認会計士などに相談しましょう。
さらに税金だけでなく、解散・清算手続き自体にも費用がかかりますので、会社を廃業にする際は、各種費用の概算を出し、慎重に検討する必要があります。
「会社清算の手続きとは?残余財産の分配についても解説」でも述べておりますが、本当に会社を解散する必要があるのか?事業売却の選択肢は残されていないか、今一度考え直してみるのもいいかもしれません。