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暦年贈与とは?メリットや留意点、廃止の時期について解説

暦年贈与は、暦年課税の基礎控除(年110万円まで)を活用した相続税対策です。
長期間にわたって暦年贈与を計画的に進めることで、税金負担を軽くすることができます
しかし、暦年贈与を活用してコツコツと贈与を進めても、正しい方法で進めないと財産が相続税の対象になってしまう可能性があります。
2022年の税制改正では暦年贈与の廃止が見送りになりましたが、いずれは見直しもしくは廃止になる可能性が高いので節税の効果が薄くなります。
この記事では、暦年贈与の概要や相続時精算課税制度などの他の制度との関連、暦年贈与を行う際の留意点について解説します。

暦年贈与とは

暦年贈与とは暦年課税の基礎控除(年110万円まで)を活用し、早い時期から生前贈与を行い資産を減らしておくことで、相続税とあわせた負担を軽くすることを目指した制度です。

基礎控除額は110万円と少額ですが、その分は相続対象の財産から外れるため、相続税とあわせた負担が軽くなる場合があります。

基本的な制度概要は以下のとおりです。

  • 贈与者…制限なし
  • 受贈者…制限なし
  • 対象財産…制限なし
  • 制度移行…相続時精算課税制度への移行は可能
  • 控除額…毎年の受贈額の合計に対して110万円の基礎控除
  • 税率…10~55%の超過累進課税
  • 税額の計算…(その年の贈与額ー基礎控除額110万円)×該当の税率ー速算控除額
  • 申告の要否…基礎控除額以下の場合は申告不要
  • 適用手続き…基礎控除を超えた場合は申告の必要があるも、届出書の必要はない
  • 相続時の贈与財産の相続時課税…相続開始前3年以内の贈与財産
  • 相続時の贈与財産加算時の評価額…贈与時の相続税評価額
  • 相続時の贈与税額控除…適用あり(控除しきれない贈与税額は還付されない)

暦年贈与と他の非課税制度との関連性

暦年贈与以外にも、若年世代への資産移転を促す贈与税改正が進み、諸制度が設けられました。

子や孫に教育資金を一括贈与した場合に子・孫ごとに1,500万円まで非課税となる制度や、結婚・子育て資金の一括贈与に関する制度、住宅取得資金の贈与に関する特例措置、被相続人の配偶者が相続した分について法定相続分を超え、かつ1億6,000万円を超える部分の相続財産に対してのみ相続税を課税する配偶者控除などです。

これらの制度は暦年贈与と併用して利用できますので、複数を組み合わせることで税負担をさらに軽減できます。

相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは、高齢者の保有資産を早期に次世代へ移転させることを目的に創設された、贈与税と相続税を一体化させた課税制度です。

贈与時は贈与をする人ごとに2,500万円に達するまでの特別控除(複数年にわたって利用できる非課税枠)を適用でき、2,500万円を超えた部分の金額に対して一律20%の贈与税を納税します。

相続時には、この制度を利用して贈与を受けた財産と他の相続財産を合計して相続税を計算します。

贈与時に納税した金額があれば、相続税から控除して精算します。

贈与者は60歳以上の者、受贈者は20歳以上の子どもまたは孫に限られます。

また、受贈者は当制度で最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に贈与税の申告書に制度利用の届出書を添付して提出する必要があります。

なお、いったんこの制度を選択すると、以後、その贈与者と受贈者の間では暦年贈与は選択できなくなります。基本的な制度概要は以下のとおりです。

  • 贈与者…贈与の年の1月1日において60歳以上の者
  • 受贈者…贈与の年の1月1日において20歳以上の子または孫
  • 対象財産…制限なし
  • 制度移行…選択すると、暦年課税への移行は不可
  • 控除額…贈与者ごとに複数年にわたり2,500万円に達するまでの特別控除
  • 税率…一律20%
  • 税額の計算…(贈与額類進額ー2,500万円)×20%
  • 申告の要否…特別控除枠内でも申告が必要
  • 適用手続き…当制度で最初に贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に届出書を提出
  • 相続時の贈与財産の相続時課税…当制度を適用した贈与財産すべて
  • 相続時の贈与財産加算時の評価額…贈与時の相続税評価額
  • 相続時の贈与税額控除…適用あり(控除しきれない贈与税額は還付される)

