システム開発を外部に委託するにあたり、「開発したソースコードの権利は、誰に帰属するのか」と疑問に思ったことはありませんか。
権利関係を曖昧にしたままプロジェクトを進めると、将来のシステム改修や事業展開の際に、思わぬトラブルに発展しかねません。
本記事では、ソースコードの著作権譲渡について詳しく解説します。本記事を読めば、ソースコードの著作権の基本や、トラブルを未然に防ぐ契約書のチェックポイントがわかります。
目次
- 1 そもそもソースコードの著作権とは
- 2 権利の帰属:原則は創作者(開発者)、契約がなければ受注者のもの
- 3 例外:従業員による開発は職務著作で会社に帰属
- 4 著作権譲渡と利用許諾(ライセンス)の違い
- 5 契約書に盛り込むべき7つの必須チェックポイント
- 6 ①【対象の特定】どのソースコードの権利を譲渡するのか明確に
- 7 ②【権利の範囲】「著作権法第27条・第28条」の明記が最重要
- 8 ③【著作者人格権】譲渡できない権利は不行使特約で対応する
- 9 ④【譲渡の対価】報酬に含むのか、別途支払うのかを記載
- 10 ⑤【表明保証】第三者の権利を侵害していないことを保証させる
- 11 ⑥【引渡義務】著作権譲渡とソースコードの引渡しは別問題
- 12 ⑦【雛形・文例】契約書に使える条項サンプル(発注者・受注者向け)
- 13 【最新動向】AIが生成したソースコードの著作権は誰のもの?
- 14 トラブル回避のためのQ&A
- 15 著作権譲渡の契約書がない場合の権利は?
- 16 他のライブラリやコードを参考にした場合、著作権侵害になる?
- 17 まとめ:ソースコードの権利は最初の契約が9割!対等な関係で安心して開発を進めよう
そもそもソースコードの著作権とは
ソースコードとは、著作権法で保護されるプログラムの著作物に該当します。これは、著作権法第10条第1項第9号で明確に定められています。
「思想や感情を創作的に表現したもの」が著作物であり、ソースコードはまさに開発者の思想が創作的に表現されたものと見なされるのです。
ただし、注意点として、プログラムのアイデアやアルゴリズム(計算手順)自体は保護の対象外です。あくまで、具体的な表現として記述されたソースコードそのものが保護されると理解してください。
権利の帰属:原則は創作者(開発者)、契約がなければ受注者のもの
著作権は、特別な手続きをしなくても、著作物を創作した瞬間に発生します。そして、権利は原則として創作した人(創作者)に帰属し、これを創作者主義と呼びます。
この点は、システム開発の業務委託契約において非常に重要です。発注者が開発費用を全額支払ったとしても、契約書で著作権の譲渡について定めていなければ、著作権はソースコードを作成した受注者(開発会社やフリーランスエンジニア)に残ります。
「お金を払ったから自分たちのもの」という認識は誤りであり、多くのトラブルの原因となっています。
例外:従業員による開発は職務著作で会社に帰属
原則は創作者主義ですが、会社の従業員が職務としてソースコードを作成した場合に適用される職務著作は例外です。
一定の要件を満たすことで、著作権は創作した従業員個人ではなく、法人(会社)に帰属します。
| 要件 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 1. 法人等の発意 | 会社の企画や業務指示に基づいて開発が開始されること。 |
| 2. 業務に従事する者 | 正社員や契約社員など、会社の指揮監督下にある者が作成すること。 |
| 3. 職務上の作成 | 担当業務の範囲内で作成されること。 |
| 4. 公表名義 | 会社の名義でソフトウェアが公表されること(契約等に別段の定めがない場合)。 |
特に重要なのが4番目の「契約、就業規則その他に別段の定めがない限り」という部分です。
雇用契約書や就業規則に「従業員が作成したプログラムの著作権は従業員個人に帰属する」といった定めがあれば、そちらが優先されます。そのため、企業は自社の規定を明確にする必要があります。
著作権譲渡と利用許諾(ライセンス)の違い
ソースコードの権利に関する契約には大きく分けて、著作権譲渡と利用許諾(ライセンス)の2種類があります。
両者は権利の移転範囲が根本的に異なり、目的によって使い分ける必要があります。以下では、違いを下の表にまとめました。
| 項目 | 著作権譲渡 | 著作物利用許諾(ライセンス) |
|---|---|---|
| 権利の移転 | 著作権そのものが譲受人へ完全に移転します。 | 著作権は著作者に残ったまま、利用する権利だけが許諾されます。 |
| 権利者 | 譲受人が新たな著作権者となります。 | 著作者が著作権者のままです。 |
| 利用範囲 | 譲受人は自由に利用、改変、再頒布、再譲渡が可能です。 | 契約で定められた目的、期間、地域などの範囲内でのみ利用可能です。 |
| 改変の可否 | 原則、自由に改変できます。 | 原則、改変はできません(契約で許可されていれば可能)。 |
