半導体受託製造の世界大手TSMCが、熊本県に新たな工場の建設を公表しました。
黒船に例えられるほどの存在感で、熊本県は経済波及効果への期待が高まっています。
しかしTSMCが国内に工場を建設することで、地域への悪影響などさまざまな懸念が生じます。
半導体市場やTSMCの動向を把握するために、熊本県に進出する理由や市場に与える影響を確認しましょう。
本記事では、TSMCが熊本県に進出する理由と市場に与える影響について詳しく解説します。
地域住民の懸念点や半導体メーカーの動向をあわせて解説するため、ぜひ最後までご覧ください。
目次
- 1 TSMCと熊本県の関係性
- 2 2024年に新工場が開所
- 3 第2・第3工場の建設予定
- 4 TSMCが熊本県に進出した理由
- 5 半導体企業が集まっている
- 6 水資源が豊富にある
- 7 日本政府から巨額の支援がある
- 8 TSMCが熊本県に与える影響
- 9 新たな雇用機会が創出される
- 10 地価が高騰する
- 11 約11兆円の経済波及効果が期待できる
- 12 TSMCが熊本県を拠点にする懸念点
- 13 地下水を維持できるか
- 14 交通網やインフラを整備できるか
- 15 人材不足に陥らないか
- 16 半導体メーカーの動向
- 17 市場の需要が増加している
- 18 投資が活性化している
- 19 半導体メーカーの主な業種
- 20 半導体材料メーカー
- 21 半導体製造メーカー
- 22 半導体製造装置メーカー
- 23 半導体商社
- 24 TSMCなど半導体メーカーの需要は今後も増える見込み
TSMCと熊本県の関係性
引用元:Impress Watch|日本に「最新でない半導体工場」を作る理由。TSMC新工場【西田宗千佳のイマトミライ】
TSMCは、「Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(台湾積体電路製造)」の略称で、台湾に本社を構える半導体受託製造(ファウンドリー)の世界最大手企業です。
2024年10月17日に発表した第3四半期(7~9月)決算は、売上高と純利益がともに四半期ベースで過去最高値を記録するほど業績が好調な世界的企業です。
第3四半期決算が発表された後、ニューヨーク上場株は12%上昇して史上最高値の209ドルを記録、時価総額は1兆800億ドル(約162兆円)に達しました。
そのような世界的大手の半導体企業が、2024年2月24日に熊本県に工場を設立し開所式を行いました。
食堂のパート従業員を時給3,000円で募集され、周囲の飲食店や小売店の需要が増加するなど、地域に大きな経済効果をもたらしています。
TSMCが熊本県に進出した背景を把握するために、次のポイントを押さえておきましょう。
- 2024年に新工場が開所
- 第2・第3工場の建設予定
それぞれのポイントから、熊本県で起きた空前の「半導体バブル」について理解を深めましょう。
2024年に新工場が開所
TSMCは、熊本空港の北側に位置する、人口4万3,000人余りの菊陽町に新工場を開所しました。
2021年にTSMCが菊陽町に日本初の半導体工場を設立する計画を発表し、同社子会社のJASMが運用する予定で計画が進められました。
2024年に、約1兆2900億円の投資額で東京ドーム4.5個分のTSMC熊本工場が開所し、最寄りのJR豊肥本線「原水駅」は閑散とした無人駅でしたが、現在では通勤で多くの利用客で混雑しています。
新工場には、関連企業からの出向などを含め約1,700人もの労働者が就業する予定です。
九州経済調査協会の分析によると、新工場の開所により2022年から2031年の10年間で約6.85兆円の経済波及効果が熊本県内に生じる見込みです。
参照元:公益財団法人 九州経済調査協会|九州における半導体関連設備投資による 経済波及効果の推計
第2・第3工場の建設予定
2024年に開所した新工場だけでなく、第2・第3工場の建設予定が噂されています。
第2工場は、2025年1〜3月までに建設を開始し、2027年に稼働する予定です。
熊本県の木村敬知事は、第3工場の建設検討をTSMCに依頼しましたが、確実性のある回答を得られていません。