暦年贈与と定期贈与の違い

定期贈与とは毎年定額の給付を目的とする贈与です。

例えば、1,000万円の資産を100万円ずつに分けて、受贈者に対して毎年贈与するという取り決めをおこない、生前贈与をおこなった場合は定期贈与とみなされます。

暦年贈与を行っていたつもりであっても定期贈与とみなされると贈与の開始時にすべての金額を贈与する意思があったとみられ、贈与した金額の合計に贈与税が課されます。

暦年贈与であれば、税負担はありませんが、1,000万円の贈与であれば、177万円(直系尊属から20歳以上の者以外は231万円)の贈与税が発生します。

暦年贈与と定期贈与の違いは、暦年贈与が「たまたま毎年贈与をおこなっていた」のに対して、定期贈与は「取り決めにしたがって、毎年贈与を行っていた」ことです。

暦年贈与のメリット

暦年贈与を適切に行うためには、暦年贈与がどのような効果をもたらすかを知っておくことが大切です。

ここからは暦年贈与のメリットについて解説します。

一般的な暦年贈与のメリットは以下のとおりです。

  • 相続税の軽減
  • 遺産分割対策

それぞれについて具体的に見ていきましょう。

相続税の軽減

相続税の負担割合は、遺産額が大きくなるほど大きくなります。

また、贈与税も一回の贈与額が大きいほど税負担は大きくなりますが、同じ金額に対する税率は若干異なります。

相続税と贈与税の税率の違いをうまく利用し、かつ相続発生前の早い時期で暦年贈与を行うことで相続財産を圧縮し、相続税の負担を軽減することができます

例えば、相続財産が2億円、相続人が子ども2人(非法定相続人として孫が1人)の場合を想定してみましょう。

暦年贈与を行わない場合は相続税3,340万円、贈与税0円、合計3,340万円の税負担となります。

一方で子ども2人・孫1人それぞれへ毎年110万円の暦年贈与を10年間行った場合はどうでしょうか?

この場合の相続財産1億6,700万円にかかる相続税は2,350万円、贈与財産3,300万円にかかる贈与税は0円となり、合計2,350万円の税負担です。

つまり、このケースでは暦年贈与を利用することで税負担を990万円軽減することに成功しています。

遺産分割対策

相続対策を実施せずに相続が発生した場合には、各法定相続人が法定相続割合で遺産を相続します。

または相続人同士の話し合いで遺産分割を行うことになりますが、スムーズにいくとは限りません。

したがって、相続が発生する前に被相続人としての意志を示しておくことが大切です。

また、遺産分割で争いになりそうな財産や分割が難しい財産を生前贈与することで、相続争いが避けられます。

さらに経営者の場合は、自社株や自社株式、事業用資産を生前に贈与することで、スムーズな資産の承継ができます。

このように、暦年贈与によって、特定の相続人に対して贈与を実施することで、自分の想いを反映した分割を実現することができます。

暦年贈与を行う際の留意点

暦年贈与を行う場合には、定期贈与ではなく暦年贈与として正しく認めてもらう必要があります。

仮に定期贈与とみなされた場合には、最大で50%以上の税率が課されますので、大きな負担となります。

それを回避するための重要なステップについて解説します。主なステップは以下のとおりです。

  • 贈与契約書を作成する
  • 金額と時期を変える
  • 相続開始前3年以内に注意する
  • 110万円以上の金額を贈与し、贈与税の申告をする

それぞれについて具体的に見ていきましょう。

贈与契約書を作成する

暦年贈与は口頭でも成立しますが、贈与を行ったという証拠を残すために贈与契約書を作成することをおすすめします。

贈与契約書には贈与者と受贈者の署名、作成日付、金額を記載し、公証役場で認証してもらいます。

たとえ税務調査が入った場合でも10年の間に毎年100万円ずつ贈与するという申し合わせがあったわけではなく、その都度贈与契約したことを証明できます。

贈与契約書の作成によって暦年贈与の条件である「毎回贈与があったこと」が証明可能です。

金額と時期を変える

毎年同じ時期に同じ金額の贈与を行うと「贈与の開始時にすべての金額を贈与する意思があった」とみなされ、これまでの贈与した金額の合計に一括して贈与税がかかります。

したがって、1年目の4月に108万円、2年目の7月に105万円というように、金額と時期を変えて贈与する必要があります。

このように毎年、贈与する時期、金額を変えることも「結果として暦年贈与となった」ことを証明する有効な手段です。

もちろん上述のように贈与発生の度に贈与契約書を作成します。

相続開始前3年以内に注意する

相続が発生して3年以内に行われた贈与については「なかったもの」とみなされて相続財産に加算され、相続税がかかってしまいます。

このような税制となっているのは、被相続人が死亡する直前で「相続税逃れ」のために実施される「駆け込み贈与」を防止する目的があります。

2024年1月1日以降に行う贈与については段階的に期間が延長されて、2031年1月1日からは完全に7年間の加算期間に移行する予定です。

相続はいつ発生するかわからないので、リスクを下げるためにも早い時期から長期にわたって暦年贈与を継続することをおすすめします。

また、相続財産に加算すべき金額は、「相続時の時価」ではなく、「贈与時の時価」である点にも注意が必要です。

110万円以上の金額を贈与し、贈与税の申告をする

暦年贈与の控除額は、毎年の受贈額の合計に対して110万円の基礎控除です。

したがって、110万円を超える金額については贈与税が発生します。直系尊属から20歳以上の者に対する贈与税額は以下のとおりです。

200万円…9万円(4.5%)
300万円…19万円(6.3%)
500万円…49万円(9.8%)
1,000万円…177万円(17.7%)
3,000万円…1,036万円(34.5%)
5,000万円…2,050万円(41.0%)
1億円…4,800万円(48.0%)

