M&A(企業の合併・買収)のニュースを目にする機会が増えましたが、取り組みが成功するか否かは契約成立後の統合作業と大きく関わります。
M&A後の統合作業をPMI(Post Merger Integration)と呼びますが、PMIの基礎知識や具体的な業務内容がわからない人も多いでしょう。
本記事では、PMI業務の全体像・具体的な内容・成功に導くためのステップなどを解説します。
目次
- 1 【基礎】PMIとは?
- 2 PMIの3つの側面
- 3 M&AにおけるPMIの重要性
- 4 【フェーズ別】PMI業務の具体的な内容とは
- 5 統合準備フェーズのPMI業務
- 6 統合初期フェーズのPMI業務
- 7 統合中期フェーズのPMI業務
- 8 統合安定フェーズのPMI業務
- 9 【部門別】PMI業務の具体的な内容とは
- 10 組織におけるPMI業務
- 11 システムにおけるPMI業務
- 12 人事におけるPMI業務
- 13 PMIを成功させるための5つのステップ
- 14 1. PMI計画の策定
- 15 2. デューデリジェンスの再確認とギャップ分析
- 16 3. 統合チームの発足とコミュニケーション体制の構築
- 17 4. PMI実行
- 18 5. モニタリングと改善
- 19 PMI業務の重要性を理解してM&A後の成長を加速させよう
【基礎】PMIとは?

PMIは「M&A後の統合作業」と訳され、M&Aが成立した後に、複数の組織を一つの企業体として効果的に機能させるための一連のプロセスを指します。
M&Aの目的である「シナジー効果(相乗効果)」を創出するためには、PMIが不可欠です。
PMIのプロセスを軽視すると、期待した効果が得られないばかりか、組織内に混乱を招き、最悪の場合はM&Aが失敗に終わる可能性もあります。
PMIの3つの側面
PMIは、単一の作業ではなく、大きく分けて経営統合・業務統合・意識統合という3つの側面から成り立っています。
経営統合・業務統合・意識統合の3つの側面は相互に関連しており、バランスを取りながら進めることが成功の鍵です。
経営統合 | 統治体制と戦略の方向性を統一し、グループ全体としての価値を最大化する。 |
業務統合 | 日々の業務プロセスやインフラを統合し、非効率を解消して生産性を向上させる。 |
意識統合 | 異なる企業文化を持つ従業員同士の壁を取り払い、一体感を醸成して組織力を高める。 |
上記3つの統合を効果的に進めることで、M&Aの目的達成度の向上に期待できます。
目に見えにくい意識統合は時間がかかりますが、おろそかにすると他の統合の足かせとなるため、早期から丁寧に取り組む必要があります。
M&AにおけるPMIの重要性
PMIはこれほどまでに重要視される理由は、PMIがM&Aの成功確率を直接的に高める活動だからです。
PMIを適切に行うことで、以下のようなメリットが期待できます。
- シナジー効果の最大化
- 運用リスクの最小化
- 人材の流出防止
- 企業価値の向上
PMIを軽視すれば、上記のメリットは得られません。
現場の混乱が続き、従業員のモチベーションは低下し、結果として期待したシナジーも生まれず、M&Aは「高価な買い物」で終わってしまうリスクが発生します。
【フェーズ別】PMI業務の具体的な内容とは

