合同会社(ごうどうがいしゃ)は、2016年に改正された「会社法」に基づく会社形態の一つです。
改正以来、合同会社の設立件数は増加傾向にありますが、合同会社を対象としたM&Aの件数は停滞しています。
この背景には、株式会社とは異なる合同会社の特殊性によってM&Aが困難であることが挙げられるでしょう。
本記事では、合同会社のM&Aの可否やM&Aが難しい理由、事業譲渡のメリットなどを解説します。
目次
合同会社のM&Aは可能なのか?
合同会社は2006年の会社法改正で認められた新しい会社形態です。
株式会社と異なり、合同会社は出資者たる社員が経営を行う点が特徴です。
一般的な株式会社と異なる会社形態ですが、M&Aで買収することが可能なのでしょうか。
法律上M&Aする会社形態に制限はない
日本では、合同会社のM&Aに関して法律上の特別な制限はありません。
合同会社のM&Aに関しては、株式会社と同様のルールが適用され、事業譲渡や経営権の移転が可能です。
独占禁止法により、競争を阻害する恐れのあるM&Aは制限されることがありますが、これは株式会社も同様となります。
ただし、後述するように合同会社の特殊な会社形態が影響して、仕組み上は合同会社のM&Aは株式会社より難易度が高いので、注意が必要です。
可能でも合同会社をM&Aするメリットがない?
法律上の制限がなくても合同会社をM&Aするメリットは少ないかもしれません。
例えば、株式会社と異なり、合同会社は上場できないので、買収して会社規模が拡大しても上場はできません。
上場できないので、株式発行による資金調達もできません。
社債や銀行借入を中心とした資金調達になるので、経営に事実上の制限がかかります。
また、合同会社では出資額に関係なく、議決権は平等です。
10人社員がいる場合、1人から持分を買収しても議決権は全体の10分の1です。
これでは経営権の掌握が困難で、買収後に重要事項を決定することが難しいでしょう。
合同会社を円滑に買収するためには、10人全員の持分を買収しないといけません。
このように持分確保が困難で、上場もできないので、合同会社のM&Aに疑問が投げかけられることがしばしばあります。
合同会社のM&Aが難しいと言われる理由
法律上の制限がないにもかかわらず合同会社のM&Aが難しい背景には合同会社特有の意思決定の方法が関係しています。
合同会社の持分、意思決定の方法に着目して、合同会社のM&Aが難しいと言われる理由を解説します。
社員全員の同意がないと持分譲渡ができない
合同会社のM&Aが難しいので、会社形態を株式会社に変更した上でM&Aを実施することを考えるかもしれません。
しかし、会社形態の変更も持分譲渡同様に重要事項に該当し、持分を有する社員全員の同意が必要となります。
さらに組織変更計画の策定、債権者保護手続き、登記、官報などさまざまな手続きが必要で、時間と費用がかかるプロセスです。
つまり、合同会社から株式会社へ会社形態の変更を経て、M&Aを実施する場合には会社形態の変更なしに合同会社を買収する場合よりさらに手続きが煩雑になってしまいます。
ただし、売り手側の視点で、将来に合同会社を売却する計画がある場合に株式会社に組織変更をして、買収を容易にしておく方法は検討できるでしょう。
社員の過半数の同意がないと事業譲渡ができない
持分譲渡のハードルが高いので、現実的な方法として事業譲渡が考えられます。
事業譲渡とは、会社の全部もしくは一部の事業を売却する方法で、売却する事業を選択できる点や売却後も法人格が残る点が特徴です。
合同会社の事業譲渡は重要事項ではなく、通常業務に分類されます。
しかし、会社法第590条2項によると、通常業務の執行には社員の過半数の同意が必要です。
つまり、事業譲渡の場合でも社員の過半数が同意しないと実施できません。
多数の社員がいる規模の大きな会社では、過半数の同意を得るための調整に時間を割かないといけません。
持分譲渡より簡易ですが、株式会社に比べて手続きは煩雑であると言えます。
議決権の確保が難しい
株式会社では、出資額に議決権が比例し、過半数の議決権で普通決議、3分の2以上の議決権で特別決議の可決が可能です。
しかし、合同会社では出資額に関係なく議決権は平等となります。
社員が10人いる場合に1人の持分を取得しても議決権は10%です。
合同会社では、重要事項の決定に社員全員の同意が必要です。
社員全員の意見を調整することが難しい場合があるので、合同会社の経営権の掌握には社員全員の持分を取得する必要があると言えます。
しかし、株式会社に比べて、議決権の確保が難しく、持分譲渡を目指しても最終的に経営権の掌握ができない可能性があります。
合同会社の事業譲渡のメリット
合同会社の持分譲渡は相当難易度が高いと言えるでしょう。
現実的な選択肢は事業譲渡になります。
事業譲渡には社員の過半数の同意が必要ですが、持分譲渡に比べると、簡易な手続きで済みます。
