現代の中小企業は特に、経営者の高齢化が進んでいることで事業承継へのニーズが増加しています。
会社や事業をたたむのではなく、事業を誰かに引き継ぎたいと思った際に、経営者は具体的に事業承継がどういったものであるか把握しておく必要があります。
本記事では、事業承継についての具体的な内容やメリット、デメリット、公的な支援や動向などを解説します。「事業承継」と「事業継承」の違いも併せて知識を深めてください。
目次
- 1 事業承継とは?
- 2 事業承継と事業継承の違い
- 3 事業承継で引き継ぐ経営資源
- 4 人(経営権)
- 5 資産
- 6 知的資産
- 7 中小企業の事業承継の現状
- 8 事業承継体制が整わない場合どうなるのか
- 9 近年増加するM&Aによる事業承継
- 10 事業承継にM&Aを利用するメリット
- 11 1.後継者問題の解決
- 12 2.従業員の雇用維持
- 13 3.取引先との取引維持
- 14 4.オーナー社長の老後の資金確保
- 15 事業承継にM&Aを利用するデメリット
- 16 1.想定価格を下回ることがある
- 17 2.取引先との関係悪化
- 18 M&Aによる事業承継の方法
- 19 自社の経営改善・現状把握
- 20 M&Aの後継先を探す
- 21 企業価値を高める
- 22 M&Aの実行
- 23 事業承継に関する中小企業庁の取り組み
- 24 「事業承継ガイドライン」の改定
- 25 「中小M&Aガイドライン」の策定
- 26 「中小M&A推進計画」の作成
- 27 「事業承継・引継ぎ補助金」の実施
- 28 「事業承継税制」の実施
- 29 事業承継のためにM&Aを利用してみよう
事業承継とは?
事業承継とは、会社や事業の経営権を第三者へ引き継ぐことを指します。
事業承継の種類には以下のようなものがあります。
- 親族内承継……子息等の親族に承継すること。
- 親族外承継……親族外の自社役員や社員に承継すること。
- M&A……第三者にM&Aで譲渡、承継すること。
本記事では主に三つ目のM&Aでの事業承継について細かく解説します。
事業承継と事業継承の違い
事業「承継」と事業「継承」を混同される経営者も少なくないでしょう。
実は、意味や使い分けに明確な違いはあるものの、実際にはどちらを使っても問題はないというケースが多いのが現状です。
厳密には以下のような違いがあります。
意味 | 引き継ぐもの | |
承継 | 先代から「地位や精神、身分、仕事、事業」を引き継ぐ | 事業に対する精神や思い、経営理念などの形のないものを引き継ぐ際に用いられる。 |
継承 | 先代から「義務や財産、権利」を引き継ぐ | 承継と違い、形のはっきりしているもの、具体的なものを引き継ぐ際に用いられる。 |
上記のように承継と継承には違いがあり、公的には「事業承継」が用いられていますので、迷った際には事業承継を使用するのが良いでしょう。
経営理念は受けつかず、事業の財産や権利のみを引き継ぐ場合には、事業継承を使用してください。
事業承継で引き継ぐ経営資源
事業承継において引き継ぐ経営資源には「人(経営権)」「資産」「知的資産」の3つがあります。
それぞれについて詳しく解説します。
人(経営権)
人とは経営者となる後継者そのものを表します。
後継者がなかなか見つからない中小企業や小規模事業者も少なくないのではないでしょうか。
事業承継には後継者が見つからないと話が進みませんし、最悪、廃業せざるを得ない場合も。
そうならないためにも、事業承継のために人を探したり後継者を育てたりするのは早めに動く必要も出てきます。
資産
資産は、株式、設備や不動産等の事業用資産、運転資金や借入等の資金が該当します。
注意すべき点は、事業承継のタイミング次第では資産に莫大な税金がかかるケースがあるため、事業承継の際には早めに税理士や会計士に相談しておくのが良いでしょう。
知的資産
知的資産とは主に無形の資産を指します。
経営理念や精神以外に、取引先や経営に関わる人脈、顧客、人材などが含まれます。
形がないため、承継の際には現在の経営者から後継者へ、事業の価値やビジョン、強みなどを正しく共有し、承継する必要があります。
中小企業の事業承継の現状
日本企業の99%が中小企業であることを考えると、中小企業が経済・社会を支えていると言っても過言ではありません。
