M&A

M&A交渉の肝「バリュエーション」の種類と内容を解説

1. バリュエーションとは

バリュエーションとは「企業価値評価」のことです。
M&Aにおいて、最も大切な指標は「買収価格」です。売り手はなるべく高く、買い手は安く買いたいと考えています。しかし、両者の思惑は相反するため話し合いだけでは解決しません。

売り手・買い手双方の意思を把握しながら、相手側に一定の納得感を与えることが交渉において重要です。そのため、買収価格を決める説明責任を果たす上で大切なのが「企業価値」で、企業価値を算定するプロセスを「バリュエーション」と呼びます。

M&Aにおける売買価格の公正性のため、バリュエーションは独立した第三者機関による評価を参考にすることが一般的です。

2. バリュエーションの種類

バリュエーションの種類はいくつかありますが、大きく次の3つに分類されます。

1) インカムアプローチ

2) マーケットアプローチ

3) コストアプローチ

それぞれ詳しく解説します。

(1)インカムアプローチ

インカムアプローチとは、将来見込まれる収益(インカム)やキャッシュフローに注目して企業を評価するアプローチです。主に次の2つの手法があります。

ア. DCF法

M&Aの現場で最も使われるのは、インカムアプローチの中のDCF法です。DCF法では、事業によって生み出される将来キャッシュフローを、加重平均資本コスト(WACC)で割り引くことで株式価値を算定します。
収益を得られるのが将来になればなるほどその価値は下がります。つまり、10年後にもらえる100万円よりも、今すぐに100万円をもらった方が価値あるという考え方です。

たとえば、金利が年率3%つくとすると、現在の100万円は1年後103万円になります。このことを考えると、現在の100万円は1年後の100万円よりも価値があると考えられるわけです。

そこで、将来得られる収益の価値を減らして、全部足し合わせたらどのくらいの価値になるかを計算するのがDCF法です。 DCF法の計算式は以下の通りです。

企業価値=企業が生み出すキャッシュフローの期待値÷加重平均資本コスト(WACC)

企業が生み出すキャッシュフローは、一般的に「フリーキャッシュフロー」と呼ばれています。フリーキャッシュフローの計算式は以下の通りです。

フリーキャッシュフロー=営業利益×(1-法人税率)+ 減価償却費―運転資本増加額―設備投資額

企業が生み出すキャッシュフローの期待値=フリーキャッシュフローの期待値になります。

フリーキャッシュフローの期待値は、毎年得られるフリーキャッシュフローをもとに予測。通常は過去の業績を参考に5年先まで予測します。ただ、将来のフリーキャッシュフローをどう見込むか、割引率となる加重平均資本コスト(WACC)をいくらとみなすか、というのはプロでも見方が異なります。

DCF法は個人の予測に基づいており、確定的な答えはないことを理解しておく必要があります。ただ、DCF法はファイナンスの常識になっており、M&Aの実務上もっとも合理的なバリュエーション手法になっています。

イ. 配当還元法(Dividend Discount Method)

配当還元法とは、株主が受け取る配当にもとづいて株主価値を計算する方法です。
株主が直接受け取る現金である配当金の期待値を割り引くことによって、株主価値が直接計算されます。

損失が生じているために配当できない企業や、しばらく配当が見込めない成長企業においては株主価値の計算が困難で、配当が低位安定の企業は過小評価になりやすいという欠点があります。

ですから、配当還元法は企業収益性が配当政策に正しく反映されている場合に適している方法です。株主配当還元法の計算式は次の通りです。

1株あたりの評価額=1株あたり配当金額 ÷ 資本還元率

(2)マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、実際にマーケットで取引されている価格を直接的、もしくは間接的に参照して評価する方法です。他の手法に比べて客観的に企業価値を算出できるメリットがありますが、短期的な市場の変化に影響を受けやすくなります。

市場のトレンド次第で買収価格が大幅に異なってしまう恐れもあります。しかし、客観性の高い手法なので、M&Aにおけるバリュエーションに活用する事例が増えています。

マーケットアプローチは、主に次の3つがあります。

ア. 市場株価法

市場株価法は、評価対象企業が上場している場合に用いられます。株価の一定期間における平均値などを利用して評価する方法です。

株価は、長期的に会社の収益力に基づく企業価値を適正に反映すると考えられますが、短期的には企業価値と無関係に変動することがあります。そのため、毎日の終値を1~3カ月程度の期間で平均値を取り、これを評価額とするのが一般的です。

