事業承継と相続の違いがわからない方や、事業を引き継ぐ際に必要な税金・手続きがわからない方も少なくないでしょう。
適切に制度を活用すれば、相続税や贈与税の負担を大幅に軽減できます。しかし、法人の自社株式を引き継ぐのか、個人事業主の事業用資産を引き継ぐのかによって仕組みや手続きは大きく異なります。
本記事では、事業承継と相続の違いを整理したうえで、法人・個人事業主それぞれの承継の仕組みや税金、事業承継税制のポイントについてわかりやすく解説します。
目次
- 1 事業承継とは
- 2 事業承継と相続の関係性と違い
- 3 事業承継における3つの引き継ぎ先
- 4 親族内
- 5 従業員
- 6 M&A
- 7 「法人」と「個人事業主」で異なる事業承継・相続の仕組み
- 8 【法人の場合】
- 9 【個人事業主の場合】
- 10 事業承継でかかる相続税・贈与税の仕組み
- 11 自社株式や事業用資産に相続税・贈与税がかかる理由
- 12 相続税の仕組みと税率
- 13 贈与税の仕組みと税率
- 14 【法人向け】自社株の相続税・贈与税が猶予または免除となる場合がある「事業承継税制」
- 15 事業承継税制の概要と設けられた理由
- 16 一般措置と特例措置の8つの違い(特例承継計画の提出など)
- 17 事業承継税制を利用するメリット・デメリット
- 18 事業承継税制の適用要件(会社・先代経営者・後継者の条件)
- 19 相続時・贈与時の手続きの流れと注意点
- 20 【個人事業主向け】死亡時の事業承継と相続手続きの流れ
- 21 相続財産・事業資産・負債の確認と相続放棄の判断
- 22 前事業主の死亡・廃業手続きと後継者の開業手続き・屋号の引き継ぎ
- 23 個人事業主の税負担を軽減する「個人版事業承継税制」
- 24 相続における事業承継のよくあるトラブルと防止策
- 25 遺産分割や遺留分をめぐる親族間の相続トラブル
- 26 遺言書による事業用資産の指定と生前贈与の活用
- 27 事業承継における遺留分に関する民法の特例や種類株式の活用
- 28 事業承継や相続の相談先
- 29 事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)
- 30 税理士・公認会計士
- 31 弁護士・司法書士
- 32 まとめ:事業承継と相続対策は早期の準備が鍵になる
事業承継とは
事業承継とは、経営者がこれまで培ってきた会社や事業を後継者へ引き継ぐことを指します。
自社株式・設備・従業員の雇用・取引先との関係・ノウハウといった事業に関わるあらゆる要素を包括的に引き継ぐ重要な過程であり、一般的に完了まで5〜10年の準備期間が必要とされています。
事業承継と相続の関係性と違い
事業承継は、事業を未来へ存続させることを目的とした取り組みであり、経営者が元気なうちに行う計画的な生前承継も多くあります。
一方、相続は、人が死亡した際に、すべての財産を法定相続人などが法的に引き継ぐ手続きです。
経営者の死亡によって事業を引き継ぐケースでは、事業用財産が個人の遺産として扱われるため、遺産分割トラブルや高額な相続税の問題が絡み合い、複雑な状況を生み出します。
中小企業庁「2024年版中小企業白書」によれば、2023年時点の後継者不在率は54.5%と、依然として半数以上の企業で後継者が決まっていない状態にあります。
事業承継における3つの引き継ぎ先
事業の引き継ぎ先は、大きく以下の3つに分類されます。
親族内
経営者の子供や孫、配偶者など親族を後継者とする最も伝統的な方法です。
社内外から心情的な理解を得やすく、後継者を早期から育成でき、所有(株式)と経営を一致させたままスムーズに移行しやすい点がメリットです。
一方、少子化や価値観の多様化により適任者がいないケースが増えており、複数の子供がいる場合には遺産分割トラブルに繋がる可能性もあります。
従業員
社内の役員や優秀な従業員に引き継ぐ親族外承継のパターンです。
経営理念や業務内容に精通しているため経営方針の連続性が保たれやすく、取引先や他の従業員も安心してついてきやすいのが大きなメリットです。
その反面、株式買取のための資金調達と、経営者保証(個人保証)を引き継ぐことへの心理的・経済的ハードルが高いという課題があります。
近年はMBO(マネジメント・バイアウト)の活用により、資金面の選択肢が広がっています。
M&A
M&Aとは、第三者である企業または個人に事業を売却・譲渡する方法です。