このように贈与税率は高い累進課税方式ですので、200万円を贈与すると仮定しましょう。

200万円の贈与の場合は、200万円-110万円=90万円が課税対象であり、9万円の贈与税が発生します。

このように「あえて」贈与税を納めるのは税務署に対して「贈与をしました」という証明になるからです。

ただし、贈与税は高い累進課税方式ですので、大きい金額を贈与すると暦年贈与の効果がなくなってしまうことに注意が必要です。

暦年贈与の廃止について

暦年贈与に関係する「相続税」「贈与税」を見直そうとする動きがありますが、まだ正式に決まっていません。

暦年贈与は今後どうなっていくのか下記で詳しく解説します。

暦年贈与が廃止される背景や理由

暦年贈与廃止が検討されたのは、もっと公平に贈与税・相続税を課税したいからです。

多くの資産を持っているシニア世代の人口比率が増えているなか、相続税や贈与税が高くて若年層に資産が渡らないのが問題となっています。

暦年贈与を見直すもしくは廃止することで、経済活動を活発化させる可能性が高い若年層の資産を多くできるはずです。

2022年の税制改正では廃止は見送り

2022年の税制改正では暦年贈与の廃止は見送りになりました。

考えられる理由は以下の通りです。

  • 富裕層の反発が予想される
  • 社会の混乱を招く可能性がある

暦年贈与の税制に基礎控除があることが社会に浸透しているため、相続税の負担を軽減するために暦年贈与を選択する人は多くいます。

非課税枠がなくなってしまうと増税だと勘違いしたり、不公平に感じたりする人もいるかもしれません。

社会に大きな影響を与える可能性があるので見送られたのでしょう。

課税対象となる生前贈与が死亡7年前に改正

2022年12月16日に発表された「令和5年度 税制改正大綱」によって、相続財産の課税対象となる生前贈与の期間が「死亡前3年」→「死亡前7年」になることが決定しました。

改正後、亡くなる前の3年間に贈与された財産への課税はこれまでと同じですが、追加で4年間(亡くなる7年前から)贈与された分の全体から100万円を差し引いた金額を相続財産に含めて計算するという制度になりました。

今回の改正で課税対象となる生前贈与が廃止ではなく「死亡7年前」と長くなったので、暦年贈与による節税の効果が薄れる形になってしまいました。

ドイツは10年、フランスは15年、アメリカは生前贈与すべてが対象なので、もっと節税効果が薄く長くなっていくのではないでしょうか。

将来的には相続時精算課税に統一される可能性も

ドイツやフランス、アメリカなどは相続時精算課税を促しているので、日本も将来的には生前贈与を廃止して相続時精算課税への統一を進める可能性があります。

そこで、相続時精算課税の概要と利用しやすいのかについて下記で詳しく解説します。

相続時精算課税とは

相続時精算課税とは、生前贈与の総額2,500万円までを非課税として贈与をした人が亡くなったときに残りの相続財産とまとめて相続税として課税するという制度です。

贈与税に関して2,500万円の大きな非課税枠がありますが、相続時には生前贈与の分を含めて相続税を計算します。

つまり、実質的には納税するタイミングの先送りにすぎないので節税効果は薄れます。

相続時精算課税が利用しやすくなった

相続時精算課税制度に「年間110万円の基礎控除」が加わったことで利用しやすくなりました。

2024年1月1日以降、相続時精算課税制度を選択した人は年間110万円までなら贈与税も相続税もかかりませんし、贈与税の申告もいらなくなりました。

相続時精算課税制度を選んだら暦年課税制度は使えませんが、相続時精算課税制度の控除が特別控除(総額2,500万円)と基礎控除(年間110万円)の2つになります。

ご高齢の方がお子さんに税金がかからない範囲で少しでも早く財産を移したいのであれば、年間110万円以下の贈与なら贈与税はかかりません。

将来、高額な資産になると予想される資産を移す場合も同じです。

相続時精算課税制度を選ぶことで生前贈与による節税効果が薄れますが、メリットを感じる方が多いので利用されやすくなるでしょう。

税理士などの専門家に相談しよう

暦年贈与は、暦年課税の基礎控除(年110万円まで)を活用した相続税対策であり、富裕層から一般の方まで幅広く活用されている節税対策です。

長期間にコツコツと贈与をすることで大きな節税効果がある暦年贈与ですが、制度の見直しもしくは廃止も検討されています。

税金の仕組みは複雑であるため、検討する際には税理士など専門家に相談することをおすすめします。

 

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