この記事では、M&Aで実施されるDD(デューデリジェンス)について解説していきます。M&Aを実施するうえで避けては通れないものなので、必ず詳細を把握しておくようにしておきましょう。
目次
DDとはなにか
まず、DDとは何かから説明します。
DDとは、デュー・ディリジェンスDue Diligenceの訳語で、「適切な注意」といった意味です。M&Aの場面でDDと言った場合、対象となる事業を精査し、どのようなリスクがあるかを把握し、その大きさやそのリスクが現実化する可能性を評価する作業を指します。
何のためにDDをするのか
では、なぜDDが必要なのでしょうか。
M&Aの場面では、会社分割にせよ、事業譲渡にせよ、株式譲渡にせよ、買い手は対象となる事業の将来的な収益を評価して対価を払うわけですが、同時に、リスクをも引き受けることになります。
あまりに大きなリスクが存在している場合、買い手はM&A自体を避けようと思うかもしれません。もちろん、リスクとして想定される事態には大小があり、それが顕在化する可能性にも大小があるため、リスクは必ずしもM&Aをするかどうかの判断に影響するわけではありません。
しかし、その場合でも、適切な対価を決定したり、一定の保証を付けるなどの条件を交渉したりするためには、どのようなリスクがあるかを把握し、その大きさや顕在化の可能性を評価することが、やはり不可欠です。
DDは、買い手企業の経営者から見た場合、対価に見合わないリスクを抱え込むことで買い手企業自体の企業価値を損なうことがないようにするという、株主に対する義務でもあります。
DDの種類
ここからはDDの種類について解説します。一口にDDと言ってもさまざまな種類のものがあります。一つ一つ解説していくので必ず把握しておいてください。
財務DD
財務DDは、売り手企業の経営実態を把握するために、財務関わるリスク情報を得るための調査です。売り手企業が企業価値を高く見積もるために、事実確認や隠している点がないかをチェックします。
法務DD
法務DDでは、法律上の債権債務や訴訟状況などの法律上のリスクを調査します。現在の経営状態は良くても、法律違反等で経営が危ぶまれている場合、買収してしまうとリスクを背負うことになってしまいます。
人事DD
人事DDとは、人事制度や労働協約などの人事・労務面の調査を行うものです。具体的には、残業代の未払いや保険加入の有無、優秀な人材を今後も継続的に確保できるかなどを確認します。
M&Aにおいて人材の流出は大きな痛手です。仮に問題があったとして、それを対策することで対処できるのかをじっくりと検討しましょう。
技術DD
M&Aにおける技術DDでは、商品やサービスなどの技術面の調査を実施します。基本的には買収先企業の専門の技術者へのインタビューや、専門家によって判断が下されます。
技術面は多種多様な商品やサービスが複雑に絡み合っているケースも多く、時間を要するケースが非常に多く見られます。競合との比較も行いながら適切な技術DDを行いましょう。
税務DD
税務DDは、過去の税金の納付や申告に関するリスクを調査するものです。これらの調査によって売り手企業の財務リスクを把握したうえで、対策を行うのか、買収をとりやめるのかを検討します。
また、税務DDは買収価格に反映されることや幅広い税金の知識が必要となることから、アドバイザーに任せるのが一般的とされています。
ITDD
ITDDとは、情報システムに関わる調査を実施することです。どんなにそれぞれのシステムが優れていても統合できなければ、十分なシナジー効果を発揮することはできません。
特に、個人情報の漏洩に関わるような問題は慎重に進める必要があります。もし不安点があるのであれば、早めにプロに相談するといいでしょう。
環境DD
環境DDとは、環境汚染のリスクなどの調査をするものです。近年、SDGsへの注目も高まっていることもあり、環境汚染に関わるリスクに問題がある場合は、買収を再検討する必要があるケースもあります。
適切な環境DDを行い、事前に取り除けるリスクは徹底的に排除しておきましょう。
DDの進め方
ここまでDDの種類について解説してきました。しかし、種類だけを知っていてもDDを実施することはできません。ここからはDDの進め方について解説していきます。
自社で行わずにアドバイザーに任せる場合でも、手順を知っておいた方がスムーズにDDを実施できるので、必ず確認しておいてください。
誰がDDをするのか
DDの対象は、事業全体にわたり、しかも、それを評価する観点もさまざまなものがあります。代表的なのが、法務、財務、ビジネス、税務のDDです。
これらのDDは、法律事務所、監査法人、コンサルタント企業、税理士法人などの専門的知識を持つプロフェッショナルに依頼して行うのが一般的です。
手順
DDは、一般的には、次のようなステップを踏みます。
