スクイーズアウトとは、買収後に残る少数株主を株式市場から絞り出す行為を指します。
スクイーズアウトを行わなければ、M&A後の統合プロセスにおいて意思決定の遅延や経営の柔軟性の欠如といった問題が生じる可能性があります。
この記事では、スクイーズアウトの目的や具体的な手法、注意点などを解説します。
最後まで読むことで、スクイーズアウトを通じた、円滑なM&A実現や迅速な意思決定、コスト削減、長期視点の経営ができます。
スクイーズアウトは、M&A成功のために慎重に進めるべきプロセスのため、明確に理解しておきましょう
目次
- 1 スクイーズアウトとは
- 2 スクイーズアウトの目的4つ
- 3 M&Aを円滑に行えるようになる
- 4 経営に関する意思決定を早くする
- 5 株主を排除してコストや労力を削減できる
- 6 長期的な視点で経営ができるようになる
- 7 スクイーズアウトによる株価の算定方法
- 8 スクイーズアウトの4つの手法と手続きの流れ
- 9 株式併合
- 10 株式交換
- 11 全部取得条項付種類株式
- 12 特別支配株主の株式等売渡請求
- 13 スクイーズアウトの注意点・デメリット
- 14 誰でもできるわけではない
- 15 裁判に発展する可能性がある
- 16 支払いが高額になる可能性がある
- 17 少数株主を尊重した対応をしなければいけない
- 18 法律で定められたスケジュールで進めなければいけない
- 19 スクイーズアウトの税制改正で変わったこと
- 20 株式交換の場合
- 21 改正前
- 22 改正後
- 23 株式交換以外の場合
- 24 改正前
- 25 改正後
- 26 まとめ:TOB後のスクイーズアウトはM&Aを成功に導く重要な手法
スクイーズアウトとは
スクイーズアウトとは、上場企業の株式を一定割合以上取得した株主が、残りの少数株主の株式を強制的に買い取る手続きで、主に企業買収(M&A)が完了した後に行われます。
スクイーズアウトを実施することで、企業は一元的な経営体制を確立しやすくなるため、経営の迅速化や意思決定の効率化が図れます。
しかし、少数株主の権利を侵害する可能性があるため、適切な法的手続きと公正な株価の算定をしましょう。
スクイーズアウトの目的4つ
スクイーズアウトにはいくつかの目的があり、それぞれが企業の経営効率や将来性に大きく貢献します。
下記では、スクイーズアウトが企業にとってなぜ重要なのか、主な目的を4つ解説します。
M&Aを円滑に行えるようになる
スクイーズアウトを行う目的の一つは、M&Aを円滑に行えるようになることです。
スクイーズアウトによりすべての株式を一手に集約することで、経営上の意思決定が迅速になるため、経営統合に伴う複雑さや時間の浪費を避けられます。
例えば、買収対象企業の少数株主がいると、同意を得るための時間やコストが発生します。
スクイーズアウトによって時間やコストを削減できるため、M&A後の移行を効率的に行えるでしょう。
経営に関する意思決定を早くする
スクイーズアウトの目的の中でも特に重要なのが、経営に関する意思決定を早くすることです。
スクイーズアウトで少数株主を排除することで、企業は迅速かつ効率的な意思決定が可能になるため、市場の変動に素早く対応することができます。
例えば、新しい事業戦略の実行や資本政策の変更など、重要な決定をする際に少数株主がいると意思決定が遅くなりますが、いない場合は経営の柔軟性と迅速性を高められます。
スクイーズアウトは経営の効率化を図るため、競争上の優位性を確保するための重要な戦略です。
株主を排除してコストや労力を削減できる
スクイーズアウトで少数株主を排除することで、企業はコストや労力の大幅な削減が実現できます。
少数株主に対する配当の支払いや株主総会の運営、株主とのコミュニケーションに関連する管理コストが削減されるからです。
例えば、少数株主への報告義務や総会の準備などにかかる時間と資源がいらなくなるため、事業の成長や戦略的な取り組みに再投資できます。
