IT企業の経営者として、事業の将来性や後継者問題、あるいは日々の資金繰りに頭を悩ませていませんか。
めまぐるしく変化する市場環境の中で、自社だけで成長を続けることに限界を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、IT企業売却の具体的な手続き・失敗を避けるための注意点などを解説します。
目次
- 1 IT企業の売却(M&A)が活発な3つの背景
- 2 DX推進と技術革新による業界再編
- 3 深刻化するIT人材の確保競争
- 4 後継者不在と「2025年の崖」問題
- 5 IT企業売却のメリット・デメリット
- 6 【売り手側】のメリット:創業者利益の確定と事業の発展
- 7 【売り手側】のデメリット:情報漏洩や文化の衝突リスク
- 8 【買い手側】のメリット:時間と人材が手に入る
- 9 【買い手側】のデメリット:「高値掴み」と統合失敗のリスク
- 10 IT企業売却の7つのプロセス
- 11 ステップ1:M&A戦略の策定と専門家への相談
- 12 ステップ2:企業価値評価と資料作成
- 13 ステップ3:売却先の選定(ソーシング)
- 14 ステップ4:トップ面談と意向表明
- 15 ステップ5:基本合意書の締結
- 16 ステップ6:デューデリジェンス(買収監査)
- 17 ステップ7:最終契約の締結とクロージング
- 18 IT企業の売却は未来を拓く戦略的選択肢
IT企業の売却(M&A)が活発な3つの背景
近年、IT業界のM&A市場は、活発化している傾向が見られます。
本章では、IT企業の売却が活発化している3つの背景を解説します。
DX推進と技術革新による業界再編
現代の多くの企業にとって、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、競争力を維持し、生き残るための重要な手法です。
DX推進の流れを受け、AI・クラウド・IoT・ビッグデータといった最先端技術を持つIT企業への需要が爆発的に高まっています。
一方で、自社でゼロから技術開発を行う時間的猶予を有する企業が少ないため、M&Aによって必要な技術・サービス・ノウハウを迅速に獲得する戦略を選択するのが現実的です。
上記を背景に、業界の垣根を越えた再編が加速しています。
また、優れた技術を持つIT企業にとっては、自社の価値を高く評価してもらえる絶好の機会が訪れているとも考えられます。
深刻化するIT人材の確保競争
IT業界が抱える最も深刻な課題の一つが、慢性的な人材不足です。
M&Aは、人材不足を解決する最も効果的かつ迅速な手段として採択されています。
なぜなら、M&Aは買い手企業にとって事業や技術を獲得できるほか、根幹を支える優秀なエンジニア組織をまとめて獲得できるためです。
特に多くの技術者を抱えるSES(System Engineering Service)企業は、その人材ポートフォリオの魅力から、大手企業にとって魅力にあふれる買収ターゲットとなるケースもあります。
後継者不在と「2025年の崖」問題
多くの中小IT企業が直面しているのが、経営者の高齢化と後継者不在という深刻な問題です。
長年かけて築き上げてきた技術・顧客基盤・従業員の雇用を、誰に託すべきかという問いに対する現実的な回答のひとつがM&Aによる事業継承です。
さらに、経済産業省が「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」では、既存のレガシーシステムが技術的負債となり、企業の成長を阻害するという問題もM&Aを後押ししています。
多くの企業は、既存システムが抱える課題を乗り越えるために、新たな技術を持つ企業との統合を選択しています。
IT企業売却のメリット・デメリット
IT企業の売却は、経営者や会社にとって大きな転換点であり、多くの可能性を秘めています。
しかしIT企業の売却は、輝かしい未来をもたらす一方で、予期せぬ困難を伴う可能性も否定できません。
本章では、売り手と買い手というそれぞれの視点から、M&Aがもたらすメリットとデメリットを解説します。
【売り手側】のメリット:創業者利益の確定と事業の発展
売り手である経営者にとって、会社売却は下記のように多くのメリットをもたらします。
| メリットの種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 創業者利益の獲得 | 株式譲渡により多額の売却益(キャピタルゲイン)を得られます。売却益の獲得により、新たな事業への挑戦・悠々自適なリタイア生活など、人生の新たな選択肢が生まれます。 |
| 後継者問題の解決 | 後継者がいない場合でも、M&Aによって事業と従業員の雇用を次世代に引き継ぐことができます。長年培った技術や文化を存続させる道筋ができます。 |