PMIは、M&Aの契約締結(クロージング)を境に、時間軸に沿って段階的に進められます。
本章では、PMIを4つのフェーズに分け、それぞれの目的とおもな業務内容を解説します。
統合準備フェーズのPMI業務
統合準備フェーズのPMI業務では、デューデリジェンス(買収監査)で得られた情報を基に、統合のグランドデザインを描くことがおもな業務です。
M&A成立後の3~6カ月を目安に優先して取り組むべき統合内容をまとめた「ランディングプラン」と呼ばれる計画を策定し、クロージング翌日(Day1)からスムーズにスタートを切れるように準備します。
具体的には、PMIチームの組成・統合方針の決定・Day1計画の策定などの実行です。
統合初期フェーズのPMI業務
クロージング後の約100日間は、具体的な実行計画を策定する期間です。
経営陣と従業員側とのコミュニケーション活性化や短期的な効果の創出など、重要性の高い要素に関する実行計画を策定します。
実行計画は100日プランと呼ばれ、統合後の組織を安定させて目に見える成果を早期に示し、内外のステークホルダーに安心感を与えることが目標です。
統合中期フェーズのPMI業務
統合中期フェーズでは、M&Aで期待されるシナジー効果を本格的に創出するための、難易度の高い施策を実行します。
たとえば、基幹システムの統合・業務プロセスの標準化・人事制度統合などです。
期間はクロージング後1年程度が目安です。
統合安定フェーズのPMI業務
クロージングから1年以上が経過し、主要な統合タスクが完了した後のフェーズです。
統合効果のモニタリング・企業文化情勢・新たな成長戦略作成などを実施します。
PMIは、統合効果を測定して継続的な改善サイクルを回すことで企業のさらなる成長に期待できます。
【部門別】PMI業務の具体的な内容とは

PMIは、特定の部門だけが進めるものではなく、全社横断的な取り組みです。
本章では、特に重要となる組織・システム・人事の3つの部門における、具体的な業務内容を解説します。
組織におけるPMI業務
組織に関するPMIは、企業の骨格を再設計する作業です。
重複する機能の整理や、意思決定プロセスの迅速化などが目的です。
項目 | おもな業務内容 |
---|---|
組織構造の設計 | ・新しい組織図(事業部、部門)を作成する ・各部門の役割と責任範囲を明確にする |
役職・役位の統合 | ・両社で異なる役職名や等級制度を統一する ・新しい役職に適切な人材を配置する |
会議体の再編 | ・経営会議や事業部会議など、重要な会議体を再定義する ・報告ルートや意思決定プロセスを明確化する |
決裁権限の見直し | ・新しい組織構造に合わせた決裁権限規程を策定する ・権限委譲を進め、現場の自律性を促す |
拠点・オフィスの統合 | ・重複する支社や営業所、工場などを統廃合する ・新しい本社機能の場所や役割を決定する |
システムにおけるPMI業務
ITシステムの統合は、PMIの中でも特に専門性が高い業務のひとつです。
ITシステムは業務の根幹を支えるインフラなめ、慎重かつ計画的な推進が求められます。
項目 | おもな業務内容 |
---|---|
ITインフラの統合 | ・ネットワーク、サーバー、データセンターを統合する ・メールやグループウェアなどのコミュニケーションツールを統一する |
基幹システム(ERP)の統合 | ・会計、人事、販売、購買などの基幹システムを統一する ・統合方式(片寄せ、新規導入など)を決定し、実行する |
業務アプリケーションの整理 | ・各部門で使用している個別の業務アプリを棚卸しする ・機能が重複するアプリは廃止・統合する |
データ統合・管理 | ・顧客マスタや商品マスタなど、重要なデータを統合・クレンジングする ・データガバナンスの体制を構築する |
セキュリティ体制の強化 | ・両社のセキュリティポリシーを統一し、より高いレベルに引き上げる ・統合に伴う新たなセキュリティリスクを洗い出し、対策を講じる |
人事におけるPMI業務
人事に関するPMIは、企業文化の融合を通じて、従業員のモチベーションとエンゲージメントを向上するのがゴールです。
項目 | おもな業務内容 |
---|---|
人事制度の統合 | ・等級、評価、報酬、退職金といった制度を統一する ・どちらかの制度に寄せるか、全く新しい制度を作るか方針を決定する |
労働条件の統一 | ・就業規則や労働時間、休日・休暇などのルールを統一する ・労働組合との協議が必要な場合は、誠実に対応する |
福利厚生の調整 | ・住宅手当や社員食堂、保養所などの福利厚生制度の格差を是正する |
人員配置と人材育成 | ・新組織における適材適所の人員配置を行う ・統合後の新しい方針に合わせた研修プログラムを開発・実施する |
企業文化の融合 | ・両社の価値観や行動規範を分析し、目指すべき新しい企業文化を定義する ・経営層からのメッセージ発信や、交流イベントなどを通じて浸透を図る |
PMIを成功させるための5つのステップ

