民事再生法とは、裁判手続きの1つで、会社が経営不良に陥った際の再生方法の1つです。
民事再生法では、負債の返済は続ける必要がありますが、経営者や従業員を残して会社を継続させられます。
具体的には、経営者が利害関係者の同意の元、会社の再生計画を作成・提示して、事業再生を目指すものです。
今回の記事では、民事再生法の基礎知識や種類、メリットを解説します。
民事再生法を選択した経営者が気になるのは、その後の従業員の処遇でしょう。
民事再生後に、従業員がどうなるかのか、従業員が取れる法的手段と合わせて紹介していきます。
目次
民事再生法とは?
民事再生法は、経営難に陥った会社を立て直すために施行される、倒産法の1つです。
民事再生を申請すると、保全処分申立の元、債権者は債務要求や財産の差し押さえができなくなる代わりに、担保権を実行できます。
担保権は、債務が滞る事態に備えて、連帯保証や譲渡担保権で債権を回収できるように設定するものです。
民事再生の申請後、裁判所で選出された監督委員の監督・指示の元、債務の届け出や会社の財政報告をし、再生計画を作成します。
再生計画が認可されると、その後の3年間、監督委員に監督される中で事業再生を進めることとなるります。
民事再生の申請には予納金が必要です。金額は、負債総額に準じて定められており、最低でも200万円の予納金を収める必要があります。
他にも、弁護士費用や、事業再生のための運転資金も必要です。
倒産手続きの種類や民事再生法との違い
倒産法には、清算型倒産手続きと再建型倒産手続きがあり、民事再生法は再建型倒産手続きに分類されます。
どの方法を選択するのかは、会社の形態や経営者の方針によって様々です。それぞれ、どのような違いがあるのか、詳しく見ていきましょう。
再建型倒産手続き
再建型倒産手続きは、民事再生法の他に、任意整理(私的整理)・会社更生法があります。
将来獲得できる利益で債務の弁済をして、自社の力で再生を計るものです。
財務体質の改善をし、会社を存続させたまま会社の再建を目指します。
次の項で、民事再生法は、任意整理や会社更生法とどのように異なるのか、詳しくみていきましょう。
任意整理(私的整理)との違い
任意整理は、経営困難に陥っている企業の再建を計る手続きです。
債権者集会を開き、会社の再建計画や現在の財務状況を詳しく説明します。
債権者の合意に基づき、返済スケジュールの調整や、債務の免除をしてもらい、会社の再建を計ります。
債権者は、会社が回復した方が債権を回収できる可能性があるため、債務の免除に協力するという形になるのです。
会社更生法と違い
個人でも用いられる民事再生法と比べ、会社更生法は株式会社のみが使える手段です。
また、経営陣の残留について、民事再生法は同じ経営人が継続できますが、会社再生法は役員全員を変更する必要があり、これまでの経営陣は、会社の経営に関われなくなります。
会社自体は存続しますが、経営陣が変わると、経営方針や会社の体質が大きく変わる可能性もあります。
今まで培った経営ノウハウをそのまま使用したい場合には民事再生法を、新しい経営方針で会社を立て直したい場合には、会社更生法を選ぶと良いでしょう。
また、会社更生法は今までの株主が権利を失うため、この点でも、新しい経営方針を円滑に進められるでしょう。
他にも、担保権が使用できないなどの決まりがあります。
手続きは、債務管財人の元、時間をかけて、厳粛に裁判手続きを進めていきます。
しかし、高額な予納金や弁護士費用が必要です。そのため、利害関係者の多い大企業で施行される場合が多い傾向にあります。
精算型倒産手続き
清算型倒産手続きは、営業譲渡などで事業を譲渡したあとに会社を精算をする方法で、会社の再建の見通しが立たない場合に選択する手段です。
会社の清算は消滅を意味し、会社がなくなるため、従業員は全員解雇となります。
精算型倒産手続きには、破産・特別精算があります。
破産
破産は、債務超過や支払いが困難な会社が申請できる裁判手続きです。破産を申請すると、会社の財産は破産管財人により管理されます。
破産申請後はどのような債務があるか届け出をして、会社に残っている財産は債権者に配当されます。最終的には法人がなくなり、会社の債務も消滅します。
特別精算
特別精算は、破産よりも裁判所の関与が弱く、簡易的に実施できる手続きです。
会社の財産を債権者に配当する点と、会社を消滅させる点では破産と同じと言えるでしょう。
しかし、債権を所有する3分の2の債権者の同意書が必要な点で、破産とは異なります。
破産よりも、財政難の度合いが小さいうちから申請できますが、要件が厳しくなると言えるでしょう。
民事再生法のメリット
民事再生のメリットは、3点あります。
- 会社を存続させられる
- 経営陣を残せる
- 従業員の雇用を守れる
会社・経営陣・社員を残し、今までと同じメンバーで会社の再生を目指せます。
特に、事業に精通し、経験やノウハウを持ち合わせる経営陣が会社に残ることは、会社を立て直すために大切だと言えるでしょう。
しかし、会社の体質は今までと変わらず、経営を再生できない場合もあります。
オーナーと経営陣が、立て直しのためにどのような方法で会社を再生させるのか、入念に話し合う必要があるでしょう。
民事再生法のデメリット
一番のデメリットは2点あります。
- 社会的信用の低下
- 担保権の施行
民事再生は、外部からは倒産と同じように取られることも多く、事業再生の障害となる恐れがあります。
取引先とのやり取りも、現金で請求が多くなるでしょう。
もう一つのデメリットとして、担保権の施行があります。
債権者が担保権を施行し、営業に必要な資産を没収されると、営業活動自体が困難になることがあるでしょう。
担保権を施行されないためには、債権者が納得する再建計画を提示する必要があります。
これらの課題と向き合い、会社を立て直す大きな覚悟が必要です。
民事再生後、社員はどうなる?
