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コベナンツとは?内容や違反した場合のペナルティを解説

コベナンツとは、融資等の資金調達時に金融機関との契約に付与される特約条項です。

金融機関を取り巻く経営状況の変化に伴い、今日では、コベナンツを付与した融資契約も珍しくなくなりました。

この記事では、コベナンツの定義や具体的な条項、違反した場合のペナルティなどについて解説します。

コベナンツとは?

コベナンツとは、金融機関による融資や金融機関を通じた私募債の発行時に契約書に記載される特約事項のことです。

特約事項では、金融機関に対する債務者の義務や制限を規定しています。

詳細は後述しますが、条項には情報開示義務や財務制限条項などがあり、これらの条項では債務者が一定の行為を行う又は行わないといった約束・義務が規定され、契約における主たる義務に付随する義務となっています。

債務者側の条項違反が認められ、資金供給者に不利益が生じた場合には、債務者としての利益を失うことがあります。

金融機関との契約で付される特約を指す場合が大半ですが、その場合には財務制限条項を指すことが多いようです。

これは平たく言えば、「ある程度の制約は付けますが、貴社を信頼して、お金を貸しますよ」というメッセージでもあります。

コベナンツが必要となる理由や背景

従来、金融機関の融資による資金調達が主流であった日本では、企業と金融機関の取引が恒常的に発生していました。

取引のある金融機関の中でも、最も多くの資金の供給を受け、人的・資本的に密接であるメインバンクを主軸とした付き合いが主流でした。

現在でもメインバンク制は一定程度維持されていますが、バブル崩壊以後は企業・金融機関ともに取引の多角化を進める中で重要性が薄れています

両社の経常的な取引関係や信頼関係を基盤とするメインバンク制から、これまで取引のなかった金融機関・企業との取引が活発化しました。

このような取引対象の拡大は、金融機関にとってはビジネスチャンスであると同時に与信管理を確実に行い、供給した資金が返済されることを担保する必要があります

そこで登場したのがコベナンツです。

企業と金融機関の取引関係が希薄な状態で、返済を確実なものにするためにコベナンツを付与し、企業側が債務不履行に陥った場合でも最大限債権の回収余地を持たせようとしたのです。

コベナンツの内容

債務者たる企業の義務や制限を規定するコベナンツの内容について見ていきましょう。

コベナンツにはいくつかの種類がありますが、金融機関が最も重視しているのは財務制限条項です。

ここからは財務制限条項やその他の代表的な条項について解説します。

情報開示義務

自社の経営状況や財務状況について、金融機関が求める情報開示を行う義務を規定しています。

開示を求められる情報の範囲は以下のとおりです。

  • 会計上適法な財務諸表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)の提出
  • 会社の財務状況を把握する資料(資金計画書、試算表など)
  • 会社及び関連会社(子会社含む)の資産及び業績に関する報告
  • 破産手続開始や担保の滅失など期限の利益喪失事由の発生に関する報告
  • 表明保証違反の事実

上記に該当する情報以外にも開示を求められる可能性があります。

財務制限条項

コベナンツの中でも最も重要な条項です。

貸借対照表や損益通算書に記載される財務状況について、特約で規定された基準条件を下回らないようにする義務が生じます。

規定される財務指標の例は以下のとおりです。

  • 一定の純資産(又は自己資本)額の維持
  • 一定の営業利益や最終利益額の維持
  • 一定の有利子負債額を超過しない
  • 一定の自己資本比率の維持
  • 第三者への投融資制限
  • 一定の在庫回転期間・売上債権回転期間・支払債務回転期間の維持
  • 配当制限
  • 経常赤字2期連続回避(減価償却費計上後)
  • 総債務月商倍率9倍以内維持

上記の財務上の制約が遵守できない場合は、金利の引き上げもしくは期限の利益を喪失します。

担保制限条項

金融機関に対する返済を担保する資産等について、契約中に制限を設ける条項です。

担保制限条項は以下の3種類に大別することができます。

  • 契約期間中の担保提供を全面的に禁止する
  • 一部の例外を除き第三者への担保提供を禁止する
  • 他の債権者に対する担保提供を行う場合には当該契約に基づく債権に担保を設定する

3つ目の制限は上記3種類のなかでも最も柔軟な制限ですが、契約によって生じる債務の弁済順位が他の債務に劣後することを許可するものではありません

資産譲渡制限条項

債権に担保を設定しているか否かに関係なく、会社の保有する資産に関して、譲渡制限を設ける条項です。

資産譲渡制限条項は以下の3種類に大別することができます。

  • 保有する資産について譲渡を全面的に禁止する
  • 債権額の価値を上回る資産価値を有する資産について譲渡を全面的に禁止する
  • 債権者の事前承認なしに売却や処分を禁止する

なお、どの禁止事項を採用するかは金融機関の合意によります。

事業維持条項

企業が経営する事業のうち、主たる事業に課される制限が事業維持条項です。

代表的な内容は以下のとおりです。

  • 事業を継続するために必要な許可を維持する
  • 法令等を遵守して、事業を行う
  • 主たる事業の内容を変更しない
  • 主たる事業に関連する契約を変更・解除しない

