特別な事情で事業活動の継続が難しい場合、会社を休眠させるという選択肢があります。
休眠している会社を「休眠会社」と言います。
廃業のように会社が消滅することはなく、会社を存続しつつ事業活動を停止し、機会があれば事業活動を再開できるのです。
休眠会社には税金面でメリットがある一方で会社存続に関わるリスクもあります。
この記事では、休眠会社の特徴や会社を休眠させるメリットやデメリット、休眠させる手続きを解説します。
目次
休眠会社とは?
休眠会社とは、会社登記はあるが、長期間企業活動を停止している会社のことです。
会社法第472条には、休眠会社について以下のように規定しています。
株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から十二年を経過したものをいう。
株式会社では、10年に一度は役員変更の登記が必要ですが、10年からさらに2年経過して登記が行われないと休眠会社とみなされます。
本店の移転登記、取締役会設置の登記などは継続して事業活動を行う会社であれば、当然更新されるものです。
したがって、これらの更新が途絶えると休眠会社とみなされるのです。
法務省が休眠会社・休眠一般法人の整理作業を行った結果、2021年で休眠会社は約3万社あります。
休眠会社とみなし解散
会社の休眠状態が続くと「みなし解散」という手続きによって強制的に解散させられます。
みなし解散とは、休眠会社に対して取られる強制的な解散手続きです。
休眠会社となると、「みなし解散」の候補となります。
長い期間登記の変更がないと、経営実態がないとみなされ、法務局の登記官が法人登記の整理作業を開始します。
その後、登記所からみなし解散の手続きに入ったことを知らせる通知が届きますが、通知後に所定の手続きをしないと、強制的に解散となるのです。
本人の意思に関係なく、解散させられる理由として、法務省は「登記の信頼を保全すること」と「休眠会社を使った犯罪を防ぐこと」を挙げています。
休眠会社と廃業
休眠会社、つまり会社が休眠状態にあることと廃業の違いは何でしょうか。
廃業は清算ともいい、清算決了手続きによって自主的に会社を解散します。
会社資産の売却や債権回収など資産と負債の整理によって消滅します。
廃業すると、会社は消滅し、事業を再開することはできません。
新しく会社を設立すると、必要な許認可を再取得する必要があります。
一方で休眠会社は事業活動を継続していませんが、会社として存続しています。
事業活動を再開することは可能で、許認可の取り直しは不要です。
将来、事業活動を再開する可能性があれば、安易に廃業を選ばないほうがいいといえるでしょう。
休眠会社のメリット
事業継続をしないで休眠会社にする、また廃業せずに休眠会社にしておくことのメリットはなんでしょうか。
会社を休眠状態にしておくメリットを4点解説します。
法人税・消費税が課税されない
会社が休眠状態だと、事業活動を行っていないので、売上が上がりません。
法人税は、会社が事業活動を通じて得た所得に対して課税される税金です。
休眠会社では、会社の所得がないので、法人税は発生しません。
消費税は、商品やサービス提供時に課税される税金です。
法人税同様、休眠会社は、事業活動を停止し、商品やサービスを提供していないので、消費税の納付義務がありません。
ただし、休眠中で売上がなくても確定申告は忘れずに実施する必要があります。
確定申告をしないと青色申告の承認が取り消されるなど弊害が出てくるかもしれません。
また後述するように法人住民税の均等割は免除されない場合もあるので注意が必要です。
許認可の再取得が不要
休眠会社ではなく、廃業を選択すると会社が消滅します。
再び以前の事業を始めると許認可を再取得する必要があります。
例えば、建設業や飲食業では監督官庁の許認可が必要ですので、スムーズに事業を再開できません。
許認可を得るための手間と時間、お金をもう一度かけないといけないのです。
一方で、休眠会社は事業を行っていないだけで、会社として存続しています。
以前取得した許認可があり、事業を再開する場合、許認可の再取得は不要です。
許認可が必要とされる業種では、スムーズに事業再開を実施できるでしょう。
廃業費用を支払う必要がない
会社を廃業する場合、様々なコストがかかります。
まず以下の3種類の登記にそれぞれ費用があります。
- 会社の解散登記…3万円
- 清算人の選任登記…9千円
- 清算結了登記…2千円
登記費用だけで4万円程度です。
また、登記の前後で商業・法人登記情報や登記事項証明書を取得する必要があり、2千円弱支払うことになるのです。
会社が廃業したことを債権者に伝えるために官報に掲載する公告を行います。
官報の公告に3万円から4万円の費用がかかります。
そして、これらの作業を滞りなく、適切に処理するために行政書士や司法書士に依頼すれば、数万円から数十万円の報酬を支払う必要があるでしょう。
休眠会社を選択すれば、これらの費用と手間を一切かける必要がありません。
法人住民税の均等割が免除される場合がある
