M&Aにおいて、のれんは資産計上して償却期間に応じた費用計上や減損を行う必要があります。
のれんは、買収される企業の純資産と買取価格の差額であり、適切に会計処理するために計算方法や償却期間を理解しておかなければなりません。
M&Aにおけるのれんを適切に会計処理したい方は、償却期間と会計基準を確認しておきましょう。
本記事では、M&Aにおけるのれん償却期間について詳しく解説します。
のれんを扱う2種類の会計基準や仕訳方法をあわせて解説するため、ぜひ最後までご覧ください。
目次
- 1 M&Aにおける「のれん」とは
- 2 のれんの由来
- 3 のれんの種類
- 4 のれん償却とは
- 5 負ののれんとは
- 6 M&Aにおけるのれんの計算方法
- 7 売却側企業の時価純資産額
- 8 買収価額
- 9 のれん償却期間
- 10 最長20年が限度
- 11 一度設定した償却期間は変更できない
- 12 のれん減損との違い
- 13 のれんの仕訳方法
- 14 株式譲渡・交換のケース
- 15 合併などのケース
- 16 税務上の償却期間は5年
- 17 のれんの仕訳に関する注意点
- 18 のれんを扱う際の2種類の会計基準
- 19 日本会計基準
- 20 メリット
- 21 デメリット
- 22 国際会計基準(IFRS)
- 23 メリット
- 24 デメリット
- 25 のれん償却を実施するメリット
- 26 減損による大きな損失を緩和する
- 27 大幅な赤字計上を避けられる
- 28 のれんの実態を把握できる
- 29 のれん償却を実施するデメリット
- 30 償却分が利益を圧迫する
- 31 償却期間の設定が難しい
- 32 ビジネスの状況を確実に把握できる訳ではない
- 33 M&Aにおけるのれん償却期間と適切な会計処理のポイントを理解しよう
M&Aにおける「のれん」とは
M&Aにおけるのれんとは、買収される企業の純資産と買取価格の差額です。
そもそもM&Aとは、買収や合併などで企業を取得することを指します。
M&Aの際には、のれんが生まれ、会計上「無形固定資産」として計上します。
具体的には企業が培ってきたブランド価値や社会への信頼性、顧客基盤、技術、ノウハウなど「無形の資産」をのれんとして計上するのです。
のれんについて理解を深めるためには、次のポイントを確認しておきましょう。
- のれんの由来
- のれんの種類
- のれん償却とは
- 負ののれんとは
それぞれのポイントを確認して、のれんについて理解を深めましょう。
のれんの由来
のれんの由来は、店舗の軒先に掲げる暖簾(のれん)が言葉の起源です。
企業が積み上げてきたブランド価値や顧客基盤などの無形固定資産を表しており、目に見えない企業の価値を意味する会計上の専門用語として使われています。
なお、建物や車などの有形固定資産とは異なり、実体がなく目に見えない資産を無形固定資産と呼ぶのです。
のれんの種類
M&Aだけでなく会計・税務でも、のれんという言葉が使用されます。
のれんの種類は、次の通りです。
のれんを使用する場面 | 意味合い |
M&A | M&A価格と事業にかかる時価純資産の差額 |
会計 | 取得原価としての支払対価総額と受け入れた資産および負債など総額資産の差額 |
税務 | 支払対価と時価純資産価額との差額 |
M&Aでは株式譲渡によってのれんが生じるケースが多いですが、個別財務諸表の会計ではのれんを計上しません。
なぜなら、株式譲渡の際に子会社が株式として資産計上されるため、支払対価総額と総額資産との差額が生じないからです。
ただし、連結財務諸表ではのれんが計上されるケースがあるので注意しましょう。
税務上はのれんとして計上した金額を、資産調整勘定や負債調整勘定として処理します。
のれん償却とは
のれん償却とは、将来的に期待される経済的価値を資産に計上し、一定の期間にわたって費用として計上することです。
そもそも減価償却とは、機械や工場、不動産などの資産を購入した際に、資産の使用期間にわたって分配し資産計上できる制度です。
減価償却によって、高額な固定資産を購入した際に一度で経費計上せず、何年もかけて資産価値を減少させながら会計処理できます。
日本会計基準の場合、無形固定資産であるのれんも資産計上する必要があり、減価償却することで償却期間に分配しながら会計処理できます。
のれん償却の目的は、一定期間にわたってのれんを等分し、安定した財務状況を維持させることです。
