近年、M&A業界を騒がせている「不動産M&A」。
耳にしたことはあるものの、一体どのようなM&Aなのか疑問に思う方も多いはず。
本記事では、不動産M&Aの概要を解説した上で、メリットとデメリット・税金負担について解説します。
目次
- 1 不動産M&Aとは?
- 2 2種類の不動産M&A手法
- 3 株式譲渡による不動産M&A
- 4 会社分割を利用した不動産M&A
- 5 立場別、不動産M&Aのメリット・デメリット
- 6 売り手側にとってのメリット・デメリット
- 7 買い手側にとってのメリット・デメリット
- 8 不動産M&Aに課せられる税負担
- 9 不動産の売買にかかる税金
- 10 会社清算にかかる税金(売り手企業)
- 11 株式譲渡にかかる税金
- 12 新設分割・株式譲渡にかかる税金(売り手企業)
- 13 不動産M&A2つの成功事例
- 14 事例1.株式会社ビーロットによる不動産再生事業
- 15 事例2.トーセイ株式会社による積極的な不動産M&A推進
- 16 不動産M&Aの注意点
- 17 売り手側の注意点
- 18 買い手側の注意点
- 19 不動産M&Aをご検討中の方へ
不動産M&Aとは?
不動産M&Aとは、不動産を主目的におこなうM&Aのこと。
従来のM&Aは、対象企業の事業や経営資源などを自社に統合するためにおこないます。
買収対象のなかに不動産が含まれることはありますが、狙いはその不動産自体ではなく、企業・事業を取得することです。
一方、不動産M&Aは、取得したい不動産を得るために、対象企業もまとめて統合するものです。
不動産M&Aを検討する売り手企業は、収益性の高い魅力的な不動産を有し、なおかつ事業の採算性・将来性が低く、廃業を視野に入れている企業がほとんど。
事業が好調な会社が資産の一部である不動産を処分する場合、不動産自体を売却(不動産売買)する方法が自然です。
一般的には、不動産会社が当事者(買い手企業)になるケースが多いものの、異業種企業が当事者になるケースもあります。
2種類の不動産M&A手法
不動産M&Aの手法は、大きく分けると下記2種類に分類されます。
- 株式譲渡による不動産M&A
- 会社分割を利用した不動産M&A
双方にどのような違いがあるのか、見ていきましょう。
株式譲渡による不動産M&A
株式譲渡による不動産M&Aは、従来のM&Aと同様、売り手企業の全株式を取得し、売り手企業を子会社とします。
これにより、買い手企業は子会社(売り手企業)を通して、間接的に不動産を所有する形となります。
不動産M&A完了後、買い手企業は売り手企業の処遇を検討しなければなりません。
仮に、事業を継続させる価値がある場合には、不動産を管理する子会社として残します。
対して、事業継続が困難な場合には、主目的である不動産を自社に移転したのち、子会社(売り手企業)を解散します。
繰り返しですが不動産M&Aの主目的は、あくまでも不動産の活用。
不動産の収益性を上げて売却(イグジット)を目的としているため、不動産の売却が完了次第、子会社(売り手企業)を解散するのが典型です。
会社分割を利用した不動産M&A
会社分割とは、その名の通り1つの会社を事業単位・不動産単位で分割すること。
会社分割を利用した不動産M&Aでは、売り手企業から主目的である不動産のみを取り出し、買い手企業へ売却できます。
売り手企業から不動産を取り出す会社分割には、下記2種類の方法があります。
- 新設分割:新規設立した会社へ不動産を移転する方法
- 吸収分割:既存の会社へ不動産以外を移転する方法
不動産M&Aでは、売り手企業が新会社を設立する新設分割が一般的です。
理由は、吸収分割だと組織再編税制の特例措置を受けられなくなるためです。
立場別、不動産M&Aのメリット・デメリット
不動産を取引するためにわざわざM&Aを実施するのは、相応のメリットがあるため。
この章では不動産M&Aを実施するメリット・デメリットを、売り手企業と買い手企業双方の視点から解説します。
売り手側にとってのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
大幅な節税効果 廃業コストの削減 | 買い手が見つかりにくい 時間と手間がかかる 節税のメリットを享受できない恐れ |
売り手企業側の1番のメリットは、大幅な節税効果が期待できることです。
会社の清算と比較すると、不動産M&Aの方が数十パーセントの節税効果が期待できます。
