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パックマンディフェンスとは?メリット・デメリットや過去の事例

会社を売却する意思がなくとも、力ずく(資金力)で買収を試みる企業はいます。そうした際に、自社で防衛したり、信頼のおける会社に防衛策をお願いしたりと、絶対的買収をさせないようにあらゆる手段で対抗しなければなりません。

今回は買収防衛策の一つ「パックマンディフェンス」について解説します。

パックマンディフェンスとは買収防衛策の一つ

パックマンディフェンスとは、別名「デットマンズトリガー」とも呼ばれ、敵対的買収を防ぐための買収防衛策の一つです。

相手が、企業買収できる一定数(過半数)の株を買い集める前に、逆に相手の株を集めることで、自社の買収を防ぐという「目には目を、歯には歯を」のやり方です。

由来はゲームの「パックマン」

「パックマン」は、TVゲームのキャラクターの名前が由来です。

敵に追われているパックマンは、特定のアイテム(クッキー)を手に入れることで、敵を食べる能力を得ます。「敵に追われて食べられそうなところ、逆転して敵を食べることができる」というところからパックマンディフェンスと名付けられています。

※パックマン=ナムコ(現・バンダイナムコホールディングス)のTVゲーム。

パックマンディフェンスのメリット

実はパックマンディフェンスは国内では1例もなく、リスクが高いと言われています。とはいえメリットがないわけではありません。

敵対的買収を未然に防ぐことができる

わかりやすいメリットとして「敵対的買収を未然に防ぐことができる」ことです。買収防衛策としては、最も即効性・確実性があります。

もし、結果的にパックマンディフェンスを使わなかったとしても、使う意思を見せることで、相手の買収意欲を下げられる可能性があります。

相手の株式の25%を取得すれば防衛が成立する

相手の株式の25%を取得すれば防衛が成立します。敵対的買収をするには通常、議決権の過半数の株を取得しなければなりません。

しかし、それより少ない25%の株式取得で、買収防衛が可能です。

パックマンディフェンスのデメリット

パックマンディフェンスのデメリットとして

  • 株主や関係者からは賛同されない可能性がある
  • 非上場会社からの敵対的買収は阻止することができない

などがあげられます。

経営陣以外の株主や関係者については、何より利益が大事です。パックマンディフェンスをすることで、会社の利益に影響を及ぼすとしたら、賛同は得られない可能性が高まります

また、買収相手が必ずしも上場企業とは限りません。非上場企業からの敵対的買収の場合、「相手の株式を25%取得する」ということが、物理的に難しくなります

資金が潤沢な非上場企業は少なからずありますので、敵対的買収などされないという油断は禁物です。

パックマンディフェンスの注意点「リスクが高い」

パックマンディフェンスを行使すれば確実に買収が防げていいと思うかもしれませんが、実はリスクが非常に高い防衛策です。パックマンディフェンスのメリットでもあげましたが、「相手の株式を25%取得すれば防衛ができる」ということは、その分の資金力が必要です。

例えば時価総額約2兆円の企業から買収されそうになっているとしたら、パックマンディフェンスで対抗するには、25%の5000億円の資金が必要ということになります。

しかも、相手の株式を取得したからと言って、それが自社の経営にプラスになるのかというと、そうではありません。そもそも株式取得の目的が違うからです。利益に繋がると言えないのに、莫大な資金を投じることは、無謀とも言えるでしょう。

国内でのパックマンディフェンスの事例はなし

メリットよりもリスクの方が高いというパックマンディフェンス。国内では過去さまざまな敵対的買収が行われてきましたが、実際に防衛策としてパックマンディフェンスが使われた事例は一つもありません

過去にライブドアがニッポン放送を買収しようとした際に、ニッポン放送側がパックマンディフェンスをするかもしれないという噂もあったようですが、実際には使われませんでした。

パックマンディフェンスが使われることがない理由としては、買収を防ぐための他の買収防衛策があるからです。莫大な資金を用意せずとも買収を防衛できるなら、そのほうが会社にとって都合がいいでしょう。

パックマンディフェンス以外の買収防衛策

パックマンディフェンス以外の買収防衛策には、以下のようなものがあります。

クラウンジュエル

クラウンジュエルとは、自社を分社化したり、事業を一部譲渡したりすることで、相手の買収意欲を下げる対策。「クラウンジュエル=王冠の宝石」という意味から、王冠に宝石がなくなってしまったら、その魅力・価値は下がるというところから来ています。

企業価値を下げるのですから、パックマンディフェンス同様、リスクの高い防衛策とされています。

ジューイッシュ・デンティスト

ジューイッシュ・デンティストとは、社会的信用をわざと下げることで敵対的買収への意欲を下げる防衛策。マスコミを使うことで世間に自社のマイナスイメージを植え付け、TOBさせないという手法です。自社にマイナスイメージがつくことになるので、リスクは大きいです。

