2022年4月に上場区分が再編され、新たに「プライム」、「スタンダード」、「グロース」の3市場が誕生しました。
創業間もないベンチャー企業は、グロース市場への上場を目指すことになります。
そして上場をするためにも、企業はまずはIPOを実施します。
IPOを実施すると、経営者などが保有した株式を市場で売り出せるため、一般投資家が購入できるようになるのです。つまり、さらなる大きな資金調達が可能です。
三井住友DSアセットマネジメントによれば、グロース市場に上場している企業は466社。
日本政策投資銀行によれば、ベンチャー企業は約1万社ですので、上場しているベンチャー企業は全体の5%未満です。
このようにベンチャー企業にとって上場は狭き門ですが、上場を果たすことでどのようなメリットがあるのでしょうか。
この記事では、ベンチャー企業が上場するためのメリットやデメリット、手続きなどについて解説します。
目次
ベンチャー企業が上場するメリット
創業当時から上場を目指していることを公言するベンチャー企業の経営者は少なくありません。
近年ではM&AによるEXITを目指す経営者もいますが、数としては上場をするためにIPOを目指す経営者が圧倒的に多いでしょう。
多くの経営者が上場にこだわる理由はどこにあるのでしょうか。
ここからは、ベンチャー企業が上場するメリットを解説します。
円滑な資金調達ができる
上場の最大のメリットは資金調達手段の拡充です。
株式会社は上場・非上場に関係なく株式を発行しています。
しかし、非上場企業の場合には出資によって資金調達する時に株式を購入してくれる資金の出し手を見つけなければいけません。
そこでIPOにより上場を果たすと、一般投資家が株式を購入してくれため、資金の出し手を探す必要がなくなります。
上場企業の株式は、市場で自由に取引できるのです。
したがって、証券取引所を通じて広く一般の投資家から資金を調達することができるのです。
資金の出し手を自力で見つける必要はなく、円滑に大きな資金の調達が可能です。
信用力が向上する
上述のようにベンチャー企業が上場を果たすためには証券取引所が定めた厳しい審査に通過する必要があります。
決算情報を管理する内部管理体制の整備、株主総会や取締役会の正しい運用、予算と業績の管理などクリアするべき事項がたくさんあります。
上場しているということはこれらの基準をすべて満たしていることのお墨付きを貰ったようなものです。
会社の信用力が格段に向上し、銀行融資が受けやすくなったり、調達可能な融資の額が大きくなります。
また、新規顧客の開拓や取引先との掛取引も可能になり、売上の拡大や財務状況の改善につながるでしょう。
知名度が向上する
経済産業省によれば、日本には約420万の企業があります。
しかし、上場企業はわずか3,800社程度です。
テレビや新聞、雑誌、ネット記事などで上場企業として紹介される機会も増えます。
また、株価が公開されるので、経済新聞や会社四季報、投資関連のニュースに登場するシーンも増加し、投資家の目に止まりやすくなります。
会社の知名度が向上すれば、扱っている商品やサービスも有名になり、売上の拡大につながるでしょう。
創業者利益を得られる
ベンチャー企業の場合、自社株のほとんどを創業者が保有していることも珍しくありません。
一般的に上場に成功すると株価が上昇するので、創業者が保有する株式の資産価値も上昇します。
上場と同時に自社株式のすべて売却することはできませんが、5〜10%程度であれば売却可能です。
例えば、上場時の時価総額を10億円とすると、5,000万円から1億円の利益を得ることができます。
その後、市場を通じて集めた資金を事業拡大に投資して、株価がさらに上昇すれば、創業者の資産価値はさらに向上することになります。
優秀な人材を獲得できる
新卒の就職活動や中途の転職活動では、「上場企業であること」を基準に企業選びをする人もいます。
また、ベンチャー企業が上場することで会社の知名度が飛躍的に向上するので、求人市場での人気も高まるでしょう。
このようにして、スキルと能力のある優秀な人材が集まりやすくなります。
ベンチャー企業に限らず日本全体で人手不足の状態ですが、上場することで人材不足の解決につながるかもしれません。
ベンチャー企業が上場するデメリット
多くのベンチャー企業が上場を目指す中であえて上場しない企業や一度上場したにもかかわず上場廃止を選ぶ企業もあります。
ベンチャー企業の上場忌避の背景には上場することによって一定のデメリットがあり、すべての企業にとって有効な手段ではないからです。
ここからは、ベンチャー企業が上場するデメリットを解説します。
敵対的買収をされる可能性がある
敵対的買収とは、買収対象企業の経営権を支配することを目的として、相手企業の同意なしに買収を仕掛けることです。
通常、市場で買収対象企業の株式を買い占めることで達成されます。
上場して市場で株式が自由に取引されるようになると、敵対的買収を目指す勢力であっても株式を買い占めることができます。
上場準備段階から敵対的買収への予防策を検討する必要があり、実際に仕掛けられた場合に防衛するためには多大なコストがかかります。
上場に莫大なコストがかかる
上場には準備段階と上場の維持コストがかかります。
準備段階には以下のコストがかかります。
- 監査法人の報酬
- 主幹事証券会社の報酬
- 印刷会社の報酬
- 証券取引所への上場手数料
- 内部管理体制の構築費用
- 社内の専門会の採用コスト
維持コストは以下のとおりです。
- 証券取引所への上場維持手数料
- 監査法人の報酬
- 主幹事証券会社の報酬
- 株主総会運営費用
- IR作成・公開費用
上場するために少なくとも3,000万円程度、上場維持にさらに3,000万円程度が毎年かかります。
会社の情報開示にコストがかかる
上場企業は投資家が投資判断に必要とする情報について適宜適切に公開する義務を負っています。