また、株式譲渡と同様、M&Aの利益に税金がかかるため、不動産取引よりも税金面のメリットが大きいのです。
2つ目のメリットは、廃業コストが不要な点です。
会社を廃業する際には、設備や在庫の処分費用、賃貸物件の原状回復費など様々なコストがかかります。
しかし、不動産M&Aでは会社ごと譲渡するため、これら廃業にかかるコスト・手間を省けます。
一方、売り手企業にとっての一番のデメリットは、買い手が見つかりにくいこと。
不動産M&Aでは会社を譲渡するため、不動産自体を取引する場合よりも対象者が限定されてます。
M&Aの特性上、機密性が確保されているため、場合によっては買い手が見つからないケースもあるでしょう。
2つ目のデメリットは、手間・時間がかかること。
不動産の譲渡が目的とはいえ、M&Aの形態をとる以上、手間・時間がかかります。
一般的なM&Aでも、交渉開始〜成約までに最低半年〜1年かかるため、仮に会社分割+株式譲渡の場合にはさらに長期化する恐れがあります。
不動産M&Aを検討する場合には、余裕のあるスケジュールを心掛けてください。
買い手側にとってのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
不動産を安く取得できる 市場に出回らない不動産を取得できる | 売り手企業のリスクを引き継ぐ恐れがある 時間と手間がかかる |
買い手企業にとっての一番のメリットは、不動産を安く取得できること。
不動産売買により不動産を取得するよりも、税金の負担が少なく済みます。
したがって、不動産M&Aで土地を取得する方が、税引後の手取りが多くなる場合があるのです。
また、M&Aの交渉次第では算定された株主価値よりも安く取引を成立させられる可能性もあるため、結果的に不動産を安く取得できるでしょう。
2つ目のメリットは、市場に出回らない物件を取得できること。
不動産の中には、工場や自社ビルなど売買目的ではないものの、投資対象として魅力的なものもあります。
一般的にこうした不動産は市場に出回りにくいのですが、不動産M&Aは売り手企業側の節税効果も高いため、場合によっては交渉に応じてくれるかもしれません。
一方、買い手企業にとってのデメリットは、売り手企業のリスクを引き継ぐ恐れがあること。
不動産M&Aでは売り手企業の全体を買収するため、残業代未払い・租税回避・簿外債務などを抱える可能性があります。
問題を抱えないためには、DD(デューディリジェンス)でできる限り洗い出すことが大切。
ただし、売り手企業は自社にとって都合の悪い情報をすすんで提出することはないため、その点も見越した上で資料の提出を求めると良いでしょう。
2つ目のデメリットは、時間と手間がかかること。
売り手企業のデメリットでも解説したように、M&Aには最低半年〜1年がかかります。
場合によっては、交渉が思うように進まず長期化する恐れもあるため、その点には注意が必要です。
不動産M&Aに課せられる税負担
不動産M&Aに課せられる税負担は、取引手法や譲渡内容によっても左右されます。
本章では、2種類の不動産M&A手法に課せられる税負担を解説します。
不動産売買・会社清算にかかる税負担と併せて参考にしてください。
不動産の売買にかかる税金
まず、売り手企業に課せられる税金は、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税など。
売却で生じた利益に対して、合計30%~34%ほどです。
一方、買い手企業に課せられる税金は、消費税・登録免許税・司法書士への委託費用・印紙税です。
土地のみの取引では消費税が非課税ですが、建物が含まれる場合には、建物に対して消費税が課せられます。
消費税は、固定資産評価基準に基づいて算出された不動産評価額に対し、3%~4%の税率。
また、不動産の所有権が移り変わる際に必要な所有権移転登記は、登録免許税として税率2%です。
会社清算にかかる税金(売り手企業)
会社経営が立ち行かなくなった際には、不動産などの資産を清算し廃業するという選択肢があります。
清算では、不動産などの資産を換金して債務を弁済。
残った財産(残余財産)がある場合には、株主へ分配します。
清算後に残った残余財産がプラスの場合は、先程の不動産売買と同様、法人税などの課税対象(合計30%~34%)です。
また、土地や有価証券などを除く資産の換金には、消費税がかかります。