負ののれんとは
のれんは資産として計上されますが、負債として扱われる「負ののれん」が存在します。
負ののれんとは、買収した企業の純資産を下回る買取金額でM&Aを行った際に発生する差額です。
例えば、純資産30億円の企業を22億円で買い取った場合、8億円が負ののれんとして残ります。
負ののれんは、格安で企業を取得できている状態ですが、将来稼げる利益が少ないことを意味します。
企業を買収した場合、企業が培ってきたブランド価値やノウハウによって長期的に利益を得られるケースが一般的です。
しかし負ののれんが生まれるM&Aでは、会計処理されていない簿外債務が発覚したりリストラ計画など業績不振が見込まれたりと、企業の将来性が低い傾向にあります。
通常ののれんは一定期間にわたって財務に影響を与えますが、負ののれんは償却せずに一括で収益計上するため、M&Aを実施した年度の収益に大きな影響をもたらします。
M&Aにおけるのれんの計算方法
M&Aにおけるのれんの計算方法は、次の通りです。
「のれん=買収価額-売却側企業の時価純資産額」
M&Aで企業を買収した際の価額から売却側企業の時価純資産額を差し引くことで、のれんを算出できます。
のれんを計算するために、「売却側企業の時価純資産額」と「買収価額」は何か確認しておきましょう。
売却側企業の時価純資産額
売却側企業の時価純資産額とは、M&Aで買い取られる企業の時価評価した資産から負債を控除した総資産です。
具体的には、時価に置き換えられる不動産や株式、投資信託などの純資産を指します。
時価に置き換えられない他の資産は、簿価純資産として計算します。
買収価額
買収価額は、企業の将来性や現在の市場価値、保有している資産などから計算される売却側企業の価値です。
M&Aにおける買収価額は、主に次の方法で求められます。
買収価額の求め方 | 概要 |
インカム・アプローチ | 将来の収益性をもとに企業価値を決める |
コスト・アプローチ | 企業が保有する資産や負債の時価から価値を決める |
マーケット・アプローチ | 市場の売買価格や他社の取引事例をもとに企業価値を決める |
企業の将来性や収益性、ブランド価値などさまざまな要因をもとに価値を決めるため、買収価額を求める際は上記の方法を複合的に活用します。
そのため、単純な売却側企業の時価総資産とは異なる金額が、買収価額として算出されるのです。
のれん償却期間
のれん償却期間は、会計基準によって定められています。
のれん償却期間に関する次のポイントを押さえて、正しく減価償却しましょう。
- 最長20年が限度
- 一度設定した償却期間は変更できない
- のれん減損との違い
最長20年が限度
のれん償却期間は、日本の会計基準で最長20年が限度と定められています。
20年以内であれば、のれん償却期間を自由に設定できるため、業界や事業の特性、企業の収益性などに応じて期間を設定します。
償却期間を短く設定した場合は、計上する金額が多くなるため、利益に影響をおよぼす可能性が高いです。
一度設定した償却期間は変更できない
のれん償却期間は、最長20年以内であれば自由に設定できますが、一度決めると変更できません。
なぜなら、一度設定した償却期間を自由に変更できる場合、会計期間に応じて計上する金額を変えられるからです。
財務報告の透明性と信頼性を保持するために、一度設定した償却期間は変更できないよう会計基準で定められています。
のれん減損との違い
のれん償却とのれん減損は混同されやすいですが、方法とタイミングが異なります。
のれん償却は、M&Aで生じたのれんを一定期間に分配して計上することです。
対してのれん減損は、定期的にのれんの価値を再評価し、帳簿上の価値より低い場合にのれんを減少させることです。
減損の可能性を評価し、帳簿上より価値が下がっている場合に減損損失を行います。
減損損失とは、過去に評価した資産価値を切り下げて会計を行うことです。
例えば、想定していたより企業の収益性が低く、利益を上げられない場合、のれんを過大計上するリスクがあります。
過大計上のリスクを解消するために、のれん減損を行い、のれんの価値を一気に減額するのです。
のれん償却が一定期間にわたって価値を減らしていくのに対して、のれん減損は一気に価値を大きく下げる点が違います。
のれんの仕訳方法
のれんの仕訳方法は、株式譲渡や合併などM&Aの方法によって異なります。
