ゲーム事業を主力とするDeNAは、多くのM&Aを通じて総合IT企業に成長しました。
国内だけでなく、海外でもM&Aを実施し、同社が目標とする「世界を切り拓く永久ベンチャー」にふさわしい規模と事業内容です。
しかし、DeNAのM&Aは成功だけではなく、結果として撤退に追い込まれることもありました。
この記事では、DeNAのM&Aの歴史や代表的なM&A事例を解説します。
目次
M&Aで総合IT企業に成長したDeNA
DeNAはスマホゲームやPC向けインターネットサービスを提供します。
しかし、M&Aによって事業の多角化を図り、2022年3月期有価証券報告書によれば、5つの事業セグメントを有しています。
- ゲーム事業
- スポーツ事業
- ライブストリーミング事業
- ヘルスケア事業
- 新規事業・その他
連結子会社や関連会社など計69社で構成され、今や総合IT企業に成長しました。
人気プロ野球チーム「横浜DeNAベイスターズ」や配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」もDeNAの傘下です。
事業の多角化によって、2023年3月期は主力事業のゲーム事業が不調であったものの、スポーツ事業やライブストリーミング事業が好調で全体の減収は5%程度で済んでいます。
DeNAのM&Aの歴史
「DeNAの歴史はM&Aの歴史」と言っても過言ではないくらい、DeNAは大小様々なM&Aを実施しています。
1999年にオークションサイト運営会社として設立され、2005年にマザース上場を果たしました。
上場後、10以上の会社を買収しましたが、国内だけでなく、アジア、アメリカ、ヨーロッパの会社まで買収しています。
M&Aに積極的な姿勢は今も堅持し、2022年には「SC相模原」を買収し、Jリーグに本格参入しました。
M&Aに関するDeNAの方針
DeNAのM&Aに関する方針は2022年3月期有価証券報告書に明示されています。
会社の中長期的な方針として、IT企業として事業拡大を図る方針が打ち出され、その手段としてM&Aが挙げられています。
M&Aについては、「当社グループは、事業拡大を加速する有効な手段のひとつとして、M&Aを活用する方針です。」と積極的な姿勢を明確にしているようです。
例えば、成長分野としてAIを挙げ、「これらの取り組みにあたっては、規律ある投資を行うとともに、 他の企業との協業やM&A等多様な戦略オプションも検討してまいります。」と表明しています。
このようにDeNAは今後も積極的にM&Aに取り組み、事業拡大を図る方針であることが分かります。
M&Aによる事業多角化と財務基盤強化
DeNAの主力事業はゲーム事業ですが、ゲーム事業は業績が不安定です。
これはDeNAに限らず、ゲーム事業ではヒット商品を安定的に供給することが難しいので、業績が安定しないのです。
2022年3月期決算では、ゲーム事業が前期比18.2%の減収となりましたが、スポーツ事業は14.7%増収、ライブストリーミング事業は43.2%増収、ヘルスケア事業は42.9%増収と他の事業が好調であり、全体の減収は4.5%に留まっています。
このように全体として経営が安定しているのです。
また、財務状況を見ると、キャッシュは約1,700億円、自己資本比率は約74%といわゆる「キャッシュリッチ」であり、不況に強い財務基盤を持っています。
たとえ、ゲーム事業が不調でも他の事業が補い、また財務体質が良いので、会社として成長を続け、新しいM&Aによって事業拡大を図れるでしょう。
2022年にDeNAが発表した医療ICT「アルム」のM&A
DeNAの直近の大型M&Aは、医療ICT「アルム」のM&Aでした。
2022年5月、DeNAはアルム社の株式取得と子会社化を発表しました。
株式取得価格は、291億800万円です。
DeNAはヘルスケア事業を展開していますが、2022年3月期はゲーム事業の売上747億円に対し、ヘルスケア事業は30億円とかなり小規模です。
今回のアルム社のM&Aは、DeNAがヘルスケア業界で成長を遂げることの覚悟の現れとして、ヘルスケア業界に衝撃を与えました。
アルム社買収の狙い
今回の買収の目的はDeNAのヘルスケア事業の強化にあります。
アルム社の強みは医療デジタル領域です。
医療機関向けのコミュニケーションサービス「Join」を提供しています。
これは、医療関係者がスマホや院内パソコンから医用画像などの医療情報を共有できるプログラム医療機器であり、国内では470の医療機関で導入され、海外でも約30カ国で導入されています。
医療デジタル領域は世界的に成長が見込まれる分野であり、新型コロナがその状況に拍車をかけたのです。
アルム社の買収によって、医療デジタル領域で事業拡大を図り、ヘルスケア事業の収益基盤を強化する狙いがあります。
M&Aの経過
アルム社のM&Aが公表されたのは2022年5月です。
発表によれば、7月に第三者割当増資で、新規発行株式291億円を取得し、アルム社の株式37.3%を保有する大株主になります。