| 事業の成長加速 | 大手企業の傘下に入ることで、自社だけでは得られなかった資金力・ブランド力・販売網・技術リソースを活用でき、事業成長スピードの飛躍的な向上が可能です。 |
| 個人保証からの解放 | 経営者が会社の借入金に対して行っていた個人保証や担保提供を解消できます。個人保証からの解放により、経営者は大きな精神的・経済的負担から解放されます。 |
| 従業員の雇用維持 | 買い手企業に雇用が引き継がれることで、従業員は安定した環境で働き続けられます。また、より大きな組織でキャリアアップを目指す機会も得られます。 |
【売り手側】のデメリット:情報漏洩や文化の衝突リスク
一方で、売却には慎重に検討すべき下記のようなデメリットやリスクも存在します。
| デメリットの種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 機密情報の漏洩リスク | M&Aの交渉過程で、自社の技術情報や顧客情報といった機密情報が外部に漏れる可能性があります。徹底した情報管理が求められます。 |
| 企業文化のミスマッチ | 買い手企業との文化や価値観が大きく異なる場合、統合後に従業員のモチベーションが低下し、優秀な人材が離職してしまうリスクがあります。 |
| 希望価格での売却困難 | 自社が想定していた企業価値と、市場や買い手が評価する価値との間に乖離があり、希望通りの価格で売却できない可能性があります。 |
| ロックアップ(経営関与) | 売却後も事業の円滑な引き継ぎのために、元の経営者が一定期間、経営に関与し続けることを契約で求められる(ロックアップ)場合があります。 |
| 取引先・従業員への影響 | 経営権の移転により、長年の取引先との関係性が変化したり、従業員が将来に不安を感じたりする可能性があります。丁寧な説明とケアが不可欠です。 |
【買い手側】のメリット:時間と人材が手に入る
買い手企業のおもなメリットは以下の通りです。
| メリットの種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 事業展開のスピードアップ | 新規事業をゼロから立ち上げるのに比べ、M&Aは遥かに短期間で事業領域の拡大や多角化を実現できます。 |
| 技術・ノウハウの獲得 | 自社にない特定の技術・特許・専門知識・顧客基盤などを迅速に獲得し、製品やサービスの競争力を向上できます。 |
| 優秀な人材の確保 | 即戦力となる優秀なエンジニアや専門家チームを一括で獲得できます。 |
| 市場シェアの拡大 | 競合他社を買収することで、市場におけるシェアを拡大し、業界内での価格決定権や影響力を強化できます(スケールメリット)。 |
| シナジー効果の創出 | 両社の技術・販売網・顧客基盤などを組み合わせることで、コスト削減や売上向上など、1+1が2以上になる相乗効果(シナジー)が期待できます。 |
【買い手側】のデメリット:「高値掴み」と統合失敗のリスク
買い手のおもなデメリットは以下の通りです。
| デメリットの種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 高値掴みのリスク | 企業価値を過大に評価し、実態に見合わない高値で買収してしまうことです。高値掴みにより、投資回収が困難になる場合があります。 |
| 偶発債務の発覚 | デューデリジェンス(DD:買収監査)が不十分な場合、買収後に帳簿に載っていない簿外債務や訴訟リスクなどが発覚し、予期せぬ損失を被ることがあります。 |
| PMI(統合プロセス)の失敗 | 異なる企業文化・ITシステム・業務プロセスの統合に失敗すると、事業運営に支障をきたすリスクが想定されます。 |
| キーパーソンの流出 | M&Aを主導した経営者や、事業の中核を担うキーパーソンが買収後に退職してしまうと、企業の競争力が大きく損なわれ、価値が下がる可能性があります。 |
IT企業売却の7つのプロセス
IT企業の売却は、数ヶ月から1年以上にも及ぶ長丁場のプロジェクトです。
IT企業売却のプロセスは、大きく7つのステップに分けられます。
各ステップで何が行われ、どのような準備が必要なのかを具体的に理解しておくことで、スムーズな交渉が実現して成功の確率を高められます。
本章では、IT企業売却の7つのプロセスを解説します。
ステップ1:M&A戦略の策定と専門家への相談
まずは、会社を売却する目的(後継者問題・事業成長・創業者利益の獲得など)を明確にして社内で共有します。
次に、IT業界のM&Aに精通した信頼できるM&Aアドバイザーや仲介会社を選定し、秘密保持契約(NDA)を締結した上で相談を開始します。
M&Aアドバイザーや仲介業者は、最適な売却戦略の立案や、今後のプロセス全体のサポートを考慮して欠かせない存在です。
M&Aアドバイザーや仲介業者を選ぶときは「M&Aの相談はどこへすべき?選び方や事前準備のコツを解説」も参考になさってください。
