企業の未来を左右するM&Aを検討する際には、正確な企業価値を評価することは避けて通れません。
しかし、M&Aをはじめて検討している企業の担当者の多くは、企業価値の正確な評価ができるやり方を知らない方が多いです。
M&Aを検討するなかで特に重要な、財務評価をする手法に「EBITDAマルチプル」があります。
しかし、「EBITDAマルチプル」の言葉があると知っただけで、具体的な計算式やEBITDAマルチプルを活かした企業評価のステップなど、活用方法に不安を抱く方が多いのではないでしょうか。
正確な企業価値の評価をしないと、誤ったM&A判断を引き起こす可能性があるので注意してください。
そこでこの記事では、EBITDAマルチプルの基本からマルチプル法のメリット・デメリット、企業価値の評価3ステップなどをわかりやすく解説します。
最後まで読むと、M&Aをより効果的に行うための判断や戦略に関する自信と知識を手に入れられます。
M&Aにおける財務上のリスクを最小限に抑えつつ成功率を高めるために、EBITDAマルチプルについて理解しておきましょう。
目次
- 1 EBITDAマルチプルとは
- 2 EBITDAについて
- 3 マルチプルについて
- 4 マルチプル法のメリット3つ
- 5 容易に企業評価が算出できる
- 6 客観的な評価ができる
- 7 企業の将来的な価値が算出できる
- 8 マルチプル法のデメリット3つ
- 9 算出する人によって結果がブレる
- 10 類似企業の選定が難しい場合がある
- 11 株価の変動に左右されやすい
- 12 EV/EBITDA倍率とは
- 13 EVはM&Aにおける企業価値
- 14 EV/EBITDA倍率の計算式
- 15 EV/EBITDA倍率の目安
- 16 EV/EBITDA倍率を使った企業価値の評価3ステップ
- 17 類似企業のEV/EBITDA倍率を計算する
- 18 売り手企業のEBITDAを計算する
- 19 類似企業をもとに、売り手企業の企業価値を計算する
- 20 まとめ:EBITDAマルチプルは効果的なM&Aに必須!
EBITDAマルチプルとは
EBITDAマルチプルは企業財務評価をする手法の一つで、企業の収益性と市場価値を測定するのに役立ちます。
企業の運営成果をもとに財務構造や税制の違いを考慮せず、直接企業間の比較ができます。
下記では、EBITDAとマルチプルについて詳しく解説します。
EBITDAについて
EBITDAとは、利益から金融費用や税金、減価償却費、償却費を除いた金額のことです。企業の本業による稼ぐ力を測るために使う指標です。
EBITDAは、営業的な要因や会計上の選択を無視して、企業の運営効率を直接反映させます。
例えば、異なる減価償却方法や税制をしている企業でも、EBITDAを比較することで公平な基準で業績を評価できます。
EBITDAは、異なる業種や国の企業間での比較にも有効な指標です。
マルチプルについて
マルチプルは、EBITDAなどの財務指標をもとに企業価値や株価を算出する倍数のことを指します。
マルチプル法の注目すべき点は、比較的簡単に企業間の価値を比較できるところです。
また、業界内の類似企業や過去の取引を参考にして設定されるため、投資家や分析家によって広く用いられています。
マルチプルは、M&Aや企業評価において重要な客観的な基準になります。
マルチプル法のメリット3つ
マルチプル法は、簡単さと効率性から多くの専門家に利用される、企業評価において重要な手法です。
マルチプル法によって企業評価の過程が容易になるため、迅速かつ客観的な企業価値の算出できるいくつかのメリットがあります。
下記では、マルチプル法のメリットを3つ詳しく解説します。
容易に企業評価が算出できる
マルチプル法の最も大きなメリットは、容易に企業評価が算出できることです。
特定の財務指標(例えばEBITDA)に対して業界平均や類似企業の倍率を適用することで、迅速に企業価値を見積もることができます。
また、複雑な財務モデリングや長期的なキャッシュフローの予測を必要としないため、短時間で直感的な評価結果も得られます。
特にマルチプル法は、時間やリソースが限られている場合において効率的な企業評価手段として重要です。
