通常、日本での敵対的TOBは両者にメリットがないことからほとんど実施されません。しかし、今回、SBIホールディングスが新生銀行に対し敵対的TOBを仕掛け、それが成立したことで金融業界に大きな衝撃を与えました。
この記事では、SBIホールディングスの構想や新生銀行のこれまでの歴史等について触れながら、今回の買収について詳しく解説します。
目次
株式会社SBI新生銀行の誕生
2022年10月、SBIホールディングスは銀行持株会社の許可を取得した後、新生銀行の株式を取得しました。
SBIホールディングスは、SBI証券を始めとする証券関連、今回の買収でSBI新生銀行となったSBI銀行などの銀行関連事業、SBI生命保険やSBI損害保険などの保険関連事業のほか、資産運用や投資関係の数多くの子会社としています。
今回、同社が新たに取得した新生銀行の株式と、既に取得していた株式を合せて、全体の50.1%を所有したこととなり、SBI地銀ホールディングスは新生銀行の支配権を得たのです。
そして、新生銀行はSBIの傘下に入り、2023年1月に株式会社SBI新生銀行が誕生しました。
出典:SBIグループ企業一覧
SBIが新生銀行を買収するまでの過程
今回の買収は、SBIホールディングスが新生銀行に対して敵対的TOBを仕掛けたことが発端でした。通常、敵対的なTOBは、双方にメリットがないことからほとんど実行されません。それにもかかわらず、日本の高度経済成長を支えた銀行の一つである新生銀行が、新興勢力であるSBIに買収されました。なぜこのような事態になったのでしょうか?
敵対的TOBとは?
TOBは、株式公開買い付けとも呼ばれ、該当の企業が株式の買付け期間、株式数、株価を公開して、不特定多数の株主から株式を買い集める制度です。
TOBには、友好的TOBと敵対的TOBがあり、大部分は前者の友好的TOBです。売り手企業の経営陣が買い手企業に対して公開株式の買付けを了承します。
敵対的TOBとは、買い手企業が売り手企業の取締役会の同意や、事前の通達を得ずに買収を仕掛けることです。買い手企業は、株主総会で過半数の議決権を得ることで、売り手企業の支配権を取得して経営の支配が成り立ちます。
敵対的TOBは、ライバル社を支配するために実行されることがありますが、敵対的TOBを受けた売り手企業は防衛策を施して、阻止しようとするため、成功する確率は低くなります。
仮に、敵対的TOBが成功しても、世間へネガティブなイメージを与えてしまいます。そのことから、風評以外にあったり、売り手企業の従業員が離職してしまったりと、買収のメリットが受けられない可能性が高くなるのです。
今回の敵対的TOBが成立した理由
前項での説明の通り、敵対的TOBを仕掛けられた新生銀行は、買収防衛策を講じました。そして、機関投資家にアドバイスをするアメリカの会社で、通常は買収防衛策に反対することで知られている「グラスルイス」と「ISS」の2社もこの防衛策に賛成していました。
このことから新生銀行の買収防衛策が発動される見方が強かったものの、結局は新生銀行がこれを取り下げまったのです。これには、新生銀行の約2割の議決権を持つ国が防衛策に賛成しない方針を示したことが大きいとされています。
新生銀行がかかえる問題点
SBIが敵対的TOBを仕掛けたことは大きな話題となっていますが、新生銀行が強気な態度で防衛策を実行すれば、買収が防げたのではないかと考える人も多いでしょう。新生銀行の買収防衛策はなぜ国から賛同を得られず、実行できなかったのでしょうか。
それは、新生銀行が公的資金を完済できていないという問題点があるためです。
新生銀行の前進である日本長期信用銀行は、20年前に経営破綻しました。その際に再建のため、政府から約3500億の公的資金を借りていました。同じ時期に公的資金を借り入れした大手銀行中で唯一現在でも完済できていないのが新生銀行です。
このことから国が大株主となっており、強い態度を取れなかったことが理由として挙げられるのかもしれません。
SBIはなぜ新生銀行を買収しようとしたのか
では、SBIは新生銀行を買収しようと決めたのでしょうか。その理由について解説していきます。
SBIが目指す第4のメガバンク構想
SBIは近年、地方銀行との連携を拡大してきました。
地方銀行は大手のメガバンクと違い、資金や人材に限界があります。そのため、近年のデジタル化や テクノロジーを活用した経営に対応できてない側面があります。
こうした中で、SBIホールディングスは自社が過半数を出資した地方銀行との共同持ち株会社を設立し、金融面だけでなく業務面でも支援をしています。
当初は新生銀行にも業務提携を提案しましたが、新生銀行はその提案を退け、SBIの競合であるマネックス証券と業務提携を結びました。このことからSBIと新生銀行の関係は悪化してしまったのです。
第4のメガバンク構想のフェーズ
地方銀行と共同持ち株会社を設立することは、第4のメガバンク構想へとつながります。
日本には、「三菱東京UFJ銀行」「三井住友銀行」「みずほ銀行」の三大メガバンクと呼ばれる銀行が存在します。SBIホールディングスは、地方銀行と自社グループで協力体制を築き上げて第4のメガバンクを作ろうとしているのです。
SBIホールディングスは、この第4メガバンク構想を実現させるため多くの時間と労力をかけてきました。以下の表は、これまでSBIホールディングスが進めてきたフェーズです。
第一フェーズ | 地銀34社との提携やSBIホールディングスの商品やサービスを提供 |
第二フェーズ | ロボアドバイザーなど新規プラットフォームを整備 |
第三フェーズ | 地方銀行との持株会社を設立 |
現在は第3フェーズにあり、将来的には20個ほどの銀行が共同体として運営することを目指しています。そうすることで、上述した3大メガバンクに続く第4のメガバンクが完成するのです。
SBIが新生銀行を買収した理由
この第4のメガバンク構想の中心にいたのが新生銀行です。その新生銀行が提携に応じず、競合と手を組んだことで敵対的TOBを仕掛けたという理由もあるでしょう。
しかし、上述の通り、新生銀行は政府の公的資金を片金できていない問題点があります。そのような問題を抱える新生銀行を取り込みに返済の資金を完済することで、政府も認めるメガバンクとなる事が狙いなのかもしれません。
SBIの新生銀行買収。今後どのように資金返済をすすめるのかが要点
今回の記事ではSBIホールディングスが新生銀行に対して敵対的TOBを仕掛けたことについて詳しく解説しました。
SBIホールディングスは第4メガバンク構想を掲げ、これまで多くの地方銀行と提携してその構想を進めています。今回新たに、新生銀行が加わることで第4メガバンク構想はさらに現実味を増すものとなったといえるでしょう。
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