「会社を売却すると、いくら儲かる?」
上記の疑問をお持ちの経営者は、多いでしょう。
会社を売却するメリットの1つが、創業者利益の享受です。
自ら立ち上げ成長させた会社に、一体いくらの価値がつくのか。
本記事では、会社売却のメリットと相場について、売却後に起こる3つの変化とあわせて紹介します。
目次
会社売却とは?
会社売却とは、会社・事業を第三者へ売却することを指します。
近年ニュースなどで耳にするM&Aとも類似しますが、厳密には意味が異なる用語。
M&Aは、Mergers(合併)and Acquisitions(買収)の略であるため、会社売却を内包する用語といえます。
本章では基礎知識として、会社売却の種類と売り手企業が得られるメリット・デメリットを紹介します。
会社売却の方法・種類
会社売却は、主に下記2種類の取引方法に分類されます。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
株式譲渡とは、会社が発行する株式を第三者へ売却することで、経営権や支配権を譲渡する方法です。
M&Aと聞いて多くの方が連想するのが、この株式譲渡。
株式譲渡が完了すると、会社・事業・ブランド名・技術力など、社内のすべてが譲渡される仕組みです。
事業譲渡とは、会社がおこなう事業の一部またはすべてを第三者へ売却する方法です。
先の株式譲渡とは異なり、不採算事業などの一部の事業を切り出して売却できるため、取引後も会社を存続させられます。
会社売却のメリット
会社売却により、売り手企業の経営者・株主が得られるメリットは、下記の3つです。
- 株主・経営者が儲かる
- 会社の後継者問題を解決できる
- 不採算事業を手放し経営基盤の強化を果たせる
一番のメリットは、会社売却による対価で、株主・経営者が儲かること。
会社売却では、事業の収益性や有形固定資産のみならず、ブランド力や技術力などの「のれん」も、企業価値評価の対象です。
そのため、会社の状況によっては、当期純利益を大きく上回る金額で売却できるかもしれません。
2つ目のメリットは、会社の後継者問題を解決できることです。
2020年には後継者不在率が57.5%にのぼるなど、中小企業を中心に、後継者問題が深刻化しつつあります。
そんな中、会社売却は事業や社員を残したまま第三者へのの引き継ぎができるため、後継者問題の解決策としても注目されています。
3つ目のメリットは、不採算事業を手放し経営基盤の強化を果たせることです。
事業譲渡の場合、会社を残しつつ自社の不採算事業のみを切り出して譲渡できるため、経営基盤の強化につながります。
また、自社にとっては不要な事業でも、同業他社にとってはシェアの拡大や人材の獲得などシナジー効果が得られる場合もあります。
この場合、自社が想定する以上の売却価格がつけられるケースもあるため、先述した株主・経営者の儲けにもつながるでしょう。
会社売却のデメリット
一方、会社売却にはメリットのみならず、下記のデメリットも存在します。
- 同一事業が一定期間できなくなる
- 中長期的に拘束される
1つ目のデメリットは、事業譲渡後の20年間、一定区域内で同一の事業ができないことです。
これは、売却後の買手企業の事業を守るための事項であり、「競業避止義務」とも呼ばれます。
競業避止義務は、会社法で定められた事項のため、違反した場合には損害賠償などが課せられます。
2つ目のデメリットは会社を売却した後、中長期的に事業へ拘束されることです。
たとえば、買い手企業は会社売却後に、従業員や取引先と新たに再契約する必要があります。
ただ、買い手企業は、従来の契約内容や取引先との関係性などを把握していないため、売り手企業の協力が必要です。
こうした理由から、売却後に売り手企業の社長・経営者を、一定期間雇用するケースもみられます。
会社売却で儲かる?売却価格の相場はM&A手法によって異なる
会社売却を検討するうえで最も気になるのが、会社の売却価格ではないでしょうか。
ただ、会社の売却価格は会社の売上規模や買い手企業の事業内容など、さまざまな要因によって異なります。
