M&A(企業の合併・買収)の成功は、契約書にサインした後の統合作業(PMI:Post Merger Integration)が円滑に進むかどうかにかかっています。
しかし、PMIのプロセスでつまずき、期待したシナジー効果を得られない場合もあるでしょう。
本記事では、企業の合併・買収後のPMIの全体像・具体的な進め方・注意点などを解説します。
目次
- 1 買収PMIとは?
- 2 PMIの定義と目的
- 3 PMIの重要性
- 4 PMIの100日プランを成功させるためのロードマップ
- 5 【買収成立前~成立後30日】準備と計画
- 6 【成立後30日~100日】統合の実行とモニタリング
- 7 【100日以降】統合の最適化と効果測定
- 8 100日プラン成功の鍵は重要KPIの設定と進捗管理
- 9 事業買収におけるPMIの注意すべきポイント
- 10 PMIへの影響を理解する
- 11 事業の特性とリスクを考慮する
- 12 PMIの成否を左右する情報収集
- 13 PMIの費用相場
- 14 PMIにかかる費用の内訳
- 15 優先順位付けとリソース配分でコスト削減が可能
- 16 質を落とさずに効率化を目指す
- 17 企業買収後はPMIでビジネスを成長させよう
買収PMIとは?

M&A後の統合作業は、買収の成果を最大化するために不可欠なプロセスです。
本章では、PMIの基本的な定義と目的、M&Aの成功における重要性を解説します。
PMIの定義と目的
PMIは日本語で「M&A後の統合プロセス」と訳され、M&Aが成立した後に、買収側と被買収側の企業を一つの組織として機能させるための一連の作業を指します。
PMIの最終的な目的は、M&Aによって期待されるシナジー効果を最大限に引き出し、企業価値を向上させること。
PMIが目指すシナジー効果は、おもに売上シナジー・コストシナジー・財務シナジー・経営基盤シナジーの4つです。
4つのシナジーの計画的な創出がPMIの目的です。
PMIの重要性
M&Aは、異なる文化や歴史、業務プロセスを持つ組織が一つになるイベントです。
そのため、PMIを計画的に進めなければ、さまざまな問題が発生してM&Aが失敗に終わるリスクが高まります。
PMIは単なる「後処理」ではなく、M&Aの価値を創造するための「攻めの経営戦略」の一部です。
買収価格の妥当性やデューデリジェンス(買収監査)の精度もさることながら、最終的な成功はPMIへの取り組み方にかかっています。
PMIの100日プランを成功させるためのロードマップ

