自社株を売却するシチュエーションはさまざまですが、主に経営の引き継ぎや第三者への会社の売却時に起こります。
代表交代で親族や役員へ株を売却したり、M&Aで第三者へ売却したりと、会社経営において株式売却というのは日常的に行われています。
本記事では、自社の株式売却する際、どのようなことに注意すればよいのか。また、売却価額の決め方や、手続きの流れ、売却額にかかる税金の落とし穴についても解説します。
目次
- 1 株式売却時の注意点
- 2 株式に譲渡制限があるか確認する
- 3 株券が発行されているかの確認
- 4 株券不発行会社の場合
- 5 株券発行会社の場合
- 6 株券発行会社で株券が手元にない場合
- 7 株主総会または取締役会を開く
- 8 後継者の買取資金の確認
- 9 売却額が適正でない場合、贈与とみなされるケースも
- 10 株式売却の価額はどう決まる?
- 11 収益方式(インカムアプローチ)
- 12 DCF法(割引キャッシュフロー法)
- 13 収益還方式
- 14 配当還元方式
- 15 純資産価額方式(コストアプローチ)
- 16 簿価純資産方式
- 17 時価純資産方式
- 18 時価純資産方式+営業権
- 19 比準方式(マーケットアプローチ)
- 20 類似業種比準方式
- 21 取引事例方式
- 22 税法基準
- 23 株式売却の手続きの流れ
- 24 買い手の選定
- 25 買い手と交渉
- 26 株主総会または取締役会での決議
- 27 株式譲渡契約の締結
- 28 売買代金の決済
- 29 株主名簿の書き換え
- 30 株式売却時の税金について
- 31 株主が個人の場合
- 32 株主が法人の場合
- 33 みなし譲渡やみなし贈与について
- 34 株式売却時の手数料や費用について
- 35 M&A仲介業者の手数料
- 36 まとめ:後継者が親族外の場合は買い手を専門家に相談
株式売却時の注意点
株式売却時には、以下の点に注意しましょう。
- 株式に譲渡制限があるか確認する
- 株券が発行されているかの確認
- 株主総会または取締役会を開く
- 後継者の買取資金の確認
- 売却額が適正でない場合、贈与とみなされるケースも
それぞれについて、具体的に解説します。
株式に譲渡制限があるか確認する
中小企業の場合、株式を自由に売買(譲渡)できないように制限を設けている場合が多いです。その場合は、定款に記載されています。
例:(株式の譲渡制限) 第7条 当会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会の承認を受けなければならない。
株式を第三者へ売却したい場合は、株主総会または取締役会を開き、承認を得なければなりません。意図しない第三者へ株式が売却されたり、乗っ取られたりするのを防ぐためにも必要です。
株主総会や取締役で承認されなかった場合には、売却が成立しないこととなります。
株券が発行されているかの確認
株券が発行されているかの確認も必要です。
株券不発行会社の場合
2006年以降の会社法では株券の発行が不必要になったため、多くの会社は株券不発行会社かと思います。その場合は、双方の合意があれば株式譲渡が成立します。以下のような株式譲渡契約を作成すると良いでしょう。
例:株式譲渡契約書
譲渡人○○(甲)と譲受人○○(乙)との間で、下記のとおり、株式譲渡契約を締結した。
第1条
甲は、乙に対し次の株式を譲渡することを約し、乙はこれを譲り受ける。
1.株式の名称 ○○株式会社 普通株式
2.株式の数量 ○株
第2条
譲渡の条件は次のとおりとする。
1.譲渡代金 金○○円
2.支払い条件 ○○年○○月○○日までに乙は下記の甲の銀行口座に振り込みにて支払う
3.権利移転 譲渡代金の支払いと同時に権利は移転する。
以上、本契約締結の証として本契約書2通を作成し記名押印のうえ、甲乙各1通保有する。
○○年○○月○○日
甲 住所 氏名 押印
乙 住所 氏名 押印
株券発行会社の場合
株券発行会社の場合は、株券を引き渡しすることで成立します。
株券発行会社で株券が手元にない場合
株券発行会社で、株券が手元にない場合は、まず株券の交付申請をして下さい。発行された株券を買い手に引き渡すことで譲渡が成立します。
株主総会または取締役会を開く
経営陣が複数(2名以上)いる場合は、必ず株主総会か取締役会を開いて下さい。
自社株の売却となると、金銭が大きく絡んできます。親族経営の企業で、普段経営に口をはさんでこないオーナーだとしても、トラブルにならないように株主総会や取締役会を開き、議事録を作成して下さい。
後継者の買取資金の確認
親族経営であれば大きな問題にはならないかもしれませんが、第三者へ売却する場合は、買い手側の資金が十分かどうか確認しておく必要もあります。
預貯金から買収するのか、もしくはどこかで資金調達をしてから買収するのか、いざ自社株売却手続きを踏む際に、相手の資金が不足していると、トラブルの原因にもなります。
売却額が適正でない場合、贈与とみなされるケースも
株式売却の価額が、時価よりも低い価格で取引された場合、時価との差額がみなし譲渡として、贈与税やみなし譲渡所得税がかかるケースがあります。
例えば同族内や、社員への株式譲渡の際に、節税のために売却額を低くしようとすると起こり得ます。詳細は後述しますが、株式売買において不正に取引が行われないよう税法で管理されています。
株式売却の価額はどう決まる?
