企業の株式取引で耳にする、コントロールプレミアム。
プレミアムという言葉から、価値の上乗せを表すことはわかりますが、一体何によって生じる価格差なのでしょうか。
この記事では、コントロールプレミアムの概要と算出方法ついて、対局するディスカウントとの関係と合わせて紹介します。
目次
コントロールプレミアムとは?
コントロールプレミアムとは、直訳通り支配権(コントロール)による価値の上乗せ(プレミアム)を指します。
具体的には、株式の取得により、相手企業の支配権を取得する場合に顕在化する付加価値のことです。
株式取引において、一体なぜ会社の支配権が付加価値を生み出すのでしょうか。
その答えは、当該企業における影響力によるものです。
発行済み株式総数のうち数%など、少ない株式を保有する株主を少数株主といい、発行済み株式総数の50%や3分の2以上を保有する株主を支配株主と言います。
前者の少数株主は、企業の株主総会において大きな発言力を持たないため、経営に深く関与できません。
一方、支配株主は、50%以上で株主総会の普通決議を単独で可決でき、3分の2以上で、株主総会の特別決議を単独で可決できるため、企業経営に大きな影響を及ぼせます。
このように、同会社の株式を保有している場合でも、株式の保有率によって認められる権利や経営への影響力に大きな差が生じるのです。
この影響力の差に着目し、少数株主が保有する株式と支配株主が保有する株式には、価格差が生まれ、この価格差をコントロール・プレミアムと呼びます。
コントロールプレミアムの相場
企業の株式取引では、発行済み株式総数のうち、50%以上が移転する場合にコントロールプレミアムを検討するのが一般的です。
コントロールプレミアムは、少数株主が保有する株式の、おおむね+20%〜40%の範囲に落ち着きます。
しかし、コントロールプレミアムは、会社への影響力による付加価値なため、支配の程度に応じて変動する可能性があります。
たとえば、下記3つの場合は、コントロールプレミアムが高くなる傾向があります。
- 発行済み株式総数の過半数を保有する株主がいない中で、最大数の株式を取得する場合
- 複数の会社が同率で保有する株式を取得した場合(33.3%を3社で保有など)
- 発行済み株式総数の50%を保有する株主が買い増しをした場合
コントロールプレミアムと買収プレミアムの違い
コントロールプレミアムと混同されがちなプレミアムには、買収プレミアムがあります。
買収プレミアムとは、買収価格と買収前市場価格(時価総額)との差額です。
いずれも、資本などの可視化できる価値以外に対して生じる付加価値ですが、価値対象が大きく異なります。
コントロールプレミアムは、発行済み株式総数の50%以上を取得した場合に生じ、価値の対象は「会社の支配権」です。
一方、買収プレミアムは、取引成立後に初めて顕在化する価値であり、価値の対象は「会社の可視化できない資産」です。
つまり、買収プレミアムには、コントロールプレミアム以外に、のれんや自社とのシナジー効果(相乗効果)なども含まれます。
ただ、自社とのシナジー効果は、買い手企業によって大きく異なります。
たとえば、売り手企業のブランド力が、A社にとっては1億円の価値でも、B社にとっては、10億円を支払ってでも取得する価値があるものかもしれません。
コントロールプレミアムが支配権のみに着目した付加価値であるのに対し、買収プレミアムは可視化できない資産全体に着目した付加価値。
さらに、買収プレミアムは、買い手企業によって評価が大きく異なるため、コントロールプレミアムやのれん、シナジー効果を考慮したら、「結果的に市場価格(時価総額)と差額が生じた部分」を表すのです。
コントロールプレミアムの評価方法
企業価値の評価手法には、さまざまにありますが、コントロールプレミアムのみを切り出して、合理的に算出する方法はありません。
コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどのバリュエーションに、内包して評価するのが一般的です。
ここで大切なのが、バリュエーション内に支配株主の関与があるかどうかです。
支配株主の関与がある場合は、そのバリュエーションに支配権が含まれるため、コントロールプレミアムを内包しているとの見方ができます。
一方、支配株主の関与がないバリュエーションは、支配権を含まないため、コントロールプレミアムを評価できない手法と判断します。
この章では、企業価値に用いられる代表的な3つのバリュエーションごとに、コントロールプレミアムの評価可否を見ていきます。
- コスト・アプローチ
- マーケット・アプローチ
- インカム・アプローチ
コスト・アプローチ
コスト・アプローチは、対象企業の純資産に着目したバリュエーションです。
コスト・アプローチは、主に下記2つの企業価値評価手法に分類されます。
- 簿価(ぼか)純資産法
- 時価純資産法
簿価純資産法とは、対象企業の貸借対照表(B/S)に計上された資産から負債を差引いて、純資産をもとに企業価値を評価する手法です。
資産よりも負債が大きい場合には、マイナスの純資産が算出され、債務超過と呼ばれます。
一方、時価純資産とは、対象企業の資産・負債を時価(市場価値)に置き換えた上で純資産を算出し、企業価値を評価する手法です。
貸借対照表の資産・負債を時価に置き換えることで、含み損益を純資産に盛り込めるため、より合理的な企業価値を評価できます。
上記2つのコスト・アプローチ手法では、資産や負債をもとに企業価値を評価します。