まず、資料の開示を請求します。法務DDであれば、定款、株主名簿、株主総会や取締役会の議事録、監査報告書、社内規定や就業規則などの社内ルール、取引先、金融機関、業務提携先、従業員などとの契約書、不動産や知的財産などの資産を保有している場合にはそれに関する契約書や登記・登録関係文書、不動産の賃貸借、リース、ライセンスなどがある場合にはそれに関する契約書、許認可が必要な事業や、その他行政機関の監督を受けている場合にはそれに関する文書などが開示されます。
ここで開示された文書を、専門家、法務DDであれば法律事務所の担当弁護士が読み込み、問題となりうる点を洗い出します。
次に、売り手企業の経営者や幹部従業員と個別に直接会って、ヒアリングを行いますマネジメント・インタビュー(Management Interview. 経営者との面談)。
文書でのDDは、詳細を把握するのには適していますが、必ずしもそこから経営者の認識や考えが十分に読み取れるわけではありません。マネジメントインタビューを行なうことによって経営者に直接語ってもらい、文書のみからでは汲み取れない情報を補うことができます。
NDA(秘密保持契約)
なお、DDでは、売り手企業に関するさまざまな情報が、買い手企業や、そのアドバイザーとなる法律事務所・監査法人・コンサルタント企業・税理士法人などに開示されます。
そこで開示される情報は、一般に入手可能なものよりも、はるかに豊富かつ詳細にわたるものであり、売り手企業としてはできる限り秘匿しておきたいものです。そこで、この情報を第三者に渡さないという契約が、NDA(秘密保持契約)です。一般に、DDに先立って合意されます。
DDで必要な書類
また、DDではプロセスや相手によって必要な書類が複数存在します。プロセスごとに必要な書類を下記にまとめているので、スピーディーな取引ができるように、概要を把握しておきましょう。
M&Aアドバイザーとのやり取りで必要となる書類・契約書
・アドバイザリー契約書
・秘密保持契約書
・ロングリスト/ショートリスト
M&Aの候補先への打診で必要となる書類・契約書
・企業概要書
・ノンネームシート
M&Aの具体的な交渉で必要となる書類・契約書
・意向表明書
・DDにおける書類
・基本合意書
M&Aの最終段階で必要となる契約書
・最終契約書
M&AにおけるDDに必要な費用
ここまでの内容でDDに関する基本的な知識は理解していただけましたか?ここからはM&AにおけるDDに必要な費用について解説していきます。予算を考慮しつつ、ぜひ最後までご覧ください。
必要とされる費用
M&AにおけるDDに必要な費用は、案件の規模やどのDDを依頼するのかによって異なりますが、対中小企業であれば数十万円~数百万円くらいかかります。そして、規模の大きな案件になるとDDだけで約数千万円になることもあります。
会計処理の方法
DDで発生した費用は、個別財務諸表と連結財務諸表によって会計処理されます。基本的には両者とも一括費用処理ですが、個別財務諸表は直接取得に利用した費用は取得原価に含める点に注意してください。
M&AにおけるDDの注意点
ここまでM&AにおけるDDの具体的な手順や必要費用について解説してきました。しかし手順通りに行えば適切なDDが実施できるわけではありません。
なぜなら、M&AにおけるDDには必ず注意すべきポイントがあるからです。適切なDDを実施するためにも、必ず注意すべきポイントを把握しておく必要があります。
事前に計画を立ててポイントを絞る
事前に計画を立ててポイントを絞る必要があります。計画ゼロでDDを進めても、時間や費用を浪費するだけで、必要な情報が得られません。
DDが行える時間や情報は限られています。短期間で適切な情報を集めるためにも、事前調査を行い計画を立てておくことをおすすめします。
適切なタイミングで実施する
M&AにおけるDDは適切なタイミングで実施するように注意しましょう。DDを早く実施しすぎると従業員や取引先に余計な心配を与えてしまう可能性があります。
一般的には、基本合意契約の締結後、最終条件交渉前に行われます。遅すぎると他の企業に買収される危険性があるため、適切なタイミングの見極めが重要になるのです。
外部アドバイザーにも相談する
M&AにおけるDDでは外部アドバイザーに積極的に相談することをおすすめします。前述した通り、DDにはさまざまな手順があります。そのため、自社に専門家がいない場合、適切なDDを行い買収の有無を見極めるのは非常に困難です。
迅速かつ適切なM&Aを行うためにも外部アドバイザーに積極的に相談しましょう。
適切にDDを実施してM&Aを成功させよう
以上に見てきたように、法務DDでは、さまざまな事項が、法的リスクという観点から調査されます。どのようなリスクが、どれほどの確実さをもって存在するのかは、M&Aを行うかどうかや、その対価を決めるに当たって、重要な判断材料です。
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