企業の買収において相手の同意を得ずにTOBを実施することと敵対的買収と呼びます。
反対に双方の同意に基づき実施される買収を友好的買収と言います。
国内で実施される買収のほとんどは友好的買収です。
今回の記事では、友好的買収の定義やメリット・デメリット、実際の流れを解説します。
目次
友好的買収とは?
買収とは、買収対象企業の株式の過半数を取得し、経営権を獲得することです。
友好的買収とは、この買収のプロセスが買収対象企業の同意を得て実施される買収を指します。
同意とは、買収実施や買収価格などの条件面で買収企業と買収対象企業が同意することです。
一般的に買収は友好的買収を指しますが、「敵対的」買収との対比のために、「友好的」買収と呼び区別する場合があります。
上場企業を友好的買収によって取得する場合に株式公開買付(TOB)という方法が採用されますが、この時に敵対的TOBと対比して友好的TOBと呼ばれることがあります。
市場で株式を取得できる上場企業の買収に際しても買収対象企業の同意を得ることが一般的です。
敵対的買収との違い
敵対的買収は友好的買収の対義語です。
買収対象企業の同意を得ないで、買収対象企業の株式の過半数を取得し、経営権を獲得します。
金融商品取引法第27条によって、上場企業の株式に対し、市場内と市場外の組み合わせ等で株券等所有割合が3分の1を超える場合にTOBを実施することが義務付けられています。
上場企業の同意を得ないで、株式公開買付(TOB)によって買収する時に友好的TOBと対比して敵対的TOBと呼ばれます。
3分の1は株主総会の特別決議を単独で否決できる割合ですので、会社の経営権を獲得する場合に必ず超える水準です。
最近では、銀行業界で敵対的TOBが実施され、話題になりました。
一般に敵対的買収は世間からネガティブなイメージを持たれますが、この時は買収対象企業の過剰な拒否反応がかえって批判されました。
友好的買収が主流
買収対象企業の同意という点で、買収には友好的買収と敵対的買収の2種類がありますが、国内で実施されるM&Aの大半は友好的買収です。
1980年代にアメリカで敵対的買収を行うハゲタカファンドが登場してから、欧米に続き、日本でも最近になって増加しています。
しかし、日本では株式持ち合いという独自の企業文化もあり、敵対的買収の成功率が低く、買収側も最初から敵対的買収を目指すわけではないので、友好的買収が主流です。
ただし、買収側が条件を掲げて、敵対的買収に踏み切った後に買収対象企業が圧力に屈して条件を飲んで、形式上は友好的買収となる場合もあります。
友好的買収のメリット
結果的に敵対的買収で終わる場合でも最初は友好的買収を目指します。
友好的買収が目指される背景にはそのメリットが多いことがあるでしょう。
敵対的買収ではなく、友好的買収を実施するメリットをご紹介します。
メリットは以下の4点です。
- シナジー効果が見込める
- 成功率が高い
- 敵対的買収より費用が安い
- ステークホルダーの印象が良い
シナジー効果が見込める
シナジー効果とは、M&Aによって複数の企業が統合することで、単独で事業を運営するより、効率的に行動し、単純合算よりも大きな結果を出せることを指します。
敵対的買収と異なり、友好的買収では、双方の同意があるので、社員の協力が得やすいでしょう。
人材が流出するのを防ぎ、社員の能力を活かして、シナジー効果が発揮しやすいです。
M&A実施後も協力的な雰囲気があり、新しく1つの会社として発展が見込めます。
反対に敵対的買収では、大規模な社員流出や旧経営陣の非協力的な態度によって、シナジー効果を発揮できないかもしれません。
成功率が高い
敵対的TOBを発表しながら、敵対的買収に失敗する事例は少なくありません。
買収される側は買収に非協力的な態度を取り、買収に必要な情報を提供しません。
敵対的買収に対する買収防衛策を準備している企業もたくさんあります。
最終的に敵対的買収の成功率は必ずしも高くないのです。
反対に友好的買収では、同意を得た買収対象企業から協力が得られます。
正確な買収価格の算定が可能で、デューデリジェンスなどの重要な手続きも円滑に進みます。
友好的買収でもM&Aは多くの手間と時間を要しますが、双方がM&Aの成功に向けて、協力するので、成功率が高くなるでしょう。
敵対的買収より費用が安い
成否を問わず、敵対的買収には高い費用がかかります。
一般に敵対的TOBによって買収を実施しますが、株式取得の費用は時価次第です。
敵対的TOBが実施されると分かれば、市場で株価は釣り上がるので、高い株価で買収しなければなりません。
また、買収防衛策として、買収を断念させることを目的に買収費用が釣り上がる仕組みが用意されています。
一方で、友好的買収では、基本的に株式を取得する以上の費用がかからず、敵対的買収より安く済みます。
費用を支払った後はほとんどの場合で買収が成功します。
ステークホルダーの印象が良い
極端な例ではありますが、敵対的買収を繰り返すハゲタカファンドに好印象を抱く人は少ないでしょう。
敵対的買収は買収対象企業を強引に買収し、その伝統を破壊するというイメージが少なからずあります。
買収対象企業の取引先や社員、金融機関などのステークホルダーの心証も良くなく、買収後の事業継続に悪影響を与えるかもしれません。
しかし、友好的買収では、これらのステークホルダーや世間一般にネガティブな印象を与えずに済みます。
敵対的買収によって生じる風評被害も防ぐことができるでしょう。
友好的買収のデメリット
次に友好的買収のデメリットも見てみましょう。デメリットは以下の2点です。
- シナジー効果を得られない場合もある
- 株主が反発する可能性がある
シナジー効果を得られない場合もある
友好的な買収で企業を買収できたとしても、時間や手間は多くかかります。多くの労力やコストを費やしても想定していたシナジー効果が得られないこともあり、大きなデメリットとなるでしょう。
