表明保証保険とは、M&Aの表明保証違反により生じる損失を補償するための保険です。
加入すると、M&Aの売り手・買い手の双方にメリットがあります。
海外では30年以上前から販売されていますが、日本で注目されるようになったのはつい最近のこと。
表明補償保険を耳にしたことはあるものの、詳しく理解できていない経営者も多いのではないでしょうか。
本記事では、表明保証保険の仕組みやメリットについて解説します。
さらに、加入方法と保証対象外のケースも説明しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
- 1 M&Aにおける表明保証について
- 2 表明保証とは?
- 3 表明保証の重要性
- 4 M&Aにおける表明保証保険の仕組みとは
- 5 表明保証違反で発生した損害をカバーする仕組み
- 6 買主用と売主用の2タイプが存在
- 7 表明補償保険の上限額と料金
- 8 M&Aにおいて表明保証保険を利用するメリットとは?
- 9 売り手企業のメリット
- 10 クリーンエグジットを実現できる
- 11 エスクローを回避できる
- 12 買い手と良好な関係を維持できる
- 13 買い手企業のメリット
- 14 M&A交渉がスムーズになる
- 15 表明保証違反のリスクヘッジになる
- 16 補償請求が簡便になる
- 17 M&Aの表明保証保険に加入する方法
- 18 保証対象外のケース
- 19 M&Aの表明保証保険を理解し、加入を検討しよう
M&Aにおける表明保証について
表明保証保険は、M&Aの表明保証に違反した場合の損失を補償する保険です。
では、表明保証とは一体どのような保証なのでしょうか。
表明保証保険への理解を深めるために、表明保証の定義と重要性を紹介します。
表明保証とは?
表明保証とは、M&A取引における当事者の一方が、他方の当事者に対して、契約対象の事実関係や法律関係の正確性・真実性を保証することを指します。
たとえば、売り手企業の貸借対照表に計上されていない偶発債務を保全し、M&A後に買い手企業へ追加的な債務が生じないことを保証するなどです。
M&Aにおいて、買い手企業はデューデリジェンスを通じて売り手企業の財務や法務などの問題を洗い出し、それらを買収価格に反映させます。
しかし、時間や費用の成約、売り手企業の情報開示不足などにより、デューデリジェンスのみで売り手企業の全貌を把握することは現実的に困難です。
したがって、実務上は当事者の一方が他方の当事者に対して、表明保証をおこないます。
万が一、表明保証に違反があった場合は、被害者側が下記いずれかの処置を行使できます。
- M&Aのクロージング前であれば交渉を破棄
- 被害に対する金銭的補償の請求
- 対象会社・事業に関する情報の開示要求
表明保証の重要性
表明保証の重要性は、買い手企業と売り手企業とでリスクを分配することにあります。
先述の通り、買い手企業が実施するデューデリジェンスには限界があり、場合によっては売り手企業の問題点を把握できないまま、取引が成立する恐れがあります。
つまりM&Aではリスクを抱える可能性が、買い手企業のみに存在しており、売り手企業優勢のパワーバランスが構築されているのです。
こうしたパワーバランスを整理し、リスクを両企業に分配するのが表明保証。
デューデリジェンスで公開した情報や、買い手企業が取得した情報の正確性を保証することで、買い手側はリスクを回避しやすくなり、買収に踏み切りやすくなります。
M&Aにおける表明保証保険の仕組みとは
表明保証保険は、どのような場合に適用され、何を補償してくれるのでしょうか。
本章では、表明保証保険の仕組みと種類、補償内容を紹介します。
表明保証違反で発生した損害をカバーする仕組み
表明保証保険とは、M&Aにおける表明保証違反により、当事者が被る損害をカバーするための保険。
たとえば、売り手企業が社内に簿外債務が存在しないことを、表明保証したとします。
しかし、実際には簿外債務が存在しており、M&A締結後に顕在化した場合、買い手企業は表明保証保険によって損害分を補填できる仕組みです。
日本で馴染みのない保険ですが、M&Aが活発な海外では一般的に利用されています。
近年、日本でもM&A件数が増加したことで、大手保険会社を中心に表明保証保険を提供する企業が増えてきました。
買主用と売主用の2タイプが存在
表明保証保険には、下記の2タイプが存在します。
- 買主用表明保証保険:買い手企業が加入する保険
- 売主用表明保証保険:売り手企業が加入する保険
買主用表明保障保険は、万が一買い手企業が被害を受けた場合に、損害分を補填してくれる保険です。
保障内容は、保険会社によっても異なりますが、損害の一部を補填する保険が多く見られます。
一方、売主用表明保証保険は、表明保証違反が発生した場合の担保として売主が加入する保険です。
売主用表明保証保険を提供する保険会社は少なく、実務上、買主用表明保証保険が利用されるケースが多くみられます。
表明補償保険の上限額と料金
表明保証保険の上限額は、対象企業の企業価値評価10%〜20%が一般的です。
表明保証保険は、あくまでも損害の一部を補填するためのもので、全額を保障する保険ではありません。
そのため、保障で賄えなかった損害は、相手企業へ請求する必要があります。
また、表明保証保険に支払う保険料は、補償限度額の1〜3%程度が目安です。
つまり、企業価値評価が10億円の場合、表明保証保険の上限額は、1億円〜2億円。
支払う保険料は、100万円〜600万円です。
M&Aにおいて表明保証保険を利用するメリットとは?
