M&A

EC・通販業界のM&A・買収・売却の事例と傾向

今回はEC・通販業界で起こっているM&A・買収・売却のいくつかの事例と、業界の動向について紹介していきます。

1.EC・通販業界の拡大する現状について

EC(電子商取引)は近年成長を遂げている分野です。実際の店舗を構えてものを売る従来の小売りは、インターネットの誕生によって大きく変化しています。

リアル店舗では、商圏がその店舗を訪れられる人に限定されますが、インターネット上にウェブサイトとして店舗を置いた場合、商圏は日本全国のサイトにアクセスできるすべての人をカバーすることができます。

ECは1997年の楽天株式会社の「楽天市場」、1999年の「Yahoo!ショッピング」、2000年の「Amazon」のサービス開始などからスタートしました。2009年にはiPhone3の登場によって、消費者はスマートフォンから手軽に商品を注文することができるようになり、市場規模は拡大を続けています。

経済産業省による調査、『令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)』を見ると、日本国内のEC市場規模は2019年に19兆3609億円に達しており、直近の成長率も7%と高い数字で推移しています。

電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました 経済産業省 閲覧日2020年10月3日 https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200722003/20200722003.html

2.EC市場で起こっている事例

まずは、そのようにして拡大を続けるEC市場で起こっているM&Aの事例を以下で見ていきます。

近年ではEC業界ではAmazonやYahoo!ショッピングのような企業から消費者へとビジネスを展開する「BtoC」だけでなく、メルカリに代表される消費者同士CtoCによる取引も増えてきており、CtoCビジネスについても触れていきます。

(1)京王百貨店とセレクチュアーのM&A事例

最初に、京王百貨店がクックパッドの子会社、セレクチュアーを買収した事例を紹介します。京王百貨店は新宿店、聖蹟桜ヶ丘店を中心に百貨店を展開する企業です。セレクチュアーは通販サイト「アンジェ」を運営している会社で、主に20代~40代の女性顧客を多く抱えています。

このM&Aでは「客層の拡大」と「販路の拡大」をもくろむ京王百貨店と、クックパッドの事業の集中という方針がはまって合意に至りました。リアル店舗を持つ企業のECへの参入の象徴的な事例として見ることができます。

クックパッドがセレクチュアーを京王百貨店に10.4億円で譲渡、売却益は約5億円 https://netshop.impress.co.jp/node/3574

(2)セブン&アイ運営のECサイト「オムニ7」とアスクルの業務提携

二つ目に紹介するのはセブン&アイによるアスクルとの提携です。セブン&アイは実店舗とネット通販を連動させて販売を展開する「オムニチャンネル戦略」を打ち出し、方針に従って積極的なM&Aを行ってきました。2015年11月に通販サイト「オムニ7」をリリースし、当初は1兆円の売上を目指していました。しかし、現状の売上は100億円程度と、予定を大幅に下回っています。

またセブン&アイはアスクルとの提携によって2017年からスタートした生鮮食品のネットスーパー事業「IYフレッシュ」にも取り組みました。しかし、サービスは伸びず、2年あまりで2019年に終了しています。

このように、セブン&アイはECに参入をしようとしているものの、立場の確立に苦戦しています。Amazonや楽天市場など、先行するサービスとの激しい競合がいることも原因の一つでしょう。

セブン&アイの「オムニ7」は失敗? 井阪社長が明かすオムニチャネル施策を転換する理由 https://netshop.impress.co.jp/node/3652

(3)ヨドバシカメラによる石井スポーツの全株式買収

ヨドバシカメラの運営するECサイト「ヨドバシ.com」はAmazonに次ぐ売上高を誇っています。そのヨドバシカメラが近年行ったM&Aの事例をご紹介します。

ヨドバシカメラは2019年4月、アウトドア用品店のICI石井スポーツの全株式を取得し、完全子会社としました。同年11月には、石井スポーツが運営するECサイト「石井スポーツ ストア」を「ヨドバシ.com」の中にオープンしています。

株式会社ICI石井スポーツの株式譲受けに関するお知らせ yodobashi.com/ec/support/news/190403080000/index.html ヨドバシカメラが子会社「石井スポーツ」のECサイトを「ヨドバシ・ドット・コム」に統合 https://netshop.impress.co.jp/node/6905

(4)メルカリによるアントラーズの買収

メルカリはそのフリマアプリによってCtoCビジネスを代表する存在です。ここまでは企業と個人(BtoC)間のものを取り上げてきましたが、個人間(BtoB)ビジネスを展開する企業のM&Aの事例として紹介します

メルカリは2019年7月に株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シーの株式を取得して子会社化しました。フリマアプリがなぜサッカーのJ1チームを買収したのか、メルカリはその理由を3つ挙げています。

1つ目にメルカリを知らない人に対する顧客層の拡大、2つ目に長い間Jリーグで活躍した伝統を元に、新しい企業であるメルカリのブランド力を向上させること、3つ目にビジネス機会を創出すること。つまり、知名度の向上を狙ったM&Aであることがわかります。

株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シーの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ https://pdf.irpocket.com/C4385/GDpy/CbZp/obyf.pdf メルカリ社長「鹿島はJ成功の象徴」 経営権取得の理由 https://www.asahi.com/articles/ASM7Z635LM7ZUTQP01V.html

(5)ヤフーによるZOZOの買収

ヤフーは2019年9月にZOZOに対してTOB(株式公開買い付け)を実施し、子会社化を行いました。

ZOZOの運営するECサイト「ZOZOTOWN」の顧客は20代~40代の女性。アパレル分野のECとして最大のシェアを握っています。M&AのZOZO側の主な意図としては、ファッションに対する興味がさほどない新規の顧客に向けたアプローチや、事業の拡大による組織再編の必要性などが挙げられています。