スクイーズアウトをすることで、企業の財務的な負担を軽減できるため、運営効率を向上させられるでしょう。
長期的な視点で経営ができるようになる
スクイーズアウトを実施することで、長期的な視点で経営を行えます。
少数株主を排除して一元化された株主構造になることで、短期的な利益追求よりも長期的な成長と企業価値の向上に焦点を当てた経営がしやすくなるからです。
例えば、市場の変化に柔軟に対応する新製品開発や、長期的な成長を見据えた海外進出などの経営方針が迅速に決められます。
スクイーズアウトは企業が長期的な視点を持って戦略を実行できるため、持続可能な成長を達成するための効果的な方法となるでしょう。
スクイーズアウトによる株価の算定方法
スクイーズアウトによる株価の算定は、少数株主に公平な価格で株式を買い取るために重要です。
株価の算定方法には、以下のようないくつかのアプローチがあります。
アプローチ方法 | 概要 |
市場アプローチ | 類似企業の市場データや買収事例をもとに、比較分析を行い価格を算定する方法。 株式が公開市場で取引されている場合、直近の株価を基準にします。 |
収益アプローチ | 企業の将来的な収益を現在価値に割り引いて算定する方法。 企業の将来のキャッシュフロー予測に基づき、現在の価値に変換して算出します。 |
資産アプローチ | 企業の純資産価値を基に株価を算定する方法。 企業の負債を差し引いた後の資産の総価値を株式の総数で割り、一株あたりの価値を計算します。 |
上記の方法を適用する際には、業界の標準や特定の企業の状況に合わせて調整する必要があります。
最終的なスクイーズアウトによる株価は、いくつかのアプローチ方法を組み合わせたり、特定の状況に応じた変更をしたりすることで決定される場合があります。
すべての関係者が納得できる公正なスクイーズアウトによる株価を導き出しましょう。
スクイーズアウトの4つの手法と手続きの流れ
スクイーズアウトを実行するには、いくつかの手法とそれぞれに流れがあります。
スクイーズアウトには主に以下のような手法があります。
- 株式併合
- 株式交換
- 全部取得条項付種類株式
- 特別支配株主の株式等売渡請求
上記の手法は、企業の目的や状況に応じて選択されるため、少数株主から株式を買い取り、企業の経営権を一元化することを目指します。
下記では、4つの手法と手続きの流れについて詳しく解説します。
株式併合
株式併合はスクイーズアウトを実施する手法の一つで、企業が発行する株式の数を減少させて少数株主の持株を強制的に買い取ります。
主な目的は、株式を一定比率で併合することで、特定の株数に満たない株主を現金等で買い取ることができるため、株主数を減らし経営権を一元化できます。
例えば、1000株を1株に併合する場合、1000株未満の保有株主は株式を保有できなくなる代わりに、適正な補償が受け取れるのです。
株式併合を通じて企業は少数株主を排除できるため、よりスムーズな経営を実現できます。
株式交換
株式交換は、企業が他社の株式を取得する際に利用しますが、適切な手続きを行う必要があります。
適切な手続きが行われない場合は株主の権利が損なわれるため、法的な混乱が生じる可能性があるのです。
株式交換の手続きの流れは以下のとおりです。
- 株式交換の目的と条件を定義する
- 株主に決定した目的と条件を通知する
- 株主の同意を取得する
- 交換比率や手続きに関する情報を提供する
株式交換は、十分な情報提供と株主の同意を得ることによって、法的な問題を回避できます。
全部取得条項付種類株式
全部取得条項付種類株式は、特定の株主による株式の全取得を可能にしますが、手続きには特定の規定が必要です。
株主の全取得は、企業の株式構造に影響を与えたり法的規制にも従ったりしないといけないため、慎重な手続きが求められます。
全部取得条項付種類株式の手続きの流れは次のとおりです。
- 全部取得条項を含む株式を発行する際に条件と対象株主を定める
