手形ジャンプとは、手形に記載された支払い期限の延長を要請することです。手形を発行した振出人が、手形を受け取った受取人に非公式に個別で要請します。受取人は承諾するか、承諾しないかを選択しなければなりません。
手形ジャンプを要請するという行為にはどのような意味があるのでしょうか?今回の記事では、手形ジャンプの意味やリスク、要請されたときに確認すべきことと合わせて、約束手形の基本的な意味についても解説します。
目次
手形ジャンプとは
手形ジャンプとは、約束手形の支払期限を要請する行為です。発行済みの約束手形の支払い期限変更し、受取人に対して、手形を決済しないように要請します。
手形の振出人が受取人に手形ジャンプを依頼し、受取人が承諾すると、支払い期限を改めた新しい約束手形を再発行します。これにより、それ以前に発行された約束手形を無効にすることができます。
手形ジャンプは、手形を発行した振出人が手形の受取人に個別に依頼し、一般には公表されません。
手形ジャンプを依頼する要因としては資金繰りの悪化が原因であることが多く、与信上では注意が必要な項目の1つです。
手形について基礎知識を確認
まずは、手形の基礎知識について解説します。手形には約束手形と為替手形の2種類があります。実務上で使われるのは約束手形で、為替手形はほとんど使用されていません。
約束手形とは
約束手形とは、振出人(手形を発行した人)が受取人(手形を受け取った人)に対して決めたれた期日までに記載された金額を支払うことを約束した証書です。業務上で使われる手形のほとんどは約束手形なので、一般に手形というのは、約束手形のことを指しています。
支払いが発生した際に手形を使うことで、数千万を超える取引も手形1枚で済むので、現金を用意する手間や紙幣を数える手間も省けます。支払い期限が先になるため、その代金がなくとも取引が可能ということです。
金融機関から借り入れる場合と比べても、無利子で支払いの延長ができる点がメリットと言えるでしょう。
手形割引とは
手形の支払期限が来る前に現金化することを手形割引といいます。手形の受取人は、基本的に手形の支払い期限が来るまではその手形を現金化することはできません。しかし、支払期限よりも前に金融機関などにその手形を買い取ってもらうことで、支払い日までの利息分等を差し引いた現金を入手することが可能となります。
手形の不渡りとは
手形の不渡りとは、振出人が支払い期限までに手形に記載された金額を準備できないことです。登録された当座預金口座の残高が1円でも足りないと受取人は現金を受取ることはできずに、手形不渡りとなります。
この場合、銀行は約束手形に不渡付箋を貼り、委任を受けた銀行を経由して振出人のもとへ返却されます。
手形不渡りと手形ジャンプの意味
取引先等で手形の不渡り発生や、手形ジャンプを依頼された場合、資金の準備が間に合っておらず、資金繰りが厳しいことが想定されます。すなわち、経営が危うい状況を疑わなくてはなりません。
よって、手形不渡りと手形ジャンプの依頼は、倒産の予兆の中でもかなり厳しいものであることが予測されます。
手形ジャンプの要請があったときに確認すべきこと
手形ジャンプによる支払い期限の延長は、先の項でも申し上げた通り代表的な倒産の予兆です。一度、支払い期限が遅れた場合には、その後の支払いも恒常的に遅れていくことが予測されます。
そのため、一度手形ジャンプの要請を受け入れてしまうと、その後も依頼される可能性が高くなるということです。
手形ジャンプの要請があった場合、慌てずに、冷静に事実を確認しましょう。要請を受けたそのときこそが、情報を聞き取る一番のチャンスといえます。
確認すべきポイントは、資金繰りの実態がどうなのかという点と、要請を受けることで経営を立て直すことができるのかという点です。
そのためには以下のことを確認するようにしましょう。
- いつまでにいくら分の支払いを延長したいのか
- 不足している金額はいくらか
- 手形ジャンプを要請しているのは自社のみか
- 他社への対応はどうしているのか
- 要請は一時的なものなのか、恒常的なものか
など、相手方の会社の状況がわかるような事項を聞き出します。
この場合、即答せずに一旦会社に持ち帰り、会社や上司へ確認したくなりますが、確認している間に相手方が倒産してしまうことも十分に考えられます。そのため、できる限りその場で要請に対する返答することをおすすめします。
即答できない場合でもその日中に返答するなど、できる限り早めに対応しましょう。
手形ジャンプの要請をうけるときの対応