次のポイントを押さえて、正しくのれんを計上しましょう。
- 株式譲渡・交換でのれんが生じた際の仕訳方法
- 合併などでのれんが生じた際の仕訳方法
- 税務上の償却期間は5年
- のれんの仕訳に関する注意点
なお、前提として、次の条件でM&Aが行われたものとします。
- 売却側企業(A社):資産2,500、負債1,800、純資産700
- 買収側企業(B社):資産3,700、負債2,200、純資産1,500
- 取得対価:800
株式譲渡・交換のケース
株式譲渡や交換でのれんが生じた際の仕訳方法は、次の通りです。
「単体財務諸表」
借方 | 貸方 | ||
子会社株式 | 800 | 現金 | 800 |
資産 | 3700 | 負債 | 2,200 |
純資産 | 1,500 |
「連結財務諸表」
借方 | 貸方 | ||
総資産 | 700 | 子会社株式 | 800 |
のれん | 100 | 負債 | 2,200 |
資産 | 4,500 | 負債 | 4,000 |
のれん | 100 | 純資産 | 600 |
合併などのケース
合併などでM&Aを行った場合の仕訳方法は、次の通りです。
「単体財務諸表」
借方 | 貸方 | ||
資産 | 2,500 | 負債 | 1,800 |
のれん | 100 | 現金 | 800 |
資産 | 5,400 | 負債 | 4,000 |
のれん | 100 | 純資産 | 1,500 |
なお合併の場合は連結での仕訳は必要ありません。
合併の場合は、連結と単体の財務諸表は同様です。
税務上の償却期間は5年
のれん償却期間は会計基準で最長20年ですが、税務上は5年間と定められています。
5年以内であれば自由に設定できるのではなく、税務上の償却期間は5年に固定されています。
確定申告の手間を軽減するために、会計上の償却期間を税務上の期間と同じ5年間に設定する方法も1つの手です。
のれんの仕訳に関する注意点
M&Aが株式譲渡や交換、合併で行われたかによって、のれんの仕訳方法が異なります。
しかし、単体での仕訳方法は異なりますが、連結ではM&Aの方法による差異がありません。
連結財務諸表であれば、株式譲渡や交換、合併でM&Aが行われた場合は、同様の結果になることを覚えておきましょう。
のれんを扱う際の2種類の会計基準
のれんを扱う際の会計基準は、主に次の2種類です。
- 日本会計基準
- 国際会計基準(IFRS)
それぞれの会計基準によって、のれんの扱い方が変わります。
のれん償却期間の設定で悩まないように、それぞれの会計基準を確認しておきましょう。
日本会計基準
日本会計基準は、企業会計基準委員会(ASBJ)が設定した国内の会計基準を定める指標です。
日本の法律や文化、市場の慣習をもとに基準が定められており、国内の投資家や株主向けに具体的な計算方法や会計処理の規定が決められています。
日本会計基準では、のれん償却期間を最長20年に設定しており、企業の将来性や価値を見極めて期間を決めることが大切です。
メリット
日本会計基準のメリットは、のれんの価値が減少していくことを見込んで、償却できることです。
のれん償却を行っておくと、減損処理を実施する可能性が減り、減損テストの事務手間がかかりません。
また企業の価値を予測しながら償却できるため、一度にのれんを計上する事態を避けられます。
デメリット
日本会計基準のデメリットは、のれんを決める要素が定期的に減価償却されるため、企業の利益に悪影響を与えることです。
のれんの価値が下がった場合に、減損損失として損益計算書に計上しなければなりません。
国際会計基準(IFRS)
国際会計基準(IFRS)は、国際会計基準審議会(IASB)が設定した世界中で採用されている会計基準です。
国際会計基準(IFRS)では、のれんは将来的に利益を生む無形固定資産として扱われ、のれん償却できません。
のれんが定期的に償却を行うために、毎年減損テストが実施されます。
減損テストは、帳簿上ののれんが現在の市場価値を上回っていないかチェックするために、毎年実施されます。
メリット
国際会計基準(IFRS)のメリットは、のれん非償却と呼ばれるように、のれん償却費の負担がありません。
のれん償却費は、販売費や一般管理費として計上され、利益を圧迫します。
国際会計基準(IFRS)では、のれん償却を行わないため、利益を圧迫する心配がありません。
