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自社がTOB(株式公開買付け)をされたらどうなる?4つの対応策を解説

日本では、上場企業を中心に毎年40〜50件ものTOBがおこなわれています。

決して他人事ではないTOBについて、「自社が受けた場合どうなってしまうのか」と不安に思う方も多いはず。

本記事では、TOBを受けた会社の変化と自社を守るための防衛策を紹介します。

TOB(株式公開買付け)とは?

TOBとは、Take Over Bit を略したもので、日本語では株式公開買付けといいます。

日本取引所グループにおけるTOBの定義は、下記の通りです。

不特定多数の者から、ある会社(有価証券報告書を提出しなければならない会社)の株券等を買付けようとする者が、買付価格や買付けの期間等を公告する等、投資者保護の観点に立った所要の要件の下に、有価証券市場外において一定の株券等を買付ける行為をいいます。
引用:公開買付け(TOB)(こうかいかいつけ)|日本取引所グループ

一般的な株式の買付は、取引所を通しておこなわれますが、TOBは取引所外でおこなわれる点が特徴。

不特定多数の株主からまとめて株式を買い付けられるため、株主が多い会社や上場企業などの子会社化・企業再編に用いられる手法です。

この章では、TOB(株式公開買い付け)の概要を紹介します。

TOB(株式公開買付け)の目的

TOBの目的は、対象企業の買収や子会社化など経営権を取得することです。

会社法では、持株比率に応じて一定の権利が定められています。

持株比率与えられる権利
100%完全子会社化
3分の2以上(66%以上)株主総会の特別決議を単独で可決できる
50%以上株主総会の普通決議を単独で可決できる
3分の1以上(33%)特別決議を単独で阻止できる

上記の通り、33%以上の株式を保有できれば、定款変更や会社の解散などを単独で阻止できるため、企業の経営に大きな影響を与えられます。

さらに50%以上を獲得できれば、取締役の選任や株式の配当などの普通決議を単独で可決できるため、会社の経営権取得を意味します。

上場企業の株式は取引所で売買できるため、常に経営権を奪われるリスクがあるということです。

取引所で株式を買付けない理由

取引所を通さず、あえて取引所外で買い付ける理由は、株価の高騰を防ぐためです。

株価が高騰すると、目標の取得数を買い付けるにあたり、多額のコストがかかる恐れがあります。

一方、取引所外なら大量の買付をしても株価の高騰を防げるため、取引所よりも低コストで大量の株を取得できるのです。

ただし、取引所と同額で打診しても株式を手放さない株主が多いため、TOBでは買付価格を取引所よりも高く設定するのが一般的。

この株価の上乗せ分を、プレミアムと呼びます。

TOBの実施条件

TOBをせずとも、取引所外での株式買付は可能ですが、金融商品取引法で定められた一定の条件に該当した場合は、必然的にTOBを執行しなければならないのです。

その条件とは、下記の通りです。

有価証券報告書の提出が義務付けられている株式会社等(上場会社や一定以上の株主がいる会社など)が発行する株券等を取引所外で買付ける場合。
参照:金融商品取引法 27 条の2第 1 項