しかし、2023年版の中小企業白書によれば、経営者の平均年齢は毎年上昇傾向にあり高齢化が進んでいます。経営者の50%以上が60代で、2022年の時点では75歳以上の経営者の割合も増加傾向です。
こうした中で、一時期は後継者不足のため廃業する経営者が多く見られました。しかし、近年、M&Aや事業継承の認知度が広まったことから、後継者不足は2017年あたりをピークに現在では減少傾向にあります。
事業承継体制が整わない場合どうなるのか
経営者の引退までに事業承継体制が整わない場合、廃業となります。
2017年発表の東京商工リサーチの調査では、企業倒産件数が8,446件に対して、廃業に追い込まれる企業が29,583件と3.5倍となっています。
廃業した経営者の年齢も、60歳以上が8割以上となりました。
会社が廃業すると、従業員が仕事を失い取引先の利益が下がり、顧客がサービスを利用できなくなるなど、社会・経済にとって深刻なダメージとなります。
近年増加するM&Aによる事業承継
後継者不足に悩む中小企業の経営者を中心に、M&Aによる事業承継が増加しています。
ひと昔前までは、会社の後継者といえば親族というイメージが強い人もいたかもしれません。
しかし近年では、特に中小企業の後継者にM&Aで第三者へ事業譲渡する手法が取られることが増えてきました。
子供が後継者になることを拒否しても、M&Aによって事業承継が可能なことから、M&A仲介の業者を利用して後継者(買い手)を探すという選択肢は珍しくなくなってきています。
事業承継にM&Aを利用するメリット
M&Aは後継者不足に悩まされている中小企業にとって魅力的な選択肢ですが、メリットやデメリットがあります。
自社株の大半を保有し、事業を経営するオーナー経営者にとって円滑な事業承継を実現に向けた具体的な対策と検討をするために、自社の業績が好調で自身も健康的なうちからM&Aのメリットやデメリットを理解することは重要なことです。
ここからはM&A売却側のメリットやデメリットについて説明します。
1.後継者問題の解決
売却側の一番のメリットは後継者問題の解決です。
多くの中小企業において、経営者の高齢化が進んでおり、後継者の選定が急務となっています。
しかし、親族内や従業員の中に候補がいる場合でも自社株移転のコストに耐えられなかったり、後継者となる意思がなかったりするために、後継者の選定が難航しているケースが多く見られます。
たとえば、独自の技術やノウハウを保有していて、業績も好調にもかかわらず、後継者がいないことで廃業の危機にある中小企業があるとしましょう。
そのような中小企業が強固な経営基盤を持ち、信頼の置ける他社に自社を売却することで、長年育ててきた事業やノウハウ、人材を次世代に承継でき、事業のさらなる発展が期待できるのです。
2.従業員の雇用維持
中小企業のオーナー経営者のなかには自社で勤務し、経営を支えてくれた従業員を家族のように捉えている場合も少なくありません。
経営者にとって事業を承継した後における従業員の処遇は気になるところでしょう。M&Aによって他社に買収される場合は、優良な企業の傘下に入ることになります。
従業員の雇用条件についても継続されることが通例であり、廃業によって従業員が仕事を失うことを防ぐことが出来ます。
また、より大きな企業の従業員となることによって、従業員の育成強化やキャリアの幅の拡大などが実現され、従業員の活躍の場が広がることも少なく有りません。
結果的に、従業員の士気の向上につながり、自社の事業のさらなる発展にも寄与します。
3.取引先との取引維持
中小企業のオーナー経営者のなかには、M&Aで他社の傘下に入ることによって、これまでオーナーの資質や信頼によって成立していた取引先との関係が悪化することを恐れる方もいるでしょう。
特に親族や従業員のなかに取引先との太いパイプがない場合に、その傾向が強くなります。
しかし、経営や財務基盤が強固な企業に買収されることによって、取引先にとってはビジネスチャンスの拡大につながります。
ほかにも、取引のある金融機関にとっては自社の信用力が増すため、資金調達が容易になり、事業の発展につながります。
M&Aによる事業承継は、必ずしも取引先の心象を悪くするものではなく、むしろ歓迎される可能性すら秘めているのです。
