目次
- 1 キオクシアはWestern Digitalに買収される?買収の経緯や影響を解説
- 2 キオクシア買収の経緯
- 3 東芝騒動で切り離された半導体事業
- 4 業績悪化による上場断念
- 5 Western Digitalの買収計画
- 6 上場にこだわり買収を拒否
- 7 Western Digitalによる買収が膠着状態に
- 8 Western Digitalが増資を受ける
- 9 Western Digitalによるキオクシア買収の影響
- 10 サムスンに匹敵する半導体事業に
- 11 DRAMを製造できないことに変わりない
- 12 キオクシア買収の懸念点
- 13 キオクシアの買収騒動が東芝に影響を与えている?
- 14 日本企業に拘る日本政府が渋る?
- 15 中国当局の認可
- 16 Western Digitalの株価下落とキオクシアの業績不振
- 17 東芝出身の経営陣との対立
- 18 Western Digital以外の買い手はいる?
- 19 いまだ結末が見えないキオクシアの買収問題
キオクシアはWestern Digitalに買収される?買収の経緯や影響を解説
キオクシアがWestern Digitalに買収されるという報道が2021年8月に出ました。
それから1年9カ月経過した2023年5月現在も買収は成立していません。
大企業、中小企業を問わず買収は簡単に成立するものではありませんが、キオクシアの場合には誕生の経緯の複雑さや各国政府の思惑など様々な事情が絡み停滞を余儀なくされています。
本記事では、キオクシアの買収問題の経緯や成功した場合の影響、買収成立のために超えるべき障害などを解説します。
キオクシア買収の経緯
ロイター通信によると、キオクシアとWestern Digitalは合併について話を進めているようです。
しかし、実質的にはWestern Digitalによるキオクシアの買収です。日本を代表する半導体メーカーであるキオクシアがなぜ買収されることになったのか、その経緯を解説します。
東芝騒動で切り離された半導体事業
キオクシアのホームページによると、キオクシアの株式の40.64%を保有する筆頭株主は東芝です。
理由は簡単でキオクシアは東芝の半導体事業を母体としています。
東芝と言えば最近の泥沼の買収劇が有名かもしれません。
東芝は2016年に原子力事業で巨額の損失を計上しますが、2015年に発覚した粉飾決算の影響で増資を受けられず、半導体事業の売却で経営再建を図ったという経緯があります。
資金獲得のため切り離した半導体事業が東芝メモリです。
そして2019年に東芝メモリの単独株式移転で誕生したのがキオクシアなのです。
東芝の子会社ではありませんが、母体が東芝の半導体事業であり、現在も東芝が筆頭株主なので、東芝の色が濃い半導体メーカーと言えます。
業績悪化による上場断念
買収問題で揺れるキオクシアですが、2020年には単独で上場を目指していました。
これは東芝が持つ株式の売却でキャッシュを得ることが目的でした。
しかし、同年9月28日に上場延期を発表します。
NANDフラッシュ市場におけるキオクシアのシェアは約20%で世界2位です。
2022年にSK hynixがIntelのNAND事業を90億ドルで買収すると発表していますが、Intelは市場シェアでキオクシアの半分程度です。
単純に計算すれば、キオクシアは180億ドル、日本円で2兆円を超える時価総額がついてもおかしくなく、上場に期待が寄せられていました。
しかし、新型コロナの拡大や米中貿易摩擦の影響で業績悪化が懸念され、上場を断念したのです。
Western Digitalの買収計画
2021年8月に米The Wall Street Journalが200億ドル、日本円で約2兆円の買収額でキオクシアと買収について話し合いを進めていると報じました。
実はWestern Digitalとキオクシアは事業提携を進めており、買収自体は想定外のニュースではありませんでした。
2023年3月にもWestern Digitalとキオクシアは、共同開発している3Dフラッシュメモリ技術について公表しています。
報道によれば、Western Digitalが自社のフラッシュ事業を分社化し、キオクシアと合併させ、アメリカで会社設立を計画していました。
Western DigitalはNANDフラッシュ市場でキオクシアに次いで業界シェア3位であり、両社の合併によって巨大半導体メーカーが誕生すると話題になりました。
上場にこだわり買収を拒否
しかし、報道によれば、キオクシアはWestern Digitalの買収の提案を断りました。
キオクシアの広報部は「コメントを差し控える。適切な時期に新規上場をめざす方針に変わりはない」としており、買収を拒否し、あくまで自社単独での上場を目指しました。