つまり、上場企業が発行する株式を取引所外で買い付ける場合は、TOBという手段を取らなければならないのです。

仮に、上記の条件に該当するにも関わらずTOBをしなかった場合は、金融商品取引法違反に当たる可能性があるため注意が必要です。

友好的・敵対的2種類のTOB

TOBには、友好的TOBと敵対的TOBの2種類が存在します。

この章では、上記2種類のTOBの違いと特徴を紹介します。

友好的TOBとは

友好的TOBとは、買収される企業の経営陣から同意を得た上でおこなうTOBのこと。

たとえば、グループ会社の完全子会社化を目的としたTOBや、シナジーが期待できる企業合併が目的のTOBなどです。

2020年9月に発表されたNTTによるNTTドコモへのTOBは、完全子会社化を目的とした友好的TOBの代表例。

双方同意の上でおこなわれるため、一般的な株式譲渡のM&Aに類似した手法です。

日本でおこなわれるTOBの大半が、友好的TOBといわれています。

敵対的TOBとは

一方、敵対的TOBとは、経営陣や株主へ事前に通知せず、同意がない中でおこなうTOBのことです。

友好的TOBとは異なり、対象企業からの不信感が強いため、防衛策をとられ失敗に終わるケースも多くあります。

敵対的TOBの実施目的は、ライバル企業の経営権奪取や市場シェアの拡大などが一般的。

2020年には外食大手の「コロワイド」による、定食チェーンの「大戸屋ホールディングス」への敵対的TOBが注目を集めました。

自社がTOBをされるとどうなる?