ちなみに制限が課される主たる事業の判定については、国税庁の「第1節 納税地及び納税義務」に解説があります。

これによれば、当該事業による収益が全体の50%を超えるものについて「主たる事業」と判断します。

コベナンツに違反した場合

コベナンツは主たる契約に付随する義務ですので、違反することは「期限の利益」の喪失事由に該当します

期限の利益とは、債務者は債務の履行期限が到来するまでは履行しなくともよいという利益のことです。

つまり、コベナンツ違反を確認した金融機関は債務者に対して、一括返済を求めることができます。

ただし、実務上は違反後直ちに一括返済を求めるのではなく、期限猶予や条項の見直し等によって現状の改善を求めることが多いようです。

また、1回のコベナンツ違反で直ちに期限の利益喪失としない金融機関も少なくありません。

例えば、北日本銀行では、以下のように規定しています。

・抵触1回で0.5%の金利引き上げとなります

・抵触連続2回でさらに0.5%の金利引き上げとなります

・抵触連続3回で期限の利益の請求喪失となります

また、条項を遵守している状態が回復された場合には、当初の利率に復旧するようです。

コベナンツが使われる融資

通常の融資でもコベナンツ特約付き融資は実施されますが、特に頻度が高く使われる融資は複数行が参加する融資です。

これらの融資は銀行取引約定書の適用対象外であることから、コベナンツを付与して、取引ルールを明確にします。

シンジケートローン

シンジケートローンとは、企業の資金調達ニーズに対して、アレンジャーと呼ばれる金融機関が複数の金融機関を取りまとめて、シンジケート団(共同の融資団)を組成し、一つの融資契約書に基づいて貸し出しを行う融資形態です。

シンジケートローンでは、資金を供給する金融機関と債務者たる企業の間で直接の契約が締結されないことも多く、また無担保・無保証の契約もあります。

シンジケート団に参加する金融機関は貸し倒れのリスクを逓減するため、また債務者が債務不履行に陥った場合でも債権の回収余地を持たせるためにコベナンツ条項を設定します。

プロジェクト・ファイナンス

プロジェクト・ファイナンスとは、特定の事業や公共事業に対して、融資を実施し、事業から生み出されるキャッシュフローを返済の原資とする手法です。

石油やガス、電力、鉱山、インフラなど多岐に渡るプロジェクトが対象となります。

プロジェクト・ファイナンスは返済原資がプロジェクトから発生するキャッシュフローに限定されるので、事業が上手く行かないと返済原資が不足するという高いリスクを抱えています。

高いリスクに見合う債権保全措置として、コベナンツを付与する融資が実行されます。

LBOファイナンス

LBOとは、レバレッジド・バイアウトの略称であり、企業買収の手法です。

LBOファイナンスは、企業やファンドが他社を買収する時に買収資金の大半を金融機関からの融資で調達する方法です。

この時に担保となるのが、買収対象企業の資産や将来予想されるキャッシュフローです。

LBOファイナンスは、資金供給側としては、レバレッジ効果が得られるためハイリターンが期待できますが、M&Aという高度な取引に融資するという特性上、高いリスクを内包しています

リスクの見合いとして、融資契約にコベナンツ特約が付与されます。

金融機関がコベナンツ融資を行うメリット・デメリット

特約条項が付与されていない通常の融資と比較して、コベナンツ融資を行うメリットやデメリットについて見ていきましょう。

ここからは金融機関から見たメリットとデメリットを解説します。

メリット

金融機関がコベナンツ融資を行うメリットは以下のとおりです。

  • 資金供給先の信用リスクの変動を事前に察知できる
  • 期限の利益喪失後に迅速な債権回収ができる
  • 顧客と密接な関係を築き、地域産業の振興及び経営支援という理念を実現できる
  • 銀行取引約定書が適用されない融資取引のルールを補完する
  • 高リスク融資に参加できる

デメリット

金融機関がコベナンツ融資を行うデメリットは以下のとおりです。

  • 事後の与信管理の負担が増える
  • 監視の役割が大きく、信頼関係醸成を阻害するおそれがある

特に融資実行後に事務管理の負担が増大することが主要なデメリットです。そのため、事務管理コスト増加分と融資のスプレッドを比較して、採算の取れる案件であることを事前に確認します。

利用者がコベナンツ融資を受けるメリット・デメリット

一方で、利用者たる企業がコベナンツ融資を受けるメリットやデメリットについて見ていきましょう。

ここからは利用者たる企業から見たメリットとデメリットを解説します。

メリット

利用者がコベナンツ融資を受けるメリットは以下のとおりです。

  • 信用力が十分でなくても融資を受けられる
  • 良い条件(無担保・無保証)で融資を受けやすい
  • 金融機関との親密度が増大する

金融機関は最初はコベナンツ融資を実行し、信用力が担保されてから、通常融資に切り替えることもあるので、コベナンツ融資は呼び水のような役割を果たします。

デメリット

利用者がコベナンツ融資を受けるデメリットは以下のとおりです。

  • 常に金融機関から監視され、自主性を失う
  • 信用力がなくても融資を受けられる分、審査が厳しくなる
  • 自己判断による事業展開に制限がかかる
  • 条項違反時に期限の利益を喪失する

コベナンツを遵守しよう

この記事では、コベナンツの概要や条項の種類などについて解説しました。

バブル崩壊後に導入が進んだコベナンツ融資は、主に金融機関の都合によって採用されてきました。

しかし、企業側にとっても信用力を補完し、好条件で融資を受けられる余地を拡大しました

コベナンツ融資は、信用力に劣る企業であっても受けられるため、魅力的な融資手法ですが、違反によって期限の利益を喪失するので、注意が必要です。

コベナンツ融資について、さらに理解を深めたい場合には、ぜひ株式会社パラダイムシフトに相談してみてください。

弊社はIT領域のM&A仲介に実績がある会社です。