デメリット
国際会計基準(IFRS)のデメリットは、毎年減損テストを実施する手間がかかることです。
減損テストを実施する手間が増えるため、日本会計基準に比べてタスクが多いです。
のれん償却を実施するメリット
のれん償却を実施するメリットは、次の通りです。
- 減損による大きな損失を緩和する
- 大幅な赤字計上を避けられる
- のれんの実態を把握できる
それぞれのメリットを確認して、のれん償却を実施するべきか検討しましょう。
減損による大きな損失を緩和する
のれん償却は、減損による大きな損失を緩和するメリットがあります。
のれん減損を行った場合は、減額した金額を減損損失として計上するため、多額の特別損失が生じます。
一度に大きな財務上の衝撃を受けることなく、減損による損失を緩和できるため、株価を安定させることが可能です。
大幅な赤字計上を避けられる
のれん償却を実施すれば、大幅な赤字計上を避けられます。
M&Aによって大規模な取得をした年は、財務上の負担が大きくなり、大幅な赤字計上が必要です。
しかし、のれん償却によって赤字計上を長期的に分配すれば、利益への影響を緩和できます。
企業の収益性を安定させ、市場や投資家たちに財務状況をアピールするために、のれん償却が効果的です。
のれんの実態を把握できる
のれん償却を行えば、M&Aによって買収したのれんの実態を把握できます。
企業のブランド価値や収益性などは、固定資産のように永続的なものではありません。
のれんの実態を把握し経営戦略を立てることで、M&Aによって得られた資産を有効活用できます。
のれん償却を実施するデメリット
のれん償却を実施するデメリットは、次の通りです。
- 償却分が利益を圧迫する
- 償却期間の設定が難しい
- ビジネスの状況を確実に把握できる訳ではない
のれん償却は、財務状況に複数のデメリットをもたらす可能性があります。
メリットだけでなくデメリットを確認した上で、のれん償却を行うべきか検討しましょう。
償却分が利益を圧迫する
のれん償却を行う場合は、償却分が利益を圧迫する可能性があります。
例えば、最長20年間ののれん償却期間を設定した場合は、20年間も償却分が利益を減少させます。
M&Aによって新たな利益を生み出さなければ、償却分が利益を圧迫し経営を赤字化させるので注意しましょう。
利益を圧迫して経営が赤字化すると、投資家たちの評価が低下する可能性があるため、のれん償却は慎重に行わなければなりません。
償却期間の設定が難しい
のれん償却期間は20年以内であれば自由に設定できますが、慎重に期間を決めなければなりません。
のれんは、価値を正確に判断することが難しい資産です。
償却期間を適切に見積もれない場合は、長期的に経営を圧迫する可能性があります。
また、一度設定した償却期間は変更できないため、長期的な視点で財務戦略を立てる必要があります。
ビジネスの状況を確実に把握できる訳ではない
のれん償却を行っても、ビジネスの状況を確実に把握できる訳ではありません。
そもそものれんは、収益性や技術、ノウハウなどを含む企業の価値を表す指標です。
しかし正確に企業の価値を把握することは難しく、のれん償却を行っても現実で変動する企業の価値に反映できない可能性があります。
のれん償却は、ビジネスの状況を正確に反映できない可能性があることを踏まえて、実施するべきか検討しましょう。
M&Aにおけるのれん償却期間と適切な会計処理のポイントを理解しよう
M&Aにおけるのれん償却期間と、適切な会計処理のポイントを理解しておけば、のれん償却を実施できます。
のれん償却は、減損による大きな損失を緩和し、大幅な赤字計上を避けられるため、株価を安定させられます。
また、のれんの実態を把握し、M&Aによって得られた資産を有効活用した戦略立案が可能です。
しかし、のれん償却を実施すると、償却分が利益を圧迫し、経営を赤字化させる可能性があります。
のれん償却期間は、一度設定すると変更できないため、慎重に決める必要があります。
のれん償却期間の設定に悩んだ際は、M&Aの知識や経験が豊富なコンサルティングサービスをご利用ください。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
パラダイムシフトが選ばれる4つの特徴
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