M&A(企業の合併・買収)の成否を大きく左右するのが、最適な相手企業を見つけ出すソーシングのプロセスです。
しかし、M&A担当者になったばかりの方や、初めてM&Aを検討する経営者の方にとっては、ソーシングの具体的な進め方や成功のポイントがわかりにくいことがあります。
本記事では、M&Aにおけるソーシングの基本から、具体的な手順、成功に導くための戦略まで、専門外の方にもわかりやすく解説します。
目次
- 1 M&Aにおけるソーシングとは
- 2 M&Aプロセス全体におけるソーシングの位置づけ
- 3 準備段階:オリジネーション(Origination)
- 4 案件発掘:ソーシング(Sourcing)
- 5 取引実行:エグゼキューション(Execution)
- 6 なぜM&Aソーシングは重要なのか
- 7 M&Aソーシングの具体的な流れ
- 8 ステップ1:M&A戦略・目的の明確化
- 9 ステップ2:情報収集とロングリストの作成
- 10 ステップ3:スクリーニングとショートリストの作成
- 11 ステップ4:候補企業へのアプローチとノンネームシートの提示
- 12 ステップ5:秘密保持契約(NDA)の締結と情報開示
- 13 ステップ6:トップ面談
- 14 ステップ7:基本合意書(LOI/MOU)の締結
- 15 M&Aにおけるソーシングの2大アプローチ|プル型・プッシュ型
- 16 プル型(インバウンド型):M&A案件を待つアプローチ
- 17 プル型のメリット・デメリット
- 18 プル型が有効なケースと具体的な手法
- 19 プッシュ型(アウトバウンド型):M&A案件を仕掛けるアプローチ
- 20 プッシュ型のメリット・デメリット
- 21 プッシュ型が有効なケースと具体的な手法
- 22 M&Aソーシングを成功に導くポイント
- 23 ポイント1:M&Aの目的とターゲット像を徹底的に具体化する
- 24 ポイント2:情報収集チャネルを複数確保する
- 25 ポイント3:客観的な評価基準(スコアリングモデル)を持つ
- 26 ポイント4:PMI(経営統合プロセス)まで見据えて候補を評価する
- 27 ポイント5:専門家の知見を積極的に活用する
- 28 M&Aにおけるソーシングの依頼先
- 29 M&A仲介会社・アドバイザリー(FA)
- 30 金融機関(銀行・証券会社)
- 31 まとめ:戦略的ソーシングで理想のM&Aを実現しよう
M&Aにおけるソーシングとは
M&Aにおけるソーシングとは、自社のM&A戦略に基づいて、買収や提携の候補となる企業を探し出し、交渉の初期段階に至るまでの一連の活動を指します。
理想的なパートナー企業を見つけ出せない場合、その後の交渉や統合プロセスがいかに優れていても、期待した成果は得られません。
M&Aの成否を左右する出発点であり、重要なプロセスの一つです。
M&Aプロセス全体におけるソーシングの位置づけ
ソーシングは、戦略策定の後から本格的な交渉の前までに行う、案件発掘の中核を担うフェーズです。
M&Aのプロセスは、大きく3つのフェーズに分けられます。
| フェーズ | 主な活動内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 1. 準備段階:オリジネーション | M&A戦略を策定し、買収目的を明確化したうえで、ターゲット企業の条件や予算などを設定します。 | M&Aの方向性を定め、成功の土台を築くこと。 |
| 2. 案件発掘:ソーシング | オリジネーションで定めた戦略に基づき、具体的な候補企業を広くリストアップします。その後、候補を絞り込み、初期的な接触を図ります。 | 自社の戦略にもっとも合致する、最適なパートナー候補を見つけ出すこと。 |
| 3. 取引実行:エグゼキューション | 候補企業との交渉、デューデリジェンス(企業調査)、契約締結、クロージング(取引完了)までを行います。 | M&Aの取引を法的に、かつ確実に完了させること。 |
このように、ソーシングはM&A戦略を具体的なアクションに移すための、橋渡し役を担っています。
準備段階:オリジネーション(Origination)