廃業を防ぎつつ現経営者が創業者利益を獲得できるメリットがある一方で、理想的な買い手が見つかるとは限らず、企業文化の違いによる従業員の離職リスクや交渉に数年かかる点には注意が必要です。
近年は中小企業向けのM&A仲介サービスが普及しており、専門家のサポートを活用すると、最適な買い手とのマッチングが実現しやすくなっています。
「法人」と「個人事業主」で異なる事業承継・相続の仕組み
事業形態が「法人」か「個人事業主」かによって、引き継ぐべき対象と手続きが根本から異なります。
【法人の場合】
法人は経営者個人とは独立した法人格を持ちます。
後継者が先代から過半数の自社株式を引き継ぎ代表取締役に就任すれば、事業資産はそのまま会社のものとして残り、事業をスムーズに継続できます。
ただし、少数株主(親族や元従業員など)が分散保有している株式は事前に整理しておく必要があります。
【個人事業主の場合】
店舗・機械設備・在庫・借入金に至るまですべてが事業主個人の財産(または負債)です。
事業主が死亡した場合、銀行口座が凍結されることがあるため、後継者は遺産分割協議を経て、自身の名義で事業を再開する必要があります。
手続きの煩雑さを避けるために、事業規模が大きくなった段階で法人成り(法人化)への検討も有効な選択肢です。
事業承継でかかる相続税・贈与税の仕組み
自社株式や事業用資産は経済的価値を持つ財産であり、相続・贈与の際に課税されます。
特に業績好調な法人ほど自社株式の評価額が高騰しており、現金がないのに多額の納税を迫られるリスクがあります。
自社株式や事業用資産に相続税・贈与税がかかる理由
未上場であっても業績好調な会社の株式評価額は数億円に達するケースは珍しくなく、現金化しにくい資産にもかかわらず高額な税金が課せられます。
後継者がその納税資金を用意できず、やむなく自社株式を売却したり、会社の資産を切り崩したりすることで経営が不安定になるケースも少なくありません。
こうした事態を防ぐためにも、早い段階から株式評価額の把握と納税資金の準備を進めておくことが重要です。
相続税の仕組みと税率
相続税の基礎控除は、以下の計算式で算出されます。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
遺産総額がこれを超えた場合に超過分へ課税されます。
税率は10%から最大55%の累進課税で、法定相続人が1人の場合、基礎控除は3,600万円です。
なお、申告・納付期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内と定められているため、早めの対策が重要です。
参考サイト:国税庁「相続税の計算」
贈与税の仕組みと税率
暦年課税制度の場合、年間110万円の基礎控除を超える財産に10%から最大55%の累進課税が適用されます。
相続税逃れを防ぐ目的から、相続税より高い税率が早く適用される設計になっています。
毎年少しずつ計画的に贈与する「暦年贈与」が有効ですが、相続開始前の最長7年間(2024年以降)に行われた贈与は相続財産に加算されるため、早期から継続的に実施することが重要です。
参考サイト:国税庁「贈与税の計算と税率(暦年課税)」
【法人向け】自社株の相続税・贈与税が猶予または免除となる場合がある「事業承継税制」
多額の税負担による中小企業の廃業を防ぐため、国は「事業承継税制」という救済措置を用意しています。
事業承継税制の概要と設けられた理由
事業承継税制とは、後継者が先代から自社株式を贈与・相続で取得した際、本来納めるべき税金の納税が猶予され、一定の条件を満たせば最終的に免除される制度です。
日本を支える中小企業の技術や雇用を守り、世代交代を後押しするために創設されました。
自社株式の評価額が高く、多額の納税が事業継続の障壁となっている企業にとっては、特に積極的に活用を検討すべき制度といえます。
一般措置と特例措置の8つの違い(特例承継計画の提出など)
現在利用されている大半は特例措置です。一般措置と特例措置との違いは以下の通りです。
- 特例承継計画の提出:都道府県知事への事前提出が必要(提出期限あり・要確認)
- 対象期間:特例措置は適用対象となる贈与・相続の期間が限定されている(期限あり・要確認)
- 猶予対象株式数:一般は総株式の最大3分の2、特例は全株式(100%)
- 納税猶予割合:一般は贈与税100%・相続税80%、特例は両方100%
- 承継パターン:一般は1対1、特例は複数株主から最大3人の後継者へ可能
- 雇用確保要件:一般は8割維持が必須、特例は正当な理由があれば猶予継続
