事業承継手段や新規事業への参入手段として活用されている、M&A。
M&Aを検討している場合はM&Aファイナンスを活用して、M&A後の高いシナジー効果や新規事業への本格参入を果たしましょう。
この記事では、M&Aファイナンスの概要や資金調達の流れ、方法について解説します。
目次
- 1 M&Aファイナンス(買収ファイナンス)とは
- 2 M&Aファイナンスの特徴
- 3 M&Aファイナンスが向いている企業
- 4 資金調達の種類2つ
- 5 種類1.コーポレート・ファイナンス
- 6 種類2.ノンリコース・ファイナンス
- 7 M&Aファイナンスの手法とは
- 8 手法1.シニアローン(シニアファイナンス)
- 9 手法2.メザニンローン(メザニンファイナンス)
- 10 M&Aファイナンスを利用する手順
- 11 手順1.インディケーションレターの取得
- 12 手順2.コミットメントレターの取得
- 13 手順3.タームシートの合意
- 14 手順4.買収契約とローン契約の締結
- 15 手順5.担保と保証の差し入れ
- 16 手順6.債務の管理・ローンの返済
- 17 M&Aにおける「ファイナンスアウト条項」について
- 18 M&Aファイナンスの事例を紹介
- 19 セブン&アイ・ホールディングス
- 20 昭和電工
- 21 M&Aファイナンスの注意点:自社の利益になるM&Aファイナンスか?
- 22 M&A仲介会社はご自身で選ぶ
- 23 M&Aファイナンスを利用して新規事業に参入しよう
M&Aファイナンス(買収ファイナンス)とは
M&Aファイナンスとは「買収ファイナンス」とも呼ばれ、主に金融機関や投資家からM&A実施に必要な買収資金を調達することを意味します。
M&Aは企業の「合併と買収」を意味し、主に買い手企業が売り手企業の発行済株式の過半数以上を取得して成立するのです。
この株式の取得のための費用を金融機関や投資家から調達します。
M&Aファイナンスの特徴
M&Aファイナンスとファイナンスなしで全額自己資金で賄うことの違いは何でしょうか?
まず、金融機関からの借入であるデットファイナンスの場合には元金と利息の返済義務があります。
また、株式を投資家に発行等して資金を集めるエクイティファイナンスの場合には会社の支配権に影響を及ぼします。
一方で、どちらの場合も自己資金にレバレッジをかけて資金調達することが可能です。
M&Aファイナンスを受けない場合は、M&Aにかかる費用を全額自己資金で賄うことになります。
金融機関への返済義務や会社の議決権への影響がない一方で、自己資金にレバレッジをかけることはできず、比較的少額の資金しかM&Aに活かすことができません。
M&Aファイナンスが向いている企業
M&Aファイナンスが向いている企業は、自己資金以上のM&A案件の獲得を目指している場合です。
上述の通り、M&Aファイナンスを活用することで自己資金以上の資金を調達することが可能なため、自己資金だけでは賄えないような大型のM&A案件であっても資金調達が可能です。
M&Aファイナンスを活用して、大型のM&A案件を成約させ、M&A後に高いシナジー効果を期待している場合・新規事業への本格参入を狙っている場合は、M&Aファイナンスは魅力的な資金調達手段です。
資金調達の種類2つ
資金調達の方法は、資金調達の主体により「コーポレート・ファイナンス」と「ノンリコース・ファイナンス」にわけられます。
それぞれの特徴をみていきましょう。
種類1.コーポレート・ファイナンス
コーポレート・ファイナンスの場合、資金調達の主体は買い手企業です。
一般的な設備投資で資金調達する方法と変わりません。
つまり、買い手企業の与信によって通常の借入をおこないます。
コーポレート・ファイナンスは買い手企業の与信、つまりは信用力に基づいて資金調達をするため、比較的審査に通りやすいというメリットがあります。
買い手企業にとっても通常の借入と変わらないため、難解な手続は不要です。
あくまでも買い手企業の信用力に基づいて資金調達をするため、売り手企業の信用力が高い場合でも資金調達可能な額や期間には影響しません。
種類2.ノンリコース・ファイナンス
M&Aファイナンスでは、ノンリコールファイナンスが用いられることが一般的です。
ノンリコースファイナンスの場合、資金調達の主体は買収目的で設立される特別目的会社。
したがって、買い手企業の信用力ではなく、売り手企業の今後の収益力・信用力を担保とした資金調達方法です。
そのため、買い手企業に信用力がない場合でも資金調達が可能。
コーポレート・ファイナンスと異なり、売り手企業の収益力次第で資金調達ができます。
一方で、審査が比較的通りにくく、借入後のモニタリングも厳しい傾向にあります。
