かつて総合電機メーカーとして世界市場を席捲した東芝は国内外のファンドによる買収劇の舞台となっています。
2015年の不正会計問題に端を発する経営陣に対する不信感の払拭や業績悪化からの再建は未だ見通しがありません。
2023年1月時点で、複数のファンドが買収案を提出していますが、実際に東芝が買収されたらどのような影響があるのでしょうか。
目次
揺れる東芝の買収問題
かつて東芝は日本を代表する総合電機メーカーでした。
1985年に世界で初めてラップトップPCを送り出し、1990年代後半にはノートパソコンの世界シェアは一位でした。
1980年、90年代は日本の半導体が世界市場を席巻した全盛期です。
しかし、今では中国や韓国系のメーカーに市場を奪われ、かつての面影はありません。
そして、2015年に粉飾決算が発生したのを機に本格的な東芝の迷走が始まりました。
成長事業のある半導体事業やメディカル事業を手放し、キャッシュを生み出す術を失いました。
その後、様々な事業再建案が公開されたり、国内外の資本から出資表明があったりしましたが、問題発覚から7年以上が経過した2023年1月現在でも東芝の完全な再建は見通せていません。
東芝の買収問題の経緯
2015年の不正会計問題発覚から2022年10月に日本産業パートナーズ(JIP)を資金の出し手とする再建案が提案された2022年までの買収騒動の経緯を振り返ります。
2015年2月:不正会計問題
2016年2月:米原子力事業巨額損失
2021年4月:CVCキャピタル・パートナーズが出資提案
2021年11月:会社3分割案浮上
2022年10月:日本産業パートナーズ(JIP)優先交渉権を獲得
上記の出来事を中心に東芝の買収騒動の経緯を確認しましょう。
歴代社長が引責辞任した不正会計問題
すべての問題の端緒となったのは2015年の不正会計問題です。
2015年2月に証券取引等監視委員会の指摘により長年の粉飾決算が判明しました。
組織ぐるみで不正が実施され、2008年度から2014年度第3四半期にかけて1500億円以上の利益が水増しされました。
本来、監査法人が不正を発見するべきですが、東芝の関係者の内部通報で証券取引等監視委員会が調査し、判明したのです。
リーマンショック以来の経営悪化を隠すための手段として粉飾決算が行われたことが分かり、歴代社長3名が引責辞任しました。
米原子力事業巨額損失と上場廃止危機
不正会計問題に続いて失態となったのが東芝の売上の3割を占める米原子力事業における巨額損失の計上でした。
2016年に米国原発サービス子会社ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)に関連する取引で巨額の損失が発生したのです。
同子会社の買収後に資産が当初評価を下回ることが判明しました。
また、2011年の福島第1原発事故を契機に欧米で安全基準が大幅に厳格化され、受注した米国の4基の原発の建設費用は見積もりを大幅に超過しました。
減損損失額は、7125億円に上り、自己資本3600億円を超過し、事実上の倒産となる可能性が高まったのです。
この事態を回避するため、成長事業の半導体やメディカル事業を手放し、キャッシュと引き換えに東芝の稼ぎ頭を失いました。
同時に複数の海外ファンドから6000億円の出資を受け、「モノいう株主」を招きます。
この「モノいう株主」の台頭が今日まで迷走する再建を遅らせる遠因となりました。
CVCキャピタル・パートナーズによる東芝買収提案騒動
2021年4月、英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズが東芝に買収を提案しました。
2016年の米原子力事業巨額損失とそれに続く「モノいう株主」、特に株式9%を保有するエフィッシモは東芝経営陣と激しく対立します。
同英ファンドの提案は、TOBを通じて東芝の株式を非公開とし、「モノいう株主」を排除したうえで東芝の再建を図るというものです。
「モノいう株主」に悩む東芝にとって、この提案は渡りに船であり、車谷社長も「慎重に検討する」と表明していました。
しかし、車谷社長は同ファンドの日本法人会長から東芝入りした過去があります。
この提案に対し、「提案の背景が不透明である」という批判が噴出し、車谷社長は辞任に追い込まれます。
会社3分割案と挫折
2021年11月12日に東芝が公表する中期経営計画に「会社分割案」が盛り込まれることが判明し、世間の注目を集めました。
再建の進まない会社を「インフラサービス事業」、「デバイス事業」、「半導体会社」に分割して、企業価値の向上を図るという理由でした。
しかし、実際には「モノいう株主」の意向が働いたと言われています。
複数の事業を抱える東芝はそれぞれの事業の価値の合計に対して、会社全体の企業価値が低いと言われています。
会社を分割することで、各事業を高く売却し、株主に利益をもたらす施策です。
しかし、またしても「物言う株主」の反対で2021年11月12日に分割案は退けられました。
2022年2月に2分割案に修正するも株主総会で否決され、公募で再建案を募集するという異例の事態に発展します。
東芝への複数の買収提案
英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズの買収提案をきっかけに「東芝が買収対象となる」ことが世界に知れ渡りました。
また、会社分割案が「物言う株主」の反対で挫折し、再建案を公募したことで、複数の買収提案がされました。