一方でヤフーは顧客の拡大をし、ECで先行するAmazonや楽天に対抗する狙いがあり、双方が合意に至りました。

ヤフー、TOBでZOZOを子会社化へ https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49711370S9A910C1I00000/

3.事例から見られる傾向

ここからはこれらの事例からEC・通販業界にどのような動向が見られるのかを考察していきます。

(1)リアル店舗を展開する事業者によるEC・通販事業者の買収

一つ目の傾向には、まず、実店舗を展開する事業者が、EC事業を買収することで参入してきていることが挙げられます。冒頭でも述べたように、実店舗では商圏がそのお店に足を運ぶことができる人々のみにとどまってしまいます。

1つ目であげた京王百貨店のセレクチュアー買収の事例からは、ECによって販売チャンネルの拡大を図ろうとする動向をうかがうことができます。事例の2つ目であげたセブン&アイのアスクルとの業務提携も、日本で一番の店舗数(セブンイレブン)を誇る企業によるEC進出の事例として見ることができます。

(2)扱う品目とECとの相性によってM&A後の展開が異なる

動向の2つ目としては、そのECサイトが取り扱う品目によって、M&A後の展開が異なるという点を挙げます。

ァ 不調な食品のEC・通販

例えば、食品系のECはあまり成功しているとは言えません。事例の2つ目ではセブン&アイが食品(特に生鮮食品)のECサイト「オムニ7」の停滞や「IYフレッシュ」の撤退をご紹介しました。

ネットショッピングによって、コンビニからすぐに商品が届く仕組みは画期的なものに思われましたが、利用者はあまり増えませんでした。コンビニが地域に根差したもので「近くて便利」でありすぎるゆえにネットで買うという選択肢がユーザーに広がらなかったのではないでしょうか。

他にもセブン&アイのEC参入がうまくいかなかった原因に、ITジャーナリストの佐々木俊尚さんは「オムニ7」で買われる商品は定番のものが多く、西武やロフトで売っているようなハイクオリティの商品は売れづらいということ、「背伸び消費」から「機能消費」へと消費者の価値観が移行していることなどを指摘しています。

セブンイレブンのEC「オムニセブン」は成功するか?佐々木俊尚氏が解説 https://www.mag2.com/p/news/153986

イ 好調な家電・AV機器のEC・通販

食品を多く扱うセブン&アイがEC参入において苦戦を強いられている一方で、2つ目の事例ではヨドバシカメラの「ヨドバシ.com」は売上高でAmazonに次ぐ規模に成長していることを取り上げました。

生活家電やAV機器はECと非常に相性が良い分野であることは、経済産業省の調査からも見ることができます。物販系分野において、2019年の市場規模は1兆8239億円で3位、EC化率は32.75%で3位。

先ほど紹介したセブン&アイが取り扱う「食品・飲料・酒類」分野を見ると市場規模は1兆8233億円で2位と大きいですが、EC化率が2.89%と致命的に低く、数字はほぼ最下位です。

家電と食品はどちらも市場規模は大きいものの、ECとの相性の良さがまったく違うという点で、上で紹介した二つの事例を対照的なものとして見ることができます。

実際にふだん私たちがネットでショッピングをするときに何を買うのかを考えてみると、想像がしやすいのではないでしょうか。食品は近くのスーパーやコンビニに寄って買うことが多いですが、電化製品やPC用品などは比較的ネットで購入することが多いと思います。

ウ 同じく好調なアパレルのEC・通販

アパレルECのM&AとしてヤフーによるZOZO買収を取り上げましたが、衣服もECに適する分野です。経済産業省の調査では、「衣服、服装雑貨等」が2019年の市場規模で1兆9100億円ともっとも高く、EC化率も13.87%とまずまずの数値です。

ヤフーによるZOZOの買収はZOZOの顧客を「ファッション好きの人」からさらに拡大するという狙いと、事業の拡大によってワンマン運転からの組織再編を意図したものでした。

顧客を拡大するために、知名度のある大企業に事業を売却するという手法はメルカリにも見られました。これらからは、ECサイト単独で得られる顧客と知名度が限界に達したとき、そこからの展開、状況の打開のためにM&Aが用いられている動向も見ることができます。

(3)従来のBtoCに加えてCtoCが急速に拡大

CtoCのEC・通販には大きくわけて競争入札のネットオークションと個人売買のフリマアプリの2つがあります。前者には1999年から始まったネットオークションのヤフオク!などがありますが、近年急速な拡大がみられるのは後者になります。特にメルカリはその市場の成長をけん引する存在です。

2012年の楽天の「フリル(のちのラクマ)」、そして2013年のメルカリの登場によって、フリマアプリの市場は大きく拡大していきました。

2016年から2018年にかけては市場規模が30%を超える勢いで拡大しており、そのことは経済産業省が今まで統計に入れてこなかったCtoCの市場規模推計を2018年から公表するようになったことからもその存在感の増加をうかがうことができます。

事例では、知名度向上を目的としたメルカリによる鹿島アントラーズの買収をご紹介しました。メルカリは他にもスマホ決済の「Origami」の買収や自動車好きのためのコミュニティ「CARTUNES」の買収などを積極的に進めています。

長年成長が横ばいだったネットオークションとは対照的に、フリマアプリ市場が急成長を遂げており、EC業界で無視できない規模になることが予想されます。

4.まとめ

今回の記事ではEC・通販業界のM&Aの事例をいくつか紹介しました。

  • 実店舗を展開する事業者によるEC参入
  • 扱う品目とECとの相性によってM&A後の展開が異なること(例えば食品系は不適。家電や衣料品は適する。)
  • フリマアプリの急速な拡大

そして事例をもとに3つの動向があることを取り上げました。参考になれば幸いです。

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