TOBによる売り手企業の変化は、買手企業の考え方・力関係などによっても異なります。

この章では、下記5つの項目に分類して、TOBによる企業の変化を紹介します。

  • 社風の変化
  • 役員待遇の変化
  • 社員待遇の変化
  • 人事評価の変化
  • 福利厚生の変化

社風の変化

TOBを受け子会社になった場合、売り手企業は親会社の方針や社風に統合されるケースが一般的です。

TOB後は、まったく異なった企業同士を統合するため、長い時間をかけ徐々に統合作業がおこなわれます。

また、最近では海外企業による日本企業へのTOBもあるため、会社の社風のみならず文化や商習慣の統合もみられます。

こうした社風の変化は、従業員へ大きな影響を及ぼすため、場合によっては退職が相次ぐ可能性があります。

TOBをされた後は、従業員への心のケアが大切です。

役員待遇の変化

TOBを受けて子会社になった場合、役員待遇は冷遇されるケースが一般的です。

中でも、経営者の身内や会社の経営状況を理解していない非常勤役員は、買収後に解任される可能性が高いのです。

一方、常勤役員は、本人の力量や買い手企業の考え方によって、待遇が左右されます。

買手企業は、売り手企業の全てを把握できているわけではないため、TOB直後は会社をよく知る常勤役員が重宝されるでしょう。

ただし、役員の地位を維持できても、役員報酬や退職慰労金などの待遇が冷遇されるケースもあります。

社員待遇の変化

TOBを受けたとしても、社員の待遇に大きな変化はありません

ただし、人事の評価基準には親会社の方針が適用されるため、評価基準の変化に伴う給料の変動や部署の異動などはあるでしょう。

買い手企業としても、社員の待遇を著しく悪化させると、従業員の不満につながり退職される恐れがあります。

これは、事業をおこなう上で大きなデメリットとなるため、従来の待遇から大きく変化させるケースは少ないでしょう。

人事制度の変化

人事制度は社風と同様で、親会社の方針に統合されるケースが一般的です。

同グループや同会社内で人事制度が異なると、管理・人事異動の複雑化が予測されるためです。

また、人事制度の統合により、労働者へ金銭・労働時間などの不利益が生じた場合、「労働者の不利益変更」という法的リスクに該当する恐れがあります。

そのため労働契約法に則り、従業員ひとりひとりの個別合意が必要なため、1年〜数年の歳月をかけ、慎重に統合されます。

従業員からすると、統合後は従来よりも人事異動の枠が広がるため、更なるキャリアップにつながるとの見方もできます。

ただし、本人が望まない部署への異動が決まる可能性もあるため、注意が必要です。

福利厚生の変化

福利厚生はTOBによって大きく変化するポイントです。

福利厚生の内容は買い手企業が自由に決められるため、TOBによって無くなる恐れもあります。

しかし、買い手企業が大手の場合や福利厚生に力を入れている場合は、従来よりも充実するケースが一般的。

いずれにせよ、福利厚生は買い手企業の方針に一任されるため、TOB後に変化する可能性が高いのです。

TOBを仕掛けられた際の買収防衛策

敵対的TOBに対する防衛策には、下記4つの方法があります。

  • パックマンディフェンス
  • ホワイトナイト
  • クラウンジュエル
  • ポイズンピル

パックマンディフェンス

パックマンディフェンスとは、敵対的TOBを仕掛けてきた企業に対し、自社からもTOBを仕掛ける方法です。

相手企業の株式を逆に買い付けるため、多額の資金や相応のメリットがないと実行されません。

日本では、ほとんど事例のない防衛策です。

ホワイトナイト

ホワイトナイトとは、敵対的TOBを仕掛けられた企業が、自社と友好的な第三者にTOBをおこなってもらう手法のこと。

結果的に、第三者企業の子会社になりますが、敵対的TOBを仕掛けた会社からは逃れることができます。

クラウンジュエル

クラウンジュエルとは、TOBを仕掛けられた際に、自社の事業などを売却して買収意欲を削ぐ方法です。

自社の高収益事業を削ぐことでTOBを回避するため、防衛策後の経営状態に悪影響を及ぼす恐れもあります。

ポイズンピル

ポイズンピルとは、新株を発行して買収難易度を高める手法。

ただし、発行済株式数が増加することで株価の下落や株主からの反発が予測されます。

TOBを受ける企業のメリット

TOBによる買収はネガティブに捉えられがちですが、下記2つのメリットが期待できます。

  • 市場価格よりも高く株式を売却できる
  • 経営改善につながる

2つのメリットを順に紹介します。

市場価格よりも高く株式を売却できる

企業の経営者や役員が自社の株式を保有しているケースもあるでしょう。

この場合、TOBを受けることで、取引所で株を売るよりも高く売却できる可能性があります。

一般的にTOBでは、大量の株式を短期間で買い付けるため、市場価格に30%~40%のプレミアムを上乗せした価格が提示されます。

取引所を通して株式を買付されるよりも、高値で売却できるのはTOBならではのメリットといえます。

しかし、事前に買い手企業と株主との間で一定量の買付が取り付けられた場合、市場価格よりも低い価格で取引されるディスカウントTOBになる恐れがあります。

ディスカウントTOBでは、特定の売り手から決まった量を買い付けるため、仮に自分が取り付けに参加していなければ、プレミアムを受け取れないどころか、TOBへの応募ができないため注意が必要です。

経営改善につながる

TOBにより、買手企業の経営資源を活用でき、経営改善につながる可能性があります。

ポテンシャルはあるものの、経営資源不足を理由に本領を発揮できていない企業によって、自社よりも大きな会社の子会社になることは大きなメリットといえます。

例えば、資金不足が原因でできなかった新規事業に取り組めたり、経営資源の投入により経営基盤を強化できたりなどです。

また、経営陣に問題があり業績が上げらない場合も、TOB後の刷新により経営状態が改善されるケースもあります。

子会社化は、経営判断の自由を一部制限されるネガティブな部分もありますが、見方を変えれば、経営改善による事業拡大のチャンスともいえます。

TOBを受ける企業のデメリット

一方、TOBを受けた場合には下記2つのデメリットがあります。

  • 経営権を剥奪される
  • 防衛策による経営の不安定化

経営権を剥奪される

TOBを受ける一番のデメリットは、経営権を剥奪されること。

TOBの目的は、子会社化や経営権の獲得であり、買収後は、親会社の采配に従わなくてはなりません。

これまで、尽力していた事業が縮小・撤退される可能性もあるため、TOBのデメリットと言えます。

また、買収後の経営方針や役員の処遇などは、買い手企業の判断に委ねられるため、TOBを受けた段階では不安要素が大きいと言えます。

防衛策による経営の不安定化

敵対的TOBへの防衛に成功した場合でも、防衛策の実行により経営状態が悪化する可能性があります。

たとえば、ポイズンピルにより株価が大幅に下落し、企業の資金繰りが立ち行かなったり、株主の反発を受けたりなどです。

望まない形でTOBがおこなわれた場合、経営権を守ることも大切ですが、防衛策によるリスクにも注意が必要です。

TOBのメリットデメリットを理解した上で適切に対処しよう

この記事では、TOBによる会社の変化について紹介しました。

TOB後は、買い手企業の経営方針に統合されるため、自社内では多くの変化があるでしょう。

また、TOBを受けた場合には、メリット・デメリットを検討し、適切に対処してください。