第2工場の建設が決定し、新たなる経済効果を熊本県にもたらす見込みですが、第3工場の建設場所は国内の他都道府県になる可能性があります。
TSMCの魏哲家会長兼CEOは、2024年6月に熊本での第3工場建設の可能性について「第1と第2をしっかりやってから、将来の拡張を考える」と回答している点からも、同県内での建設予定も捨てきれません。
TSMCが熊本県に進出した理由
TSMCが熊本県に進出した理由は、次のとおりです。
- 半導体企業が集まっている
- 水資源が豊富にある
- 日本政府から巨額の支援がある
「なぜ熊本県に半導体工場を建てるのか」疑問に思った方は、それぞれの理由を確認しましょう。
半導体企業が集まっている
熊本県にTSMCが工場建設を決めた理由は、県内に半導体企業が集まっているからです。
九州経済産業局が公表した資料によると、下記のように熊本県周辺の九州地方には半導体製造企業や関連機関が多く集まっています。
引用元:九州経済産業局|シリコンアイランド九州の復活に向けて
九州地方はシリコンアイランドと呼ばれるほど、半導体産業が盛んな地域です。
周辺に半導体関連企業・機関が集まっているため、必要な原料や人材を確保しやすく、サプライチェーン網を利用する目的で熊本県に新工場が建設されました。
水資源が豊富にある
熊本県が半導体工場の建設地に選ばれた理由は、水資源が豊富にあるからです。
半導体を製造するには、半導体の基板を洗浄し微細な回路上の不純物を除去するために、高純度の超純水が大量に必要です。
TSMC本社がある台湾では、2020年に台風が上陸せず雨量の減少によって水資源が枯渇しました。翌年の2021年にも、深刻な水不足に悩まされ、台湾での半導体製造に課題が生じました。
熊本市は水の都と呼ばれるほど豊富な水資源が溢れており、水道水を100%地下水で賄っているほどです。
阿蘇山など周辺の山々に多くの雨水が集まり、火山岩層を通して純度の高い地下水へと蓄えられるため、熊本県は半導体製造に最適な水資源が集まっています。
日本政府から巨額の支援がある
TSMCが熊本県に工場を建設する理由は、日本政府から巨額の支援を受けられる点が大きな要因です。
半導体は自動車やスマートフォン、さまざまな家電製品で使用されており、サプライチェーンの要となる「産業のコメ」と呼ばれます。
しかし2020年以降のコロナ禍とウクライナ情勢によって、国内のサプライチェーンが機能せず、半導体の共有が不安定になりました。
そこで日本政府は2022年に、半導体を重要物資に指定し半導体産業の支援を始めました。
TSMCの工場建設においても「日本全体に大きな波及効果を及ぼす」と期待し、地元経済の成長や賃上げ、雇用の拡大につながるとして巨額の補助金を支給しています。
具体的には、2024年2月に開所した第1工場には最大4760億円を補助、2027年稼働予定の第2工場に最大7320億円の補助を決めました。
TSMCは、巨額な支援を受けられる日本の中で、半導体産業が盛んで水資源も豊富にある熊本県を工場の建設場所に選んだのです。
TSMCが熊本県に与える影響
TSMCが熊本県に与える影響は、次のとおりです。
- 新たな雇用機会が創出される
- 地価が高騰する
- 約11兆円の経済波及効果が期待できる
TSMCの進出によって、熊本県の人材雇用が促進され、多大なる経済波及効果が期待できます。
株価の変動やビジネスチャンスを捉えるために、TSMCが熊本県に与える影響をそれぞれ確認しましょう。
新たな雇用機会が創出される
TSMCの第1工場で約1,700人を直接雇用したように、新たな雇用機会が創出されます。
食堂のパートで時給3,000円と、第1工場で優秀な人材を確保するために、同地域内でより高待遇な条件での雇用を始めました。
TSMCの熊本での総投資額は2兆円を超える見通しで、第2工場を含めるとTSMC熊本工場での雇用は約3,400人を見込んでいます。
関連企業やサプライチェーンの半導体関連企業での雇用需要が増え、熊本県で新たな雇用機会が増加する予想です。
地価が高騰する
TSMCが高額な報酬で人材募集したため、熊本県の地価が高騰します。
