M&Aが一般化する中で買収防衛策を確保することの重要性は高まっています。
買収防衛策の一つとしてゴールデンパラシュートが知られています。
これは、解雇時の経営陣の退職金を高額に設定することで、買収者の経済的インセンティブを阻害する方法です。
この記事では、ゴールデンパラシュートの特徴やメリット、デメリット、先進諸国における議論を解説します。
目次
- 1 ゴールデンパラシュートとは
- 2 敵対的買収とは
- 3 ゴールデンパラシュートによる対抗
- 4 ゴールデンパラシュート以外の買収防衛策
- 5 ティンパラシュートとの違いは
- 6 ゴールデンパラシュートのメリット
- 7 買収時の保険の役割がある
- 8 現在の社風を維持できる
- 9 役員の解任を防げる
- 10 敵対的買収による株価下落を防げる
- 11 ゴールデンパラシュートのデメリット
- 12 設定が難しい
- 13 役員の自己保身とみられる
- 14 経営陣の個人的信用が失われる
- 15 中小企業にゴールデンパラシュートは無縁なのか
- 16 ゴールデンパラシュートに関する議論
- 17 アメリカでの議論
- 18 フランスの対応
- 19 スイスの対応
- 20 ゴールデンパラシュートの設定は専門家にご相談を
ゴールデンパラシュートとは
ゴールデンパラシュートとは、敵対的買収が進行している状況で、経営陣が解雇された場合に多額の退職金やボーナスが支払われる契約を締結する買収防衛策です。
買収が成立した場合、買収者は契約に基づき、経営陣に割増された報酬を支払うことを余儀なくされます。
これによって、会社価値が毀損され、敵対的買収者の買収意欲を阻害するインセンティブとなります。
敵対的買収とは
企業の買収には大きく分けて、友好的買収と敵対的買収の2種類があります。
一般的な買収は友好的な買収であり、買収企業と被買収企業の合意に基づいて、株式の取得、支配権の確立が行われます。
一方で敵対的買収とは、被買収企業の経営陣や関連会社の同意を得ずに不特定多数の株主から株式を大量買付によって取得し、買収を試みる方法です。
一般的に会社法で規定されている子会社の条件である「総株主の議決権の過半数」の取得を目指します。
ただし、敵対的買収を実施する場合でも、当初は友好的買収を目指して被買収企業の経営陣に提案を行うことが多いです。
提案が拒絶されると、買収目的の達成のために敵対的買収に移行します。
このような敵対的買収に対して、株主の利益を保護することを目的とし、多数の企業が買収防衛策を導入しています。
ゴールデンパラシュートによる対抗
敵対的買収に対する対策の一つにゴールデンパラシュートがあります。
一般的に敵対的買収の後は、買収企業から経営陣が送り込まれ、会社を自由に操れる体制を構築します。
これに伴って、既存の役員は解任されます。
ゴールデンパラシュートはこれを逆手にとって、予め経営陣の退職金を高額に設定しておきます。
これによって、買収企業が経営陣を解任すると、多額の退職金を支払う必要があり、結果的に買収にかかる費用を増大させます。
買収企業は買収後に発生する費用を予想し、経済的合理性から買収を断念する可能性があります。
ゴールデンパラシュートは直訳すると、「金の落下傘」ですが、買収企業に乗っ取られた企業から役員が脱出する様子をイメージして、名称がつけられました。
ゴールデンパラシュート以外の買収防衛策
ゴールデンパラシュートは有効な買収防衛策の一つですが、その他にも敵対的買収から企業を守る方法があります。
ポイズンピル | 新株予約権の行使 |
ティンパラシュート | 従業員の退職金を高額に設定 |
マネジメント・バイアウト | 経営者資金による非上場化 |
プットオプション | 株主にプットオプションを付与 |
チェンジ・オブ・コントロール | 契約解除条項を設定 |
黄金株 | 創業者や友好的第三者に黄金株を付与 |
絶対的多数条項 | 株主総会の議決要件の厳格化 |
全部取得条項付株式 | 無議決権優先株式の買い上げ |
事前警告型 | 株主利益の毀損を事前発表 |
ホワイトナイト | 友好的な第三者による合併 |
第三者割当増資 | 友好的な第三者に新株割当 |
株式交換 | 友好的な第三者と株式交換 |
ジューイッシュ・デンティスト | 自社の社会的信用を毀損 |
焦土作戦 | 買収目的資産を売却 |
資産ロックアップ | 資産売却制限の設定 |
パックマン・ディフェンス | 敵対的買収者を買収 |
スタッガードボード | 役員の改選時期をずらす |
労働組合の協力 | 労働組合にストライキを要請 |
ティンパラシュートとの違いは