客観的な評価ができる
マルチプル法を利用することで客観的な評価ができます。
マルチプル法は業界の標準や類似企業のデータに基づいて企業価値を算出するため、個人的な見解や主観的な影響を最小限に抑えられます。
客観的な企業評価は、投資家や分析家が企業の比較を行う際に重要視することです。特に異なる業界や地方の企業を評価する場合に有効です。
M&Aの判断や戦略を決めるサポートするための信頼性の高い企業評価ができるため、堅固な土台を築くことができます。
企業の将来的な価値が算出できる
マルチプル法を用いることで、企業の将来的な価値も算出できます。
なぜなら、現在の財務データに基づいていながら、市場の期待や業界動向を反映した倍率を適用するからです。
類似企業のマルチプルを参照することで、業界全体の成長見通しや将来的な市場環境の変化を評価に組み込めるのです。
単に過去や現在の業績に基づくのではなく、将来性を踏まえたより広い視野の企業価値の評価ができます。
マルチプル法のデメリット3つ
マルチプル法は先述したとおり多くのメリットがある一方で、いくつかデメリットもあります。
下記では、マルチプル法のデメリット3つと対処法を詳しく解説します。
算出する人によって結果がブレる
マルチプル法のデメリットの一つには、算出する人によって結果がブレることです。
マルチプル法は財務指標と市場データに基づいて企業価値を算出しますが、市場から採用する企業や倍率には算出する人の主観が入ってしまう可能性があります。
算出する人の主観が入ってしまうと、比較基準やマルチプルの選択などが欠けてしまう可能性が高いです。
マルチプル法を利用して企業評価をする場合は、一人に任せるのではなく複数で算出することで、正確なマルチプルが算出できるでしょう。
類似企業の選定が難しい場合がある
マルチプル法は、類似企業の選定が難しい場合があるのがデメリットです。
企業価値を評価する際には、同業界、同規模、同様の事業構造を持つ企業のデータを用いることが一般的です。
しかし、ニッチ市場や独自の事業モデルを持つ企業の場合、適切な比較対象を見つけることが難しいです。
適切な比較企業を見つけられないと正確なマルチプルを算出するのが難しいため、企業評価の精度が低下してしまいます。
類似企業の選定が難しい場合は、探す業界や企業規模、事業構造の基準を広げるとよいでしょう。
株価の変動に左右されやすい
マルチプル法を用いる企業評価は、株価の変動に左右されやすいデメリットがあります。
多くのマルチプルは市場データに基づいているため、株価の急激な上昇や下降は直接的に企業評価に影響を及ぼすからです。
短期間に市場が大きく変動する場合評価結果が不安定になるため、時期によっては実際の企業価値と乖離(かいり)した結果をもたらす可能性があります。
株価の変動はマルチプル法を用いた企業評価に大きな影響を与えるため、長期間にわたる平均値や相対的な評価などで対処することでリスクを最小限にしましょう。
EV/EBITDA倍率とは
EV/EBITDA倍率は、企業価値(EV)と企業が生み出す利益(EBITDA)との関係を示すもので、M&Aの判断において広く用いられています。
EV/EBITDA倍率について理解しておくことは、企業の健全性や潜在能力を測定できるため、市場における企業のポジションを評価する上で不可欠です。
下記では、EV/EBITDA倍率の計算式や目安について詳しく解説します。
EVはM&Aにおける企業価値
M&AにおいてEV(企業価値)は、企業の真の価値を測る基準として広く用いられます。
企業の株式総額に負債額を加算し、現金および現金同等物を差し引いたもので企業全体の買収価値を示します。企業全体の買収価値がどのくらいなのかは、M&Aにおいてとても重要です。
買収を検討している企業や投資家は、単に株式価値だけでなく、より全面的な企業価値を理解できるため、より適切なM&A判断を下せるでしょう。
EV/EBITDA倍率の計算式
EV/EBITDA倍率の計算式は、言葉のとおりEV(企業価値)をEBITDAで割ることで計算できます。
- EV(企業価値):市場価値(株式価値)に加えて負債の総額から現金および現金同等物を差し引いたもの
- EBITDA:利益から金融費用や税金、減価償却費、償却費を除いた金額
