M&A

M&Aスキームごとの会社法的手続

この記事では、M&Aのスキームごとに、会社法上必要とされる手続について説明します。M&Aスキームとしては、株式譲渡、事業譲渡、組織再編(合併、会社分割、株式交換・株式移転)を取り上げます。

1. 株式譲渡

株式譲渡は、被買収会社の株主と買収会社との間で、売買の性質を持つ契約によって行われます(被買収会社は当事者となりません)。
株式は、会社法上は、自由に譲渡できるのが原則とされています。上場会社の株の売買は、証券会社を通して誰でも行うことができますが、これは、この会社法上の原則によります。

もっとも、会社は、定款の定めにより、株式の全部または一部について、譲渡制限を付することができます(後者の場合には種類株式となります)。
株式に譲渡制限が付されている場合(スタートアップや中小企業ではそれが通常です)、その株式を譲渡するためには、事前に株主から、また、事後に株式取得者から、譲渡の承認を請求する必要があります。承認をするかどうかの判断は、取締役会設置会社においては取締役会が、取締役会非設置会社においては株主総会が行います。

後者の場合には、特別決議事項となります。この手続は、株主を保護するためのものであるため、例えば代表取締役が行うことはできません。
事後に承認を請求したが承認が得られなかったという場合、譲渡は当事者間では有効ですが、会社に対して主張できず、会社は従前の株主をなお株主として取り扱えばよいことになります。

もっとも、事前に請求した場合も含めて、承認請求をしたが承認が得られなかったという場合、株主または株式取得者は、株式会社または株式会社が指定する買取人による買取りを請求することができます。

なお、株式譲渡には債権者異議手続はありません。株式譲渡は、会社の帰属を変更するだけであり、会社の法人格、契約関係、保有財産には影響がなく、したがって、会社債権者に株式譲渡それ自体によって直接的な不利益が生じるおそれはないためです。

2. 事業譲渡

事業譲渡は、被買収会社と買収会社との間で、売買の性質を持つ契約によって行われます(株主は当事者となりません)。
▼参照 事業譲渡

事業譲渡には債権者異議手続はありません。債務が承継される場合、事業譲渡においては、相手方の個別の同意が必要とされていることから、移転を望まない債権者は、同意しなければよいためです。

これに対して、逆に、主要な収益性の高い事業が譲渡される場合に、ある債権者に対する債務が承継されない場合には、その債権者にとっては、引き当てとすることができる資産が減少し、回収可能性に影響が生じます。

そのため、2014年改正会社法により、そのような債権者は、譲渡会社と譲受会社のいずれもが債権者を害することを認識していた場合には、承継財産を限度として、譲受会社に直接に債務の履行を請求することができることとなりました。

3. 組織再編

(1) 組織再編の概要

組織再編には、合併、会社分割、株式交換・株式移転があります。
▼参照 各用語説明
吸収合併
新設合併
会社分割
株式交換
組織再編行為には、新たに会社を設立するものと、そうでないものがあります。

新たに会社を設立しないのは(承継型組織再編)、吸収合併、吸収分割、株式交換、新たに会社を設立するのは(新設型組織再編)、新設合併、新設分割、株式移転です。

(2) 組織再編の手続

ア 書類備置義務

組織再編においては、株主総会決議・反対株主の株式買取請求、債権者異議手続が必要とされますが、株主・債権者の権利の行使の資料とするため、当事会社は、書類備置義務を負います。

具体的には、組織再編契約・組織再編計画の内容などを記載した書面・ファイルを本店に備え置かなければならず、株主・債権者の請求に応じて閲覧、謄本又は抄本の交付などをさせなければなりません。

イ 株主総会決議、差止め、反対株主の買取請求

組織再編は、会社の基礎的変更であり、株主に重大な影響を与えるため、株主総会の特別決議による承認が必要とされています。ただし、次の場合には省略することができます。

①吸収合併、吸収分割、株式交換において、存続会社・承継会社・完全親会社が特別支配会社(議決権の90%以上を有する)である場合の消滅会社・分割会社・完全子会社の株主総会決議(略式組織再編)。
株主総会を開催しても可決されることが明らかであるためです。

