ITDD(ITデューデリジェンス)は、M&Aの成否を分ける重要なプロセスです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速する現代において、企業の価値はITシステムと密接に結びついています。
そのため、M&Aの対象企業が抱えるITのリスクや課題を正確に把握することは、買収を成功へと導くための不可欠な鍵です。
本記事では、ITDDの基礎知識・具体的な調査項目・実践的な進め方・成功のための注意点などを解説します。
目次
- 1 M&AにおけるITDD(ITデューデリジェンス)とは?
- 2 ITDDの重要性
- 3 ITDDの定義と目的
- 4 ITDDの主要調査項目
- 5 事業継続性の核を評価「ITインフラ・システム」
- 6 キーパーソンと運用体制を見極める「IT組織・人材」
- 7 隠れたコストと将来の投資計画を把握「ITコスト・投資」
- 8 見えない脅威から企業価値を守る「セキュリティ・コンプライアンス」
- 9 ITDDの計画から報告までの3ステップ
- 10 調査準備
- 11 資料分析・ヒアリング
- 12 報告書作成・意思決定
- 13 ITDDを成功させるための3つの注意点
- 14 リスク評価と対策の計画
- 15 M&Aの目的との整合性
- 16 開示情報の管理
- 17 ITDDにかかる費用と期間の目安
- 18 ITDDは信頼できる専門家への依頼が不可欠
M&AにおけるITDD(ITデューデリジェンス)とは?

デューデリジェンス(DD)とは、対象となる企業の資産価値・リスクなどを事前に調査することです。
ITDDは、デューデリジェンスの中でも特にIT領域に特化した調査プロセスを指します。
ITDDの重要性
ITDDを適切に実施しない場合のリスクは、おもに下記の通りです。
リスクの種類 | 具体的な内容 |
---|---|
システム老朽化による莫大な追加投資 | 買収後に基幹システムが老朽化していることが発覚し、数億円規模の刷新費用が必要になるケース。 |
セキュリティ脆弱性による事業リスク | システムに深刻なセキュリティホールが存在し、買収後に顧客情報の漏洩やランサムウェア攻撃を受け、事業停止や信用の失墜、損害賠償につながるケース。 |
システム統合の失敗によるシナジー毀損 | 両社のシステム構造が複雑すぎたりデータ形式が全く異なったりすることで、スムーズな統合ができず、期待していた業務効率化やコスト削減といったシナジー効果が得られないケース。 |
これらのリスクを事前に把握し、対策を講じるためにITDDは極めて重要な役割を担います。
ITDDの定義と目的
ITDDのおもな目的は、おもに以下の3つです。
目的 | 解説 |
---|---|
ITリスクの識別と評価 | システム障害・セキュリティインシデント・ライセンス違反など、事業継続を脅かす可能性のあるリスクを特定し、その影響度と発生可能性を評価します。 |
IT資産・コストの適正評価 | 対象企業が保有するソフトウェア・ハードウェア・IT人材といった資産の価値を正しく評価します。同時に、運用保守費用や将来必要となる投資額を算出し、買収価格が妥当であるかを判断するための交渉材料とします。 |
PMI(買収後統合)の計画策定 | 買収後のシステム統合や業務プロセスの見直しを円滑に進めるための情報を収集します。両社のシステムの特徴や課題を事前に把握することで、現実的で効果的な統合計画を策定することが可能です。 |
ITDDは、M&Aという重要な経営判断を、より確かなものにするための戦略的な情報収集活動です。
ITDDの主要調査項目