イ. 類似会社比較法(マルチプル法)

類似会社比較法は、評価対象企業と類似する上場企業の財務数値と比較することによって評価する方法です。
利益やEBITDA、純資産といった財務指標から算出されたマリチプル(倍率)を評価対象企業に適用することで、評価対象企業の企業価値を算定します。

評価対象企業が上場していない場合は市場株価が存在しないので、市場株価法に代替する手段として利用されます。

▼参考記事:類似会社比較法(M&A用語集)

ウ. 類似取引比準法

類似取引比準法は、類似するM&A取引事例の取引価額を用いて評価する方法です。しかし、取引対象が非上場である場合、財務数値が全て公開されているわけではないため類似度の判定が難しく、中小企業のM&Aでは利用されることが少ない手法です。

(3)コストアプローチ

コストアプローチとは、財務諸表に記載された企業の純資産を基に企業価値を評価する方法です。最も簡単な手法ですが、すでにある帳簿上の結果をもとに算出するので、客観性に優れたバリュエーション手法です。
ただし、将来的な収益力を考慮できないという欠点があります。

コストアプローチの手法は、主に次の4つです。

ア. 時価純資産法

評価対象企業の帳簿上における、すべての資産と負債を時価に置き換えて純資産を評価する方法です。
貸借対照法上の資産と負債だけでなく、計上されていない無形資産(特許や商標など)についても時価評価することで価値を計上(オンバランス化)します。しかし、無形資産の評価が難しい場合は、オンバランス化を省くこともあります。

▼参考記事:時価純資産法(M&A用語集)

イ. 簿価純資産法

簿価純資産法は、評価対象企業の資産や負債の帳簿価額を用いて純資産評価する方法です。時価純資産法と似ていますが、無形資産の再評価はしません。

土地や建物・有価証券などで含み損益が大きく、かつ、時価評価しやすい項目のみ修正して企業価値を評価します。

ウ. 再調達原価法

再調達原価法とは、評価対象企業の事業をゼロから創業した際、どれぐらいの総コストがかかるかを尺度として測定を行います。つまり、評価対象企業に属する個別の資産・負債を、現時点で取得し直す場合に必要となる金額を表しています。

エ. 清算価値法

評価対象企業を精算(解散)した場合、株主が得られる金額の時価を利用した評価方法。通常、清算価値は株式価値の下限になります。

3. まとめ

M&Aのニーズは近年高まっていますが、その際に最も重視されるのが買収価格です。買収価格を決めるための判断基準が企業価値。そして、企業価値を算定するプロセスが「バリュエーション」です。

バリエーションは次の3つに分類できます。

1) インカムアプローチ

2) マーケットアプローチ

3) コストアプローチ

ただし、どの計算方法を使ってもバリュエーションの数字が一つに決まることはありません。各アプローチの特徴を抑えながら、適正な企業価値を判断するようにしましょう。

4. 関連記事のご紹介

「バリュエーション」に関して、下記の記事もご紹介しておりますので、併せてご覧になってください。

(1)【M&Aのバリエーションで使われるEBITDAとは】

M&Aで買収対象となる企業を絞り込んでいく際に重要視されるのが、「EBITDA(イービッダー)」です。
企業価値評価のツールとして使われるEBITDAの仕組みについて詳しく解説しております。

(2)【M&AにおけるEBITDAの重要性について】

M&AにおけるEBITDAの活用例について説明しております。

(3)【赤字企業(債務超過企業)のM&Aとバリュエーション方法】

赤字企業の場合、価値がつかないと思っている方もいるでしょう。ここでは、赤字企業のM&Aにおけるバリュエーション方法について、詳しく解説しております。

(4)【マルチプル法とは?実際の使用例とともに解説します】

M&Aの適正な価格はどのように算出されるのでしょうか。一つの方法として「マルチプル法」について具体的に解説しております。

(5)【インカムアプローチとは?その他の企業価値算定方法と比較します】

インカムアプローチに焦点を当てて、メリットやデメリット、具体的な計算方法(DCF法と収益還元法)などをお伝えしております。

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