会社清算では、残余財産を受け取る株主側にも税金が課せられます。
残余財産は譲渡部分と配当部分に分類され、必要経費を引いた金額が譲渡所得となり、一律20%の所得税、配当部分は配当所得として総合課税の対象です。
株式譲渡にかかる税金
不動産M&Aにおける1つ目の手法、株式譲渡にかかる税金を見ていきましょう。
売り手企業に課せられる税金は、株主の譲渡所得に対する申告分離課税の20%のみ。
株主の譲渡所得は「株式譲渡の対価-必要経費の合計」で算出されます。
このほかに消費税や印紙税などはかかりません。
会社を清算した場合と不動産M&Aの場合とでは、税引き前の譲渡所得が基本的に同額となります。
しかし、不動産M&Aにおける株式譲渡の税金は、申告分離課税20%のみのため、会社清算よりも高い節税効果が期待できます。
次に、株式譲渡における買い手企業の税金です。
株式譲渡の時点では、買い手企業に課税は生じません。
ただ、のちに不動産を売却する際に法人税などが課せられるため、あらかじめ理解しておく必要があります。
新設分割・株式譲渡にかかる税金(売り手企業)
続いて、不動産M&Aにおける2つ目の手法、新設分割・株式譲渡です。
新規設立した会社へ不動産を移転する新設分割では、原則下記3つの税金がかかります。
- 資産・負債の譲渡損益に対する法人税
- 配当所得に対する所得税
- 不動産の承継に対する不動産取得税
ただし、組織再編税制の適格要件などを満たした場合、法人税・所得税が免除されます。
また、移転する事業が下記の条件を満たすと、不動産取得税が非課税となります。
- 分割事業の主要資産が新設会社へ移転
- 新設会社で事業継続が見込まれる
- 分割事業に従事した従業員の約80%以上が新設会社の業務に従事
新設分割後におこなわれる株式譲渡の税金は、前章で解説したものと同様です。
不動産M&A2つの成功事例
これまで、不動産M&Aの概要と税金について解説しました。
この章では、実際に不動産M&Aを成功させた事例を2つ紹介します。
事例1.株式会社ビーロットによる不動産再生事業
株式会社ビーロットは、東証一部上場の総合不動産コンサルティング企業。
株式会社ビーロットは、2017年にカプセルホテルを運営するヴィエント・クリエーションを子会社化しました。
カプセルホテルをリノベーション・リブランドにより高収益化した後、2019年にイグジットしています。
事例2.トーセイ株式会社による積極的な不動産M&A推進
トーセイは、不動産の流動化や開発、賃貸事業と不動産ファンド・コンサルティング事業を手掛ける東証一部上場企業。
不動産M&Aで優良不動産を取得し、収益性を高めたのちに売却するという事業モデルを確立。
2001年から推進しており、2018年までに13件の不動産M&Aを実施しました。
ビル、店舗、マンション、ホテル、駐車場など多様な不動産に対応しており、2017年にはM&A推進体制を強化しています。
不動産M&Aの注意点
不動産M&Aを実施する注意点を、売り手側・買い手側の視点で解説します。
売り手側の注意点
場合によっては、不動産M&Aの株式譲渡を短期所有土地の譲渡と見なされる恐れがあるため、注意が必要です。
具体的には、下記2つのいずれかに該当した場合は、短期所有土地の譲渡と見なされる可能性があります。
- 土地の所有期間が5年以下の場合
- 所有資産の70%以上が土地などの不動産で構成されている場合
万が一、株式譲渡を短期所有土地の譲渡と見なされると、約40%の税金(所得税30%+住民税9%)が課せられるため、資産配分や土地の所有期間に注意が必要です。
買い手側の注意点
買い手企業の注意点は、一般的なM&Aと同様で負債や簿外債務などのリスクを抱える恐れがあること。
不動産M&Aでは、主目的である不動産に目が行きがちですが、あくまでも会社・事業を統合するM&Aです。
実行に際してはDD(デューデリジェンス)を慎重に実施し、売り手企業が抱える問題を明確化しましょう。
不動産M&Aをご検討中の方へ
本記事では、不動産M&Aを解説しました。
不動産M&Aとは、不動産の獲得を主目的とするM&Aのこと。
高い節税効果により、注目されています。
ただし、場合によっては節税効果を享受できないケースもあるため、注意が必要です。
また、不動産とM&A双方の専門知識が求められるため、不動産M&Aを検討している場合には、専門家からのアドバイスを受けると良いでしょう。