ITDDの調査項目は多岐にわたりますが、大きく4つのカテゴリーに分類して進めるのが一般的です。
それぞれのカテゴリーで「なぜそれを見る必要があるのか」という評価ポイントを理解することが、調査の質を高める上で重要です。
事業継続性の核を評価「ITインフラ・システム」
企業の事業活動を根幹から支えるITインフラと業務システムの現状を評価します。
ITインフラと業務システムの評価により、目に見えにくい「技術的負債」と呼ばれる老朽化したシステムが抱えるリスクに備えます。
評価項目 | 主な評価ポイント |
---|---|
サーバー・ネットワーク | 機器の性能や老朽化の度合いはどうか。障害発生時の復旧体制は整っているか。将来の事業拡大に対応できる拡張性はあるか。 |
業務アプリケーション | 基幹システム(ERP・会計・販売管理など)は安定稼働しているか。カスタマイズが多く、ブラックボックス化していないか。 |
クラウド利用状況 | どのようなクラウドサービスを利用しているか。コストやセキュリティの管理は適切に行われているか。 |
システム構成図・仕様書 | システム全体の構成や仕様を把握できるドキュメントは整備されているか。 |
キーパーソンと運用体制を見極める「IT組織・人材」
システムを誰が・どのように運用しているのかを評価します。
特定の担当者しかシステムの仕様を理解していない「属人化」は、特定の担当者の退職が事業継続のリスクに直結するため、重点的に確認しましょう。
評価項目 | 主な評価ポイント |
---|---|
IT部門の組織体制 | 組織図や役割分担は明確か。人員数は事業規模に対して適切か。 |
人材のスキルと定着率 | 従業員のITスキルレベルは高いか。キーパーソンの退職リスクはどの程度か。 |
外部委託先の管理 | 外部のシステム開発会社や保守業者との契約内容は適切か。委託先のパフォーマンスは管理されているか。 |
ITガバナンス | ITに関する意思決定プロセスやルールは定められているか。 |
隠れたコストと将来の投資計画を把握「ITコスト・投資」
現在発生しているITコストと、将来必要となるIT投資の実態を正確に把握します。
契約内容を精査し、買収後に不要となるコストや、逆に不足しているライセンスがないかを洗い出すことで、より正確な事業計画の策定が可能です。
評価項目 | 主な評価ポイント |
---|---|
IT関連費用 | ハードウェア・ソフトウェア・人件費・通信費など、IT関連コストの内訳と総額はいくらか。 |
ソフトウェアライセンス | 利用しているソフトウェアのライセンス契約は適切か。ライセンス違反のリスクはないか。 |
保守契約 | システムの保守契約の内容は妥当か。契約期間や更新条件はどうなっているか。 |
IT投資計画 | 中長期的なシステム投資計画は存在するか。その計画の妥当性と必要性はどの程度か。 |
見えない脅威から企業価値を守る「セキュリティ・コンプライアンス」
サイバー攻撃や情報漏洩といったセキュリティリスクと、個人情報保護法などの法規制への対応状況を評価します。
評価項目 | 主な評価ポイント |
---|---|
セキュリティ対策 | ファイアウォール・ウイルス対策ソフトなどの導入状況はどうか。従業員へのセキュリティ教育は実施されているか。 |
インシデント対応体制 | 過去にセキュリティ事故は発生しているか。インシデント発生時の対応計画(CSIRTなど)はあるか。 |
データ管理 | 顧客情報や機密情報の管理方法は適切か。アクセス権限の管理は徹底されているか。 |
法令・規制遵守 | 個人情報保護法・GDPR・業界固有の規制などを遵守しているか。 |
ITDDの計画から報告までの3ステップ