- 株主に通知を行い合意を求める
全部取得条項付種類株式の手続きは、株主に合意を取って行われるべきです。
全部取得条項付種類株式の手続きにより株主の権利を保護するため、企業の株式構造を適切に管理できます。
特別支配株主の株式等売渡請求
特別支配株主の株式等売渡請求は、支配的な地位にある株主が他の株主の株式を取得する手法です。
支配的な地位にある株主が他の株主を排除する可能性があるため、株主の権利を保護するためには適切で明確な手続きが必要です。
特別支配株主の株式等売渡請求の手続きは以下のとおりです。
- 特別支配株主は株主総会での特別決議を行う
- 株式等売渡請求の権利を確定する
- 株式等の売渡請求書を発行する
- 対象となる株主に通知する
特別支配株主の株式等売渡請求は、株主の権利を尊重しつつ、企業の経営に影響を及ぼす支配的な地位の濫用が防止されます。
スクイーズアウトの注意点・デメリット
スクイーズアウトは企業が株主の一部を排除して経営権を握る手法ですが、注意点やデメリットがいくつかあります。
下記では、スクイーズアウトの注意点・デメリットを5つ紹介します。
誰でもできるわけではない
スクイーズアウトは専門的な知識と経験を要するため、誰でも実行できるわけではありません。
スクイーズアウトには法や財務、戦略などの側面が絡み合い、誤った手続きは企業や株主に深刻な影響を及ぼす可能性があるからです。
スクイーズアウトを行うためには、法的規制や株主権利の理解、交渉技術、財務面の計画など多岐にわたるスキルが必要です。
専門家の指導や助言を受けながら、慎重にスクイーズアウトを実行しましょう。
裁判に発展する可能性がある
スクイーズアウトは、他の株主や関係者との対立を引き起こす可能性があるため、裁判に発展するリスクがあります。
株主の権利や法的手続きが適切に行われない場合、株主や関係者が不満を抱くため、法廷での争いが生じやすいです。
また、企業にとって時間と費用の面で負担となるばかりでなく、企業の評判や市場価値にも悪影響を及ぼす可能性もあります。
スクイーズアウトを実行する際には、法的リスクがあることを十分に理解し専門家の助言を受けることで、リスクを最小限に抑えつつ、企業の安定性と信頼性を維持することが求められます。
支払いが高額になる可能性がある
スクイーズアウトは、株主に対する買収価格が高額になるリスクがあります。
株主の株式を取得するために一定の価格を支払う必要がありますが、価格が適切でない場合、高額な支払いをしないといけません。
また、市場価値を超えた価格での株式取得が必要になると、企業の財務状況に負担がかかってしまいます。
スクイーズアウトを検討する際には、合理的な価格設定と円滑な交渉によって、支払いが高額になるリスクを最小限に抑えることが大切です。
少数株主を尊重した対応をしなければいけない
スクイーズアウトでは、少数株主の権利を尊重しつつ利益も考慮しなければなりません。
少数株主は株式の一部を所有しており、意見や権利を無視することは企業の信頼性や法的問題を引き起こす可能性があります。
少数株主がスクイーズアウトによる株式取得に反対する場合は、意見を尊重しつつ交渉や合意形成に時間とリソースを割くことが大切です。
スクイーズアウトの透明性や公正性を保つことが、すべての株主の利益を考慮した戦略を構築する上で重要です。
法律で定められたスケジュールで進めなければいけない
スクイーズアウトは、法律で定められたスケジュール内で進行しなければいけません。
法律で定められたスケジュールは、株主の権利や法的手続きを保護するために設けられています。
期限を守らないと、株主や関係者からの訴訟や法的な紛争が発生する可能性があるため注意が必要です。
スクイーズアウトを計画する際は、適切なスケジュールに沿って手続きを丁寧に進めることで、法的リスクを最小限に抑えてスムーズに実行できるでしょう。
スクイーズアウトの税制改正で変わったこと
スクイーズアウトの税制改正で変わったことは、企業の株主構成に影響を及ぼす重要な変更です。