キオクシアに出資する東芝や米投資会社BCPE Pangea Caymanも買収について「承知していない」とコメントしており、この時点で買収の話は立ち消えになったと見られていたのです。
Western Digitalによる買収が膠着状態に
Western Digitalによる買収は膠着状態になりました。
キオクシアの拒否の姿勢も要因ですが、それだけではありません。
買収側のWestern Digitalにも原因があります。
手元のキャッシュに余裕のないWestern Digitalは株式交換で買収を実施する予定でした。
しかし、キオクシアとWestern Digitalが属するNANDフラッシュ市場はシェア1位のサムスン電子やIntelなど大手がひしめき合い競争が激化しています。
また、NANDの価格も下落基調にあり、業界全体として黄色信号です。
このような状況でWestern Digitalの株式が2021年6月の高値から年後半にかけて下落傾向にあり、ついには時価総額がキオクシアの企業価値を下回ってしまいました。
これによって、株式交換による買収が進められなくなったのです。
Western Digitalが増資を受ける
株価の低迷で買収の実施が難しくなったWestern Digitalですが、2023年に入って転機を迎えます。
2023年1月のWestern Digitalのニュースリリースによると、投資ファンドのApollo Global ManagementとElliott Investment Managementが共同で9億ドル、日本円で約1200億円の出資をすると発表したのです。
この出資によって、手元資金を確保したWestern Digitalは当初の計画通りに自社のフラッシュ事業を分社化し、キオクシアと合併させ、アメリカで会社を設立する考えです。
Western Digitalによるキオクシア買収の影響
Western Digitalが増資を受けたことで、買収が現実的になりました。
NANDフラッシュ市場を牽引するキオクシアとWestern Digitalが一つになることで、業界やキオクシアにどのような影響があるのでしょうか。
サムスンに匹敵する半導体事業に
NANDフラッシュ市場で市場シェア1位を誇るのはサムスン電子です。
同社は約500億ドルの市場のうち約35%を占めています。
2位に位置するのがキオクシアでシェアは約20%とサムスン電子の後塵を拝します。
3位にSK Hynixが19%で続き、Western Digitalは4位でシェアは約13%です。
キオクシアとWestern Digitalは単独ではサムスン電子に対抗できませんが、合併することでサムスン電子に匹敵する巨大企業が誕生します。
今後の展開によってはサムスン電子を抜いて業界首位に躍り出る可能性を秘めています。
DRAMを製造できないことに変わりない
DRAMは半導体の一種であり、長期記憶のNANDに対して、短期記憶向けです。
サムスン電子やSK Hynixなど大手半導体メーカーがひしめく業界でキオクシアとWestern Digitalは自前でDRAMを製造できません。
半導体業界では半導体を製造するために莫大な先行投資が必要となります。
事業が軌道に乗るまでは時間がかかるので、韓国などは国を挙げて投資を促進しています。
この点、キオクシアとWestern Digitalが合併後に投資を開始してもサムスン電子など大手に追いつけるのかは不透明です。
キオクシア買収の懸念点
キオクシアとWestern Digitalが買収に同意しても超えないといけない壁があります。
様々な懸念があり、これらは外部要因にも左右されます。
特に日本政府や中国政府など政府機関の許可が大きなハードルとなるでしょう。
キオクシアの買収騒動が東芝に影響を与えている?
東芝はキオクシアの株式の40.64%を保有する筆頭株主です。
東芝の意向はキオクシアの経営意思決定に影響を与えます。
キオクシアの母体である東芝も同様に買収で揺れています。
かつては総合電機メーカーとして市場を席捲しましたが、原子力事業の巨大損失計上や粉飾決算による痛手から立ち直れず、日本産業パートナーズ(JIP)を中心として日系企業団による出資が計画されている状況です。
東芝はキオクシアが上場、もしくは買収されるタイミングでキオクシア株を売却することで売却益の獲得を狙っています。
キオクシアの買収が確定しない限り先行きを見通せないのです。
反対に東芝が経営体制の再構築に時間がかかり、キオクシア株を含む保有株式の取り扱いを確定できていないこともキオクシアに影響を与えています。
日本企業に拘る日本政府が渋る?