4.オーナー社長の老後の資金確保
オーナー経営者の老後資金の確保もM&Aの大きな魅力の一つです。
中小企業と切り離してオーナー経営者個人を見た時に、老後の資金確保は重要な課題です。
特に経営者が高齢の場合には老後の対策が急務と言えるでしょう。
M&Aを実施すれば、売却先の企業に自社株を買い取ってもらうことによって、潤沢な資金を獲得することが出来ます。
その資金を、老後の生活資金や新規事業の立ち上げに充当することも可能です。
また、廃業すると税務処理や在庫品の処理などに多額の費用がかかってしまい、出費がかさむケースも少なく有りません。
M&Aによる事業承継であれば、そのような出費や手間が一切不要となります。
事業承継にM&Aを利用するデメリット
事業承継にM&Aを利用するデメリットには以下が挙げられます。
- 想定価格を下回ることがある
- 取引先との関係が悪化する可能性
それぞれについて具体的に解説します。
1.想定価格を下回ることがある
独自の魅力的なノウハウや技術を保有している場合を除き、M&Aでは買収側の立場が売却側よりも上になることが多く、両者間における力関係のバランスが取れないことも珍しく有りません。
そのため、買収の価格交渉の段階で当初期待していた価格で買収側が株式や事業を買い取ってくれないことも少なくありません。
オーナー経営者がM&Aによる売却益を次の行動の資金として計画していた場合には、大きな痛手となります。
M&Aには売り時が重要であり、「最も高く売れるタイミング」を見つけて、「最も高く買ってくれる相手」に売ることが重要です。
タイミングを逃さないためにも、早いうちから対策を打っておくことが大切です。
2.取引先との関係悪化
中小企業の中でも、オーナー経営者のワンマン経営の場合には経営者の資質や信頼が取引先との関係において重要な要素となっていることが多々あります。
そのような場合に、M&Aによって自社の名前が変わり、取引先との契約条件が変更されたり、担当者が違う人に変更になったりした場合には、これまでの取引に影響することが考えられます。
このような事態が起こらないようにするためにも、事前に取引先へ根回しをして、M&Aの理由や経緯、M&A後の取引関係の変更について事前に詳しく話し合っておくことが重要です。
一方で、一般的にM&Aの交渉段階では秘密保持契約が締結されるので、M&Aの交渉内容までうっかり漏らさないようにしましょう。
M&Aによる事業承継の方法
M&Aによる事業承継にはさまざまなメリットやデメリットがあることがわかりました。
今すぐ事業承継を検討したい、と思った経営者もいるかもしれませんが、後継者を探したり育成したりしなければなりません。
長いと5年以上かかることもありますので、事業承継の準備には早めに着手する必要があります。
では実際に事業承継するにはどういった方法があるのか、見ていきましょう。
自社の経営改善・現状把握
自社を後継者に引き継ぐのであれば、会社の経営状況について把握しておく必要があります。
自社株の評価、どのようなサービスで収益を上げているのか、競合他社との優位性やポジショニングなど、経営に関わるさまざまな状況を後継者へ正しく伝えましょう。
現在の経営者が改めて現状把握することで浮き彫りになってくる課題も見つかるかもしれません。
その場合には、課題をどう改善していくかの改善案も用意することで、後継者も安心して引き継ぐことができます。
M&Aの後継先を探す
M&Aで後継者を探すには時間がかかる場合があります。
自力で探すとなると、相当なコネクションがないと現実的に難しいでしょう。
そこでM&Aの仲介業者に依頼することで、買い手候補が早期に見つかる可能性が高くなります。
自社の経営状況やどのような経営者に引き継いでもらいたいかを仲介業者に伝え、後継するに相応しい人を探してもらいましょう。
企業価値を高める
企業価値を高めることは、会社の経営課題を解決して自社の価値を高める行為です。これにより会社の魅力が増し、後継者を見つけやすくなるでしょう。
- 企業価値を高める具体的な方法には以下のものがあります。
- 必要のない資産を処分して経営をスリム化させる
- 組織体制を見直して従業員の役割を明確化する
- 自社の強みを見直して競争力を高める
- 業務を見直して効率化する