オリジネーションは、M&Aの方向性を定める段階です。なぜM&Aを行うのか、何を得たいのかと目的を明確にします。
新規事業への参入、既存事業のシェア拡大、特定技術の獲得など、具体的な目的の設定が、後のソーシング活動すべての基準となります。
案件発掘:ソーシング(Sourcing)
オリジネーションで描いた設計図をもとに、実際に候補企業を探し始めるのがソーシングです。さまざまな情報源から候補企業をリストアップし、設定した基準に照らして絞り込みます。
この段階の質が、最終的にどのような企業と巡り合えるかを決定づけます。
取引実行:エグゼキューション(Execution)
ソーシングで選定した企業と、具体的な条件交渉に入るのがエグゼキューションです。企業の価値評価、買収価格の交渉、契約書の作成など、専門的な知識が求められるプロセスが続きます。
ソーシングで良い候補を見つけていても、この段階での交渉がまとまらなければM&Aは成立しません。
なぜM&Aソーシングは重要なのか
M&Aソーシングが重要である理由は、M&Aの成果そのものに直結するためです。ソーシングの段階で、自社の戦略と高いシナジー(相乗効果)が見込める企業を発掘できるかどうかが、M&Aの成功確率を大きく左右します。
また、優れたソーシング活動は、競争優位性にもつながります。まだ市場に出ていない優良な非公開案件や、競合他社が気づいていない魅力的な企業を先に見つけられれば、交渉を有利な条件で進められる可能性が高まります。
したがって、戦略的かつ能動的なソーシングは、M&Aを成功させるための不可欠な要素です。
M&Aソーシングの具体的な流れ
M&Aのソーシングは、手当たり次第に企業を探すのではなく、体系立てられたプロセスに沿って進めることが成功の鍵です。以下では、一般的なソーシングの流れを7つのステップに分けて解説します。
ステップ1:M&A戦略・目的の明確化
ソーシング活動を開始する前に、まず自社のM&A戦略と目的を徹底的に明確にします。これはオリジネーションフェーズの核心部分にあたります。
「なぜM&Aを行うのか」という問いに対して、具体的な答えを用意することが不可欠です。そして、目的に基づき、ターゲット企業の具体的な条件(業種、規模、地域、財務状況など)を定義します。
ステップ2:情報収集とロングリストの作成
明確になった戦略と条件に基づき、候補となりうる企業を幅広くリストアップします。この段階で作成されるのが、ロングリストです。
網羅性を重視し、少しでも可能性がある企業はすべてリストに含めます。ロングリストには、数十社から、場合によっては数百社が含まれることもあります。
ステップ3:スクリーニングとショートリストの作成
ロングリストに挙げた企業の中から、最初に定めた選定基準に基づき、より詳細な分析を行って候補を絞り込みます。
この絞り込み作業をスクリーニングと呼びます。スクリーニングの結果として作成されるのが、ショートリストです。
ショートリストには、特に有望な数社から十数社程度の企業が残ります。
| 項目 | ロングリスト | ショートリスト |
|---|---|---|
| 目的 | 可能性のある候補を網羅的に洗い出す | 有望な候補を数社に絞り込み、詳細な検討に入る |
| 候補企業数 | 数十社~数百社 | 数社~十数社 |
| 主な評価基準 | 業種、規模、地域などの基本的な条件 | 戦略的適合性、財務健全性、シナジー効果、企業文化など |
| 情報レベル | 公開情報やデータベースに基づく基本的な情報 | 公開情報に加え、より深い分析や初期的な評価 |
スクリーニングでは財務状況や事業内容だけでなく、企業文化の適合性といった定性的な側面も考慮することが重要です。
ステップ4:候補企業へのアプローチとノンネームシートの提示
ショートリストの中から優先順位をつけ、候補企業へのアプローチを開始します。多くの場合、M&A仲介会社などを通じて、自社の社名を伏せたまま打診を行います。
この際に用いるのが、ノンネームシートと呼ばれる匿名の企業概要書です。ノンネームシートの主な記載内容は、以下のとおりです。
- 業種、事業内容の概要
- 所在地のエリア(例:関東地方)
- 売上高や従業員数のおおよその規模
- M&Aの目的や希望するスキーム