日本政府はキオクシアがWestern Digitalに買収される可能性を注視しています。
日本政府は半導体・デジタル産業戦略検討会議を開催するなど、半導体業界を成長産業に位置づけ、日本企業の育成に注力する方針です。
東芝の買収についても言えますが、日本政府は半導体関連の企業が外資に買収されることで技術が国外流出することや中国を念頭に軍事転用されることを危惧しています。
キオクシアが外資であるWestern Digitalに買収されることを日本政府が渋るのではないか、承認が認められないのではないか、といった懸念があります。
中国当局の認可
キオクシアは中国で事業展開しているので、買収に際しては中国当局の認可が必要です。
現在、中国は半導体業界の覇権を巡ってアメリカと激しく対立し、米中ハイテク戦争の真っ只中にあります。
アメリカは中国に対し、半導体の輸出規制を課したことで中国系企業は半導体の入手が困難になりました。
アメリカ人のエンジニアが中国から引き上げていることも打撃になっています。
キオクシアは中国企業にNANDを販売していますが、合併後にアメリカ政府によって規制される可能性すらあります。
このような中で中国がアメリカのWestern Digitalと日本のキオクシアの合併を認めることは難しいかもしれません。
むしろ合併の承認を半導体輸出規制の交換カードとして使う可能性もあります。
Western Digitalの株価下落とキオクシアの業績不振
Western Digitalによる買収の報道があったのは2021年8月です。
2021年6月に株価は約75ドルと年初最高値を更新していました。
しかし、10月には52円と3割程度株価は下落し、時価総額はキオクシアを下回る事態になります。
Western Digitalだけでなく、キオクシアの状況も影響します。
キオクシアは中国企業、中でもファーウェイを主要顧客としていますが、米中ハイテク戦争の影響でファーウェイの業績が悪化、キオクシアも影響を受けます。
キオクシアのホームページによれば、2019年3月期の売上高12,639億円に対し2020年3月期9,872億円と売上は大幅に減少。
最終利益は1,667億円の赤字でした。
キオクシアの魅力が薄れてしまったことも買収を停滞させた要因の一つです。
東芝出身の経営陣との対立
東芝を母体とするキオクシアには東芝出身の経営陣が経営に関与しています。
キオクシアには東芝資本が入っているので、東芝の影響が強いです。
しかし、キオクシアが買収を望んでも東芝の再建が進まない状況下での買収や保有株式の扱いが決定しない中で買収が進むことに反対する声が東芝にあり、東芝出身の経営陣がストップをかけているのでは、と疑惑があります。
Western Digital以外の買い手はいる?
上記のような懸念がある中でWestern Digitalによる買収が成功しない場合に他に買い手の見込みはあるのでしょうか。
半導体業界で真っ先に思いつくのはサムスン電子でしょう。
しかし、仮にサムスン電子がキオクシアを買収すると、市場シェアは約6割に達します。
1社が半分以上のシェアを保有する状態では価格競争が起こらないので、独占禁止法の観点から認可されない可能性があります。
キオクシアに次いで3位のシェアを誇るSK Hynixはどうでしょうか。
2位と3位でサムスン電子のシェアを抜きますが、SK Hynixは日本に製造拠点を持たないので、キオクシアとのシナジー効果がないかもしれません。
市場シェアでWestern Digitalに次いで5位にアメリカ系のMicronがあります。
Micronは日本にDRAMの製造拠点を持っています。
キオクシアと合併すれば、国内でフラッシュメモリとDRAMが製造できるのです。
したがって、Micronによる買収が最も現実的かもしれません。
いまだ結末が見えないキオクシアの買収問題
本記事では、キオクシアの買収問題の経緯や影響、買収に際してのハードルなどを解説しました。
株価が低迷したことでキオクシアの買収の目途が立たなかったWestern Digitalですが、増資を受けたことで買収が現実的になりました。
しかし、各国当局の許可や筆頭株主である東芝の意向など超えないといけないハードルはいくつもあり、いまだに結末は見えません。
キオクシアの例は規模が大きいですが、買収に際しての騒動は中小企業も無縁ではありません。
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