たとえば、会社全体を売却する株式譲渡は、売却価格が高額になる可能性が高いといえます。
一方、社内における特定の事業のみを売却する事業譲渡は、株式譲渡よりも売却価格が安くなりがちです。
実務上は、会社・事業の価値を計算する評価手法(バリュエーション)を用いて売却価格を算定します。
バリュエーションには、さまざまな手法が存在しますが、本章では代表的なコストアプローチを用いた会社売却価格の計算を紹介します。
【参考例】コストアプローチによる会社売却価格の計算
会社売却の中でも、中小企業による会社取引では、コストアプローチによる売却価格の算出が一般的です。
コストアプローチとは、企業価値評価の手法(バリュエーション)のうち、評価対象会社の純資産をベースに評価する方法です。具体的には、貸借対照表上の資産、負債の時価を評価することによって企業価値を評価します。
引用:コストアプローチ-用語集|株式会社パラダイムシフト
コストアプローチを用いた計算方法は、下記の通りです。
- 株式譲渡:純資産+(営業利益+役員報酬)×3〜5(年)
- 事業譲渡: 事業資産+事業利益×3〜5 (年)
たとえば、純資産:1億円・営業利益4,000万円・役員報酬1,000万円の場合、株式譲渡における売却価格は次の通りです。
1億円+(4,000万円+1,000万円)×3年=4億5,000万円
また、事業資産:3,000万円・事業利益1,500万円の事業を譲渡する場合は、下記の計算式です。
3,000万円+1,500万円×3=7,500万円
上記はあくまでも簡易的な計算方法ですが、売却価格の目安を把握する際に役立ちます。
企業価値を評価するその他の手法(バリュエーション)
会社の企業価値を評価するバリュエーションには、コストアプローチ以外にも下記2種類の手法が存在します。
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
インカムアプローチとは、会社・事業の収益性をベースに、売却価格を算出する手法です。
インカムアプローチの代表的な計算方法は、DCF法や配当還元法、収益還元法が挙げられます。
一方のマーケットアプローチとは、株式市場や類似の会社売却事例などを参考に、売却価格を算出する手法です。
マーケットアプローチは、株式譲渡で用いられるバリュエーションであり、代表的な計算方法は、下記の3つが挙げられます。
- 市場株価法
- マルチプル法
- 類似取引比準法
また、3種類のバリュエーションについて、こちらの記事で詳しく解説しています。
詳細な売却価格を計算した方は、ぜひご参考ください。
M&Aにおけるバリュエーションとは?用語や方法、プロセスを徹底解説
会社売却にかかる税金
会社売却にかかる税金は、事業譲渡と株式譲渡とで大きく異なります。
本章では事業譲渡にかかる税金と、株式譲渡にかかる税金のそれぞれを紹介します。
事業譲渡の売却価格にかかる税金
事業譲渡の売却価格にかかる税金は、主に下記の2つです。
- 法人税等:売り手企業
- 消費税:買い手企業
事業譲渡の売却価格にかかる法人税等は、事業を売却した際の売却損益と他の所得を合算した金額に対して課税されます。
事業売却損益は、下記の式で算出されます。
事業売却損益=事業の譲渡価格ー(譲渡した資産ー譲渡した負債)
事業譲渡の売却価格にかかる法人税等は、実効税率が約30%。
したがって、事業譲渡価格が3億円、譲渡した資産2億円・負債1億円の場合は、下記の計算式が成り立ちます。
事業売却損益=3億円(事業譲渡価格)ー(2億円:資産ー1億円:負債)=2億円
他に所得がない場合:2億円×30%=6千万円(法人税)
一方、買い手企業は、譲渡対象資産に課税対象資産が含まれる場合に、消費税が課せられます。
事業譲渡における課税対象資産とは、有形固定資産や営業権(のれん)など。
ただし、有形固定資産でも土地など例外的に消費税がかからない資産もあるため、注意が必要です。
株式譲渡の売却価格にかかる税金
株式譲渡の売却価格にかかる税金は、主に下記の3つです。
- 所得税:15%
- 住民税:5%