台湾や他の地域から移民が急増し、熊本県の不動産需要が高まっています。
実際、TSMC熊本工場がある菊陽町の地価変動率は、次のとおりです。
用地 | 菊陽町 | 全国平均 |
住宅地 | 12.8%増 | 0.7%増 |
商業地 | 25.5%増 | 1.5%増 |
工業地 | 29.2%増 | 2.6%増 |
参照元:熊本県企画振興部地域・文化振興局地域振興課|令和5年 熊本県地価調査
上記は2023年度の地価変動率ですが、菊陽町の地価は全国平均よりも大きく増加しました。
TSMCの進出により、従来より家賃が2倍ほど高い単身用の賃貸が増えたり、3,000万円の戸建て住宅が6,000万円に跳ね上がったり、熊本県の不動産需要・地価が高騰しています。
約11兆円の経済波及効果が期待できる
TSMCが熊本県に進出して生じる経済波及効果は、約11兆円になる見込みです。
九州フィナンシャルグループは、2024年9月5日にTSMCの進出によって、2022~2031年の10年間で11兆2,000億円の経済波及効果が生じる予測を発表しました。
参照元:日本経済新聞|半導体集積効果、熊本に11.2兆円 TSMC第2工場で拡大 シリコンアイランド
TSMCの第2工場まで熊本県に建設されるため、県外だけでなく台湾など海外から関連するサプライヤーが国内に進出し、より経済効果を生む予想です。
さらに第3工場まで建設された場合は、より高い経済波及効果が期待できます。
TSMCが熊本県を拠点にする懸念点
TSMCが熊本県を拠点にする懸念点は、次のとおりです。
- 地下水を維持できるか
- 交通網やインフラを整備できるか
- 人材不足に陥らないか
雇用機会の創出や大規模な経済波及効果など良い影響だけでなく、TSMCが熊本県を拠点にするといくつか懸念点が生じます。
TSMC進出の背景にある懸念点を確認して、今後の動向に注目しましょう。
地下水を維持できるか
TSMC熊本工場で半導体を製造する際に、大量の水を消費します。
そのため、現在の豊富な地下水を維持できるか心配する声も少なくありません。
ただし、熊本県地下水保全条例で、県内の地下水を維持するルールが定められているため、原則としてはTSMCの進出によって地下水が枯渇する心配はありません。
また、PFASと呼ばれるフッ素化合物で地下水が汚染されないか心配する方もいます。
PFASは人体へ悪影響を与える物質なので、製造元による自主規制や製造・輸出入を禁止する取り組みが必要です。
交通網やインフラを整備できるか
TSMCの進出によって菊陽町の人口が急激に増えるため、交通網やインフラを整備できるかが懸念されます。
本来の菊陽町は人口約4万人の小規模な町でしたが、TSMCの進出によって人口が増えれば、交通渋滞の頻発が懸念されています。
また道路の他車線化や新たな道路の整備、駅や道の大型化などインフラ整備が必要です。
人材不足に陥らないか
TSMCは高額な給与で優秀な人材を募集しており、周辺企業が人材不足に陥らないか懸念されています。
食堂のパートを時給3,000円で募集するTSMCには、豊富な資金力があり、周囲の企業は人材獲得競争に負けてしまいます。
労働者がTSMC熊本向上に流出することで、周辺企業が人材不足に陥り、打開するためには高額な待遇を用意しなければなりません。
熊本県内の企業が、高額なコストを支払わなければ、優秀な人材を獲得できない状態に陥る可能性があります。
半導体メーカーの動向
TSMCの熊本問題で半導体産業に関する興味関心が増えましたが、業界内の動向を知らない方もいるでしょう。
半導体メーカーの動向は、次のとおりです。
- 市場の需要が増加している
- 投資が活性化している
それぞれの動向を確認して、半導体メーカーの株式を買収・売却するべきか検討しましょう。
市場の需要が増加している
半導体メーカーの市場は、近年需要が増加しています。
半導体を使用する身近なアイテムには、スマートフォンやパソコン・自動車など日常で欠かせないものが多いです。
中でも生成AIの普及により、AI開発に必要なAIサーバやデータセンターに多くの半導体が使用されており、市場の需要は増加しました。