合同会社の事業譲渡にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
売却する事業を選択できる
会社全部を譲渡する持分譲渡に対して、事業譲渡は会社の全部もしくは一部の事業を売却します。
売却する事業は選択可能なので、売り手は不採算事業や利益が不安定な事業のみ売却し、売却資金を残した事業に投資して、経営基盤を強化することが可能です。
最近では、「選択と集中」という観点で株式会社でも実施されています。
すべての事業を選択することも可能で、売却後に新しい事業を開始することができます。
買い手にとっても買収したい事業を選択できるので、買収に踏み切るのが容易です。
特に不要な事業資産や簿外債務の引き継ぎを回避したい場合に事業譲渡はメリットになるでしょう。
持分譲渡よりハードルが低い
事業譲渡の最大のメリットは持分譲渡に比べて手続きが簡便な点です。
合同会社では、持分譲渡は重要事項の決定に該当するので、出資者たる社員全員の同意が必要になります。
しかし、事業譲渡は通常業務に該当するので、社員の過半数の同意で済みます。
合同会社に所属するすべての社員の同意を得ることが困難である場合には事業譲渡に切り替えることで、M&Aがスムーズになるかもしれません。
特に社員が多い場合や社員の間で持分譲渡について意見が合致しない場合に有効でしょう。
合同会社のM&Aを検討する際には社員の同意が得られるかに注意しましょう。
従業員の雇用が維持される
M&Aを実施する時に会社を支えてきた従業員の雇用問題は大きな関心事でしょう。
持分譲渡では、経営権が買い手に掌握されるので、従業員の雇用は買い手次第です。
しかし、事業譲渡では、従業員の雇用契約を引き継ぐことができます。
従業員の同意が必要ですが、事業譲渡の契約書に従業員の雇用が維持される旨を記載すれば、事業譲渡後も雇用が継続されます。
従業員は所属する会社が変わってもこれまでと同じ仕事に従事することが可能です。
万が一、買い手が従業員を解雇すれば、不当解雇となる強制力があります。
会社自体は存続する
持分譲渡では、合同会社が包括的に承継され、消滅します。
しかし、事業譲渡では会社自体ではなく、一部の事業のみ売却するので、会社自体は存続することになります。
一部の事業を売却した資金で新しい事業を開始したり、財務基盤を強化することができるでしょう。
出資者たる社員の持分比率に変更はなく、これまで通りの運営が可能です。
対外的にも顧客や取引先との関係が維持されるので、突発的な迷惑をかける心配もありません。
これらのメリットを享受し、会社自体の存続を希望する場合には事業譲渡を選択しましょう。
合同会社の事業譲渡のデメリット
持分譲渡より難易度が低い事業譲渡ですが、事業譲渡にも注意点があります。
特に権利や資産の引き継ぎの煩雑さや売却後に負債を抱える可能性は無視できません。
合同会社の事業譲渡のデメリットを詳しく解説します。
権利や資産移転手続きが複雑
持分譲渡では、合同会社に属する権利や資産が包括的に承継されます。
しかし、事業譲渡では、権利義務や資産の移転、契約の締結を個別に行う必要があるのです。
取引先が多岐に渡る場合やリース契約が複数ある場合、複数の工場や不動産を所有している場合には手続きが煩雑になるかもしれません。
契約は円滑に締結し直すことができるとは限りません。
会社の強みや評判がオーナー社長に依存しており、「あの社長だから取引を続けてきた」という場合にはM&Aを契機に取引が終了する可能性もあるでしょう。
M&A実施前にデューデリジェンスを実施し、移転しなければならない資産や契約などを把握し、それぞれの引き継ぎ方法を検討しておく必要があります。
事業譲渡後に負債が残る可能性がある
売り手は事業譲渡によって負債を抱えるかもしれません。
持分譲渡であれば、資産と負債を買い手が包括的に承継しますが、事業を個別に引き継ぐ事業譲渡では、手元に負債が残るかもしれません。
債務超過に陥れば、合同会社の数少ない資金調達手段である銀行借入が困難になる可能性があります。
負債を事業の売却益で清算できることが理想ですが、売却益からは法人税と消費税が差し引かれることを考慮しましょう。
事業譲渡を実施する場合には、実施後に残る負債をどのように返済するのか事前に計画を立てることが大切です。
M&A実施時に会社形態に注意しよう
合同会社でも株式会社と同様にM&Aを実施できますが、出資額に関係なく社員全員が議決権を有するという特性上、難易度が高いと言えます。
事業譲渡は、持分譲渡より難易度が低いので、合同会社のM&Aで最も現実的な選択肢となるでしょう。
売却対象の会社形態が株式会社か合同会社かという違いはM&Aの難易度に影響を与えるので、事前に確認しておきましょう。
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