- M&A・解散時:特例は売却額等に応じて納税額が減免
- 相続時精算課税:特例は要件外となった場合でも適用可能
事業承継税制を利用するメリット・デメリット
メリットは、数千万円〜数億円に上る税金が実質的に納税猶予となり、手元に残った資金を設備投資や人材採用など前向きな投資に回せる点です。
納税猶予により手元資金を温存できるため、承継直後の経営安定化にも寄与します。
デメリットは、最初の5年間は毎年、その後は3年ごとに継続届出書を提出する必要があることです。また、要件を満たさなくなると猶予が取り消され、利子税を含めた一括納付を求められます。
後継者が原則5年間は代表者として経営を継続しなければならない制約もあるため、将来的な事業売却や廃業を想定している場合は慎重に判断してください。
事業承継税制の適用要件(会社・先代経営者・後継者の条件)
特例措置の適用を受けるには、会社・先代経営者・後継者それぞれについて、以下の要件をすべて満たす必要があります。
いずれか一つでも欠けると制度を利用できないため、事前に税理士と要件の確認を行うことが重要です。
【会社の要件】
- 中小企業基本法における中小企業者に該当すること
- 上場企業・風俗営業会社・資産管理会社ではないこと
【先代経営者の要件】
- 過去に代表権を持っていたこと
- 贈与税猶予の場合、贈与直前に代表権を退任していること
【後継者の要件】
- 承継時に代表権を有していること
- 贈与の場合、20歳以上かつ役員就任から3年以上経過していること
- 相続の場合、相続開始直前に役員であったこと
- 承継後、同族関係者と合わせて過半数の議決権を持ち、筆頭株主になること
相続時・贈与時の手続きの流れと注意点
- 特例承継計画の策定・提出:認定経営革新等支援機関の所見を添えて都道府県庁へ提出(提出期限あり・要確認)
- 贈与または相続の実行:株式移転と代表者交代(登記変更)を行う(適用対象となる贈与・相続には期限あり・要確認)
- 都道府県知事への認定申請:贈与翌年の1月15日まで(相続は相続開始後8ヶ月以内)
- 税務署への申告:認定書の写しや担保提供書を添えて期限内に申告
各手続きには期限が設けられており、要件も変更される場合があります。早めに税理士などの専門家へ相談し、最新の情報をもとに準備を進めましょう。
【個人事業主向け】死亡時の事業承継と相続手続きの流れ
個人事業主の場合、事業用資産はすべて個人の財産として扱われるため、法人とは異なる複雑な手続きが発生します。
相続財産・事業資産・負債の確認と相続放棄の判断
個人事業主が死亡すると、店舗・設備・在庫・売掛金などのプラスの財産と、事業用ローンや未納税金などの負債もすべて相続財産となります。
後継者は相続開始を知った日から3ヶ月以内に、単純承認・相続放棄・限定承認のいずれかを判断しなければなりません。
相続放棄すると事業用資産も一切引き継げなくなるため、プラス・マイナス双方の財産を正確に把握したうえで慎重な判断が重要です。
前事業主の死亡・廃業手続きと後継者の開業手続き・屋号の引き継ぎ
【前事業主の廃業手続き】
- 死亡届の提出(7日以内)
- 個人事業の開業・廃業等届出書の提出(1ヶ月以内)
- 所得税の準確定申告(死亡を知った日の翌日から4ヶ月以内)
【後継者の開業手続き】
- 個人事業の開業・廃業等届出書の提出(開業日から1ヶ月以内)
- 青色申告承認申請書の提出(期限内に提出しないと白色申告になるため要注意)
- 事業用銀行口座の新規開設(凍結口座は使えないため後継者名義で開設)
屋号は、開業届に同一の屋号を記載することで引き継げます。
ただし飲食店の営業許可や建設業許可などは原則として相続できず、後継者名義での新規申請が必要です。
許認可によっては取得まで数ヶ月かかるため、生前のうちから準備を進めておくことが理想的です。
個人事業主の税負担を軽減する「個人版事業承継税制」
個人事業主向けにも、特定の事業用資産(土地・建物・機械など)を贈与・相続で取得した場合に贈与税・相続税の100%が猶予される「個人版事業承継税制」が用意されています。
対象資産は、青色申告の貸借対照表に計上されているものに限られるため、白色申告の事業者は事前に切り替えが必要です。
利用には、個人事業承継計画を都道府県知事に提出し認定を受ける必要があり、都市部など土地の評価額が高いエリアでは特に恩恵が大きくなります。
相続における事業承継のよくあるトラブルと防止策