米投資ファンドコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、同じく米系のブラックストーン、カナダ投資ファンドブルックフィールド・アセット・マネジメントなどが東芝の買収を検討し、買収劇は「東芝のオークション」の様相を呈します。
また、官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)が買収を検討し、これに対して海外の投資ファンドがJICとの共同出資案を提出するなど数多くの買収提案が浮上します。
日本産業パートナーズ(JIP)が買収案を提案
東芝の再建案公募に対しては、国内外の10社が提案を実施し、2022年7月に米投資ファンドベインキャピタルや英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズを含む4社に絞られました。
中でも最有力の提案として注目されたのが日本産業パートナーズ(JIP)による買収提案です。
東芝は2022年10月上旬に日本産業パートナーズ(JIP)に優先交渉権を付与しました。
しかし、問題となったのが多額の買収費用です。
東芝の時価総額は約2.3兆円にのぼり、これを上回る買収資金をどう集めるかが焦点となりました。
また、「官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)は対抗案を用意している」と報じられるなど、交渉の行方は定まっていません。
日本企業連合による東芝再生
優先交渉権を付与された日本産業パートナーズ(JIP)でしたが、東芝の時価総額2.3兆円を超える買収資金が必要です。
日本産業パートナーズ(JIP)が単独で買収資金を出資することはできず、日本企業に幅広く出資への参画を求めました。
多額の買収資金に対して、中央官庁では、「日本企業のみでは買収は難しく、欧米資本の参入が必要になるのでは」との声が多く、海外メディアでも同様の論調が目立ちました。
しかし、東芝は防衛産業に関与しており、外為法の規制を受けるため、欧米ファンド主導では買収できません。
買収自体が頓挫することが危惧されましたが、「大手銀行の融資と日本企業20社程度の出資を合わせて買収資金が確保できる目処がたった」と報道がありました。
2023年1月以降の特別委員会で提案を受けるか議論がなされ、取締役会が承認すれば、TOBへと向かう見込みです。
東芝が買収されるとどうなる
様々なファンドが東芝の買収案を提出していますが、どれかが実現し、東芝が買収されるとどのような影響があるのでしょうか。
東芝が買収されることによる影響を解説します。
株式非公開化と「物言う株主」の排除
2021年4月に英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズが買収提案を行ってから、国内外のファンドが買収案を提出しています。
様々な買収案がありますが、共通するのは東芝の株式を買収して、非公開化することです。
米原子力事業が頓挫した時の対応として、60以上の海外ファンドから6000億円の出資を受けたことで、「モノいう株主」を社内に招き入れました。
ここまで買収問題が二転三転したのも経営陣と「モノいう株主」の対立が原因と見られており、東芝はこれを排除するために買収案を検討すると考えられます。
したがって、日本産業パートナーズ(JIP)を中心とする日本企業連合の買収が成立すれば、「モノいう株主」を排除し、経営に自由が利く状態で再建できるでしょう。
経営方針に対する疑義が生じる可能性がある
「モノいう株主」の排除を目的とした買収案に疑問の声もあります。
これらの株主の存在は確かに経営の障害となる可能性があります。
しかし、上場企業であれば、様々な考えや価値観を持つ株主がたくさんいるのです。
上場企業は株主への還元を通じて、その期待に応えつつ、長期的な成長をすることが求められます。
今回の買収案の公募は、「経営陣と意見が違う株主には出て行ってもらう」という経営陣の保身と受け取られる可能性があります。
今後、東芝が再建され、再度上場した時に「東芝は反対意見を持つ株主がいれば、また株式非公開化を選ぶのではないか」と思われれば、市場で株式の買い手がつくでしょうか。
株主、従業員、取引先、地域など多様なステークホルダーを持つ上場企業は、彼らを納得させる明確な方針を持ち、「モノいう株主」を恐れない姿勢が求められるかもしれません。
日本全体で「物言う株主」に関する議論が活発に
今回の東芝の買収騒動を契機に「物言う株主」に関する議論が活発になると思われます。
欧米では、1980年代頃に株式大量取得で会社を乗っ取るファンドが出現し、注目を浴び、日本でも2000年代以降に見られるようになりました。
上場企業であれば、どの会社も「物言う株主」を抱える可能性があります。
配当や自社株買いなど株主還元を主張する彼らとどう向き合うかは日本企業全体の課題なのです。
東芝経営陣と対立する「物言う株主」が立場や考え方の違いをどのように乗り越えて、どのような結果にたどり着くのか、上場企業は関心を持って見ています。
東芝の買収スケジュールや新経営体制の決定には時間がかかる
この記事では、東芝の買収騒動の経営や買収された場合の影響を解説しました。
今後、日本産業パートナーズ(JIP)の買収案が特別委員会で審議される予定ですが、現時点で買収スケジュールや新しい経営体制は不明です。
「物言う株主」から派遣された経営陣が退任し、融資する銀行団と出資企業から経営陣が送り込まれると予想されますが、詳細な内容は未決定です。
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