M&A成立後からの100日間は、統合の方向性を決定づける重要な期間です。
本章では、具体的なアクションプランを時系列で整理した「100日プラン」のロードマップを解説します。
【買収成立前~成立後30日】準備と計画
PMIは、M&Aの契約締結(クロージング)以前から始まっています。
初期段階では、統合の土台となる計画策定が最優先課題です。
デューデリジェンスで得た情報を基に、現実的かつ具体的な計画を策定します。
このフェーズで実施すべき主要タスクは以下の通りです。
期間 | 主要タスク |
---|---|
買収成立前 | 1. PMI専任チームの組成 2. デューデリジェンス結果の分析と課題抽出 3. 統合方針(ビジョン・戦略)の骨子策定 |
成立直後~30日 | 1. 統合方針の正式決定と発表(キックオフミーティング) 2. コミュニケーションプランの策定と実行 3. 各機能(人事、財務、営業など)の統合計画策定 |
特に重要なのは、両社の従業員に対するコミュニケーションです。
経営陣が明確なビジョンを示し、統合後の未来に対する期待感を醸成することが、円滑なスタートを切るための鍵です。
【成立後30日~100日】統合の実行とモニタリング
計画フェーズで策定したプランを、実行に移す段階では「Quick Win(短期的な成功体験)」を積み重ね、統合に対するポジティブな雰囲気を組織全体に広げることが重要です。
計画通りに進んでいるかを定期的に確認し、必要に応じて軌道修正を行う柔軟性も求められます。
統合実行のおもな領域とアクションは以下の通りです。
統合領域 | おもなアクション |
---|---|
経営体制 | ・新経営体制の構築と役割分担の明確化 ・役員会の合同開催 |
業務プロセス | ・経理・財務システムの統合方針決定 ・営業・マーケティング活動の連携開始 |
人事・組織文化 | ・主要な人事制度(評価・報酬)の方向性提示 ・両社従業員の交流機会の創出(合同研修など) |
ITシステム | ・ITインフラの現状把握と統合計画の具体化 ・セキュリティポリシーの統一 |
進捗状況は週次や隔週でモニタリングし、課題が発見された場合は速やかにPMIチームで対応策を協議します。
モニタリングと対策のサイクルを迅速に回すことが、計画倒れを防ぎます。
【100日以降】統合の最適化と効果測定
100日プラン終了後は、短期的な施策の成果を評価し、中長期的な視点で統合計画をさらに進化させていくフェーズに入ります。
特に注力すべき点は以下の通りです。
- 効果測定と評価:100日プランで設定したKPIの達成度を測定し、シナジー効果が計画通りに現れているかを評価します。
- 課題の深掘りと対策:統合プロセスで見つかった新たな課題や、未解決の問題に対して、根本的な原因を分析し、恒久的な対策を講じます。
- 文化融合の促進:制度やプロセスの統合だけでなく、両社の価値観を尊重し、新しい企業文化を創造するための継続的な取り組みを行います。
- 持続的な成長戦略の策定:統合された新しい組織として、持続的に成長していくための中長期的な経営戦略を再定義し、実行に移します。
PMIは継続的な改善活動(PDCAサイクル)を通じて、組織を常に最適な状態に保ち続けることが大切です。
100日プラン成功の鍵は重要KPIの設定と進捗管理
KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定することで、客観的な指標で進捗と成果を測る仕組みが構築されるため、チームの目標が明確になり具体的なアクションにつながりやすくなります。
PMIで設定されるKPIは、以下のように財務的な指標と非財務的な指標に大別されます。
分類 | KPIの例 | 測定する目的 |
---|---|---|
財務KPI | ・売上高・利益率:売上シナジーやコストシナジーが生まれているか ・コスト削減額:業務統合によるコスト削減が進んでいるか ・キャッシュフロー:統合後の資金繰りが安定しているか | ・M&Aの経済的効果を定量的に把握する |
非財務KPI | ・従業員離職率:人材の定着が進んでいるか ・従業員満足度調査:組織へのエンゲージメントが向上しているか ・顧客維持率:顧客離反が起きていないか ・システム統合進捗率:計画通りにIT統合が進んでいるか | ・組織の健全性や統合プロセスの質を多角的に評価する |
KPIは、PMIの各タスクと連動させた可視化により、さらに高い効果を発揮します。
事業買収におけるPMIの注意すべきポイント