これらを実行して企業価値を高め、後継者に自社をアピールすることができます。
M&Aの実行
後継者の候補が見つかったら、M&Aの実行へ移ります。
始めにする具体的なことは、資産や経営権などの譲渡手続きです。
譲渡手続きはM&Aの仲介業者が間に入ってくれますので、承継の仕方がわからなくても問題ありません。
事業承継については、こちらの記事で詳しく解説されています。あわせてご確認ください。
参考:事業承継とは?手続きの流れと後継者へ相続する際の手順|ベンナビ相続
事業承継に関する中小企業庁の取り組み
最後に事業継承に関して中小企業がどのような取り組みをしているのか解説します。
「事業承継ガイドライン」の改定
事業継承ガイドラインとは、深刻化する小記者不足に関して中小企業庁が定めたものです。ここには、事業継承に関する情報が掲載されており、事業継承をスムーズに実現するためのガイドラインです。
この事業継承ガイドラインは2022年に改正され、新たに生まれた課題や対応策が追加されました。これにより、より円滑に事業継承を進められるようになるでしょう。
「中小M&Aガイドライン」の策定
中小M&Aガイドラインは、2020年に策定され、M&Aの知見を広めるためのものです。適切なM&Aを実施するための指南書とも言えます。
- 中小M&Aガイドラインに記載されている代表的な内容は以下の通りです。
- M&Aの基礎知識や関連用語
- M&Aでのプロセスや注意すべきこと
- M&Aの手数料の目安
さらに事業継承のための支援機関に対して、専門知識を活かしつつ、依頼主である中小企業の経営者に対して忠実にバックアップすることなどの基本姿勢が記されている点もポイントです。
「中小M&A推進計画」の作成
さらに、中小企業庁は2021年4月、今後の取り組みについてまとめた中小M&A推進計画を作成しました。
ここには、中小企業がM&Aを成功させるためにどうすればよいのかが記されています。具体的には以下の事柄です。
- 中小企業におけるM&Aの定義
- 中小企業におけるM&Aの潜在的な対象者について
- 小規模M&A円滑化のためのネットワーク構築
- M&A希望者同士のマッチング
- M&A支援機関を精査するためのツールを提供
これらは中小企業の小規模M&Aだけでなく、中規模や大規模のM&Aまでを網羅したM&A基盤の構築や円滑化を進めるためのものとなっています。
「事業承継・引継ぎ補助金」の実施
事業継承・引き継ぎ補助金は、M&Aを実施する中小企業を支援するためのものです。事業継承・引き継ぎ補助金には専門活用類型と経営革新類型の2種類があります。
専門活用類型は、M&Aをする前の段階で民間のM&A支援機関や仲介業者への費用を補助するものです。
経営革新類型はM&Aが実行された後の段階で新事業の展開や生産効率向上のための費用を補助するものです。
「事業承継税制」の実施
事業承継税制は、平成21の税制改正で新たに設けられた制度です。事業承継税制は、先代の経営者から資産や株式を相続した場合に、一定の要件を満たすと相続税が猶予される制度です。
さらに、平成30年の税制改正では、猶予の割合が引き上げられるなどの特例措置が追加されました。
事業承継のためにM&Aを利用してみよう
事業承継したいのに、後継者がいなくて困っているという経営者は多くいますが、近年ではM&Aの認知度も高まり、事業継承のための制度も充実してきています。
「業績は安定しているのに後継者がいない」「事業をもっと伸ばしたいけど年齢的にも経営がきつくなってきた」など、事業承継の後継者探しで困っている場合は、M&Aを利用してみるという選択肢も必要かもしれません。
M&A仲介業者には後継者(買い手)のリストがあり、貴社が後継者として承継したい人の希望条件に当てはまる人がいれば、すぐに事業承継の準備に進める可能性もあります。
パラダイムシフトは2011年の設立以来、豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。M&Aに精通している仲介会社を利用すると、安心してM&Aを成功させることが出来ますので、是非ご検討ください。
パラダイムシフトが選ばれる4つの特徴
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