M&A

法務DDについて解説

1. DDとはなにか

まず、DDとは何かから説明します。

DDとは、デュー・ディリジェンスDue Diligenceの訳語で、「適切な注意」といった意味です。M&Aの場面でDDと言った場合、対象となる事業を精査し、どのようなリスクがあるかを把握し、その大きさやそのリスクが現実化する可能性を評価する作業を指します。

▼参考記事:「デューデリジェンス(DD)」(M&A用語集)

2. 何のためにDDをするのか

では、なぜDDが必要なのでしょうか。

M&Aの場面では、会社分割にせよ、事業譲渡にせよ、株式譲渡にせよ、買い手は対象となる事業の将来的な収益を評価して対価を払うわけですが、同時に、リスクをも引き受けることになります。あまりに大きなリスクが存在している場合、買い手はM&A自体を避けようと思うかもしれません。もちろん、リスクとして想定される事態には大小があり、それが顕在化する可能性にも大小があるため、リスクは必ずしもM&Aをするかどうかの判断に影響するわけではありません。しかし、その場合でも、適切な対価を決定したり、一定の保証を付けるなどの条件を交渉したりするためには、どのようなリスクがあるかを把握し、その大きさや顕在化の可能性を評価することが、やはり不可欠です。

DDは、買い手企業の経営者から見た場合、対価に見合わないリスクを抱え込むことで買い手企業自体の企業価値を損なうことがないようにするという、株主に対する義務でもあります。

3. DDの進め方

(1) 誰がDDをするのか

DDの対象は、事業全体にわたり、しかも、それを評価する観点もさまざまなものがあります。代表的なのが、法務、財務、ビジネス、税務のDDです。これらのDDは、法律事務所、監査法人、コンサルタント企業、税理士法人などの専門的知識を持つプロフェッショナルに依頼して行うのが一般的です。

(2) 手順

DDは、一般的には、次のようなステップを踏みます。

まず、資料の開示を請求します。法務DDであれば、定款、株主名簿、株主総会や取締役会の議事録、監査報告書、社内規定や就業規則などの社内ルール、取引先、金融機関、業務提携先、従業員などとの契約書、不動産や知的財産などの資産を保有している場合にはそれに関する契約書や登記・登録関係文書、不動産の賃貸借、リース、ライセンスなどがある場合にはそれに関する契約書、許認可が必要な事業や、その他行政機関の監督を受けている場合にはそれに関する文書などが開示されます。ここで開示された文書を、専門家、法務DDであれば法律事務所の担当弁護士が読み込み、問題となりうる点を洗い出します。

次に、売り手企業の経営者や幹部従業員と個別に直接会って、ヒアリングを行います(マネジメント・インタビューManagement Interview. 経営者との面談)。文書でのDDは、詳細を把握するのには適していますが、必ずしもそこから経営者の認識や考えが十分に読み取れるわけではありません。マネジメントインタビューを行なうことによって経営者に直接語ってもらい、文書のみからでは汲み取れない情報を補うことができます。

▼参考記事:「M&Aを成功に導くマネジメントインタビューのポイントを解説」

(3) NDA(秘密保持契約)

なお、DDでは、売り手企業に関するさまざまな情報が、買い手企業や、そのアドバイザーとなる法律事務所・監査法人・コンサルタント企業・税理士法人などに開示されます。そこで開示される情報は、一般に入手可能なものよりも、はるかに豊富かつ詳細にわたるものであり、売り手企業としてはできる限り秘匿しておきたいものです。そこで、この情報を第三者に渡さないという契約が、NDA(秘密保持契約)です。一般に、DDに先立って合意されます。

4. 具体的な調査対象

(1) 株主

M&Aでは、事業譲渡を行う場合など、株主の利益を守るために、株主総会決議が必要とされる場面がいくつかあります。その場合に、譲渡に必要な手続が済んでいないのに株式譲受人となるべき者を株主として扱ってしまうと、決議の有効性をめぐって紛争が生じる可能性がないとはいえません。

例えば、株主として、代表取締役A、投資家Bがいたが、Bが別の投資家Cに株式を譲渡していた場合を考えると、一般的な閉鎖的会社では、上場会社と異なり、株式を譲渡するためには、取締役会の承認を得なければなりません。しかし、小規模な会社の場合、このことに気づいておらず、取締役会の承認がされていないことがあります。

また、株式譲渡による場合など、M&A自体に株主総会決議が必要ない場合であっても、他の株主が友好的であるかどうかといったことは、M&Aやその後の事業の経営にとって重要なことです。

そのため、株主にどのような人がいるか、法律上必要な手続きを踏まえているか、などを確認することは法務DDの重要な調査事項です。

(2) 金融

会社分割など組織再編行為によるM&Aを行う場合、原則として買い手は売り手の債務を引き継ぐことになります。また、株式譲渡による場合、譲渡される会社が負っている債務は、買い手が取得する株式の価値に反映されます。そのため、借り入れの条件や、保証、担保などの状況は、買い手企業にとっては重要な調査事項です。

逆に、売り手となる会社が、他の企業に貸し付けを行っている場合、その債権の価値は、借り手となっている企業の経営状態に左右されます。また、買い手となる会社が、保証をしていたり、担保を提供している場合、債務者となっている企業の経営状態によっては、売り手企業自身が借り入れをしているのと同じリスクを抱えていることになります。これらの場合、債務者となっている企業の経営や資産などの状況が調査対象となります。