議決権が20%を超えるので、この時点でDeNAはアルム社を持分法適用会社にできるのです。
その後、段階的に既存株主からの取得を進め、株式保有割合を57.5%に引き上げます。
DeNAの子会社となったアルム社では、DeNAの大井潤取締役が共同代表取締役に就任する予定です。
M&Aの効果
アルム社のM&Aによって、DeNAのヘルスケア事業の強化が期待されます。
「Join」に代表されるアルム社の知見を活かし、遠隔診療分野の事業を拡大します。
また、DeNAのヘルスケア事業を担う「Kencom」や「MYCODE」などの事業で蓄積された医療ビッグデータとの相乗効果も期待されるでしょう。
現状、ヘルスケア事業はDeNAの5つの事業領域で売上が最も小さいですが、成長市場であるヘルスケア市場で市場を獲得し、収益基盤を強化します。
失敗事例と言われる「イエモ」のM&A
DeNAのM&Aは成功だけではありません。
中には思わぬ結果を招いたものがあります。
その代表と言えるのが、2014年に買収した「イエモ」です。
イエモ社は住まいやインテリア情報を扱うキュレーションサイトを運営しています。
このM&Aによって、DeNAは新たにキュレーションプラットフォーム事業を開始する予定でした。
イエモ社買収の狙い
数々のM&Aによって総合IT企業に成長したDeNAは、イエモ社を買収することで、キュレーションプラットフォーム事業への参入を図りました。
キュレーションとは、「Newspicks」や「NAVERまとめ」に代表されるいわゆるまとめサイトです。
キュレーション市場は高い成長性があり、DeNAはイエモ社を買収することで、同時に買収したペロリ社と合わせて月間アクティブユーザー5000万人のプラットフォーム創出を目指していました。
M&Aの経過
今回のM&Aはキュレーションメディアを運営するイエモ社とペロリ社を同時に買収するというものでした。
買収額は2社で50億円で、イエモ社15億円、ペロリ30億円という内訳です。
2社の株式を全取得し、完全子会社化する方針でした。
M&A後のキュレーションメディア事業の人員は40名程度であり、2社が小規模な会社であることが予想されます。
それに対して、50億円という大型M&Aを実施することは驚きを持って見られました。
M&A後に発覚した問題と影響
騒動の原因はキュレーション事業を巡るトラブルです。
買収後の2015年には事業拡大により10サイトを運営する新しい収益の柱になると見られていました。
しかし、運営サイト「WELQ」で医学的に根拠のない記事や盗用コンテンツの存在が指摘され、専門家のクオリティチェックを経ずに公開されていることが判明します。
ネットで炎上し、報道でも大きく取り上げられ、WELQは非公開化が決定し、それに続く9つのサイトが公開停止となりました。
DeNAの守安社長が謝罪会見を開く事態となり、企業イメージを損ないました。
その後、第三者委員会が発足し、「そもそも15億円という買収価格が妥当なのか」といったM&A自体に疑義が生じる結果に発展します。
DeNAの海外進出の挫折となった「ngmoco」のM&A
2010年10月、DeNAはスマホ向けソーシャルゲーム開発の「ngmoco」を買収することを発表しました。
ngmoco社は米国の企業であり、DeNAの本格的な海外進出として注目されました。
世界的なスマートフォン普及によって、スマホゲーム市場は拡大し、特に米国市場は巨大市場ですので、DeNAも大きな期待を寄せていたのです。
しかし、2016年10月、DeNAはngmoco社やその他欧米市場の子会社を清算することを発表します。
ngmoco社買収の経緯
世界のモバイル市場が急激に拡大する中で、その成長を取り込む狙いがありました。
DeNAは、ngmoco社の第三者割当による新株式発行により、同社の株式を100%取得し、子会社としました。
買収総額は約4億ドル、当時の為替レートで約342億円という大型M&Aであり、DeNAがM&Aに寄せていた期待が読み取れます。
米国市場撤退の決断
2016年10月、DeNAは米国現地法人DeNAGlobalと傘下のngmoco社の清算を発表します。
清算の理由について、「期待する水準のヒットタイトルの創出に至らなかった」と説明しています。
米国市場は苦戦し、2015年12月期は約31億円の営業赤字となっていました。
日本市場、中国市場と並び欧米市場を主要市場と位置づけていましたが、今回の撤退で欧米市場からは一歩後退します。
DeNAに限らずコンテンツ事業を運営する日本企業の海外展開はリスクが高く、清算や撤退に至るケースがあり、DeNAの清算も失敗例として印象に残るでしょう。
今後もM&Aを推進するDeNA
記事では、M&Aにより巨大IT企業に成長したDeNAのM&Aの歴史や代表的なM&A事例を解説しました。
様々な失敗もありますが、M&Aを積極的に推進し、事業の多角化や新規事業の創出を目指す基本方針は変わりません。
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