会社の資産・負債は、支配株主が利用方法・処分方法を決定できるため、支配権の関与が認められます。
したがって、簿価純資産法と時価純資産法は評価方法こそ違いますが、いずれもコントロールプレミアムを内包する評価手法です。
マーケット・アプローチ
マーケット・アプローチとは、対象企業に類似した企業・株価をもとに、企業価値を評価するバリュエーションです。
マーケット・アプローチは、主に下記3つの評価手法に分類されます。
- 類似会社比較法(マルチプル法)
- 市場株価平均法
- 類似取引比較法
類似会社比較法とは、対象企業に類似した上場企業の評価倍率をもとに、企業価値を評価する手法です。
評価倍率には、1株あたり、純利益の何倍の価値が付いたのかを見るPER(株価収益率)や、1株あたり、純資産の何倍の価値が付いたのかを見るPBR(株価純資産倍率)が用いられます。
つまり、類似会社比較法は、類似企業の少数株主が取引する株価をもとに算出するため、支配株主が含まれず、コントロールプレミアムを内包しない評価手法と言えます。
市場株価平均法とは、上場企業の平均株価をもとに企業価値を評価する手法です。
市場株価平均法も、市場で売買されている株価をもとに算出する手法のため、コントロールプレミアムが含まれません。
類似取引比較法は、過去に生じた類似の株式取引をもとに、企業価値を評価する手法です。
参考にした類似取引が、支配権を含むものであれば、コントロールプレミアムが内包されると考えられます。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、対象企業が将来生み出すであろう経済的利益をもとに、企業価値を評価するバリュエーションです。
代表的な評価手法は、下記の3つが挙げられます。
- DCF法
- 収益還元法
- 配当還元法
DCF法とは、対象企業が将来生み出すフリーキャッシュフロー(FC)を、割引率で割り引いた現在価値に換算して、企業価値を評価する手法です。
また、収益還元法は、対象企業が将来生み出す収益を現在価値に換算して企業価値を評価します。
両算出手法は、計算過程に市場価格が盛り込まれていること、将来予測の観測地点によって支配権の関与が分かれることなどから、コントロールプレミアムの有無が議論されます。
しかし、DCF法と収益還元法は、いずれも事業計画をもとに将来性を予測する手法であり、事業計画の策定には、支配権を持つ支配株主が関与しています。
したがって、DCF法と収益還元法には、コントロールプレミアムが内包されるとの見方が、合理的であると考えられます。
一方、将来の配当額予測をもとに、企業価値を評価する配当還元法は、少数株主のみに着目した手法です。
そのため、インカムアプローチの中で配当還元法だけが、コントロールプレミアムを内包しない評価手法と言えます。
コントロールプレミアムとディスカウントの関係
価値の上乗せをプレミアムと呼びますが、反対に価値が減額されることをディスカウントと呼びます。
この章では、コントロールプレミアムに関連する下記2つのディスカウントを紹介します。
- マイノリティ・ディスカウント
- 非流動性ディスカウント
コントロールプレミアムと対比する「マイノリティ・ディスカウント」
マイノリティ・ディスカウントは、コントロールプレミアムと対局する価値減額のこと。
コントロールプレミアムは、発行株式の過半数以上を取得する場合に、支配権を取得できるため生じる付加価値です。
一方、マイノリティ・ディスカウントは、株式を取得しても、会社の支配権を取得できない、つまり発言力の弱い少数株主になることに着目した価値の減額です。
また、マイノリティ・ディスカウントを考える上で重要なのが、「コントロールプレミアムを含んだ買収価格から差し引く」ということ。
つまり、先述したコスト・アプローチや、インカム・アプローチのDCF法・収益還元法などで算出した企業評価価値から、マイノリティ・ディスカウントを差し引くのです。
実務上、マイノリティ・ディスカウントが用いられるのは、DCF法で算定した結果に対し、少数株主の価値を算出する場合などです。
非上場株の「非流動性ディスカウント」
非流動性ディスカウントとは、非上場企業株式の流動性の低さに着目した価値減額です。
上場企業の株式は、市場での取引が可能なため、買い手を見つけやすく流動性が高いと言えます。
一方、非上場企業は市場での取引ができないため、自ら買い手を探す必要があり、手間がかかります。
この流動性の低さに着目し、類似する上場企業の株価から減額する部分を非流動性ディスカウントと呼びます。
非流動性ディスカウントは、先述したコントロールプレミアムやマイノリティ・ディスカウントとは、着眼点が異なります。
したがって、実務上、非流動性ディスカウントを算出する場合は、コントロールプレミアムやマイノリティ・ディスカウントと別に適用を検討する必要があります。
企業評価価値の算出ではコントロールプレミアムを考慮しよう
この記事では、コントロールプレミアムの概要と算出方法ついて、対局するディスカウントとの関係と合わせて紹介しました。
コントロールプレミアムは、相手企業の支配権に対する付加価値のことです。
また、コントロールプレミアムを企業価値に含めるには、コスト・アプローチや、インカム・アプローチのDCF法・収益還元法など、一部の評価手法を用いる必要があります。
類似会社比較法や市場株価平均法などでは、コントロールプレミアムを算出できないため、注意してください。