PMI業務を成功に導くためには、場当たり的な対応ではなく、体系立てられたアプローチが必要です。
本章では、PMIを効果的に推進するための5つのステップを解説します。
1. PMI計画の策定
誰が・何を・いつまでに・どのように行うかを明確にしたロードマップを作成します。
- 目的と目標の明確化:シナジー目標を具体的な数値(例:3年後にコストを5%削減)で設定します。
- タスクの洗い出しと優先順位付け:実行すべきタスクを全て洗い出し、「緊急度」と「重要度」の観点から優先順位を決定します。
- スケジュールの策定:各タスクの担当者と完了期限を定めた、詳細なスケジュール(ガントチャートなど)を作成します。
- 体制の構築:PMIを推進する責任者(PMIリーダー)と、各部門の担当者からなるPMIチーム(PMO)を正式に発足させます。
2. デューデリジェンスの再確認とギャップ分析
M&Aの交渉段階で行われたデューデリジェンス(DD)の情報を、PMIの観点から再評価します。
DDで明らかになった課題やリスクが、実際の統合プロセスにどのような影響を与えるかを分析し、計画に織り込みます。
たとえば、財務統合計画におけるリスクが想定される場合は、引当金の計上や資金繰りを見直しが必要です。
また、基幹システムの老朽化が課題となった際は、追加のIT投資予算を確保しなければなりません。
3. 統合チームの発足とコミュニケーション体制の構築
両社からメンバーを選出し、一体となってPMIを推進する体制を築くとともに、円滑な情報共有のためのコミュニケーション計画の策定も重要です。
- PMO(Project Management Office)の設置:PMI全体の進捗管理、課題解決、部門間の調整役を担う専門組織を設置します。
- 分科会の設置:「人事」「会計」「IT」など、専門領域ごとに分科会(ワーキンググループ)を作り、具体的なタスクを実行します。
- コミュニケーション計画の策定:「誰に」「何を」「いつ」「どのように」伝えるかを体系的に計画し、従業員の不安を払拭し、関係者の協力を得ます。
4. PMI実行
策定した計画に基づき、各タスクを着実に実行します。
計画と現実の乖離を常に把握し、柔軟性をもって対応しましょう。
- 100日プランの徹底実行:統合初期の勢いを止めないよう、短期計画を確実に達成します。
- 進捗の可視化:定例会議や進捗管理ツールを用いて、PMI全体の進捗状況を常に可視化し、チーム全体で共有します。
- 課題の早期発見と解決:問題が発生した場合は、速やかにPMOや経営層にエスカレーションし、迅速な意思決定を促します。
5. モニタリングと改善
PMIは「実行して終わり」ではありません。
計画通りに進んでいるか、期待した効果が出ているかを定期的に測定・評価し、必要に応じて計画を修正していくプロセスが不可欠です。
領域 | KPI(重要業績評価指標)の例 |
---|---|
財務 | ・売上シナジー達成率 ・コスト削減額・削減率 ・統合関連費用(実績 vs 予算) |
業務 | ・システム統合の進捗率 ・業務プロセスの標準化完了率 ・サプライヤー集約によるコスト削減率 |
人事 | ・従業員離職率(特にキーパーソン) ・従業員エンゲージメントサーベイのスコア ・研修プログラムの参加率・満足度 |
顧客 | ・顧客満足度調査のスコア ・顧客離反率 |
PMI業務の重要性を理解してM&A後の成長を加速させよう

本記事では、M&Aの成否を分けるPMI業務について、基礎知識・具体的な業務内容、成功に導くためのステップなどを解説しました。
PMIは、単なる後処理ではなく、M&Aによって生まれた新しい企業の価値を最大化するための戦略的な経営活動です。
PMIの業務は、計画的かつ丁寧に実行することで、期待を上回るシナジーを生み出すことも可能です。
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