M&Aファイナンスの手法とは
M&Aファイナンスは資金調達の手法によって、「シニアローン(シニアファイナンス)」と「メザニンローン(メザニンファイナンス)」にわけられます。
それぞれの特徴をみていきましょう。
手法1.シニアローン(シニアファイナンス)
シニアローンは、通常の融資の際に利用するローンと同様の仕組みであり、M&Aファイナンスでも多く活用されています。
負債での調達となるため、与信審査は厳しく担保の設定が求められるのが一般的です。
一般的に資金調達方法には、金融機関からの借入である負債と投資家から資金を募る株式の発行がありますが、返済は負債の方が優先されることがポイントです。
したがって、返済期間が短い傾向にありますが、審査結果によっては資金調達額を満たせない可能性があります。
通常の融資と同様に厳しい与信審査があり返済が優先されるため、貸し手にとってはリスクが低く、貸出のハードルが低いといえます。
そのため、金利も低く借り手にとっても負担の小さい手法です。
手法2.メザニンローン(メザニンファイナンス)
メザニンローンは、シニアローンで十分な資金調達を行えなかった場合に活用する手法です。
メザニンローンは劣後ローンとも呼ばれ、貸し手からすると返済順位が劣後するため、ハイリスクハイリターンの資金調達手法です。
したがって、金利が高く設定されており、借り手としても金利負担が大きくなります。
また、借入期間はシニアローンよりも長く設定される傾向にあり、返済期間が長い分利息負担が大きくなる可能性もあります。
一方で、メザニンローンは借入の際のコベナンツ(債務者の義務・制限など)が少ないです。
そのため、シニアローンよりも審査は緩和される傾向にあり、資金調達がしやすいというメリットがあります。
M&Aファイナンスを利用する手順
M&Aファイナンスを利用する手順を紹介します。
一般的なシニアローンについて、手順を詳しくみていきましょう。
シニアローンとは、他の債権よりも優先的に返済が行われる低リスクのローンです。
手順1.インディケーションレターの取得
インディケーションレターとは、金融機関に貸付可能と判断された場合に発行される貸付条件などが記載された資料です。
具体的には、融資金額や期間などの条件が記載されています。
インディケーションレター取得のためには、まず金融機関と守秘義務契約を締結。
その後、金融機関に対して、買収対象企業についての資料を提出し、金融機関が分析・検討を開始します。
検討内容をもとに、インディケーションレターが交付されます。
インディケーションレターはあくまで金融機関からの提案資料であるため、交付されたらリターン計算・買収交渉へ向けた検討を実施します。
手順2.コミットメントレターの取得
インディケーションレターの条件で金融機関と合意後、コミットメントレターの取得に進みます。
コミットメントレターとは、金融機関がM&Aの買い手に対して融資を実行する意思を表明した書類のことです。
融資を実行する意思の他に、ローンの締結や融資実行の条件・コミットメントの有効期限が記載されています。
金融機関が買い手企業の与信判断をおこない、融資条件を決定すると交付されます。
コミットメントレターの内容は、後述するタームシートに近いものです。
コミットメントレターが提出されることで、資金調達の不安要因が排除され、交渉が前に進むこともあります。
手順3.タームシートの合意
コミットメントレターが交付された後は、タームシートの合意へ進みます。
タームシートに記載されているのは、融資金額や金利などの融資についての具体的な条件・表明保証など、詳細なストラクチャリングを反映した条件などです。
タームシートは法的拘束力はありませんが、最終的な融資契約などのベースとなるため、弁護士などを利用して検討され、金融機関と貸し手企業が交渉した結果、合意されます。
したがって、タームシートでまとめられた内容は基本的に遵守されることになります。
手順4.買収契約とローン契約の締結
タームシートに基づいて金融機関との間でローン契約を締結します。
ローン契約の契約書には、資金使途、前提条件、弁済に関する事項、表明保証、期限の利益の喪失事由、債権譲渡に関する事項、制約事項、権利調整に関する事項が記載されています。
ローン契約が締結されるタイミングで、買収契約締結です。
買収契約はローンの契約に影響するため、金融機関にも買収契約の内容を共有しておく必要があります。
手順5.担保と保証の差し入れ
売買契約とローン契約が締結され、融資が実行された後、M&Aの手続を進めます。
融資実施の後には、金融機関が債券の回収を確実にするために担保の提供と保証の差し入れが行われます。