ゴールデンパラシュートとティンパラシュートの目的は、敵対的買収が成功した場合の費用を増大させ、買収企業の意欲を削ぐことにあります。
しかし、以下のように方法論が異なります。
ゴールデンパラシュート | ティンパラシュート | |
対象 | 役員 | 従業員 |
方法 | 取締役などの役員の退職金や一時金を高額に設定する | 従業員の退職金を高額に設定する、また健康保険契約などを保証する |
敵対的買収者は買収後に自社から経営陣を派遣するため、既存の役員を解任する傾向にあります。
また、買収後に不要になる従業員については人員整理という形で解雇することがあります。
ゴールデンパラシュートとティンパラシュートはそれぞれ敵対的買収者の行動の特性を利用して、買収コストを膨張させるのが特徴です。
ゴールデンパラシュートのメリット
ゴールデンパラシュートは敵対的買収者の買収意欲を削ぐことで、買収を断念させる方法です。
ここからはゴールデンパラシュートのメリットについて解説します。
買収時の保険の役割がある
ゴールデンパラシュートの一番の目的は、買収を断念させることにあります。
しかし、取締役などの役員の退職金を高額にしても、敵対的買収者がTOBを成立させることは不可能ではありません。
その場合、自社にとって都合の良い経営陣を送りこむことを目的として、既存の役員を解任すると、役員は多額の退職金を得ることができます。
会社の支配権を失うことは残念ですが、引き換えに十分な退職金が手に入ります。
したがって、解任される役員にとっては、ゴールデンパラシュートは保険の役割を果たします。
現在の社風を維持できる
敵対的買収によって会社の社風や文化が変わることは珍しいことではありません。
買収された企業で働く従業員は買収企業に転籍となりますが、企業文化の変化によって、従業員にかかる負担が大きくなります。
特に日系から外資、中小から大手へ転籍となった場合に社風や企業文化は激変します。
会社の環境が変化することで、管理職や中堅、若手まで幅広い層が退職し、さらに企業文化が変化します。
会社の創業者や設立時から関与してきた人にとっては、社風を改変されることは非常に辛いです。
ゴールデンパラシュートによって、敵対的買収を防ぐことで、現在の社風を維持できます。
役員の解任を防げる
敵対的買収が成功すると、買収企業は既存の役員を解任します。
解任後、自社から経営陣を送り込み、会社の支配権を確立します。
これは自社にとって反抗的な人物を排除するため、また合併によって余剰となった経営陣について、特に役割の重複部分を解消するために、解雇や、他の役職へ異動・降格などの措置が採られます。
上場企業であっても比較的歴史の浅い企業では、設立以来会社を支えてきた人が役員に就任していることがあります。
これらの役員が職を解かれることは、経営者にとってはやるせない気持ちがあるかもしれません。
役員を守りたいという場合に、ゴールデンパラシュートは有効な防衛策になります。
敵対的買収による株価下落を防げる
本来、会社は株主のものであり、株主利益の最大化が株主から経営を任された経営陣の使命です。
しかし、敵対的買収が実施されると、株主が保有する株式を高額で買い取ってもらえるかもしれない一方で、買収後に株価が下落する可能性があります。
買収実施後は、買収企業の株式を保有することになりますので、当初保有していた株式の株価と大きく異なることもあります。
したがって、敵対的買収者に株式を高額で買い取ってもらえなかった株主や、長期保有を前提に投資していた株主などに損害を与えてしまう可能性があります。
ゴールデンパラシュートによって敵対的買収を阻止すれば、株価の下落を防ぎ、株主の利益を守ることができます。
ゴールデンパラシュートのデメリット
ゴールデンパラシュートには、敵対的買収者の意欲を削ぐという効果があります。
一方で役員の退職金が関係する防衛策ですので、デメリットも存在します。
デメリットを想定した上で、活用の是非について検討しましょう。
設定が難しい
ゴールデンパラシュートは役員の退職金を高額に設定することで、敵対的買収者の買収意欲を削ぐことを目的としています。
ただし、会社法第361条(取締役の報酬等)の規定によれば、役員の退職金については、株主総会の決議によって金額が決定されます。
つまり、ゴールデンパラシュートの設定については、株主の同意が必要になります。
しかし、ゴールデンパラシュートは現在の経営陣の利益を守るという側面があり、実施は必ずしも株主の利益にはなりません。
したがって、株主がゴールデンパラシュートの設定に反対する可能性があります。
役員の自己保身とみられる