| 契約終了後 | 権利は永続的に譲受人のものです。 | 契約が終了すれば、利用する権利も消滅します。 |
| 向いているケース | 自社で自由に改修・事業展開したい発注者。 | 汎用パッケージソフトの導入、特定の機能のみを利用する場合など。 |
発注者側が将来的に自社で自由にシステムを改修・拡張していきたいのであれば、著作権譲渡を選択するのが一般的です。
一方で、受注者側としては、自社で開発したフレームワークやライブラリ部分の権利は保持し、その部分については利用許諾とするといったハイブリッドな契約になります。
契約書に盛り込むべき7つの必須チェックポイント
以下では、もっとも重要な、著作権譲渡契約書を作成・確認する際の必須チェックポイントを7つ解説します。
これらのポイントを見落とすと、将来的に「想定と異なる結果となった」という事態になりかねません。発注者・受注者双方の視点で、具体的な条文例も交えながら確認してください。
①【対象の特定】どのソースコードの権利を譲渡するのか明確に
基本として、譲渡する著作権の対象となるソースコードを具体的に特定することが不可欠です。契約書で対象が曖昧だと、どの範囲の権利が譲渡されたのかについて後から争いになる可能性があります。
- 悪い例:本契約で開発したソフトウェアの著作権
- 良い例:本契約に基づき作成された顧客管理システム『XYZ-Manager Ver1.0』に関する全ソースコード、仕様書、設計書その他一切のドキュメント
このように、システム名、バージョン、成果物の種類などを具体的に記述すると、権利の範囲が明確です。
②【権利の範囲】「著作権法第27条・第28条」の明記が最重要
単に「著作権を譲渡する」と記載しただけでは、実はすべての権利が譲渡されたことにはなりません。著作権法第61条第2項により、以下の2つの権利は、契約書に譲渡すると明記しなければ譲渡されないと推定されます。
- 著作権法第27条:翻訳権、翻案権など(ソースコードの改変、バージョンアップ、他言語への移植などに関わる権利)
- 著作権法第28条:二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(改変して作成した新たなプログラムを利用する権利)
これらの権利が譲渡されていないと、発注者は譲り受けたはずのソースコードを自由に改修したり、機能追加したりできません。
必ず「著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む)を譲渡する」という一文を記載しましょう。
③【著作者人格権】譲渡できない権利は不行使特約で対応する
著作者には、著作権とは別に著作者人格権という一身専属の権利があります。これは著作者の名誉やこだわりを守るための権利で、法律上、他人に譲渡できません。
| 著作者人格権の種類 | 内容 |
|---|---|
| 公表権 | 未公表の著作物を公表するかどうか、いつどのように公表するかを決める権利。 |
| 氏名表示権 | 著作物に著作者名を表示するかどうか、実名かペンネームかを決める権利。 |
| 同一性保持権 | 著作物の内容や題号を意に反して改変されない権利。 |
特に問題となりやすいのが、同一性保持権です。発注者がシステムを改修する際、開発者(著作者)から「意に反する改変だ」として同一性保持権の侵害を主張されるリスクがあります。
リスクを回避するため、契約書に「著作者は、譲受人及び譲受人が指定する第三者に対し、著作者人格権を行使しないものとする」という不行使特約を設けるのが一般的です。
④【譲渡の対価】報酬に含むのか、別途支払うのかを記載
著作権譲渡が有償なのか無償なのか、有償の場合は対価をどう支払うのかを明確に定めます。開発委託料の中に譲渡対価が含まれているのか、それとは別に譲渡料を支払うのかを契約書に明記しましょう。
金額、支払時期、支払方法などを具体的に記載すると、金銭的なトラブルを防ぎます。無償で譲渡する場合も、契約書に記載しておくことが重要です。
⑤【表明保証】第三者の権利を侵害していないことを保証させる
表明保証とは、契約内容に関して、一方の当事者が相手方に対し、特定の事実が真実かつ正確であることを表明し、内容を保証する条項です。
著作権譲渡においては、受注者(譲渡人)に以下の点を保証させることが、発注者(譲受人)を守る上で非常に重要です。
- 納品するソースコードの著作権を正当に有していること。
- 納品するソースコードが第三者の著作権やその他の権利を侵害していないこと。
- 納品するソースコードについて、第三者に利用許諾などをしていないこと。
特に2020年の著作権法改正により、譲渡前に結ばれた利用許諾契約は、譲受人に対しても効力を持つようになりました。そのため、知らないうちに第三者の利用権が付いたまま著作権を譲り受けてしまうリスクがあります。
表明保証条項は、こうした予期せぬリスクから譲受人を守るための重要な防衛策です。
⑥【引渡義務】著作権譲渡とソースコードの引渡しは別問題