情報漏洩のリスクを最小限に抑えながら、相手企業のM&Aに対する関心度を探れます。
ステップ5:秘密保持契約(NDA)の締結と情報開示
ノンネームシートの提示後、相手企業が関心を示せば、より詳細な情報を交換するために秘密保持契約(NDA: Non-Disclosure Agreement)を締結します。NDAを締結すると、お互いに安心して機密情報を開示できます。
買い手側は、売り手企業の社名や詳細な財務情報などが記載された企業概要書(IM: Information Memorandum)を受け取り、初期的な分析を進める流れです。
ステップ6:トップ面談
両社の経営トップ同士が面談を行い、書類上の情報交換だけではわからない経営方針や価値観、企業文化などを相互に理解します。
事業に対する想いや将来の展望などを率直に話し合うことで、数字だけでは見えない相性を確認します。ここで信頼関係を構築できるかどうかが、その後の交渉に大きく影響します。
ステップ7:基本合意書(LOI/MOU)の締結
トップ面談を経て、双方がM&Aに前向きな意思を確認できれば、基本的な条件をまとめた基本合意書(LOI: Letter of Intent / MOU: Memorandum of Understanding)を締結します。
基本同意書には一般的に法的拘束力はありませんが、その後の交渉の土台となる重要な文書です。
現時点での買収価格の目安や今後のスケジュール、デューデリジェンスの実施、独占交渉権などが盛り込まれます。
M&Aにおけるソーシングの2大アプローチ|プル型・プッシュ型
M&Aのソーシングには、大きく分けてプル型・プッシュ型の2つのアプローチがあります。それぞれにメリット・デメリットがあり、自社の状況に合わせて使い分ける、あるいは組み合わせることが効果的です。
プル型(インバウンド型):M&A案件を待つアプローチ
プル型は、M&A仲介会社やプラットフォームに登録されている、売りたい意思のある企業からの情報を待つスタイルです。
プル型のメリット・デメリット
最大のメリットは、相手側に売却意欲があるため、交渉がスムーズに進みやすい点です。また、M&Aプラットフォームなどを活用すれば、比較的低コストで多くの案件情報にアクセスできます。
一方、デメリットは、自社の戦略に100%合致する理想的な案件が常にあるとは限らないことです。魅力的な案件には他の買い手も集まりやすく、価格競争になる可能性もあります。
プル型が有効なケースと具体的な手法
プル型は、特定のターゲットにこだわらず、広く良い案件を探したい場合に有効です。初めてM&Aを検討する企業が、市場の動向を把握するために活用するケースも多いです。
- M&Aプラットフォームの活用:オンライン上で多数の売り案件が登録されており、条件で検索して探せる
- M&A仲介会社への登録:買い手として登録しておくことで、自社の希望条件に合う案件を紹介してもらえる
- 金融機関からの紹介:取引のある銀行や証券会社が持つネットワークから案件を紹介してもらえる
プッシュ型(アウトバウンド型):M&A案件を仕掛けるアプローチ
プッシュ型は、自社のM&A戦略に基づいて理想的な企業をリストアップし、売却意向の有無にかかわらず直接アプローチをかけるスタイルです。
プッシュ型のメリット・デメリット
メリットは、自社の戦略に完璧にフィットする企業をターゲットにできる点です。まだ市場に出ていない優良企業にアプローチできるため、競合がいない状態で交渉を開始できる可能性があります。
デメリットは、候補企業のリストアップやアプローチに多大な時間と労力がかかる点です。また、相手に売却意欲がなければ、交渉すら難しい場合もあります。
プッシュ型が有効なケースと具体的な手法
プッシュ型は、M&Aの目的が非常に明確で、具体的なターゲット像がある場合に特に有効です。
- 業界分析とターゲット選定:自社で業界地図を作成し、戦略的に重要な位置を占める企業を特定する
- 専門家によるアプローチ:M&Aアドバイザーなどに依頼し、ターゲット企業に対して慎重かつ戦略的に接触を図る
- 長期的な関係構築:すぐにM&Aを提案するのではなく、まずは事業提携などから始めて時間をかけて信頼関係を築き、将来的なM&Aにつなげるケースもある
