DCF法と密接な関わりを持つ「ターミナルバリュー」。
ターミナルバリューについて、「一体どのようなものなのか?」「算出方法を知りたい」とお考えの方も多いはず。
本記事では、ターミナルバリューの概要をお伝えしつつ、DCF法における算出方法を紹介します。
目次
ターミナルバリューとは?
ターミナルバリューは、企業価値の算出手法「DCF法」で用いられる、企業の将来的価値のこと。
企業が永続するという前提のもと、事業計画の最終年度以降に生じるフリーキャッシュフロー(FCF)を現在価値で示した総計です。
日本語では、継続価値・永続価値・残存価値とも呼ばれ、売り手企業の企業価値評価で用いられます。
本記事では表記統一して、ターミナルバリューと記述します。
ターミナルバリューとDCF法の関係性
ターミナルバリューは、価値評価手法のDCF法で用いられますが、具体的にどのような関係性なのでしょうか。
この章では、DCF法の概要とターミナルバリュー・DCF法の関係性を紹介します。
DCF法とは?
DCF法とは、(Discount Cash Flow)の略で、企業の将来性をもとに価値を評価する手法。
M&Aにおける下記3つの価値評価手法のうち、インカムアプローチに分類されます。
- インカムアプローチ:企業の将来性をもとに評価
- マーケットアプローチ:市場における類似企業をもとに評価
- コストアプローチ:財務諸表をもとに評価
事業計画書をもとに、企業が将来生み出すであろう価値をフリーキャッシュフロー(FCF)で算出、リスクを考慮した割引率(WACC)で割り引いたものがDCFです。
これを現在価値に換算して企業価値を評価するため、DCF法と呼ばれています。
DCF法は、売り手企業の無形価値や将来性を正確に評価できるため、中堅企業〜大企業のM&Aで用いられます。
DCF法の予測期間・残存期間
DCF法では、企業の将来的なフリーキャッシュフローを合理的に算出できる期間を「予測期間」、予測期間以降を「残存期間」と呼びます。
将来のフリーキャッシュフロー算出には、3~5年の計画を盛り込んだ中期事業計画書を用いるため、DCF法の予測期間もこれに準じて3~5年が一般的です。
ただし、DCF法では、予測期間以降も企業が永続するという前提のもと、残存期間のフリーキャッシュフローも評価対象に含みます。
ターミナルバリューは、残存期間のフリーキャッシュフローを現在価値に換算した総計のため、DCF法内で算出される企業価値と言い換えられます。
ターミナルバリューの計算に必要な3つの要素
ターミナルバリューの計算に必要な要素は下記の3つです。
- フリーキャッシュフロー
- 割引率
- 永久成長率
各要素の概要と算出方法を順に紹介します。
なお、本記事ではDCF法におけるターミナルバリューの計算方法を紹介します。
企業価値全体を評価したい方は、こちらの記事をご参考ください。
関連記事:企業価値とは?算定方法や企業価値を高める方法をあわせて解説
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフロー(FCF)とは、企業が事業で生み出したお金のうち、自由に使えるお金を指します。
フリーキャッシュフローを求める際に登場するのが、下記2つのキャッシュフローです。
- 営業キャッシュフロー
- 投資キャッシュフロー
営業キャッシュフローは、原材料の仕入れや商品の販売など、事業を行なう上でのお金の出入りを表すもの。
事業を継続するには、営業キャッシュフローがプラスであることが前提で、マイナスの場合は、売上不振や現金の回収ができていないなど、早急な対策が必要な状態です。
一方、投資キャッシュフローは、設備投資や企業買収など、事業拡大のための投資によるお金の出入りを表すものです。
フリーキャッシュフローを求める際には、税引き後の営業キャッシュフロー・投資キャッシュフローを用いて下記の式で算出します。
フリーキャッシュフロー(FCF)=「営業キャッシュフロー」−「投資キャッシュフロー」+「減価償却費」
減価償却費は、決算書上、経費として営業キャッシュフローに含まれます。
しかし、キャッシュフローは、あくまでもお金の出入りを表すもの。
減価償却費は、すでに支払いが完了しており、実際にはお金の動きがない非資金損益であるため、フリーキャッシュフロー算出時にはプラスする必要があります。
割引率
割引率とは、企業が将来的に生み出すであろう価値を、現在価値へ換算する際に用いられる係数のこと。
DCF法では、企業の将来性をもとに企業価値を評価するため、割引率を用いて将来生み出すフリーキャッシュフローを現在価値へ換算する必要があるのです。
たとえば、今もらえる100万円と1年後にもらえる100万円、あなたはどちらを選びますか?