手形ジャンプを要請された際に、手形の受取人がすべき対応やできる対応は以下の通りです。
- 資金繰り表を提出してもらう
- 契約書を作成してもらう
- 延長した機関分に利子を上乗せする
- 裏書人を追加する
- 担保を取る
全ての項目は難しいかもしれませんが、できる限り、これらのことをしておくと、万が一の際に自社の損害を最小限にできるでしょう。
資金繰り表を提出してもらう
手形ジャンプの要請があった場合には、月ベースで資金繰り表を提出してもらう方法が推奨されています。取引先にこのような要請をしても良いのだろうかと思うかもしれません。
しかし、手形ジャンプを要請するほとんどの場合、銀行とも交渉していることが考えられます。その際に提出している資料をもらうのが良いでしょう。
そのような資料さえ作成していないということは、銀行と交渉・相談できる状況でもないくらい事態が深刻化していることが予測されます。
契約書を作成してもらう
手形ジャンプの要請を承諾する場合には、資金繰り表と合わせて、繰延依頼書を作成してもらうようにしましょう。そして、その後の打ち合わせ内容と回答を文章で記録します。口頭だけで約束することはもしもの際にとても危険です。
万が一、法定での闘争になった場合では、書いたものが残っているかどうかがポイントとなるためです。
延長する期間分に利子を上乗せする
手形ジャンプで支払い期限が延長された場合、自社の予測していた収入が延期となり、財務的に厳しくなるでしょう。そのため、承諾する手形の受取人は、延長する分の利子を請求することができます。
裏書人を追加する
裏書人とは、手形を譲り渡す人を指します。裏書に書かれた人(会社)は、手形の振出人が不渡りを出した場合に、その振出人に変わって代金を支払う、いわば、保証人のことを指します。
手形に裏書人の記載がない場合には、その記載を依頼することで、万が一、振出人となる会社が倒産しても代金を回収できる可能性が残されることになります。
また、裏書人の追記を依頼して、振出人が裏書人を用意できるということは、倒産する可能性が少ないという見方もできるでしょう。
担保を取る
振出人に物的な資産があれば、それを担保として確保する方法もあります。物的なものとは、土地や建物などお金以外の資産を指します。
担保を取ることは難しいかもしれませんが、これにより、手形ジャンプを承諾し、取引先である振出人の資金繰りが改善されると、多少の恩を売ることができたということになります。
手形ジャンプのリスク
取引先が手形ジャンプを要請してくるということは、これまでの項でも解説した通り、資金繰りが苦しいということです。
ポイントはその規模がどのくらいかということです。例えば、今月の支払い期限に間に合わない場合でも、来月に大口の入金があり、それ以降は資金繰りが順調になることも考えられます。その場合には、その大口取引に関する契約書などを見せてもらうようにしましょう。
しかし、手形のジャンプを承諾し、支払期限をずらしたそのときまでにその会社が倒産せずに残っている保証もありません。そのまま会社が倒産してしまった場合、現金の回収は不可能に近くなります。
そのため、取引先との関係上の問題もありますが、安易に承諾しないようにし、承諾する場合でも状況に合わせた対策を取り、承諾することを心がけましょう。
約束手形は金額が大きいのが特徴でもあります。一回の手形ジャンプが自社の存続にも関わる大きな問題になることもあるため、独断で判断するのではなく、場合によっては専門家の意見も取り入れることも考えましょう。
手形ジャンプはなるべく受けない法がいい
今回の記事では、手形ジャンプの方法や要請された際の対応について解説しました。手形ジャンプとは、約束手形における期限の延長を要請する行為を指します。
手形ジャンプを承諾するということは、自社がリスクをかぶることです。そのため、なるべくなら受けないようが良いでしょう。
期限までに支払いが間に合わないということは、取引先の資金繰りが厳しい可能性があります。手形ジャンプの要請はすぐに承諾するのではなく、相手の資金繰りの状況をよく聞き出すことが重要です。
状況を聞き出し、倒産の可能性が低い、または、今回の手形ジャンプを承諾することで苦しい資金繰りが解消される場合には承諾することも視野に入れましょう。そして、承諾する際には、口約束でなく、契約書を作成してもらい、書面でやり取りすることをおすすめします。
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