「著作権を譲り受けたのだから、ソースコードも当然引き渡してもらえるだろう」と考えるのは危険です。法的には、著作権という無形の権利の移転と、ソースコードという情報(モノ)の物理的な引渡しは、まったく別の契約上の義務とされています。
過去の裁判例(大阪地判平成26年6月12日)でも、著作権の帰属とソースコードの引渡義務は別問題であると判断されています。
たとえ著作権譲渡の合意があっても、契約書にソースコードを引き渡す旨の記載がなければ、引渡しを法的に請求することは困難な可能性があります。
将来の保守や改修のために、必ず契約書の納品物の項目にオブジェクトコード及びソースコード一式と明記しましょう。
⑦【雛形・文例】契約書に使える条項サンプル(発注者・受注者向け)
これまで解説したポイントを踏まえ、契約書に記載する著作権条項のサンプルを紹介します。
以下はあくまで一例であり、実際の契約では事案に応じて弁護士などの専門家にご相談ください。
▼発注者(譲受人)に有利な条項例
| 第〇条(知的財産権の帰属) 本契約に基づき、乙(受注者)が作成して甲(発注者)に納入した本件成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)、特許権、実用新案権、意匠権、商標権その他一切の知的財産権は、本件成果物の納入と同時に、乙から甲に無償で移転するものとする。 2.乙は、甲及び甲が指定する第三者に対し、本件成果物に関する著作者人格権を行使しないものとする。 3.乙は、本件成果物が第三者の知的財産権を侵害しないことを保証する。 |
【最新動向】AIが生成したソースコードの著作権は誰のもの?
近年、AIによるコード生成技術が急速に普及し、開発現場でも利用される機会が増えています。ここで新たな問題となるのが、「AIが生成したソースコードの著作権は誰に帰属するのか」という点です。
日本の現行著作権法は、人間の思想または感情を創作的に表現したものを著作物と定義しています。現状の法解釈では、以下のように考えられています。
- AI自身は著作者になれない:AIは思想や感情を持たないため、AIが自律的に生成したコードに著作権は発生しません。
- 人間の創作的寄与が鍵:人間がAIを道具として利用し、プロンプトの指示に工夫を凝らしたり、生成されたコードを選択・修正・組み合わせたりする過程で創作的寄与が認められれば、その人間に著作権が帰属する可能性があります。
しかし、どこからが創作的寄与と認められるかの線引きはまだ明確ではありません。AIが生成したコードを安易に利用すると、意図せず他者の著作権を侵害したり、著作権がないコードとして扱われたりするリスクもはらんでいます。
今後の法整備や判例の動向を注視していく必要があります。
トラブル回避のためのQ&A
以下では、ソースコードの著作権に関してよくある質問と回答をまとめました。
著作権譲渡の契約書がない場合の権利は?
契約書で著作権譲渡の合意がなければ、原則通り、ソースコードを作成した受注者(開発者)に著作権が帰属したままです。
発注者は開発費用を支払ったとしても、あくまでソフトウェアを利用する権利を得たに過ぎず、自由に改変したり、他社に販売したりすることはできません。
口約束だけでは法的な効力が弱いため、必ず書面で契約を交わすことが重要です。
他のライブラリやコードを参考にした場合、著作権侵害になる?
オープンソースソフトウェア(OSS)のライブラリなどを利用する際は、ライセンス規約を遵守する必要があります。ライセンスによっては、商用利用の可否、改変の条件、著作権表示の義務などが定められています。
規約に違反して利用すると著作権侵害となる可能性がありますので、必ず事前にライセンス内容を確認してください。
また、他人のコードを安易にコピー&ペーストして使用すると、複製権の侵害にあたるため厳禁です。
まとめ:ソースコードの権利は最初の契約が9割!対等な関係で安心して開発を進めよう
ソースコードの著作権譲渡は、単なる事務手続きではありません。将来の事業の自由度や、開発パートナーとの良好な関係を左右する、極めて重要な経営判断です。
曖昧な理解のまま契約を進めてしまうと、後から修正することが非常に困難です。
開発を依頼する側も、受託する側も、これらの知識を身につけて対等な立場で契約に臨むことが、互いの権利を守り、プロジェクトを成功に導く鍵になります。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
パラダイムシフトが選ばれる4つの特徴
- IT領域に特化したM&Aアドバイザリー
- IT業界の豊富な情報力
- 「納得感」と「満足感」の高いサービス
- プロフェッショナルチームによる適切な案件組成
M&Aで自社を売却したいと考える経営者や担当者の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
またM&Aを成功させるためのコツについて全14ページに渡って説明した資料を無料でご提供しますので、下記よりダウンロードしてください。