事業承継と相続が交差する場面では、親族間のトラブルが深刻化しやすくなります。以下では、代表的なトラブルと防止策を解説します。
遺産分割や遺留分をめぐる親族間の相続トラブル
後継者に事業用資産を集中相続させると、他の兄弟姉妹から「不公平だ」と不満が噴出しがちです。
とくに遺留分の侵害は、相続人から「遺留分侵害額請求」を起こされると、後継者は現金での精算を迫られます。
その資金捻出のために会社の資金を引き出したり自社株を売却せざるを得ず、場合によっては資金繰りが悪化し、事業継続に影響が及ぶことがあります。
遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、それ以外は2分の1です。後継者への集中相続を予定している場合は、事前に弁護士へ相談しておくことが重要です。
遺言書による事業用資産の指定と生前贈与の活用
対策の第一は、遺言書(公正証書遺言)の作成です。法的効力が高く紛失・偽造のリスクがないため、事業承継の場面でもっとも広く活用されています。
また、生前贈与の手法として相続時精算課税制度を活用すると、累計2,500万円まで贈与税が非課税(超過分は一律20%)となり、まとまった資産を一度に移転しやすくなります。
2024年の税制改正により年間110万円の基礎控除も新設されましたが、一度選択すると暦年贈与に戻せないため、税理士と慎重にシミュレーションしたうえで判断してください。
参考サイト:国税庁「相続時精算課税の選択」
事業承継における遺留分に関する民法の特例や種類株式の活用
経営承継円滑化法に基づく、遺留分に関する民法の特例を活用すると、後継者に生前贈与した自社株式を遺留分の計算基礎から除外する除外合意や、評価額を贈与時の金額に固定する固定合意を結べます。
また、法人では議決権制限株式などの種類株式を発行し、財産の公平性と経営権の集中を両立させる方法も有効です。
事業承継や相続の相談先
事業承継や相続の手続きは専門性が高く、自社だけで完結させることはほぼ困難です。
状況に応じて以下の専門機関を活用しましょう。
事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)
国が各都道府県に設置する無料の相談窓口です。
親族内承継の計画立案からM&Aのマッチング支援まで中立的な立場で対応しており、何度でも無料で利用できます。
何から着手すべきか分からない初期段階の情報収集に適しており、必要に応じて税理士・弁護士などの専門家を紹介してもらえる点も大きなメリットです。
税理士・公認会計士
自社株式の評価額算定、事業承継税制の申請書類作成、相続税・贈与税の節税シミュレーションを行う、実務上のメインパートナーです。
特例承継計画に必要な認定経営革新等支援機関の所見も、認定を受けた税理士であれば対応できます。
事業承継は税務上の論点が多岐にわたるため、事業承継や法人税務を専門とする税理士を選定することが重要です。
顧問税理士がいる場合でも、事業承継の実績が豊富かどうかを確認したうえで相談先を選定しましょう。
弁護士・司法書士
弁護士は遺言書の作成指導、遺留分の民法特例手続き、親族間の遺産分割トラブルへの対応、M&A時の契約書レビューを担います。
司法書士は役員変更登記や事業用不動産の相続登記など、法務局での手続きが代行可能です。
複数の専門家が連携してサポートする体制を整えられると、手続き全体をスムーズに進められます。
まとめ:事業承継と相続対策は早期の準備が鍵になる
法人の株式移転にせよ、個人事業主の資産承継にせよ、対策が不十分な場合、税負担や親族間の争いが重なり、事業継続に支障が出る可能性があります。
事業承継は一般的に5〜10年の準備期間が必要であり、税制や制度の要件・期限は随時変更される可能性があるため、現時点での最新情報を専門家に確認しながら早めに動き出すことが重要です。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
パラダイムシフトが選ばれる4つの特徴
- IT領域に特化したM&Aアドバイザリー
- IT業界の豊富な情報力
- 「納得感」と「満足感」の高いサービス
- プロフェッショナルチームによる適切な案件組成
M&Aで自社を売却したいと考える経営者や担当者の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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