担保は売り手企業の株式について設定されますが、回収時には担保権が行使されますので、売り手企業の事業価値を損ねない担保設定の方法が必要です。
担保と保証の差し入れで債券をカバーできない場合は、不動産や預貯金などを担保として差し入れることもあります。
手順6.債務の管理・ローンの返済
融資が実行された後は、ローンの返済が開始。
元本返済期日までに元本全額を返済する必要があります。
また、金融機関は債権回収を確実にするため、ローン契約に基づきモニタリングを実施します。
さらに金融機関の求めに応じて、財務諸表の提出や財務に関する事象の報告が必要です。
M&Aにおける「ファイナンスアウト条項」について
ファイナンスアウト条項とは、M&Aにおける買い手企業が金融機関からの借入によって買収を実施する場合に、買収実行の前提条件として「金融機関からの借入ができること」を設定する条項です。
ファイナンスアウト条項は買い手にとって有利な条項です。なぜなら、金融機関からの借入によって資金調達に成功しない限りは買収が実行されないからです。
一方で売り手企業にとっては、買い手が借入に成功しない限りは買収されないために不安定な状況に置かれます。また、借入が成功するために売却価額などで譲歩を迫られる可能性もあるのです。
したがって、ファイナンスアウト条項はM&A交渉において買い手企業の立場が有利な場合に締結されると言えます。
M&Aファイナンスの事例を紹介
これまで解説した通り、M&Aファイナンスとは、企業買収にあたって金融機関や投資家から資金調達をすることを指します。
ここからは、実際に外部からの資金調達によってM&Aを成功させた事例を見ていきましょう。
セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングスは国際協力銀行からの資金調達によって、Speedwayブランドにて運営するコンビニエンスストア事業及び燃料小売事業の買収に成功。
買収総額は210億米ドルという巨額でしたが、国際協力銀行及び三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行の協調融資によって資金を調達しました。
国際協力銀行は海外における日本企業の競争力強化を任務としていますので、公共性が高く、国益にかなうM&Aであれば資金調達がしやすいと言えます。
また、政府系銀行が融資することで、民間の金融機関の呼び水となったこともこのM&Aが成功した要因と言えます。
昭和電工
昭和電工による日立化成の買収は株式公開買い付けによって実施されました。
株式の取得費用はみずほ銀⾏からの融資やみずほ銀⾏・⽇本政策投資銀⾏によるA種優先株式の引受/出資によって調達されています。
こちらは総額1兆円近い大型M&Aでしたが、資金調達に成功した要因は主に以下のとおりです。
- ⽇⽴製作所と⽇⽴化成が株式公開買い付けに賛同したことで有効的M&Aとなった
- 昭和電工の盤石な財務基盤が評価された
- コスト⾯のシナジーとして 3年後を⽬途に年間200億円以上の効果が見込まれること
このように確実に返済されると判断された為、資金調達に成功したと言えます。
M&Aファイナンスの注意点:自社の利益になるM&Aファイナンスか?
M&Aファイナンスは、買収企業が必要性を判断する以外にも、金融機関から提案されるケースが多いです。
提案されたM&Aファイナンスが、買収企業の利益よりも金融機関の利益が優先されていることもあります。
したがって、まずは自社の利益となるM&Aファイナンスが提案されているかを調査。
自社が検討していた内容であれば活用し、そうでなければ、状況に適した資金調達方法を検討・選択しましょう。
M&A仲介会社はご自身で選ぶ
M&Aファイナンスを利用する場合は、金融機関から仲介会社を紹介されるケースもあります。
ただし、金融機関にメリットがある仲介会社であることが多いため留意しましょう。
金融機関から紹介された仲介会社以外にも、複数の仲介会社を検討・仲介会社の実績や報酬体系などを考慮することが大切です。
M&Aファイナンスを利用して新規事業に参入しよう
この記事では、M&Aファイナンスの概要や資金調達の具体的な方法、そしてM&Aファイナンスを利用する手段などについて解説しました。
買収する企業の規模によっては多額の買収資金が必要となります。
M&Aファイナンスを活用しると、手元以上の資金調達が可能であるため、自己資金だけでは買収が不可能な大型M&A案件であっても実施を検討できます。
M&AファイナンスやM&Aを検討している方はパラダイムシフトに相談してはいかがでしょうか。
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