これらの債権債務については、財務DDの対象でもありますが、債権や債務と一言に言ってもその内容は様々であり、1つ1つについて契約書の内容を確認しなければ、詳細な債権債務の内容を知ることはできません。そこで、法務DD によってこれらの事項を明らかにする必要があるのです。

(3) 取引先

取引先との関係は、企業価値の重要な部分を構成するものです。特に、継続的取引においては、経営者や株主の交代を原因として、契約が終了するものとされていることがあり、M&A後に優良な取引先との関係をどれほど確実に継続できるかは、M&Aを行うかどうかや、その対価に影響する重要な調査事項です。

また、企業間の取引においては、売掛金という形で信用が供与されることが一般的です。そのような取引における支払いなどの条件は、キャッシュフローに影響を与えますから、重要な調査事項です。

さらに、取引からトラブルが生じることもありえます。そのため、過去にどのようなトラブルが生じたか、あるいはこれから生じうるか、どのように解決しうるかが調査対象となります。

(4) 労務

従業員との契約や、就業規則、それらの履行状況は、近年法務DDにおける重要な調査事項です。

たとえば、残業代の未払いがあった場合、従業員から訴訟を提起されたり、労働基準監督署から指導や調査、勧告などを受けたりするおそれがあります。

さらに、そのような紛争が生じてしまった場合、訴訟対応にリソースを割くことを余儀なくされたり、金銭の支払いを余儀なくされたりするにとどまらず、ブラック企業との噂が広まってしまい、その後の採用に困難をきたすことにもなりかねません。特に、労働者は個人であり、そういったレピュテーションに左右されやすい側面があるため、特に調査する必要があります。

(5) 資産

資産の使用を継続するにあたってのリスクは、法務DDにおける重要な調査事項です。

所有不動産であれば、瑕疵なく取得がなされているか、適切に登記がなされているか、担保権が設定されている場合それが実行されるリスクはどの程度あるかといったことが調査対象となります。

賃貸不動産であれば、賃料・敷金、更新の条件などが調査されます。

不動産以外の資産については、特に賃貸・リースの場合に、賃貸不動産と同様の事項が調査対象となります。

(6) 知的財産

知的財産とは、特許、登録意匠、登録商標、著作権などを指します。特許は技術、登録意匠はプロダクトデザイン、登録商標はブランドを表すトレードマーク、著作権は創作物を保護するものです。知的財産の重要性は、事業によって変わりますが、コンシューマー向けのエレクトロニクス企業であれば特許・登録意匠・登録商標、バイオであれば特許、ゲームやソフトウェア企業であれば特許・著作権が関わってきうるところです。

このうち、特許、登録意匠、登録商標は、特許庁に出願し、登録する必要があるため、それらが適切になされているか(なされる見込みであるか)が調査の対象となります。

また、第三者にライセンスをしていたり、ライセンスを受けたりしている場合、その条件も調査されます。

さらに、著作権も含めて、プロダクトやコンテンツが他人の知的財産を侵害しないかも調査されます。他人の知的財産を侵害した場合、損害賠償にとどまらず、製造・販売などの差止めという強力な法的手段に訴えることが可能であるため、調査の対象となります。

(7) 許認可・その他の行政規制

許認可が必要な業種である場合、許認可に条件が付されている場合にはその条件、当該許認可の有効性や期限、監督官庁から受けた指導などが調査の対象となります。新しい産業分野では、あまり許認可行政が行われていないことが多いですが、近年では、例えば、Fintech分野で、資金移動業者や仮想通貨交換業者の制度が導入されています(資金決済法)※。

※・・・資金移動業者は、金融庁(内閣総理大臣)に登録することで、資金移動業を行うことができるものです(資金決済法37条)。資金移動業とは、少額の為替取引業で、例えばLine Payの個人間送金機能が含まれます。資金移動業は、従来銀行業として、金融庁(内閣総理大臣)の免許を受けた銀行でなければ行うことができませんでしたが(銀行法4条1項)、2009年制定の資金決済法により、銀行以外にも開放されました。

仮想通貨交換業者は、金融庁(内閣総理大臣)に登録することで、仮想通貨交換業を行うことができるものです(資金決済法63条の2)。仮想通貨交換業とは、仮想通貨の売買、他の仮想通貨との交換や、そのための金銭・仮想通貨の管理業で、例えばビットコインの取引所であるGMOコインが含まれます。2016年の改正によって導入されたもので、従来資格が必要なかった業務について資格を導入したものです(経過措置として、申請中でもみなし業者として業務を継続できることとされています)。


また、許認可が必要でない場合でも、いわゆる業法の規制がなされている場合には、その規制にしたがって受けた指導などの行政機関とのやり取りが調査の対象となります。

これらの他に、近年、業種に関わりない横断的な規制が増えています。Webサービスを提供する企業に関わる例として、個人情報規制が挙げられます。我が国では、2003年に個人情報保護法が制定され、その規制は年々厳格になっており、2016年に設置された個人情報保護委員会も活発に活動しています。また、海外でも、EUでGDPR(一般データ保護規則General Data Protection Regulation)が施行されています。この規制は、EU内にユーザーがいるなどの場合には、EU内に拠点を持たない事業者であっても適用の対象となり、違反した場合には日本と比べ物にならない巨額の制裁金が課されます。このような行政規制へのコンプライアンスも調査の対象となります。

5. まとめ

以上に見てきたように、法務DDでは、さまざまな事項が、法的リスクという観点から調査されます。どのようなリスクが、どれほどの確実さをもって存在するのかは、M&Aを行うかどうかや、その対価を決めるに当たって、重要な判断材料です。

▼参考記事:「法務DD」(M&A用語集)


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