株式売却の価額は自分で勝手に決めることはできません。主な評価方法としては大きく以下の4つがあげられます。
- 収益方式(インカムアプローチ)
- 純資産価額方式(コストアプローチ)
- 比準方式(マーケットアプローチ)
- 税法基準
それぞれについて詳しく解説します。上記の中でも、純資産価額方式(コストアプローチ)は中小企業の株式譲渡でよく使われるので、売却額の算出の参考にして下さい。
収益方式(インカムアプローチ)
収益方式(インカムアプローチ)とは、将来期待されるキャッシュフローに基づいて評価される方法です。代表的なものに、DCF法(割引キャッシュフロー法)、収益還元方式、配当還元方式があります。
DCF法(割引キャッシュフロー法)
将来期待されるキャッシュフローを一定の割引率で引いて評価する方法。将来の予想収益が基準になるため、事業計画や企業の信頼性に欠けると、企業価値が大きく左右されるリスクがあります。
収益還方式
DCF法の簡易版で、将来期待されるキャッシュフローを現在価値に割引いて価額を評価する方法です。
配当還元方式
過去2年間の平均配当金額と10%の利率で還元し、元本である株式の価額を求める方式です。同族株主以外の株主や、少数の株式を所有している同族株主に向いている方法です。
純資産価額方式(コストアプローチ)
純資産価額方式(コストアプローチ)は、企業の純資産の時価評価を基準として、価額を算出する方法です。
簿価純資産方式、時価純資産方式(+営業権)などの方式があります。
昨今の中小企業のM&Aではコストアプローチ方式がよく用いられます。
簿価純資産方式
貸借対照表(BS)上の純資産額に基づいて算出される、非常にシンプルな方法です。純資産額を発行株式数で割り、1株あたりの株価を算出します。シンプルがゆえに、正しい時価とは限らないというデメリットがあります。
時価純資産方式
簿価純資産方式をより高い精度で算出した方法です。会社の資産・負債の各項目を時価に置き換えて評価し、計算します。
時価純資産方式+営業権
時価純資産方式に、営業権も含めた評価を株式価値とする方法です。M&Aで最も多く使われる方法で、経常利益に1年〜5年の年数をかけた価額で設定します。(かける年数は業種にもよります。)
比準方式(マーケットアプローチ)
比準方式(マーケットアプローチ)には「類似業種比準方式」と「取引事例方式」があります。株式市場で取引がある上場企業の中から、類似している企業を比較したり、過去の取引事例から算出する方式です。
類似業種比準方式
類似している業種上場企業の財務数値を比較して算出します。非上場の企業の場合は他の方法の評価額より低くなる傾向があり、節税目的で活用されることが多い評価法です。
取引事例方式
過去に売却事例があった場合、その取引評価額を元に算出する方法です。
税法基準
財産評価基本通達に基づいて評価する方法で、過去の数字に基づいて算出されます。非上場株式の売買では、税金対策のために低い価額で取引されることを防ぐため、時価を算出する一定の基準を設けています。
税法基準によって算出された時価と、実際の売却額に乖離があった場合には、差額に課税されるケースがあります。
株式売却の手続きの流れ
株式売却の手続きの流れは以下のように進めていきます。
- 買い手の選定
- 買い手と交渉
- 株主総会または取締役会での決議
- 株式譲渡契約の締結
- 売買代金の決済
- 株主名簿の書き換え
買い手の選定
親族経営で、同族内で引き継ぐというのであればいいですが、売却先が決まっていない場合は、買い手を探すところから始めなければなりません。
買い手の当てがない場合は、M&Aの専門家に依頼するのがよいでしょう。どのような相手にいくらで売却したいか、業種や売却額等の条件をまとめておくとスムーズです。
買い手と交渉
買い手との交渉に入ります。価額交渉はもちろん、従業員や取引先の引き継ぎについての条件も決めなければなりません。
買い手側も、買収する会社の財務状況や法務、人事などを調査するために、デューデリジェンスを行います。
株主総会または取締役会での決議
買い手候補が見つかったことを、株主総会か取締役会を開いて承認をとって下さい。例えば親族経営だからといってここを省略してしまうと、あとあとトラブルになる可能性もあります。