会社が民事再生をした場合、これまで一緒に働いてきた社員について、誠実に考えなくてはなりません。
解雇の場合には、退職手続きや、再就職の斡旋など、できる限り実施するようにしましょう。
民事再生の場合は、経営者の判断により、社員を残すことも可能です。
コスト削減が必要な場合には、必要な社員だけを残し、残りの社員は解雇する整理解雇を実施します。
解雇された社員は会社都合での退職となるため、すぐに失業保険を受け取れます。
退職金の契約を交わしている場合には、退職金の支払いが必要です。
精算型手続きをした場合は、会社が消滅するため、全社員を解雇することになります。
従業員への解雇通知は、少なくとも、会社消滅の30日前までに済ませる必要があります。
解雇された従業員が取れる法的手段
整理解雇は、解雇された社員のその後の人生・生活の大きな負担になります。
誠実に対処しないと、大きな問題に発展してしまう場合もあるため注意が必要です。
この項では、解雇通知した場合、社員が取れる法的手段にはどのようなものがあるのか詳しく解説します。
未払い賃金の請求
解雇通知を受けた社員は、解雇時点までの賃金と解雇予告手当を受け取る権利があります。
会社がこれらの賃金を支払えない状態にあるときには、未払賃金立替払制度を使用できます。
未払賃金立替払制度は、独立行政法人労働者健康安全機構から、未払い賃金8割を限度に建て替え払いを受けられる制度です。
解雇無効の主張
解雇通知をした社員には、条件により解雇不当を主張する権利と、解雇に通知により、労働していなかった期間の賃金を請求する権利があります。
交渉をされることや、場合によっては労働審判や訴訟になる恐れもあります。社員側が弁護士を雇い訴訟になった場合、1年以上の期間を要することも多くあります。
解雇不当かどうかの判断は、整理解雇4要件を元に判断されます。
整理解雇4要件の詳細は以下の通りです。
- 人員整理の必要性:経営危機など、人員整理の必要性が客観的に認められなくてはならない
- 解雇回避義務の履行:役員報酬の削減、希望退職者の募集など、整理解雇を回避するための努力を尽くした
- 被解雇者選定の合理性:合理的基準を当てはめ、解雇者を適正に判断したかどうか
- 手続きの妥当性:解雇者に解雇の必要性を十分に説明し、納得を得たかどうか
この4要件を満たしていない場合には、解雇が違法と見なされる場合もあり、整理解雇は慎重に実施する必要があります。
解雇無効になった場合も、その後の業務に支障をきたす恐れもあります。解雇通知をする際はよく考え、納得してもらうように丁寧に説明する必要があるでしょう。
失業保険の受給
解雇通知した従業員は、会社都合での退職となります。自己都合の退職よりも、長期間の失業手当を受けられ、生活資金を確保できます。
失業手当の金額や受給期間は、給与や勤続年数により決定します。
ハローワークに行き、失業手当を申請するよう伝えましょう。
民事再生法を理解し、従業員のためにできることをしよう
今回の記事では、民事再生法について、基礎知識やメリットについて解説しました。
民事再生法は、破産法の中でも任意整理や会社更生法と同じ、再建型倒産手続きに含まれます。
会社が消滅する、精算型手続きの破産や特別整理に対して、民事再生法は、会社を存続させ、今までの経営陣や従業員も残して事業再生を目指します。
今までのノウハウや人材を使い、事業再生を進めたい経営者が選択すべき方法だと言えるでしょう。
従業員の雇用を守るという点でも、民事再生は有効な手段です。
万が一、民事再生で、人員整理を指す整理解雇をした場合、従業員側が施行できる法的手段がいくつかあるため、丁寧な説明の元、解雇通知をしましょう。
従業員のその後の生活を壊さないために、失業手当などの受給を斡旋するのも大切です。
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