金融商品取引法や会社法などの法律によって「有価証券報告書」や「四半期報告書」の発行義務があります。
さらに証券取引所は株式発行や合併などの決定情報、大株主の移動などの発生情報といった不定期で発生する事柄について情報開示を求めています。
これらの資料は1回作成するだけで50〜100万円程度の費用がかかります。
さらに情報を適宜適切に収集、開示するための内部管理体制を構築する必要があり、そのための費用も発生します。
株主対策をしないといけない
会社は株主のものであり、 会社の法的な所有権は株主に帰属しています。
上場によって不特定多数の一般投資家が株主となります。
上場企業は会社の所有者である株主に対して、経営方針や配当方針などの説明責任を負っています。
したがって、株主の発言機会確保のために株主総会の運営や取締役会を開催する必要があります。
また、近年では、企業価値向上のために会社の経営に積極的に関与する物言う株主が増えており、物言う株主への対応も必要です。
ベンチャー企業が上場する手続き
多くのベンチャー企業は上場を目標に掲げています。
創業してから上場を一つの区切りとして事業を経営している方も多いでしょう。
しかし、会社設立後に即時で上場の申請ができるわけではありません。
準備段階から上場申請まで複雑な手続きを踏む必要があるのです。
ここからは、ベンチャー企業が上場する手続きをステップに分けて解説します。
監査法人の決定
上場を申請する時に提出する財務諸表について監査法人による監査を受ける必要があります。
したがって、上場申請にあたっては監査法人を選定しなければなりません。
上場から3年以上前からの財務諸表の棚卸資産の実地調査について監査法人の公認会計士の立ち会いが必要ですので、上場申請の3年前には監査法人を選定することになります。
また、上場に向けて社内の課題を把握するために監査法人のコンサルティングを受けることが一般的です。
上場をサポートした経験のある実績豊富な監査法人を選定しましょう。
経営管理体制の整備
上場後には定期的に監査を受けることになります。
監査受入時に対応できる体制を構築することが必要になります。
具体的には、経理部門や財務部門の創設、社内規定の作成、業績の適切な管理など経営管理体制を整備していきます。
また、監査法人が上場に向けて課題の洗い出しを行い、抽出された課題についてベンチャー企業側で優先順位をつけて、改善を実施します。
課題の改善状況について、監査法人の定期的なフォローアップを受けることも必要です。
主幹事証券会社の選定
主幹事証券会社とは、上場全体のスケジュール管理や事務手続き、株価の設定、株式の引受・販売などを行う証券会社です。
上場に向けての全体的な流れで様々なサポートをしてくれるパートナーのような存在です。
上場後には資金調達に関する専門的アドバイスや指導などを行ってくれます。
このように主幹事証券会社とは長期的な関係を築くことになるので、慎重に選定する必要があります。
監査法人を選定したタイミングで一緒に主幹事証券会社を選定してもいいでしょう。
株式公開のプロジェクトチームの設置
上場を目指すことを決定したら、社内で株式公開のプロジェクトチームを構成します。
上場の準備段階では、部門横断的な仕事が多く、主幹事証券会社や監査法人などパートナーとの窓口業務も増えるため、一元的に管理する組織が必要になるのです。
プロジェクトチームが担う作業は以下のとおりです。
- 主幹事証券会社や監査法人から指摘事項への対応
- 各種資料の作成
- 資本政策の立案
- 中期経営計画の策定
- 社内管理体制の構築
- 予算設計
このようにプロジェクトチームを中心に上場へ向けて準備を行い、作業を勧めます。
事前審査
事前審査とは、主幹事証券会社による引受審査を指します。
主幹事証券会社の引受部門にて、証券取引所の上場審査基準をクリアできるか審査を行います。
審査項目は以下のとおりです。
- 事業内容
- 財務状況
- 経営の見通し
- 内部管理体制
- 情報開示状況
- 関係会社の状況
上場してから問題が発覚すると、主幹事証券会社の責任が問われるので、引受審査は厳格に行われます。
審査に半年程度かかり、引受審査に通過すると、株主総会において直前期の決算を承認します。
上場申請・審査
株主総会で直前期の決算が承認されると、上場申請ができます。
新規上場申請に係る提出書類を完成させ、証券取引所に上場申請を行います。
主な上場審査の基準は以下のとおりです。
- 企業の継続性及び収益性
- 企業経営の健全性
- 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
- 企業内容等の開示の適正性
主幹事証券会社による引受審査より厳しく、審査過程で様々な質問事項に答える必要があります。
審査は2ヶ月から3ヶ月かかり、審査を通過すると晴れて上場となります。
ベンチャー企業が上場するメリットとデメリットを考えてIPOを実施しよう
この記事では、ベンチャー企業が上場を目指すための手順やメリット、デメリットについて解説しました。
上場を果たすことによって、資金調達手段の拡充や知名度・信用力の向上といった企業活動の拡大に大きな効果があります。
一方で敵対的買収への対応や上場コストなどを忌避して、あえて上場しない道を選ぶベンチャー企業もあります。
上場の必要性や上場することによるデメリットや課題への対応については専門家に相談することが必要です。
ベンチャー企業が上場を目指す場合は、メリットとデメリットを考慮してIPOを検討するとよいでしょう。
上場審査における近時の傾向とポイントに関しては、こちらの記事で詳しく解説されています。あわせてご確認ください。
参考:上場審査における近時の傾向とポイント〔IPOと上場審査基準3〕 | ベンチャースタートアップ弁護士の部屋
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