ステップ2:企業価値評価と資料作成
M&Aアドバイザーと共に、さまざまな評価手法を用いて自社の企業価値を客観的に算定します。
同時に、買い手候補に自社の魅力を伝えるための資料「企業概要書(インフォメーション・メモランダム)」を作成します。
企業概要書には、事業内容・財務状況・組織体制・強み・将来性などを詳細に記載します。
企業概要書の完成度が、買い手の関心を引く上で極めて重要です。
IT企業を売却する際の相場や計算方法は「会社売却とは?相場や計算方法、従業員への影響について解説」をご覧ください。
ステップ3:売却先の選定(ソーシング)
アドバイザーが持つネットワークを活用し、買い手候補となる企業のリストアップ(ロングリスト作成)を行います。
ロングリスト作成の完了後、社名を伏せた「ノンネームシート」で打診を行い、関心を示した企業との間で秘密保持契約を締結し、より詳細な企業概要書を開示します。
ノンネームシートに関心を示した企業を踏まえた絞り込み(ショートリスト作成)を経て次のステップに進みましょう。
ステップ4:トップ面談と意向表明
ショートリストに残った候補企業の経営陣と、売り手企業の経営者との間でトップ面談を実施します。
トップ面談では、資料だけでは伝わらない経営理念・ビジョン・企業文化などを共有し、互いの相性を確認してください。
面談後、買い手候補は買収の意欲と希望する条件(買収価格・スキームなど)をまとめた「意向表明書(LOI)」を提示します。
ステップ5:基本合意書の締結
複数の意向表明書の中から、自社にとって条件の良い、あるいは大きなシナジー効果が期待できる候補を1社選定し、より詳細な条件交渉を行います。
そして、M&Aの基本的な条件について双方で合意した内容を「基本合意書(MOU)」として書面にまとめ、締結します。
基本合意書の締結をする際は、一定期間、他の候補と交渉しないことを約束する「独占交渉権」を買い手に付与するのが一般的です。
なお、混同されがちなLOIとMOUの違いは「LOI(レターオブインテント)とは?MOUとの違いや目的を解説」をご覧ください。
ステップ6:デューデリジェンス(買収監査)
基本合意後、買い手は売り手企業に対して、事業・財務・法務・ITシステムなど、あらゆる側面から詳細な調査(デューデリジェンス:DD)を実施します。
デューデリジェンスは、基本合意の前提となった情報に誤りがないか、隠れたリスクが存在しないかを確認するための重要なプロセスです。
売り手側は、要求された資料を迅速かつ正確に提出し、誠実に対応する必要があります。
特にIT企業では、システムの脆弱性や知的財産権に関する調査(ITデューデリジェンス)が厳格に行われます。
ITデューデリジェンスの重要性については「ITDDとは?基礎知識・調査項目・進め方・注意点を徹底解説!」をご覧ください。
ステップ7:最終契約の締結とクロージング
デューデリジェンスの結果、大きな問題がなければ、最終的な条件交渉に入ります。
デューデリジェンスで発見されたリスクなどを反映し、買収価格や契約条件を最終調整します。
双方が合意に至れば、法的な拘束力を持つ「最終契約書(株式譲渡契約書など)」を締結します。
その後、契約書に定められた日に、株式の引き渡しと売却代金の決済(クロージング)が行われ、M&Aの全プロセスが完了します。
なお、企業売却までの流れについて、より詳細に知りたい場合は「会社を売るまでの流れを紹介!相続した会社のM&Aについても解説」をご覧ください。
IT企業の売却は未来を拓く戦略的選択肢
本記事では、IT企業の売却について市場背景からメリット・デメリット・具体的なプロセスなどを解説しました。
近年のIT業界において、会社の売却は、もはや単なる事業の終わりを意味するものではありません。
IT企業売却は、後継者問題を解決して創業者としての利益を確定させると同時に、自社が持つ技術・サービス・従業員が、より大きな資本のもとでさらなる成長を遂げるための前向きで戦略的な選択肢です。
2025年の崖や人材不足といった課題を乗り越え、持続的な成長を実現するために、M&Aは強力な「変革のエンジン」となり得ます。
もちろん、その道のりは決して平坦ではなく、周到な準備と戦略、そして信頼できる専門家のサポートが不可欠です。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
パラダイムシフトが選ばれる4つの特徴
- IT領域に特化したM&Aアドバイザリー
- IT業界の豊富な情報力
- 「納得感」と「満足感」の高いサービス
- プロフェッショナルチームによる適切な案件組成
M&Aで自社を売却したいと考える経営者や担当者の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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