おそらく多くの方は、前者を選ぶはずです。
これは、1年後にもらえる100万円の方が、今もらえる100万円よりも価値が低く、両者の価値に差が生じているということ。
DCF法でも同様で、企業が将来生み出すフリーキャッシュフローの価値と、現在の価値が異なるため、割引率を用いて現在価値へと換算するのです。
一般的に、割引率に用いられる値は、1円の資金を調達するのにどれほどのコストがかかるのかを示す「加重平均資本コスト(WACC)」です。
割引率と加重平均資本コストは言葉の意味こそ異なりますが、同じ数値を示すため「割引率=加重平均資本コスト」として用いられます。
割引率(WACC)の算出方法は下記の通りです。
資本総額×自己資本コスト/(資本総額+有利子負債)+有利子負債×有利子負債コスト×(1-実効税率)/(有利子負債+資本総額)
永久成長率
ターミナルバリューは、残存期間中に企業が一定の割合で成長する、あるいは予測期間最終年度のフリーキャッシュフローが継続する、などの仮説をもとに算出されます。
永久成長率は、前者の仮説を用いた際に使用する成長割合のことです。
従来、永久成長率には、日本のインフレ率や評価対象企業の成長性を考慮した値が用いられてきました。
しかし、不確実性が高い将来の成長率を合理的に設定することは困難であり、信憑性・簡易性の面から近年では0%を用いるケースが多く見られます。
ターミナルバリューの計算方法
DCF法では、予測期間のフリーキャッシュフロー現在価値と、残存期間のフリーキャッシュフロー現在価値(ターミナルバリュー)を分けて計算します。
ターミナルバリューの算出は予測期間の最終年度を起点とし、予測期間終了後〜未来永続のフリーキャッシュフロー現在価値を算出します。
たとえば、2020年から見て予測期間を3年に設定した場合、算出するターミナルバリューは下記の通りです。
- 予測期間:2020年〜2023年のフリーキャッシュフロー現在価値
- 残存期間(ターミナルバリュー):2023年〜・・・のフリーキャッシュフロー現在価値
また、ターミナルバリューの計算式は、先述した残存期間中の企業成長率の仮説によって異なります。
企業が一定の割合で成長すると仮定した場合、永久成長率を用いて下記の計算式で算出します。
ターミナルバリュー=予測期間最終年度のフリーキャッシュフロー/(割引率ー永久成長率)
一方、予測期間最終年度のフリーキャッシュフローが継続すると仮定した場合、計算式は下記の通りです。
ターミナルバリュー=予測期間最終年度のフリーキャッシュフロー/割引率
ターミナルバリューは、DCF法における企業価値の大部分を占めます。
したがって、どのような仮説を用いて算出したのかを明確にし、算出結果の根拠を示すことが重要です。
企業価値の算出にはターミナルバリューの現在価値が必要
ターミナルバリューの算出方法を紹介しましたが、企業価値の評価にはターミナルバリューの現在価値が必要です。
先ほど、ターミナルバリューの算出は予測期間の最終年度を起点とし、将来的なフリーキャッシュフローの現在価値を求めると紹介しました。
つまり、ターミナルバリューを算出しただけでは、企業価値を評価する現在からみると未来の価値であり、現在価値への換算が必要なのです。
先の例を用いると、各時系列は下記の通りです。
- 現在(企業価値の評価地点):2020年
- 予測期間3年:2020年〜2023年
- ターミナルバリュー算出:2023年〜未来
ターミナルバリューの算出は2023年を起点として行われたため、企業価値を評価する2020年から見ると未来にあたります。
そのため企業価値を評価するには、ターミナルバリューを2020年時点の現在価値に換算しなければならないのです。
この計算式は、下記の通りです。
2020年時の現在価値=ターミナルバリュー/(1+割引率)^年数
企業価値を評価する際には、ターミナルバリューの現在価値換算を忘れずにおこないましょう。
ターミナルバリュー・DCF法の注意点
ターミナルバリュー・DCF法には、下記2つの注意点があります。
- 客観性・信憑性が低くなる可能性がある
- 数値を見ても直感的に判断できない
上記の注意点を順に紹介します。
客観性・信憑性が低くなる可能性がある
1つ目の注意点は、客観性・信憑性が低くなる可能性があることです。
先述のとおり、DCF法では、予測期間のフリーキャッシュフロー現在価値よりも、ターミナルバリューの方が企業価値に占める割合が大きくなります。
また、ターミナルバリューは仮説を踏まえた企業成長率を加味して算出されます。
つまり、採用した仮説によって算出されるターミナルバリュー、ひいては企業価値が大きく変動するのです。
さらに、予測期間のフリーキャッシュフローは、事業計画書をもとに算出されます。
言い換えれば、事業計画書の信頼性次第で企業価値の信憑性も左右されるということ。
これらを踏まえると、ターミナルバリュー・DCF法では、第三者が見ても納得できる合理的な仮説・事業計画書の策定が重要です。
数値を見ても直感的に判断できない
2つ目の注意点は、数値を見ても直感的に判断できないこと。
ターミナルバリューは、事業計画や仮説など不確実性の高い要素を用いて算出します。
算出された企業価値のみを見ても、背景にどのようなロジックがあるのかが不透明であり、直感的に判断できない点に注意が必要です。
M&Aの交渉で算出結果のみを提出しても、相手からすると数値・計算過程の信憑性が判断できないため、どのようなロジックでどんな計算過程を踏んだのかを伝えられるようにしましょう。
ターミナルバリューを含んだDFC法で企業価値を算出しよう
本記事では、DCF法におけるターミナルバリューを紹介しました。
ターミナルバリューは、残存期間における企業のフリーキャッシュフローを現在価値に換算した総計のこと。
不確実性が高く、なおかつ企業価値の大部分を占めるため、ロジックや計算過程を明確にし、客観性・信憑性を確保すると良いでしょう。