増配

株主に通常より配当を多く還元することを指します。増配することで企業価値が魅力的になり株価上昇、買収金額が増加して買収意欲を下げるという手法です。

ポイズンピル(ライツプラン)

ポイズンピルとは、ライツプランとも呼ばれており、買収者以外の既存株主に対し新株発行をすることで、敵対的買収を仕掛けてきている企業の持株比率を物理的に下げる対策です。

ゴールデンパラシュート

ゴールデンパラシュートとは、取締役などの経営陣の退職金をあらかじめ高く設定すること。敵対的買収後に解雇された際、巨額の退職費用を支払わなければならなくなるので、買収意欲を下げる効果があります。

関連記事:ゴールデンパラシュートとは?意味やメリット、活用の是非について解説

ティンパラシュート

ティンパラシュートとは、ゴールデンパラシュートの従業員版。企業買収されたあと、解雇された場合は高額の退職金の支払いや、転職先の斡旋などの保証を締結しおき、買収意欲を下げる買収防衛策です。

黄金株

黄金株とは、「拒否権付種類株式」といって、株主総会の重要な決議事項に対し、拒否権を行使できる特別な株式です。信頼のおける株主に黄金株を付与し、敵対的買収が仕掛けられた際、黄金株を行使してもらうことで、買収を防ぎます。

全部取得条項付株式

全部取得条項付株式とは、会社が全ての株式を取得できる種類株式のこと。株主総会の特別決議によって発行されます。

絶対的多数条項

絶対的多数条項とは、スーパーマジョリティ条項とも言われ、株主総会での決議に必要な要件を厳しく設定するという防衛策です。

チェンジオブコントロール条項

チェンジオブコントロール条項とは、経営権の移動が生じた際、契約内容に制限をかけたり、契約を解除することができること

例えば、取引先や仕入れ先などがチェンジオブコントロール条項によって強制的に契約が解除された場合、買収するメリットが失われる可能性があります。

スタッガードボード

スタッガードボードとは、取締役などの経営陣の任期をずらすこと。そうすることで、敵対的買収をした後、買収企業はすぐに役員を解任できなくなります。

プット・オプション

プット・オプションとは、商品や株式を、時価に関わらず決められた金額で売却ができる権利のこと。プット・オプションが行使されると、買収後に金融機関から債権の一括返済がくるケースがあります。買収後、さらに巨額の支払いをしなくてはいけないので、敵対的買収がリスクになります。

焦土作戦(スコーチドアース・ディフェンス)

焦土作戦はスコーチドアース・ディフェンスとも呼ばれ、被買収企業が有するクラウンジュエルを売却する、あるいは多額の負債を負うことによって、企業価値を意図的に下げて、敵対的買収者にとって魅力のない企業になることで、買収意欲を減退させる作戦です。

焦土作戦については以下の記事で詳しく解説しています。
▶︎「M&Aの買収防衛策である焦土作戦とは?メリットやリスクを解説」

マネジメント・バイアウト(ゴーイング・プライベート)

マネジメント・バイアウト(MBO)は、経営陣自ら自社を買収し、独立すること。MBOすることで上場廃止となり、買収意欲を無くします。

事前警告型防衛策

事前警告型買収防衛策とは、買収者が規模の大きい買い付け行為をする際に守るべきルールを、非買収企業が予め設定・公表しておき、万が一買収企業がルールを守らなかった場合には、対抗措置を取るという警告型防衛策です。

事前にルールや対抗措置について公表しておくことで、買収意欲を下げる効果があります。

株式相互保有

株式相互保有とは、信頼のおける企業と互いに株式を保有する(=持ち合い株)ことで、第三者企業からの敵対的買収を防ぐというもの。買収防衛策としては非常に効果が高いですが、友好的な会社と保有する必要があります。

ホワイトナイト

ホワイトナイトとは、株式相互保有とは違い、信頼のおける企業に買収してもらうという方法。敵対的買収よりは、友好的な企業に買収してもらったほうがメリットがあるという場合には、ホワイトナイトを使います。

ドン・キホーテによるオリジン東秀への敵対的TOBが過去の事例として有名。この時はイオンがホワイトナイトとなりました。

関連記事:ホワイトナイトとは?具体的な防衛策や問題点を解説

労働組合に相談

労働組合の規模がそれなりにあるなら、ストライキの予告表明などを打つことで、敵対的買収の意欲を下げることができます。しかし、労働組合の人数が少なければ、買収側にとってそこまでリスクにならないので、注意が必要です。

買収防衛策を知って、敵対的買収に備える

会社の経営は売上をあげることだけではありません。会社が魅力的になればなるほど、買収したがる企業は出てきます。時には、敵対的買収によって会社が乗っ取られる(奪われる)可能性もあります。

そういった時のために、買収防衛策の知識を入れておくことで、いざという時に経営者として冷静な判断ができるようにしておきましょう。