- 復興特別所得税:0.315%
株式譲渡の売却価格にかかる上記の税金は、譲渡価格から取得費やコンサルティングへの委託料などの必要経費を差し引いた譲渡所得に対してかかります。
そのため、株式譲渡価格2億1,000万円、必要経費1,000万円の場合にかかる税金は下記の通りです。
2億1,000万円(株式譲渡価格)ー1,000万円(必要経費)=2億円(譲渡所得)
2億円(譲渡所得)×(15%:所得税+5%:住民税+0.315%:復興特別所得税)
=4063万円(税金)
また、個人株主の場合は、譲渡所得以外の所得には税金がかかりません。
所得金額が大きい場合でも累進課税の対象にならないため、税負担が少ない会社売却手法といえます。
【売り手企業】会社売却の手順6ステップ
会社売却の手順は、主に下記の6ステップです。
- M&A仲介会社と契約
- 意向表明書の受領・基本合意書の締結
- デューデリジェンス
- 事業譲渡契約の締結
- 株主への通知や公告・株主総会の特別決議
- 名義変更の手続き
初めに、M&A仲介会社との契約を検討します。
自社の人員のみで会社売却を進めることもできますが、交渉を進めるにつれ法律や税金などの専門知識が求められます。
そのため、交渉をスムーズかつ有利に進めるためにも、M&A仲介会社へ助言を仰ぐのがおすすめです。
M&A仲介会社は、会社取引に関するアドバイスや候補企業とのマッチングをサポートする専門企業です。
相談〜会社売却成立までをサポートしてくれるため、安心して会社売却を進められるでしょう。
会社売却の手順について、こちらの記事で詳しく解説しています。
会社売却の各スキームを詳しく知りたい方は、ぜひご参考ください。
事業譲渡とは?売り手企業のメリット・デメリット、手続きの流れを解説
売却した会社におこる3つの変化
会社売却を検討するうえで懸念されるのが、社員の処遇や事業の存続ではないでしょうか。
本章では、売却した会社におこる変化を、下記3つのポイントに絞って紹介します。
- 社員・役員待遇の変化
- 社風の変化
- 事業の変化
変化1.社員・役員待遇の変化
1つ目のポイントは、社員・役員待遇の変化です。
会社売却が成立すると、社員・役員は当人の同意のもと、買い手企業と労働契約を結ぶケースが一般的。
就業規則や給料などの待遇は、買い手企業が定める規定に則るため、大手企業に売却した場合は優遇されやすく、同規模以下の場合は冷遇される恐れがあります。
ただし、会社売却時の契約内容には、社員・役員の待遇に関する事項を盛り込めるため、交渉段階で相手企業と取り決めた内容は遵守されます。
また、社員への負担が大きな会社売却後に労働条件を切り下げては、従業員から大きな反発に遭う可能性が高いため、相応の条件で再雇用されるケースが一般的です。
変化2.社風の変化
2つ目のポイントは、社風の変化です。
株式譲渡・事業譲渡ともに、売却後は買い手企業との統合がおこなわれます。
社風も例外ではなく、元の社風は一新され買い手企業に統合されるため、大きな変化が生じるポイントです。
また、海外企業に売却した場合は、商習慣や文化の違いから社員への負担が大きくなりがちです。
場合によっては、再雇用後に退職が相次ぐ可能性もあるため、売却時には社員への説明が欠かせません。
変化3.事業の変化
3つ目のポイントは、事業の変化です。
会社売却後の事業の扱いは、買い手企業によって大きく異なります。
たとえば、同一事業のシェア拡大や技術力の補填を目的とした買収であれば、買い手企業の事業に統合されるでしょう。
しかし、不動産や人材の確保を目的とした買収の場合は、取引成立後に事業を解体する可能性もあります。
会社売却に向け自社の企業価値を評価しよう
本記事では、コストアプローチで売却価格を計算しましたが、他にも多くの手法が存在します。
またバリュエーションごとに、評価できる価値が大きく異なるため、詳細な価格を把握したい方は複数のバリュエーションで計算すると良いでしょう。
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