今後もDX促進やAIテクノロジーの進化、技術革新によって半導体需要が増加する予想です。
投資が活性化している
半導体業界では、メーカーへの投資が活発化しています。
日本政府が半導体事業に対して巨額の補助金を支給しており、国内外から半導体メーカーへの投資が増えています。
また、米中の対立やコロナ禍の供給不足など世界情勢に伴い、経済安全保障上の半導体十用が高まりました。
日本政府は、経済安全保障上、重要な半導体の生産拠点の整備を支援する費用として、今年度の補正予算で約1兆9000億円、昨年度の補正予算で約1兆3,000億円と、約4兆円に達する予算を費やしています。
国を挙げての半導体業界を後押しする動きに伴い、メーカーへの投資が活性化しました。
半導体メーカーの主な業種
半導体メーカーの主な業種は、次のとおりです。
- 半導体材料メーカー
- 半導体製造メーカー
- 半導体製造装置メーカー
- 半導体商社
それぞれの特徴を確認して、半導体メーカーの違いを理解しましょう。
半導体材料メーカー
半導体材料メーカーとは、半導体の材料であるウェーハや原板、組立時のチップを固定する材料などを製造・提供する企業です。
半導体の土台となるシリコンウェーハを製造する企業は、ウェーハメーカーなどとも呼ばれます。
国内の半導体材料メーカーは、次のとおりです。
- 信越科学
- SUMCO
- 凸版印刷
- HOYA
- 東京応化工業
- 森田化学
- 昭和電工
- JX金属
- 三井ハイテック
- 住友ベークライト
- イビデン
半導体製造メーカー
半導体製造メーカーは、半導体自体を製造する企業です。
半導体材料メーカーからシリコンウェーハなどの材料を仕入れ、半導体を製造します。
業界の中核を担う半導体製造メーカーは、大きく分けて次の4種類に分類されます。
- IDM:開発、設計、製造、販売までを一貫して担当する企業
- ファブレス:開発、設計を担当する企業
- ファウンドリ:製造に特化した企業
- OSAT:組付けと検査に特化した企業
国内の主要な半導体製造メーカーは、次のとおりです。
- インテル
- サムスン電子
- エヌビディア
- クアルコム
- ASE
なお、TSMCは半導体製造メーカーに分類されます。
半導体製造装置メーカー
半導体製造装置メーカーは、半導体を製造する際に必要な装置を製造する企業です。
半導体の製造工程では、マイクロメートルやナノメートルなど非常に小さな世界での作業が必要であり、専門的な装置を使用します。
例えば、シリコンウェーハの洗浄やウェーハからチップを取り出す作業など、ミクロの世界で作業できる装置を製造します。
国内の主な半導体製造装置メーカーは、次のとおりです。
- 東京エレクトロン
- アドバンテスト
- SCREEN
- KOKUSAI ELECTRIC
- 日立ハイテク
- ディスコ
- 東京精密
半導体商社
半導体商社は、半導体を専門的に取り扱う商社です。
半導体製造メーカーからICやLSIを仕入れ、顧客である自動車メーカーや電気機器メーカーに販売します。
ただ半導体を購入・販売するだけでなく、開発サポートや独自の製品開発を行うため、他職種と同等の技術や知識が求められます。
国内の主な半導体商社は、次のとおりです。
- マクニカ
- 加賀電子
- レスター
- トーメンデバイス
- リョーサン
- RYODEN.
- 東京エレクトロンデバイス
- 丸文
TSMCなど半導体メーカーの需要は今後も増える見込み
TSMCが熊本県に進出し、国内に巨額の経済効果をもたらしています。
雇用機会の拡大や約11兆円の経済波及効果など、TSMCが熊本県に与える影響は大きいです。
TSMCなど半導体メーカーの需要は今後も増える見込みであり、投資先として有力視されています。
日本政府は半導体業界への投資を積極的に行っており、今後も半導体メーカーへの投資需要が活性化される見込みです。
「投資先選びで悩んでいる」「TSMCの株式を取得しようか悩んでいる」ような方は、半導体メーカーの需要が増える今後がチャンスです。
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