表明保証保険は、買い手企業が被る損害を補填するのが一般的なため、売り手企業にはメリットがないと思うかもしれません。
しかし、表明保証保険を活用することで、売り手・買い手ともにメリットを享受できます。
この章では、表明保証保険を利用するメリットを、売り手企業と買い手企業に分けて紹介します。
売り手企業のメリット
売り手企業が表明保証保険を利用するメリットは、下記の2つです。
- クリーンエグジットを実現できる
- エスクローを回避できる
- 買い手と良好な関係を維持できる
それぞれのメリットについて解説します。
クリーンエグジットを実現できる
最大のメリットは、クリーンエグジットを実現できることです。
クリーンエグジットとは、売り手企業がM&A締結後に補償責任を回避し、事業から完全に撤退することです。
M&Aでは、売り手企業すら気づいていない、簿外債務や偶発債務などの瑕疵が潜んでいる可能性があります。
ただ、売り手企業に悪意がない場合でも、表明保証をおこなった以上は買い手企業の損失を補償する義務が生じるのです。
売り手企業は、表明保証保険に加入することで、補償責任を保険会社に負担してもらえるため、M&Aに踏み切りやすくなります。
エスクローを回避できる
エスクローの設定を回避できる点も、大きなメリットです。
エスクローとは、売り手企業と買い手企業の利害調整のために、両者間に中立的な第三者を設け、特定の条件をつけて譲渡金額を決済する仕組みのことです。
買い手企業は、買収代金の一部を売り手企業名義の定期預金という形で預託するため、金融機関などの第三者にエスクロー勘定を開設します。
買い手企業が定めた条件が遵守されたことを確認できた場合に、預託した金額が売り手企業に支払われます。
このエスクローの設定のために、買い手企業はエスクローエージェントに買収代金の一部を預託する必要がありました。
しかし、表明保証保険を利用することで、エスクローの必要がなくなり、売り手は早期に譲渡代金を受け取れます。
買い手と良好な関係を維持できる
表明保証保険を利用しない場合は、M&A成立後に瑕疵が判明すると、売り手は買い手に直接補償の責任を負います。
もし買い手企業がビジネスの取引先である場合などは、両者の関係性が悪化してしまう恐れがあります。
M&A成立後も継続して取引を行いたい場合は、障害になるでしょう。
しかし、表明保証保険に加入しておけば、買い手が損失を被る事態となっても補償を請求されるのは保険会社ですので、買い手と売り手が直接揉めることはなくなります。
その後も継続してビジネスを行うことが可能でしょう。
M&Aの実行後も買い手と良好な関係を維持したい場合には、表明保証保険に加入しておくべきでしょう。
買い手企業のメリット
買い手企業が表明保証保険を利用するメリットは、下記の2つです。
- M&A交渉がスムーズになる
- 表明保証違反のリスクヘッジになる
- 補償請求が簡便になる
それぞれのメリットについて解説します。
M&A交渉がスムーズになる
買い手企業が表明保証保険を利用する最大のメリットは、交渉がスムーズに進むことです。
買い手企業が表明保証保険を契約していると、万が一、売り手企業の表明保証違反が判明しても、保険会社が補填してくれます。
そのため、売り手企業としても交渉相手に迎え入れやすく、交渉を進めやすくなります。
表明保証違反のリスクヘッジになる
売り手の表明保証違反が発覚した場合は、売り手に補償を請求することになりますが、補償が実施されるまでは損失に苦しむことになります。
売り手に十分な補償能力がない場合は、実際に補償がされるまでに時間がかかることもあります。
しかし、表明保証保険を活用すれば、このような表明保証違反によって発生した補償をすべて保険でカバーできるのです。
