M&A

AI企業のM&A 3事例を紹介します

AI企業が急成長を遂げる中、AI企業が関連したM&Aの件数も増加しています。AI企業がM&Aを行うと、果たしてどのようなシナジーを得られるのでしょうか?

今回の記事では、AI企業が関連するM&Aの事例を3社取り上げ、M&Aのスキームや想定されるシナジーの効果をお伝えします。

1. 資生堂によるGiaranの買収

まず最初にご紹介するのは、資生堂とGiaranのM&A事例です。

(1) 各社の事業内容

資生堂は、化粧品の製造や販売を主力事業とする会社です。ドラッグストアや量販店などで買える中低価格帯の商品から、デパートや化粧品専門店で販売する高価格帯商品まで、あらゆる顧客層に対して化粧品を販売しています。

主力である化粧品事業以外にも、ヘルスケアやレストラン、教育など、あらゆる分野に進出している多角化戦略をとる企業としても有名です。

一方でGiaranは、アメリカのノースイースタン大学から独立した研究所を前身とした企業です。著名なAI専門家レイモンド氏によって創設された同社では、高度なAI技術を駆使して、ディープランニングや予測モデリングなどのアルゴリズムの開発に努めています。

具体的には、バーチャル環境でメイクアップを試すことができる技術や、肌色判定、その人に合ったメイクアップのアドバイスを行う技術など、一人一人に最適な美容の追求をAIにより実現しています。

(2) 用いられたM&Aのスキーム

資生堂が発表した情報によると、同社はGiaranを買収したと記載してあるため、株式譲渡によりM&Aが実行された可能性が高いと考えられます。

株式譲渡とは、相手企業が発行している株式を買収する形で、経営権を取得するM&Aのスキームです。株式会社では、重要な意思決定は賛成する議決権(株式)の割合によって決まります。そのため、過半数の株式を買収することで実質的に経営権を持つことができるわけです。企業買収という場合、基本的には株式譲渡によってM&Aが行われるケースがほとんどです。

株式譲渡は、基本的に経営陣や株主同士の合意のみで実施できるスキームです。債権者保護や特別決議などの手続きが不要であるため、比較的スムーズにM&Aを実施できます。

(3) 買収価格

相手企業が海外のベンチャー企業ということもあり、買収価格は非公表となっています。

(4) M&Aにより想定されるシナジー

資生堂とGiaranのM&Aでは、技術力やマーケティング力の向上により、顧客のニーズをより一層満たせるようになると考えられます。

従来より資生堂では、顧客一人一人にとって最適な美容の実現を追求していました。たとえば、資生堂では単純に化粧品を販売するだけでなく、「パーソナルビューティーセッション」というメイクレッスンを開催しています。こうした活動により、一人一人に最適な美の実現をサポートすることで、資生堂は日本の化粧品市場を牽引してきたのです。

一方でGiaranは、前述したとおりAIを用いて、バーチャルで簡単にメイクを試したり、自分に最適な化粧を科学的な観点から判断する技術を実現しています。

Giaranの持つ技術と資生堂の持つ美容事業のノウハウが融合することで、従来以上に顧客の美容ニーズを満たせるようになるでしょう。

参考:米国ベンチャー企業Giaran Inc.買収に関するお知らせ – 資生堂 https://corp.shiseido.com/jp/ir/pdf/ir20171108_427.pdf

2. 京セラコミュニケーションシステムによるRistの買収

次にご紹介するのは、京セラコミュニケーションシステムとRistによるM&Aの事例です。

(1) 各社の事業内容

京セラコミュニケーションシステムは、IoTや通信エンジニアリング、再生可能エネルギー事業など、ITの最先端技術を駆使したサービスを展開する企業です。単なる研究開発に留まらず、IoTやWebアプリケーションの脆弱性診断やAIを用いた顔認識システムなど、実用的な製品・サービスの提供も行っています。

一方でRistは、AIの持つディープラーニングの技術を用いて、従来人間が行なってきた検査・解析業務を代わりに行うシステムの開発を行う企業です。具体的には、画像検査システムや不良品データを検査するシステム、水質判定を行うシステムなどを開発しています。

(2) 用いられたM&Aのスキーム

京セラコミュニケーションシステムとRistのM&Aは、株式譲渡のスキームで完全子会社されております。また、その後、株主割当増資も行われております。

株主割当増資とは、既存株主に対して、持ち株割合に応じて新しく発行する株式を引き受ける権利を与える手法です。既存株主に新株を引き受けてもらう際には、対価として引受先(既存株主)から現金を受け取ります。

今回のケースでは、Ristが新株を発行し、既存株主である京セラコミュニケーションシステムを引受先とし、株主割当増資を行いました。

(3) 買収価格

京セラコミュニケーションシステムはRistの株式取得額は公表していませんが、5億円強と見られています。また、株主割当増資は、4億2,000万円で行われました。

(4) M&Aにより想定されるシナジー

京セラとRistのM&Aでは、Ristの持つハイレベルなAI技術を形にする人材の確保を、京セラの持つ潤沢な資金力により実現できると期待されます。

Ristは画像検査システムや空間認識システムなどを活用し、顧客のニーズに応じてカスタマイズされたAIを提供することで、製造業向けのAIで国内トップのシェアを目指しています。