買収を成功させることも大切ですが完了させることばかりに集中してしまい、肝心の経営統合に注力できず、統合が失敗に終わってしまうことさえあります。
想定したシナジー効果を十分に得るために、経営統合の作業を怠らないようにしましょう。
株主が反発する可能性がある
友好的買収は買い手企業と売り手企業にとってはメリットが多く、お互いに利益を得られる買収です。
しかし、株主にとっては得るべき利益が少なくなってしまうこともあり、買収の反対を受けることも考えられます。
日本では、買収において株主の利益を確保する仕組みや規律が確立されていません。経営陣も株主を保護する姿勢が整っておらず、その点を指摘されることもあるでしょう。
会社が家族経営なら問題ありませんが、親族以外が株主である場合にはとくに注意が必要です。将来的に上場を視野にいれているのであればなおさらです。
友好的買収であっても、企業同士だけでなく、株主もの利益も確保できる買収を目指しましょう。
友好的買収の注意点
双方の合意がないと買収できない点が友好的買収の注意点です。
友好的買収は買収対象企業の同意があった場合のみ可能になります。
買収対象企業が買収に不同意の場合でも友好的買収にこだわることで買収の機会を失う可能性があります。
市場シェア拡大、新技術導入といった経営戦略上の重要課題に取り組むために買収を検討している場合、敵対的買収に踏み切らないことで、経営上の利点を獲得する機会を失する事態になるでしょう。
この点、敵対的買収であれば、買収対象企業の同意がなくても買収が成功する可能性があります。
ただし、敵対的買収に踏み切っても買収自体が成功するとは限りません。
高いコストを払った後で買収計画が頓挫することもあります。
買い手から見た友好的買収の流れ
双方が同意して進められる友好的買収の場合、どのようにクロージングまで進むのでしょうか。
友好的買収でもさまざまなステップを踏まないと買収を成功させることが出来ません。
買い手から見た友好的買収の流れを解説します。
M&A仲介会社と仲介契約締結
買収を成功させるために専門家の助けを借りる場合がほとんどです。
一般的にM&A仲介会社と仲介契約を締結しますが、取引のある金融機関が仲介役となる場合もあります。
M&A仲介会社は買収候補の紹介や契約書の準備、デューデリジェンスの手配など買収を進めていく上で不可欠となるサポートを提供してくれます。
業界や地域によって得意不得意があるので、M&A仲介会社選びは慎重に行いましょう。
契約の際には手付金の有無など料金体系を必ず確認します。
売り手企業の検討
最初にM&A仲介会社に業界や地域、規模といった買収候補の希望条件を伝えておきます。
一般的には買収候補の企業概要や業績、売却理由などが記載されたノンネームシートが買い手に提示されます。
ノンネームシートには企業名が記載されていませんが、興味を持った企業があれば、M&A仲介会社に伝えます。
情報漏洩防止の観点から、M&A仲介会社と秘密保持契約を締結したうえで、より詳細情報が記載された企業概要書が開示される流れです。
トップ面談の実施
双方が同意した場合、トップ面談が実施されます。
面談では、社風や事業内容、経営への思いといった互いの理解を深めるための話し合いが実施され、買収実施後の統合の姿がイメージできるか考えましょう。
トップ面談は一度ではなく、双方が納得するまで複数回実施されるのが普通です。
その後、買収価格などの条件などが話し合われ、双方が合意すれば、買収をさらに進めることになります。
売り手候補に意向表明書を提出して、買収の意思を示しましょう。
基本合意の締結
買収実施に合意したら、諸条件を記載した基本合意書を締結します。
基本合意書には以下の事項を盛り込みます。
- 買収対象(会社か事業か)
- 買収価格
- デューデリジェンス
- 買収スケジュール
- 独占交渉権
- 保証債務
- 秘密保持義務
- 善管注意義務
基本的に基本合意には法的拘束力がありません。しかし、双方に買収に向けて努力する道徳的義務を課します。
基本合意が締結されると、たいていの場合は最終合意まで進みます。
デューデリジェンスの実施
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、買収対象企業を財務、法務、事業、ITなどの面から調査し、買収のリスクや事前情報との一致を把握する作業です。
最終合意締結前に最終的な買収判断や買収価格を決定するために実施されます。
買い手が弁護士や公認会計士などに依頼し、それらの専門家が作業を担うのです。
買収後に多額の損失を被る偶発債務や買収対象企業が把握しない事業上のリスクを発見し、リスクを回避します。
最終合意の締結
デューデリジェンスの結果を反映した条件に双方が合意した場合、諸条件が記載された最終合意が締結されます。
最終合意には以下の事項を盛り込みます。
- 買収対象(会社か事業か)
- 買収価格
- クロージング条件
- 表明保証
- 誓約事項
- 補償条項
- 債務不履行と損害賠償
- 競業避止義務
基本合意と異なり、最終合意には法的拘束力があります。最終合意締結後にクロージングへの努力を怠った場合、損害賠償が発生する可能性があります。
可能な限り友好的買収を実施する
今回の記事では、友好的買収の定義やメリット・デメリット、実際の流れを解説しました。
本来、買収は双方の同意によって成立する友好的買収を前提とします。
相手の同意の有無を無視した敵対的買収と比べて、統合後の会社経営やコスト面などで優れています。
買収の効果を最大限発揮したい場合、可能な限り友好的買収を進めましょう。
パラダイムシフトは2011年の設立以来、豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。M&Aに精通している仲介会社を利用すると、安心して行うことが出来ますので、是非ご検討ください。
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