M&Aソーシングを成功に導くポイント
効果的なソーシングを行うには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。以下では、成功確率を高めるための5つのポイントを解説します。
ポイント1:M&Aの目的とターゲット像を徹底的に具体化する
ソーシングが失敗する最大の原因のひとつは、目的が曖昧なことです。「事業を拡大したい」といった漠然とした目的では、どのような企業を探すべきか基準が定まりません。
例えば、「特定の技術を持つ、年商5億円以上の企業を買収し、3年以内に新製品開発サイクルを20%短縮する」のように、誰が見てもわかるレベルの具体化が重要です。
ポイント2:情報収集チャネルを複数確保する
情報源がひとつだけでは、得られる情報に偏りが生じ、機会損失につながる可能性があります。
そのため、M&A仲介会社や金融機関、M&Aプラットフォームなど、多角的に情報を集めることが理想的です。
ポイント3:客観的な評価基準(スコアリングモデル)を持つ
候補企業を評価する際に、担当者の主観だけで判断すると、重要な点を見落としたり、判断がブレたりする可能性があります。
そのため、あらかじめ評価項目(例:財務健全性、技術力、市場シェア、シナジー効果)と各項目の重み付けを定めたスコアリングモデルを用意し、客観的な基準での評価が有効です。
ポイント4:PMI(経営統合プロセス)まで見据えて候補を評価する
M&Aは契約がゴールではなく、その後の統合プロセス(PMI: Post Merger Integration)が成功して初めて目的は達成されます。
ソーシングの段階から、候補企業の企業文化や組織体制が自社と馴染むか、統合に大きな障壁はないかといった視点を持つことが極めて重要です。とくに、キーパーソンとなる従業員がM&A後も残ってくれるかは、慎重に見極める必要があります。
ポイント5:専門家の知見を積極的に活用する
M&Aソーシングには、高度な専門知識と経験、幅広いネットワークが求められます。特にプッシュ型のアプローチや複雑な交渉が想定される場合、自社だけで完結させようとすると失敗のリスクが高まります。
M&A仲介会社やファイナンシャル・アドバイザー(FA)など、信頼できる専門家を早期にパートナーとして迎え、その知見を最大限に活用することが成功への近道です。
M&Aにおけるソーシングの依頼先
M&Aソーシングを自社だけで行うには限界があるため、多くの場合は外部の専門家に依頼します。以下では、主な依頼先とその特徴を紹介します。
M&A仲介会社・アドバイザリー(FA)
M&A仲介会社・アドバイザリー(FA)は、M&Aを専門に扱うプロフェッショナルです。豊富な経験と独自のネットワークを活かし、ソーシングから契約締結まで、M&Aプロセス全体をサポートしてくれます。
とくに、自社の戦略に合った候補企業を能動的に探し出すプッシュ型ソーシングにおいて、真価を発揮します。依頼する際は、自社の業種や規模に強みを持つ会社を選ぶことが重要です。
金融機関(銀行・証券会社)
多くの銀行や証券会社にはM&Aを専門に扱う部署があり、取引先ネットワークを活かした案件紹介を行っています。M&Aに必要な資金調達(M&Aファイナンス)と合わせて相談できる点も大きなメリットです。
とくに地方銀行は、地域の中小企業の事業承継案件などに精通している場合があります。
まとめ:戦略的ソーシングで理想のM&Aを実現しよう
M&Aにおけるソーシングは単なる相手探しではなく、自社の未来を切り拓くための、極めて戦略的な活動です。
その成否は、M&A全体の成果を決定づけると言っても過言ではありません。
本記事で解説したように、まずはM&Aの目的を明確にし、体系立てられたプロセスに沿って複数からの情報収集が重要です。そして、プル型とプッシュ型のアプローチを適切に使い分け、PMIまで見据えた客観的な視点で候補企業を評価することが成功の確率を高めます。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
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