株式売却の際は、買い手だけでなく従業員や取引先にも影響してきますので、株主総会または取締役会での決議は必須です。
株式譲渡契約の締結
株主総会または取締役会での承認が取れ、買い手側もデューデリジェンスをした結果問題がなければ、株式譲渡契約の締結へと進みます。
売買代金の決済
契約締結後は売買代金の決済になります。M&Aの仲介業者に依頼している場合は、いったん取引手数料を含んだ売却額がM&A仲介業者のエスクロー口座に入金されることが多いです。
売り手には、売却額から売り手手数料を差し引いた金額が振り込まれます。売買代金が振り込まれた時点で、株式譲渡の取引が成立します。
株主名簿の書き換え
株式の譲渡が成立した後は、株主名簿が書き換えられます。買い手がきちんと株主名簿を書き換えたか、後日確認するとよいでしょう。
株式売却時の税金について
株式売却時に発生した利益には税金がかかります。経営者であれば、なるべく節税したいと思うでしょう。だからといって、売却額を少なく見積、利益を多く出さないようにすると、税法基準との乖離が生じ、みなし譲渡所得税やみなし贈与税がかかるので要注意です。
株主が個人の場合
中小企業であれば、大体は個人が株主でしょう。個人の株主が未公開株式を売却した場合は、所得税・住民税・復興特別所得税がかかります。合計20.315%が課税されますので気をつけましょう。
この課税は、給与所得や事業所得を含めたその他の所得とは別(申告分離課税)になりますので、全ての所得を合算して課税されるという心配はありません。
株主が法人の場合
個人と違い、法人が譲渡所得を得た場合は、総合課税になります。例えば、持株100%の子会社を売却した場合は、その売却益は全て親会社に所得として計上されるといった具合です。
総合課税は累進課税になるので、所得税は最高45%、住民税とあわせて55%も課税されます。
みなし譲渡やみなし贈与について
税法基準で算出された時価よりも低い金額で売却した場合、売り手に課税される所得税以外に、売り手買い手ともにみなし譲渡所得税や贈与税などが課税されるケースがあります。
買い手:個人 | 買い手:法人 | |
売り手:個人 | 売り手…所得税 買い手…贈与税がかかる | 売り手…みなし譲渡所得課税がかかる 買い手…受贈益として課税される |
売り手:法人 | 売り手…時価との差額に対し、法人税がかかる。 買い手…時価との差額に所得税がかかる | 売り手…時価との差額に対し、法人税がかかる。 買い手…受贈益として課税される |
株式売却時の手数料や費用について
証券口座を利用して株式売買取引をする際は取引手数料がかかりますが、本記事で解説している事業譲渡での株式売却においては、取引自体には手数料はかかりません。
しかし、株式売却をするにあたって、各種専門家に依頼した場合は、依頼費用や仲介手数料などの費用は発生いたします。
M&A仲介業者の手数料
M&A仲介業者を利用した場合の手数料は、業者によっても異なりますが、基本的には売却金額に応じて料率が変わる「レーマン方式」が使われることが多いです。
レーマン方式での算出例
売却額 | 料率 |
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超 10億円以下の部分 | 4% |
10億円超 50億円以下の部分 | 3% |
50億円超 100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
これ以外にも、着手金や場合によっては出張費用(交通費)なども加算されます。
まとめ:後継者が親族外の場合は買い手を専門家に相談
同族内の株式売却であれば買い手を探す必要はありませんが、そうでない場合は仲介業者に買い手を探してもらうのがスムーズです。
仲介業者に依頼することで、後継にふさわしい企業や信頼のおける企業が見つかることでしょう。
M&Aで自社を売却したいと考える経営者や担当者の方は、ぜひ弊社パラダイムシフトへお問い合わせください。
パラダイムシフトは2011年の設立以来、豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。候補先企業様のファインディング、デューデリジェンスの実施などのM&A全般の交渉をサポートするほか、買い手企業様の希望に柔軟に対応しながら、ニーズに沿ったM&A支援を行います。