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負債と資本の資金調達方法の違い、利率の違い

資金調達には大きく分けて、負債による調達と資本による調達の2種類があります。今回は、負債と資本の資金調達方法の違いや利率の違いに焦点を当てて、具体例を交えながら解説していきます。

1.負債による資金調達

負債とは、貸借対照表の負債の部に表示される将来的な支払が発生する項目のことです。典型的な負債として、借入金が挙げられます。負債はいずれ返済しなければならない性質であることから、他人資本とも呼ばれています。

2.負債のメリット・デメリット

負債のメリットは以下のとおりです。

  • 自己資本が少ない場合にも新規投資等、お金を使うことができる
  • レバレッジ経営により成長スピードが上がる
  • 第三者割当増資のように、持株比率が薄まることはない

例えば、ソフトバンクグループは負債を活用した大規模なM&Aを行うことにより、飛躍的なスピードで成長を続けてきました。2006年にソフトバンクグループはボーダフォンを約1.7兆円で買収しましたが、その資金調達の大部分は負債によるものです。

負債のデメリットは以下のとおりです。

  • 第三者割当増資と異なり、最終的には返済しなければならない
  • 負債が増加すればするほど、倒産確率が上がる
  • 金利を支払う必要がある

負債を使わずに成長をしている企業もあります。例えば、任天堂は一貫して無借金経営を継続していますが、「ニンテンドースイッチ」や「あつまれどうぶつの森」などのヒットを連発し、過去最高益を更新し続けています。

3.負債の利率

負債による調達は金利の支払が必要です。金利条件は、以下の要素によって大きく変動します。

(1)会社の信用力

会社の信用力は、財務諸表の数字などによって総合的に図られます。黒字経営かどうか、純資産は十分に厚いか、借入過多になっていないか、過去の返済実績はどうか、など様々な要素を確認されることとなります。

会社の信用力が高ければ高いほど、金利は低くなります。信用力が高ければ負債の返済能力が高いと考えられ、より多くの借入を行えるようになります。

(2)その他の条件

負債による調達において、金利以外にも条件があります。主な条件は担保と連帯保証です。例えば、不動産を担保に入れると、資金の貸し手にとっては貸付金の回収可能性が高いと見込まれるため、金利条件を譲ってくれる可能性が高まります。また、会社だけでなく、経営者自身を連帯保証とすることで、担保と同様の効果を得ることができます。

上場企業であれば会社の信用力が高いため、銀行などから有利な条件によって資金調達することができます。1%を切る金利条件により資金調達している上場企業も数多くあります。

4.資本による資金調達

資本による資金調達は、自らが出資する金額だけでなく、第三者割当増資など他の投資家から集める資金も含まれます。資本の特徴は、負債と異なり返済する必要がないことです。一方、出資を行った投資家は株主としての立場を利用して、配当金を上げる、もしくは株価を上げるように効率的な経営をするように求めることができます。

5.資本のメリット・デメリット

資本のメリットは以下のとおりです。

  • 負債と異なり返済する必要がない
  • 増資により資本金が増加すると、社会的信用力が増す

資本のデメリットは以下のとおりです。

  • 金利を支払う必要はないものの、一般的に負債よりも高いリターンを求められる
  • 第三者割当増資を行うと自身の持株比率が低下する

資本による調達を増加させ、自身の持株比率が過半数を割ってしまうと、自社の経営コントロール権を失ってしまう点には注意が必要です。

6.資本の利率

負債と異なり資本には金利はありません。投資家は配当金や株価の値上がり益を狙って投資を行いますが、投資家が求める利回りが資本の利率となります。

投資家が株式に対して求める期待利回りはCAPM(Capital Asset Pricing Model)と呼ばれる計算式によって計算することができます。
株主の期待利回り=(1)リスクフリーレート+(2)エクイティリスクプレミアム×(3)β

(1)リスクフリーレート

リスクフリーレートとは、リスクをほぼ追わずに獲得できる利回りです。実務上は10年国債の利回りを使うことが一般的です。

(2)エクイティリスクプレミアム

エクイティリスクプレミアムは、株式市場に求められる超過利回りであり、債券よりも株式のリスクが高い分、追加的に求められる利回りです。TOPIXの利回りと日本国債の利回りを分析することなどによって計算することができます。

(3)β(ベータ)