特にM&Aでは、企業の実質的な価値と収益力を比較する際に使用できます。
EV/EBITDA倍率は企業の負債構造を頭に入れつつ、運営成績を客観的に評価する際の重要な指標となります。
EV/EBITDA倍率の目安
EV/EBITDA倍率の目安は、業界や市場環境によって大きく異なります。
一般的に倍率が低いほど、企業は過小評価されていると見なされます。一方で、倍率が高い場合は、企業が過大評価されていると解釈できます。
しかし、成長産業や高収益性を持つ企業は、高いEV/EBITDA倍率も正当化されるのです。
EV/EBITDA倍率の具体的な目安は以下のとおりです
- 5倍未満:価値が低い(過小評価)
- 10倍超:価値が高い(過大評価)
上記の数字はあくまで一般的な基準なので、実際には詳細な業界分析や市場動向を考えるのが必要です。
EV/EBITDA倍率を用いる際は、相対的な評価として業界平均や過去のトレンドと比較しましょう。
EV/EBITDA倍率を使った企業価値の評価3ステップ
EV/EBITDA倍率を使った企業価値の評価は、正しい手順に従って行うことで精度高く実施できます。
業界内の類似企業の倍率を基準として対象企業の収益力を評価することで、市場価値を推定します。
下記ではM&Aの判断において特に有効な、EV/EBITDA倍率を使った企業価値の評価を行うための3つのステップを詳しく解説します。
類似企業のEV/EBITDA倍率を計算する
EV/EBITDA倍率を用いた企業価値の評価では、類似企業のEV/EBITDA倍率を計算することが第一歩です。
類似企業のEV/EBITDA倍率を計算するまでのステップは以下のとおりです。
- 対象企業と同じ業界にいる類似の事業規模や市場の企業を選ぶ
- 選定した各企業の企業価値(EV)とEBITDAを集める
- EVをEBITDAで割ることにより倍率を算出する
類似企業の平均EV/EBITDA倍率は、業界内での企業の相対的な評価の基準となります。
上記のステップで算出したEV/EBITDA倍率は、より公平で市場に即した価値判断できるでしょう。
売り手企業のEBITDAを計算する
売り手企業のEBITDAを計算することは、企業価値の評価をする中でとても重要です。
計算することで、企業の基本的な収益性を、資本構造や税制の影響を受けずに評価できるのです。
売り手企業のEBITDAを正確に算出することで、次のステップのEV/EBITDA倍率による企業価値の算定で、正確な基準を設定できます。
企業が実際にどれだけの収益を生み出しているかを把握し、価値を適切に反映させられるでしょう。
類似企業をもとに、売り手企業の企業価値を計算する
類似企業をもとに売り手企業の企業価値を計算することは、企業評価の最終ステップです。
類似企業のEV/EBITDA倍率を調べて業界内での相対的なポジションを知ることで、公正な市場価値を導き出しましょう。
導き出した市場価値は、投資家や買収希望者が売り手企業に対して適切な価格を提示する際の基礎となります。
また、企業が業界内でどのように価値を持っているかを明確にすることができるため、より公平で透明性の高い評価結果を得ることが期待されます。
類似企業を基にした計算は、M&Aにおける重要な指針です。
まとめ:EBITDAマルチプルは効果的なM&Aに必須!
現代的な企業の財務評価「EBITDAマルチプル」は、M&Aを成功に導く上で欠かせない手法です。
EBITDAマルチプルにより、企業は自身の市場価値を正確に知れるため、適切な買収対象を選定できます。
また、マルチプル法のメリットを生かして迅速かつ客観的な企業評価を行えるため、M&A判断の精度も高められます。
しかし、デメリットも伴うため、慎重に分析して適切な対策を講じることが重要です。
EV/EBITDA倍率を活用することで、業界内の相対的なポジションを正確に把握して将来的な潜在力を評価できるため、M&A戦略を立案する際の貴重な指標となるでしょう。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
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