保険会社は迅速に対応してくれるので、損失の穴埋めも早期に実行できます。
また、そもそも売り手側の表明保証違反を完全に防ぐことは難しいです。
創業オーナーの場合でも、財務や法務の面で完全に把握できていない分野が存在します。
売り手に表明保証違反があることを前提にするならば、表明保証保険は必ず活用すべきツールであると言えるでしょう。
補償請求が簡便になる
売り手企業に損害賠償を請求するよりも、補償請求が簡便になる点も大きなメリットです。
通常、売り手企業から補償費用を全額回収するには、時間・コスト・労力がかかります。
また、訴訟に発展した場合や、売り手企業が外国の企業である場合などは、請求手続きが煩雑になります。
その点、表明保証保険であれば、保険会社に請求すればよいので、保険金の回収がスムーズに進み、資金に関する見通しを立てやすいのです。
M&Aの表明保証保険に加入する方法
表明保証保険は、損害保険の1種です。
表明保証保険への加入を希望する場合は、下記のいずれかへ相談するとよいでしょう。
- 大手保険会社
- 銀行・金融機関
- M&A仲介会社
表明保証保険は、日本でも注目され始めているため、大手の保険会社を中心に多くの保険会社で提供されています。
たとえば、三井住友海上火災保険や東京海上日動火災保険などです。
また、一部の銀行や金融機関も表明保証保険を取り扱っているケースがあります。
大企業向けのみならず、中小企業向けのプランが用意されていることもあるため、まずは取引のある保険会社・金融機関へ相談するとよいでしょう。
万が一、保険会社や金融機関を決めかねる場合は、M&A仲介会社へ相談するのがおすすめです。
M&A仲介会社は、多くの保険会社・金融機関と繋がりがあるため、会社規模・財務状況を考慮し適切な保険会社を紹介してくれます。
表明保証保険への加入は、保険会社への依頼やから保険が発行されるまでに、概ね3週間〜4週間かかります。
M&Aを検討している場合には、保険適用までの期間を考慮し、早めに加入しておくとよいでしょう。
保証対象外のケース
表明保証保険でも補償の対象外となるケースが存在します。
具体的には以下のケースなどです。
- 表明保証条項に記載がない内容
- 売り手による環境汚染(アスベストが混入している商品を販売したなど)
- 退職金や年金の積立を怠っていた
- 企業に課せられた罰金や課徴金
- 製造物賠償責任や製品リコールによる責任
- 業績予想に関する責任
- デューデリジェンスが実施されていないと保険会社が判断した事項
- クロージング前に知っていた情報から、表明保証違反の可能性を合理的に予期できる場合
これらはあくまで例であり、他にも対象外となるケースがあります。
保険に加入する前に必ず加入内容を確認し、補償対象外のケースを確認しましょう。
M&Aの表明保証保険を理解し、加入を検討しよう
ここまでM&Aにおける表明保証保険の概要や、加入のメリットなどについて解説してきました。
表明保証保険の仕組みやメリットについてイメージできましたでしょうか?
表明保証保険に加入することで、売り手の表明保証違反というリスクに不安を持つことなくM&Aの実施に踏み切ることができます。
M&Aを実施する場合には、保険について理解したうえで、ぜひ表明保証保険への加入を検討してみましょう。
しかし、表明保証保険についてよくわからないこともあるかもしれません。
そんなときに相談したいのが株式会社パラダイムシフトです。
株式会社パラダイムシフトは、M&Aのサポートを実施しているM&Aアドバイザーです。
10年以上M&Aのサポートの実績がありますので、安心して相談できる専門家です。
M&Aを検討している経営者の方は、ぜひ株式会社パラダイムシフトに相談してみましょう。