均等割という言葉の通り、法人住民税の均等割は法人所得の黒字・赤字に関係なく、支払います。
通常は、資本金等の額と従業員数に応じて課税されます。
休眠会社は、法人住民税の均等割が免除される場合があるのです。
地方自治体によって実務での運用が異なり、休眠届を提出すれば、全額または半額の「免除」となる場合や提出しても全額課税される場合もあるようです。
本来、法人住民税の均等割は赤字法人でも課税されるので、当然かもしれません。
休眠会社への課税については管轄の自治体に相談しましょう。
休眠会社のデメリット
廃業を回避するために休眠会社を選んだ場合にはデメリットもあります。
休眠会社にすれば、会社を維持するために必要なすべての手間から解放されるわけではありません。
会社を休眠状態にしておくデメリットを4点解説します。
会社の維持費用がかかる
休眠会社は、法人税や消費税の支払いが免除されます。
しかし、会社の維持費用は税金だけではなく、継続して発生する費用があるのです。
不動産を保有していれば、毎年の固定資産税の支払いがあります。
オフィスを賃貸していれば、毎月家賃が発生するでしょう。
法人住民税の均等割は、免除が認められない自治体もあります。
免除されない場合、支払いを続けることになるのです。
これらの費用は廃業すれば、かからないコストです。
休眠会社にすれば、維持コストがゼロになっていると勘違いしていると思わず出費に悩まされるので注意しましょう。
税務申告を行う必要がある
休眠会社でも会社が存続しているので、法人としての確定申告義務があります。
事業活動を停止し、所得がなく、法人税・消費税の支払いがゼロですので、無申告でも問題ないかもしれません。
しかし、青色申告の場合、税務申告を行わないと実害があります。
2期連続で申告期限を守らないと、青色申告が取り消されるのです。
青色申告が取り消されると、赤字の繰越しと繰戻し、貸倒引当金の計上などができなくなります。
休眠中は、売上がないので実害がありませんが、事業活動を再開すると青色申告が取り消されたことによる実害が発生するのです。
したがって、休眠中でも税務申告を行う必要があると言えます。
みなし解散となる可能性がある
株式会社が最後に登記を行ってから12年経過すると休眠会社です。
休眠会社は「みなし解散」の対象であり、法務局の登記官によって解散登記が行われ、強制的に解散させられる可能性があります。
廃業を避けるために休眠会社を選んでも、最終的に解散させられれば廃業と違いがありません。
しかし、解散登記がされると即時に会社が消滅するわけではありません。
解散登記から2か月以内に「事業を廃止していない」旨の届出を提出し、役員変更登記をすれば会社が存続します。
また、届出をしなくても3年以内に会社継続の決議を行い、2週間以内に会社継続登記をすることで会社を守れます。
役員の変更が必要になる
休眠会社でも役員の任期は休眠期間と関係なく、経過するでしょう。
株式会社では、役員の任期は最長で10年です。
つまり休眠会社でも役員は10年に1回は交代することになるのです。
役員が任期満了を迎えると、役員変更登記が必要になります。
会社法第915条第1項によって、任期満了から2週間以内に変更登記を実施する必要があります。
登記を怠ると会社法976条に基づき、100万円以下の過料が課せられるので注意です。
会社を休眠させる場合、事前にスケジュールを組んでおきましょう。
休眠会社にする手続き
休眠を決めた時に経営者が必要な届出を提出すれば、休眠会社にできます。
届出を怠ると、国や自治体が休眠会社であることを知ることができません。
提出する届出や提出先は以下の通りです。
- 税務署…異動届出書、給与支払事務所等の廃止届出書
- 都道府県税事務所・市区町村役場…異動届出書
- 年金事務所…健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届
- 公共職業安定所…雇用保険適用事業所廃止届
- 労働基準監督署…労働保険確定保険料申告書
会社休眠中に役員変更の登記は必要になりますが、会社を休眠させるための登記はありません。
会社が休眠するだけですので、登記上は法人格として存続します。
また、休眠させるために費用はかかりませんが、各種手続きを税理士や社会保険労務士などに依頼する場合、報酬が必要になります。
休業と休業以外の方法を慎重に検討しよう
この記事では、休眠会社の特徴や会社を休眠させるメリットやデメリット、休眠させる手続きを解説しました。
不況の影響で業績が悪化した時などに会社を休眠させることがあります。
休眠会社にするためには各行政機関に届出をするだけで費用はかかりません。
休眠中には税金面で様々なメリットがあり、将来に事業活動を再開することも可能です。
その反面、休眠中も税務申告や役員変更の登記が必要ですので、注意しましょう。
会社の休眠は、廃業を検討する前の一つの選択肢になりえます。
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