AIの市場で事業を拡大させるには、現時点の技術力のみならず、その技術力をさらに進歩させたり、顧客のニーズを満たすAI製品を生み出すために、優秀な人材が必要です。

しかしRistは2016年に設立されたばかりのスタートアップであるため、十分な数のAIに精通しているエンジニアや優秀なマーケターを確保するだけの資金は持っていないと考えられます。

しかし今回のM&Aで京セラコミュニケーションシステムに新株を引き受けてもらったことで、Ristは4億円を超えるだけの潤沢な資金を確保しました。同社はこの資金を用いて、優秀なエンジニアやマーケターを確保したり、働きやすい職場環境を整備する予定とのことです。

優秀な人材を確保することで、AI開発に関する技術力のさらなる向上や、マーケティング面での強化を期待でき、結果的に事業の拡大につながるでしょう。

参考:RistがAI事業のさらなる拡大を目的に、京セラコミュニケーションシステムを引受先とした株主割当増資を実施 https://www.kccs.co.jp/news/release/2019/1002/

3. KDDIとALBERTによる資本業務提携

最後にご紹介するのは、KDDIとALBERTによるM&Aの事例です。

(1) 各社の事業内容

KDDIは移動体通信事業(いわゆるスマホや携帯での通信)を行うauを主力事業とし、金融、保険などの事業を行なっています。また近年は、AIやIoT、ビッグデータ分析などの最先端技術の強化にも注力し、顧客により良いサービスを提供することを目指して企業活動を行なっています。

一方のALBERTは、ビッグデータ分析やAI活用コンサルティング、AIアルゴリズムの構築・運用、AIを用いた自社製品の提供などの事業を行なっています。たとえば産業用ロボットのAI化や売上を予測するアルゴリズムの実現などを実施しています。

また自社開発のプロダクトとして、AIを搭載した高性能のチャットボットサービスや、製品の不良を検査する画像認識サービスなどを提供しています。

(2) 用いられたM&Aのスキーム

KDDIとALBERTの事例では、経営権の移転や事業の売買、法人格の消滅などを伴わない「資本業務提携」というM&Aのスキームを用いました。

資本業務提携とは、資本提携と業務提携を同時に実施するM&Aのスキームです。資本提携とは、片方の企業が対価を支払い、相手企業の議決権(株式)の一部(一般的には1%〜10%前後)を保有する手法を意味します。一方で業務提携とは、当事者企業同士が人材や資金などの経営資源を出し合って、協力しながら事業を行う手法です。

経営権の移転は伴わないものの、片方企業が他方企業の議決権を保有(お互いに保有するケースもあります)するため、単純な業務提携と比べてより強固な関係を構築できます。

資本的にも精神的にも強固な関係となるため、お互いの持つ強みを最大限発揮して、大きな付加価値やシナジー効果を生み出すことができます。

(3) 買収価格

KDDIとALBERTのM&Aは、KDDIがALBERTの発行済み株式3.09%を14.1億円で取得する形で行われました。

(4) M&Aにより想定されるシナジー

KDDIの持つ顧客ニーズへの対応ノウハウとALBERTの持つ高度なAI技術が融合することで、既存のインターネットやスマホでは体験できない全く新しいサービスの創出が期待されます。

KDDIは顧客数やニーズへの対応ノウハウを強みとしているものの、まだAIやビッグデータ分野には参入したばかりであるため、顧客のニーズにAIなどの最先端技術で対応するのは難しいです。一方でALBERTは高度なAIの技術力を持つものの、顧客数やニーズへの対応ノウハウはKDDIと比べると低いと言えます。

つまり両社は、お互いに不足している部分を持っている関係です。両社が資本業務提携することで、互いの弱みを補完できるため、その後の事業拡大で有利となる可能性があります。

たとえばKDDIは、資本業務提携により、ALBERTが行うデータサイエンティスト育成プログラムを3ヶ月間フルタイムで一部の選抜社員に受講させました。これにより、KDDIの社員の持つIT面での技術力は向上したと考えられます。

一方でALBERTは、KDDIから出資してもらった14.1億円を用いて、より一層の技術発展に注力できると考えられます。また、KDDIと共同で事業に取り組む過程で、KDDIの既存顧客に対してサービスや商品を提供することも可能であるため、事業を拡大しやすくなります。

加えて、顧客の持つ潜在的なニーズを知ることで、顧客のニーズに即したAIのサービスを立案できるようになるでしょう。

参考:KDDIとALBERT (アルベルト) による資本業務提携について https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2018/12/11/3522.html

4. まとめ

AI企業が関連したM&Aの事例を3つ紹介しましたが、基本的にどの事例も自社の技術力をさらに向上させ、顧客のニーズをより一層満たすサービスを創出する目的で行われています。

M&Aで経営資源の豊富な大手企業と技術力の高いスタートアップが連携することで、顧客ニーズへの対応力や技術力の向上などのシナジーが期待できるでしょう。

今後もAIの進歩が進むにつれて、今回ご紹介したようなAI企業が関連したM&Aの事例は活発化すると予想されます。今後もAI企業のM&A事情には注目して参りますので、また別事例をご紹介できればと思います。

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