下記では、株式交換と株式交換以外の改正前・改正後で変わったことを解説します。
株式交換の場合
株式交換の改正により、企業はよりスムーズかつ適切に株式交換を行うことができるようになりました。
下記では、株式交換の場合の改正前・改正後を詳しく解説します。
改正前
株式交換に関する税制改正前は、比較的厳格で限定的な条件下でのみ実施可能でした。
厳格な規定があったのは、株式交換を通じた企業統合のプロセスを慎重に管理し、不当な経営権の移動や株主の利益を保護するための措置として設けられていたのです。
具体的には、特定の条件を満たす企業間でのみ株式交換が認められているため、過程も厳格な法的手続きに従わなければいけません。
改正前の株式交換に関する規定は、企業統合を厳しく規制し、透明性と公正性を確保することを大事にしています。
改正後
税制改正後、株式交換に関する規定が柔軟化され、より多様な企業統合が可能となりました。
株式交換に関する改正は、市場の動きに迅速に対応できることによる企業の成長や競争力強化を促進するために導入されました。
改正後の新しい規定は、企業間の統合をよりスムーズに行い、経済活動の活性化に貢献することを目指しています。
例えば、以前に比べて小規模企業同士の株式交換や異業種間の統合が容易になることで、企業が新市場に進出する機会が増えます。また、手続きが簡素化されることで、企業の負担が軽減されます。
改正後の株式交換に関する規定は、企業統合の機会を拡大させたことで、経済全体の成長を支援する方向に変わりました。
株式交換以外の場合
「株式交換以外の場合」では、税制改正により他の取引形態も変わりました。
下記では、株式交換以外の場合の改正前・改正後の税制について詳しく解説します。
改正前
株式交換以外の改正前、企業統合や買収方法には具体的な規定が少なく曖昧さがありました。
法律が株式交換に重点を置いているため、他の統合方法についての詳細なガイドラインや枠組みが不足していたからです。
ガイドラインや枠組みが不足していると、企業が非株式交換による統合や買収を検討する際に不確実性が生じてしまいます。
例えば、会社分割や資産譲渡といった方法での統合や買収に際して、どのような手続きを踏むべきか、また法的にどのような責任を負うかについて明確な指針がありません。
改正前の状況では、株式交換以外の方法での企業統合や買収は法的な不確実性が高く、経済活動の一部に障壁となっていました。
改正後
株式交換以外の取引の税制が改正された後は、企業統合や買収について新たに規定されました。
多様な経済活動や企業の成長戦略を支援することで、法的な枠組みを現代のビジネス環境に合わせて柔軟にするためです。
例えば、会社分割や資産譲渡といった方法が、企業統合や買収においてより広く利用できるようになることで、企業は戦略的に多様な選択肢を検討できるようになります。
改正後は、株式交換だけでなく、他の方法も法的にサポートされるようになったため、企業統合や買収がより柔軟に行えるようになりました。
まとめ:TOB後のスクイーズアウトはM&Aを成功に導く重要な手法
TOB後のスクイーズアウトは、本当の意味でのM&A成功につながる重要な手法です。
スクイーズアウトを行うことにより、企業は円滑なコミュニケーションや意思決定の迅速化、コストや労力の削減など、長期的な経営戦略が可能となります。
しかし、スクイーズアウトは誰でも実行できるわけではなく、裁判のリスクや高額な支払いの可能性、少数株主の権利を尊重しないといけません。
また、税制改正により株式交換や他の取引の税務ルールが変わることも注意が必要です。
慎重に計画したスクイーズアウトを実行することで、TOB後の企業統合を成功に導きましょう。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
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