βとは、対象企業のリスクと株式市場全体のリスクを表す相関係数です。例えば、βが2であれば、その対象企業は株式市場全体の2倍のリスク量があると言い換えることができます。

7.負債と資本の利率比較

負債と資本の利率を比較すると、基本的には資本の方が高くなります。投資家の立場からすると、負債は返済が約束されていますが資本は返済されないため、負債よりも高い利回りを要求するためです。

負債の利率は、すでに解説してきたとおり会社の信用力によって大きく異なります。株式会社光通信を例にとってみると、2020年7月14日に発行された10年社債の金利は1.20%※1でした。
※1光通信「無担保社債発行に関するお知らせ

負債については、金利による節税効果がありますので、最終的な負債コストの計算では考慮にいれます。実効税率を30%とした時の光通信の負債コストは以下のとおりです。
光通信の負債コスト = 1.20%×(1―30%)
          = 0.84%

資本の利率は、対象企業のリスクと株式市場全体のリスクを表す相関係数であるβによって変動します。同様に光通信を例に取ると2020年11月2日時点のβは1.01※2です。リスクフリーレートを0.01%、株式全体のエクイティリスクプレミアムを8%とすると、CAPMの計算式により、以下のように資本の利率を計算する事ができます。
光通信の資本コスト = 0.01% + 8%×1.01 = 9.08%

※2日本経済新聞 β(ベータ)値高位ランキング

以上より、光通信の事例では、負債コストは0.84%、資本コストは9.08%と計算することができました。ただし、負債、資本の利率についてどちらも企業の個別状況や債券・株式市況全体の影響を大きく受けやすく、数字が変動しやすい点には留意が必要です。

8.加重平均資本コスト(WACC)について

企業は他人資本である負債と、自己資本である資本の2種類を使って資金調達しています。他人資本と自己資本のコストを加重平均したものをWACC(Weighted Average Cost of Capital)と呼びます。

WACCは以下の計算式で計算することができます。
WACC = 有利子負債÷(有利子負債+株主資本)×負債利率×(1―実効税率)
     +株主資本÷(有利子負債+株主資本)×資本利率

光通信を例に取って、WACCを計算してみましょう。前提となる数字は以下のとおりです。
有利子負債:2,000億円、負債利率1.20%
株主資本:4,000億円、資本利率9.08%

WACC = 2,000億円÷(2,000億円+4,000億円)×1.2%×(1―30%)
     +4,000億円÷(2,000億円+4,000億円)×9.08%
    = 6.33%

以上の数字例では、光通信のWACCは6.33%と計算されました。数字の意味するところは、負債と資本によって調達を行っていますが、投資家(銀行など資金の貸し手+株主)の要求する利回りは6.33%ということです。

9.投下資本利益率(ROIC)について

光通信の立場からすると、投資家からの要求利回りである6.33%を超えるように経営しなければ企業価値を損ねる可能性があります。

WACCを超える経営ができているかを表す指標は、投下資本利益率(ROIC)です。ROICは以下の計算式で計算することができます。
ROIC = 税引後営業利益÷投下資本(有利子負債+自己資本)

営業利益を1,000億円としたときのROICは以下のとおりです。他の数字前提は、光通信の前例のとおりです。

ROCI = 1,000億円×(1―30%)÷(2,000億円+4,000億円)
   = 11.67%

ROICが11.67%、WACCが6.33%となり、ROIC > WACCの状況です。投資家の要求利回りを超える経営ができていることになり、企業価値向上につながる経営ができている状態と言えます。

反対に、ROIC < WACCの状況になってしまった場合は、投資家からの要求利回りを下回る経営と評価されます。このような状況が続いてしまうと、投資家は、経営者の退陣要求など経営改善を求める声が大きくなってしまいます。

10.まとめ

以上のように、負債と資本の調達について、概要と利率、WACCやROICについて説明してきました。

負債と資本の調達コストを比較すると負債の方が低くなるのが一般的です。ただし、コストが低いからといって負債による調達を増やせば増やすほど、金利により利益が圧迫され、資金繰りにも影響を及ぼすことで倒産リスクを高めてしまいます。

投資家の要求利回りや、現状の自社の経営状況を鑑み、負債と資本をどうバランスさせて調達するかはきちんと考えなければなりません。

最適なバランスは個社の状況、市況、会社規模、過去の調達実績、などによって常に変化します。投資家との対話を続けながら、変化する状況に対応して最適な状況を追い求めることが重要です。

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