M&Aには、会社全体を売買する「株式譲渡」と、会社の一部事業のみを売買する「事業譲渡」があります。
どちらの手法を選択するかによって、PMIで注意すべき点が異なります。
PMIへの影響を理解する
株式譲渡と事業譲渡では、法的な手続きや権利義務の承継範囲が異なります。
まずは、両者の基本的な違いとPMIとの関わりを理解することが重要です。
比較項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
---|---|---|
取引対象 | 会社の株式 | 会社の特定の事業(資産・負債・人材・契約など) |
権利義務の承継 | 包括的に承継される(会社はそのまま存続) | 個別に承継される(契約ごとに相手方の同意が必要) |
従業員の処遇 | 雇用契約は原則として維持される | 買収側企業への転籍となり、個別の同意が必要 |
許認可 | 原則として引き継がれる | 原則として引き継がれず、新たに取得が必要 |
PMIへの影響 | 会社全体の組織文化や制度の統合が中心 | 個別の契約再締結や従業員の転籍手続きが重要課題 |
事業の特性とリスクを考慮する
事業譲渡のPMIを成功させるためには、その事業特有のリスクを事前に洗い出し、対策を講じておく必要があります。
注意すべきは、事業運営に不可欠な要素がスムーズに引き継がれないリスクです。
事業譲渡におけるPMIのおもなリスクは以下の通りです。
リスクの種類 | 具体的な内容 |
---|---|
従業員の転籍リスク | 主要な従業員が転籍に同意せず、ノウハウや技術が失われる |
取引先の離反リスク | 重要な顧客や仕入先が、取引契約の再締結に同意しない |
許認可の再取得リスク | 事業に必要な許認可の再取得に時間がかかり、事業が一時停止する |
簿外債務のリスク | 引き継ぐ資産や負債の範囲が不明確で、想定外の債務を負う |
PMI計画の初期段階で、リスクへの対応を具体的に盛り込んでおきましょう。
PMIの成否を左右する情報収集
事業譲渡のPMIを円滑に進めるためには、契約前のデューデリジェンスの段階で、いかに質の高い情報を収集できるかが鍵です。
株式譲渡のデューデリジェンスに加えて、事業譲渡特有の観点からの調査が求められます。
事業譲渡のデューデリジェンスで特に重点的に確認すべき情報は以下の通りです。
- 事業に関連する契約の洗い出し
- 従業員に関する情報
- 許認可に関する情報
- 有形・無形資産の情報
PMIの費用相場

M&Aでは、買収にかかる費用だけでなく、PMIの費用もあらかじめ予算に組み込んでおくことが重要です。
本章では、PMIにかかる費用の内訳や相場観、コストを適切に管理するためのポイントを解説します。
PMIにかかる費用の内訳
PMIの費用は、M&Aの規模や統合の複雑さ、外部の専門家をどの程度活用するかによって変動します。
一般的には買収価格の5%~10%程度が目安とされることもありますが、明確な目安はありません。
おもな費用の内訳は以下の通りです。
- コンサルティング費用
- ITシステム統合費用
- 人事関連費用
- 法務・会計費用
- その他の諸費用
自社の目的に応じて、どこに・どれだけの費用が必要なのか、精査して算出しましょう。
優先順位付けとリソース配分でコスト削減が可能
PMIの費用は、重要度と緊急度に応じて優先順位を付けることでコストの最適化が可能です。
すべてのタスクを一度にこなそうとせず、下記のようなアプローチを検討すると良いでしょう。
- 内製化と外部委託の切り分けが可能か
- 段階的な統合が可能か
PMIの目的は投資対効果(ROI)の最大化です。
限られた予算とリソースを、より効果的な場所に配分する戦略的な視点が求められます。
質を落とさずに効率化を目指す
コスト削減を意識するあまり、PMIの質が低下してしまっては本末転倒です。
特に、従業員のエンゲージメント向上や文化融合といった、可視化が難しく重要な領域への投資を怠ると、大きな問題につながる可能性があります。
質を維持・向上させながら効率化を図るためには、以下のような視点が有効です。
- 専門家の有効活用:PMI全体のマネジメントを依頼する・過去の事例から学んで手戻りを防止する、など
- PMIツールの導入:進捗状況をリアルタイムで共有し、情報の属人化防止やチームの生産性を向上させる
- 成功体験の共有:成功体験を積極的に共有してモチベーション向上につなげる
PMIにかかるコストは、M&A成功につなげるための投資として捉えて、質を落とさないために視点を変えて考えることが重要です。
企業買収後はPMIでビジネスを成長させよう

本記事では、M&A後のPMIの重要性や100日プランを成功させるロードマップなどを解説しました。
PMIは、M&Aにおけるシナジー効果を向上し、企業の持続的な成長を促進させるために大切な要素です。
計画性と柔軟性をもってPMI業務を遂行することで、ビジネスのさらなる発展を目指しましょう。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
パラダイムシフトが選ばれる4つの特徴
- IT領域に特化したM&Aアドバイザリー
- IT業界の豊富な情報力
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M&Aで自社を売却したいと考える経営者や担当者の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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