敵対的買収に対して、ゴールデンパラシュートを設定したにもかかわらず、買収が成立した場合はどうなるのでしょうか。
仮に役員が解任されたとすると、役員に対して高額な退職金が支払われます。
名前の由来である「落下傘」のように、役員は会社から離れますので、残された従業員や株主の利益について気にかけないかもしれません。
しかし、会社を再度設立する場合には、周囲の信頼を集めることが困難になります。
また、敵対的買収の予防策としてゴールデンパラシュートを設定すれば、役員が「もらい逃げ」していると見られ、従業員のモチベーションを阻害する可能性があります。
経営陣の個人的信用が失われる
ゴールデンパラシュートは、買収者の買収意欲を減退させます。
しかし、買収による利益が経営陣に支払う退職金を上回る場合に敵対的買収が強行される可能性があります。
その場合、経営陣に高額な報酬が支払われ、「経営陣が自身の経済的利益を優先した」「最初から報酬が目的だった」と認識される恐れがあります。
経営陣個人の信用が毀損した場合、次の事業での資金調達や取引先との関係構築に悪影響を及ぼすかもしれません。
中小企業にゴールデンパラシュートは無縁なのか
ゴールデンパラシュートを設定するということは、敵対的買収を仕掛けられることが前提です。
敵対的買収のほとんどがTOBによるものであることを考えると、上場していない中小企業にとってゴールデンパラシュートは関係のない話ではないかという疑問があります。
しかし、レコフデータによれば、日本のM&Aと件数は増加していると報告されています。
中小企業が買収の対象となることもあります。
第三者が非上場の中小企業を買収する場合は市場で株式を買い集めることはできません。
しかし、中小企業の場合は創業者以降、相続を繰り返して株式が分散していることがあります。
会社の乗っ取りを計画する企業が株主から株式を買い集めて、敵対的買収を成功させることがあります。
したがって、敵対的買収は中小企業にとって無縁の話ではなく、ゴールデンパラシュートを活用した対策は有効といえます。
ゴールデンパラシュートに関する議論
買収防衛策として有効に思えるゴールデンパラシュートですが、日本での実例は多くありません。
それでは、海外ではどのように認識されているのでしょうか。
ゴールデンパラシュートに関する先進諸国の議論や対応を解説します
アメリカでの議論
M&A先進国アメリカでは、「ゴールデンパラシュートは株主の利益と相反するのではないか?」という議論があります。
ゴールデンパラシュートが他の買収防衛策と異なる点は、買収が実行されて、経営陣が解任されると多額の退職金が支払われる点です。
これは経営陣を利する行為であり、株主の利益と相反します。
会社法423条1項では、株主と取締役の利害が相反する取引について、株主の承認を必要としています。
この点について、退職金の金額の変更について株主総会での承認が必要ですので、問題ないとする意見が多数派です。
しかし、会社法に違反していないとしても、「株主の利益を害する可能性のある対策を採ることが果たして道徳的に正しいのか」という議論は絶えません。
フランスの対応
フランスでは、経営陣に対する高額の報酬やゴールデンパラシュートが社会的に不公平であるという議論が受け入れられた結果、経営陣の退職金に対する上限金額が設定されました。
役員退職金は「2年間の報酬」を上限とします。
例えば、退職する経営陣の年収が2,000万円ならば、2,000万円×2年=4,000万円が役員退職金の上限です。
上限規制によって、敵対的買収者に過度な負担を強いることが難しくなりました。
フランスでは、買収防衛策としてのゴールデンパラシュートの有用性は低下したと言えるでしょう。
スイスの対応
スイスでは、上場企業は役員報酬に関する政策を策定し、株主総会で投票を行う必要があります。
この政策には役員報酬の基準や設定方法など詳細な情報が含まれます。
これにより、株主が上場企業の経営陣の報酬に大きな影響力を持ち、役員報酬の設定に関して透明性が確保されます。
役員報酬が企業の業績や企業価値と合致しなければ株主の承認を得られないので、この規制によって経営陣に過度の報酬を約束するゴールデンパラシュートは禁止されたと言えるでしょう。
ゴールデンパラシュートの設定は専門家にご相談を
中小企業であっても敵対的買収を仕掛けられる可能性があり、ゴールデンパラシュートは有効な防衛策となります。
ただし、株主の利益を害する可能性があることから、ゴールデンパラシュートには批判がつきものです。
したがって、導入に際しては専門家に相談しましょう。
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