②吸収合併、吸収分割、株式交換において、消滅会社・完全子会社の総資産額、分割に係る資産額が存続会社・承継会社・完全親会社の総資産額の20%を超えない場合の存続会社・承継会社・完全親会社の株主総会決議、会社分割において、分割に係る資産額が分割会社の総資産額の20%を超えない場合の分割会社の株主総会決議(簡易組織再編)。
株主に与える影響が軽微であるためです。

承認決議が違法になされた場合、株主は、組織再編自体の差止請求をすることができます。急速を要するため、訴訟ではなく、仮処分を申し立てることとなります。また、承認決議が適法になされた場合でも、反対株主および略式組織再編における少数株主は、株式買取請求権を行使することができます。

株主にとって重大な影響が生じるため、金銭と引き換えに退出することを認めるものです。

(3) 債権者異議手続

組織再編は、債権者の引当資産、ひいては回収可能性に影響を与えるため、債権者異議手続が必要とされています。

債権者異議手続の詳細については別記事をご参照ください。

4. 第三者委員会について

以上が会社法上要求される手続ですこれらの手続は、取締役が株主の利益を最大化するよう行動することを前提としています。

しかし、実際には、MBOや、親子会社間でTOBや株式交換、スクイーズアウトが行われる場合には、取締役と株主の全部または一部との間に利益相反が生じます。
もちろん、そのような場合であっても、取締役は会社に対して善管注意義務・忠実義務を負っており、これを怠れば、損害賠償責任を負います。

しかし、構造的に利益相反のおそれがある以上、それらの義務に頼ることは望ましくありません。そこで、第三者委員会が設置されることがあります。

第三者委員会は、社外取締役・社外監査役や、弁護士・公認会計士などの専門家、商法学者などから構成され、支配株主や経営者との間に利害関係を有しない中立的な観点から、株主の共同の利益の観点から当該M&A取引が望ましいかどうかについて、意見を述べます。

第三者委員会は、先に述べたとおり、会社法上義務付けられているものではなく、これを設置しなかったり、委員の選任や職務執行に問題があったりしたとしても、直ちに法的問題を生じさせるものではありません。

しかし、公正な方法でM&Aを行ったかという意味で信用に関わりますし、法的にも、少数株主が差止請求をしたり、買取価格決定を申し立てたりする場面で、会社の意思決定の正当性を補強するという意味があります。

5. スケジュール

株式譲渡、事業譲渡については、取締役会決議・株主総会決議が必要とされるにすぎないため、スケジュールは複雑ではありません。

取締役会については、1週間前までに、株主総会については、公開会社においては2週間前までに、非公開会社においては1週間前までに招集する必要があります。

これに対して、組織再編においては、複数の手続を同時並行で行わなければならないため、複雑です。
まず、効力発生日前の手続として、以下のものがあります。

①組織再編の効力発生日の20日前までに、株主・新株予約権者に対する通知・公告をしなければなりません。

②組織再編の効力発生日の1か月前までに、債権者に対する催告・公告をしなければなりません。

③株主・新株予約権者に対する通知・公告、債権者に対する通知・公告、組織再編の承認に係る株主総会の2週間前の日のうち、いずれか最も早い日から、書類備置を行わなければなりません。

次に、効力発生日後の手続として、以下のものがあります。

④効力発生日から2週間以内に、登記をしなければなりません(承継型のみ。新設型の場合は登記時が効力発生日)。

⑤効力発生日から6か月間、組織再編事項書面等の備置をしなければなりません。
この期間は、組織再編無効の訴えを提起することができる期間と一致しています(瑕疵を争いたい株主等のための情報提供制度であるため)。

6. まとめ

株式譲渡は、被買収会社の株主と買収会社との間で、売買の性質を持つ契約によって行われます(被買収会社は当事者となりません)。

事業譲渡は、被買収会社と買収会社との間で、売買の性質を持つ契約によって行われます(株主は当事者となりません)。

いずれも債権者保護手続はなく、取締役会決議(株式に譲渡制限が付されており、かつ、取締役会設置会社の場合)・株主総会決議のみが必要とされます。
ただし、事業譲渡における残存債権者については、譲受会社に対する直接請求権が与えられることがあります。

組織再編(合併、会社分割、株式交換・株式移転)においては、株主総会決議のほか、株主総会決議と債権者保護手続が要求され、また、株主は、差止請求と買取請求(反対株主)が可能です。
株主・債権者等を保護するため、書類備置義務が課されます。これらの手続は同時並行で行われるため、スケジュールをよく検討する必要があります。

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