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M&Aにおける焦土作戦とは?特徴やメリット、リスク、事例について解説

焦土作戦(Scorched Earth Defense)は、企業が敵対的な買収から身を守るために採用する買収防衛策の1つです。

資産や事業の売却で自社の価値を毀損させ、買収者の買収意欲が減退することに期待した作戦と言えます。

本記事では、焦土作戦の特徴やメリット、リスク、実際の事例などを解説します。

M&Aにおける焦土作戦とは?

本来、焦土作戦とは軍事上の戦術及び作戦を指します。

戦闘において攻撃側に奪われる地域に所在する家屋や田畑、森など利用価値のあるインフラの一切を破壊、焼き尽くします

これによって、攻撃側は敵の領土内で食料や燃料の調達が不可能になり、生存の窮地に追い込まれます。

この軍事上の戦術である焦土作戦は、M&Aにおける買収防衛策の一つとしても知られています。

買収防衛策としての焦土作戦や他の買収防衛策との違いなどについて解説します。

買収防衛策とは

通常、M&Aでは買収者と譲渡企業の同意の下で実施されます。

しかし、譲渡企業の同意を得ずに議決権の過半数を獲得することで、一方的に買収を仕掛けることを敵対的買収と言います。

このような敵対的買収に対して、買収が成功しないように対策を取ることを買収防衛策といいます。

経済産業省では、買収防衛策について以下のように定義しています。

株式会社が資金調達などの事業目的を主要な目的とせずに新株又は新株予約権の発行を行うこと等により自己に対する買収の実現を困難にする方策のうち、 経営者にとって好ましくない者による買収が開始される前に導入されるものをいう。 

ちなみに買収防衛策が有名になったのが、2005年のライブドア社による敵対的買収です。

焦土作戦とは

買収防衛策の一つである焦土作戦とは、被買収企業が有するクラウンジュエル(優良資産や収益性の高い資産や事業)を売却する、あるいは多額の負債を負うことによって、企業価値を意図的に下げて、敵対的買収者にとって魅力のない企業になることで、買収意欲を減退させる作戦です。

ちなみにクラウンジュエルとは、被買収企業をクラウン(王冠)、そして被買収企業が有する資産をジュエル(宝石)として、王冠から宝石を取り外すことで、王冠の魅力をなくしてしまうことに由来します。

クラウンジュエルとの違い

クラウンジュエルとは、買収対象企業である「クラウン(王冠)」から資産や事業部門、特許などの「ジュエル(宝石)を切り離し、自社の価値を毀損することを指します。

M&Aでは、焦土作戦と同義で用いられ、どちらも資産の破壊や売却を通じて企業全体の価値を低下させ、買収者の意欲を削ぐことを目的とします。

焦土作戦のメリット

焦土作戦は、優良資産を売却したり、負債を負ったりすることによって企業価値を意図的に減退させる方法です。

買収防衛策には焦土作戦以外にも様々な方法がありますが、あえて焦土作戦を採用することによってどのようなメリットがあるのでしょうか。

ここからは焦土作戦を採用することによるメリットについて解説します。

買収企業の意欲を減退させる

そもそも敵対的買収を仕掛ける企業は、被買収企業の企業価値に大きな魅力を感じています。

敵対的買収は合意のある買収に比べて、大きなコストと労力がかかるので、それに見合う企業価値がなければそもそも実施しません。

そして企業価値の源泉となるのが事業用資産や特定の事業、技術やノウハウなどです。

敵対的買収によって、これらの資産を獲得して、自社の経営資源を拡大することが目的となっています。

したがって、資産を売却するなどして、目的となっている資産を消滅させてしまえば、そもそもの買収の動機が消滅します。

第三者の支援が必要ない

買収防衛策の中には、被買収企業にとって友好的な第三者の支援がなければ実施できない方法もあります。

一方で焦土作戦は自社の資産を売却したり、負債を負う方法ですので、被買収企業が単独の判断で行うことができます

もちろんリスクはありますが、実施へのハードルが低いという意味では採用しやすい方法でもあります。

焦土作戦のデメリット

焦土作戦は敵対的買収者の買収意欲を減退させる効果のある有効な買収防衛策です。

しかし、自社が保有する優良な資産を売却したり、負債を負ったりすることになるので、もちろんデメリットやリスクも存在します。

焦土作戦のリスクについて理解しておかないと、実施してから後悔することになるかもしれません。

ここからは焦土作戦のデメリットについて解説します。

企業価値が低下する

焦土作戦では事業継続に必要な優良な資産や技術、ノウハウ、そして特定事業を売却することで、自社の魅力をなくしてしまいます。

したがって、仮に買収企業の買収意欲を減退させ、買収を阻止することに成功したとしても、実際に企業価値を毀損することになります。

事業継続に必要な資産や技術が消滅すると、以前と同様に事業を継続し、利益を生み出すことができなくなり、将来的に倒産してしまうリスクもあります。

また、資産の売却ではなく、負債を負うという選択をした場合にも同様のリスクがあります。

この場合には、自己資本比率が著しく低下し、不況に弱い企業体質になったり、銀行融資を受けられなくなったりと大きなリスクがあります。

株主総会の同意が必要

焦土作戦は他の買収防衛策と異なり、外部の第三者の同意が必要ない為、自社の判断で買収防衛策を実行できます。

しかし、外部の第三者の同意がなくても、自社の株主の同意が必要になります。

会社法第467条では、以下の行為について株主総会の決議による承認を必要としています。

  • 事業の全部の譲渡
  • 事業の重要な一部の譲渡
  • その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡

したがって、自社の事業用資産を売却するときには株主の同意が必要となります

これは資産売却によって、企業価値や競争力を喪失するだけではなく、既存株主の資産価値を低下させることになる為です。

また、焦土作戦実施のために事業用資産を適正価格以下で売却した場合には、株主や監査役から株主訴訟を提起される可能性もあります。

焦土作戦を実施する際には、目的や必要性について株主によく理解してもらい、協力を得ることが不可欠です。

善管注意義務違反を問われる可能性がある

会社法330条によれば、「株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。」とされています。

つまり、取締役と会社は受任者と委任者の関係にあります。

この規定を根拠として、取締役は会社に対して善管注意義務、つまり会社に損害を与えないために「善良な管理者の注意」をもって業務を行う義務が発生すると考えられています。

問題は焦土作戦による企業価値の毀損について、善管注意義務に違反しているとみなされる可能性があることです。

例えば、事業用資産の売却によって事業継続に重大な支障が生じた場合には、焦土作戦の実施が適切な経営判断とみなされず、「善管注意義務に違反した」として株主から責任を追求される可能性があります。

焦土作戦の事例

焦土作戦を実施すると企業価値の減退や株主からの反発といった実害があるので、実際に実行に移されたケースは多くはありません

他の買収防衛策と比べて圧倒的に件数が少なく、実施されたケースでは他に手段がない為に採用された場合がほとんどです。

ここからは敵対的買収を仕掛けられて、焦土作戦が実施された事例についてご紹介します。

ライブドアによるニッポン放送の敵対的買収

焦土作戦が注目を集める契機となったのが、2005年の堀江貴文氏率いるライブドア社によるニッポン放送への敵対的買収です。

この事件の発端はニッポン放送という小さな親会社がフジテレビという大きな子会社を保有しているという不安定な資本関係でした。

堀江氏はニッポン放送を買収することで、その子会社であるフジテレビの支配を狙いました

ライブドア社による敵対的買収に対して、ニッポン放送はフジテレビに対する新株予約権の発行やニッポン放送子会社のポニーキャニオンの売却など様々な対抗策を講じましたが、堀江氏が諦める気配がありませんでした。

そこで、ニッポン放送はフジテレビの株式を売却するという焦土作戦を検討しました

結局、ソフトバンク・インベストメントがホワイトナイトとなって、フジテレビ株の貸借をすることを決定したため焦土作戦は回避されました。

前田建設工業による前田道路への敵対的買収

2020年1月20日、前田建設工業は持分会社の前田道路に対し、公開買い付け(TOB)を実施すると発表したことで、敵対的買収に発展しました。

両社には「前田」という名称がついていますが、両者の出自は全く異なり、被買収企業の前田道路は前田建設工業の敵対的買収に大きく反発しました。

また、前田建設工業は表向き道路舗装事業の更新需要獲得のための連携強化を買収目的に掲げてしましたが、株式時価総額で前田道路が上回っていることから、前田道路の豊富な資金が真の狙いであると受け取られたことも要因です。

前田道路は買収防衛策として焦土作戦を選び、総資産の2割に相当する現金等535億円を特別配当金として社外流出させました。

さらにJXTGホールディングス傘下の道路舗装大手であるNIPPOをホワイトナイトとする買収防衛策も検討するなど徹底抗戦の構えを見せましたが、3月13日に敵対的買収が成立し、前田道路は前田建設工業の連結子会社となりました。

焦土作戦を実施する前に検討したい買収防衛策

焦土作戦は買収企業の買収意欲を減退させる有効な方法ですが、実際に企業価値が毀損することや買収企業が必ず買収を断念する保証がないので、実際に選択された例はほとんどありません。

ここからは、焦土作戦を実施する前に検討できる有効な買収防衛策をご紹介します。

ホワイトナイト

ホワイトナイトとは、敵対的買収を仕掛けられた際に、友好的な第三者に買収または合併してもらう買収防衛策です。

友好的な第三者を白馬の騎士になぞらえて、ホワイトナイトと呼ばれます。

具体的には、第三者に新株予約権や新株を発行する方法や、第三者と株式の交換を行う方法があります。

敵対的買収の最中には、ホワイトナイトと敵対的買収者の株式買取合戦となるので、ホワイトナイトに資金力があることが最低条件です。

マネジメントバイアウト

マネジメントバイアウトとは、買収対象企業の経営陣が自社の資産や将来のキャッシュフローを担保として、金融機関から借入を行い、買収対象となっている事業や会社全部を買い取って非上場化してしまう方法です。

非上場であれば、株式の取引が自由に行えないので、市場で株式を買い集められることを防ぐことができます。

ホワイトナイト同様に敵対的買収を防ぐためにより確実性のある方法です。

焦土作戦は有効だがリスクが大きい

この記事では、焦土作戦の概要や実施のメリット、デメリットについて解説しました。

焦土作戦は買収意欲を減退させる方法として有効ではありますが、実際に企業価値が毀損するためリスクの高い方法です。

可能であれば、他の買収防衛策を実施して、買収を回避するのが賢明でしょう。

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