限られた時間の中で効率的かつ効果的にITDDを行うために、ITDDの実務を3つのステップに分けて解説します。
調査準備
調査準備の段階では、目的を明確化して計画的に推進することが大切です。
準備フェーズの主なタスク | 内容 |
---|---|
チーム編成 | M&Aの目的や対象企業の特性に応じて、ITインフラ・アプリケーション・セキュリティなど、各分野の専門家で調査チームを編成します。 |
NDA(秘密保持契約)の締結 | 調査過程で機密情報を取り扱うため、売り手企業との間で法的に有効な秘密保持契約を締結します。 |
調査方針の検討 | M&Aの目的を踏まえ、特に重点的に調査すべき項目(スコープ)や評価の基準を明確にします。 |
資料依頼リスト(IMR)の作成 | 調査に必要な資料(システム構成図・IT関連予算・各種契約書など)をリストアップし、売り手企業に開示を依頼します。 |
資料分析・ヒアリング
準備段階で依頼した資料を分析し、対象企業のIT環境の実態を把握します。
資料だけでは分からない点や、さらに深掘りすべき点については、関係者へのヒアリングを通じて明らかにします。
分析・実行フェーズのポイント | 内容 |
---|---|
資料の精査とQ&Aリスト作成 | 開示された資料を読み込み、不明点や矛盾点を洗い出して質問リストを作成します。質問リストがヒアリングの土台として活用されます。 |
マネジメントインタビューの実施 | 経営層やIT部門の責任者に対してヒアリングを行い、IT戦略・組織体制・主要な課題など、全体像を把握します。 |
担当者レベルへのヒアリング | システムの運用担当者や開発担当者など、現場のキーパーソンに具体的な運用状況や潜在的な問題点についてヒアリングします。 |
報告書作成・意思決定
これまでの調査で得られた情報を整理・分析し、最終的な評価を報告書としてまとめます。
報告書は、M&Aを実行するか否かの最終的な意思決定、買収価格の交渉、そして買収後のPMI計画策定の基礎となる非常に重要な成果物です。
報告書に含めるべき項目 | 内容 |
---|---|
エグゼクティブサマリー | 調査結果の要点と最も重要なリスク、そしてM&Aの意思決定に関する提言を簡潔にまとめます。 |
調査結果の詳細 | ITインフラ・組織・コスト・セキュリティといった各調査項目について、発見された事実と評価を具体的に記述します。 |
リスクの重要度評価 | 識別された各リスクについて、事業への影響度と発生可能性の観点から「高・中・低」などで評価し、優先順位を明確にします。 |
PMIへの提言 | 買収後に取り組むべきIT関連の課題や、システム統合に向けた具体的なアクションプランを提案します。 |
ITDDを成功させるための3つの注意点

本章では、ITDDを単なる形式的な調査で終わらせず、M&A全体の成功に結びつけるための3つのポイントを解説します。
リスク評価と対策の計画
ITDDにおいては、発見されたリスクが、実際にどの程度の金銭的・事業的インパクトをもたらすのかを定量・定性の両面から評価することが重要です。
例えば「サーバーが老朽化している」という事実に加えて「3年以内にシステム刷新が必要で、約5,000万円の追加投資が見込まれる」といった具体的な評価まで落とし込みます。
さらに、そのリスクに対する具体的な対策案と要するコストや期間まで提示することで、経営層はより的確な意思決定を下せます。
M&Aの目的との整合性
ITDDは、常にM&A全体の目的と照らし合わせながら調査を進める視点が不可欠です。
財務DDで明らかになった収益構造や、法務DDで指摘された契約上のリスクとITシステムの実態を連携させることで、初めて対象企業の全体像を正確に捉えられます。
開示情報の管理
ITDDの過程では、対象企業のシステム構成・ソースコード・顧客情報といった、極めて機密性の高い情報にアクセスします。
そのため、調査チーム内での情報共有ルールの徹底・アクセス権限の厳格な管理・安全なデータ共有プラットフォームの利用など、情報管理体制を万全に整えることが絶対条件です。
NDA(秘密保持契約)の内容を改めて確認し、全メンバーがその責務の重さを理解した上で調査に臨む必要があります。
ITDDにかかる費用と期間の目安

ITDDを外部の専門家に依頼する場合の費用と期間は、対象企業の事業規模・IT環境の複雑さ・調査範囲(スコープ)によって下記のように変動します。
項目 | 目安 | 変動要因 |
---|---|---|
費用 | 数十万円 ~ 数百万円 | ・対象企業の売上規模や従業員数 ・ITシステムの数や複雑性 ・調査範囲の広さ ・依頼するコンサルティングファームの実績や規模 |
期間 | 2週間 ~ 2ヶ月程度 | ・売り手企業からの資料開示のスピード ・ヒアリング対象者のスケジュール ・調査の過程で重大な問題が発見された場合の追加調査の要否 |
ITDDを適正価格で実施するには、複数社から見積もりを取得し、自社のM&Aの重要度と予算に応じて最適な依頼先を選定することが重要です。
ITDDは信頼できる専門家への依頼が不可欠

本記事では、ITDDの基礎知識や調査項目などを解説しました。
ITDDに求められる知識や経験を踏まえると、信頼できる専門家を選び、依頼することが大切です。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
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