広告業界では、M&Aを活用した大手広告代理店による寡占化が進んでいます。
国内市場の縮小やインターネット広告市場の拡大といった業界内の大きな変化に対応するために、各社ともM&Aを有効活用しています。
中小の広告代理店は、生き残りをかけてM&Aによる売却を検討。
この記事では、広告代理店を売り手もしくは買い手とするM&AのメリットやM&Aを実施したい広告代理店の具体的な手続きについて解説します。
目次
広告代理店のM&Aとは?
広告代理店のM&Aとは、広告代理店や異業種が他の広告代理店をM&Aによって買収することを指します。
広告代理店とは、メーカーなどの広告宣伝をしたい広告主とテレビや雑誌などのメディアの間にたって企画や制作を行うことで収益を得ている企業です。
広告代理店には、すべての広告媒体を扱う総合広告代理店、特定のメディアの広告媒体を扱う専門広告代理店、特定の事業会社の広告事案を専属で行う ハウスエージェンシーの3種類があります。
日本には、特に影響力のある三大広告代理店があり、M&A案件でも3社のいずれかが関わっていることが多いです。
広告代理店のM&Aの動向
広告業界におけるM&Aは活発に行われています。
近年の広告代理店のM&Aの特徴は主に2つあります。
1つ目が、活発になっているインターネット広告のM&Aです。
広告業界全体では、市場は飽和状態にありますが、インターネット広告の分野は今後も成長が見込まれます。
特に三大広告代理店による買収案件が盛んであり、成長事業であるインターネット広告事業を積極的に買収。
大手はインターネット広告代理店を合併し、投資を進めることで次世代の広告に対応し、競争力をつけようとしています。
2つ目がクロスボーダー案件です。
国内市場の縮小によって、大手を中心に海外に活路を求める動きがあります。
海外に拠点を置いたり、海外の広告代理店を買収する動きが活発化しているのです。
海外M&Aによって、売上高の半分以上を海外事業に占めるに至った広告代理店もあります。
広告代理店をM&Aで売却するメリット
広告業界におけるM&Aといえば、大手がシェア拡大や海外進出を図るための手段としてイメージされがちです。
しかし、大手の業界再編によってシェアを失った中小の広告代理店にとってもM&Aは大きなチャンスです。
経営戦略の一つとしてM&Aは有効な対策となっています。
ここでは、広告代理店を売り手とするM&Aのメリットについて解説します。
事業承継対策ができる
広告業界では、三大広告代理店が圧倒的な地位を占めており、その他の中小企業が企業数では大半を占めています。
経済産業省によれば、2025年までに、後継者が不足する中小企業は127万社と中小企業全体の3分の1を占めています。
したがって、広告業界においても後継者問題の解決、つまり事業承継対策が急務です。
後継者がいないまま経営者が引退を迎えると、黒字であっても廃業となります。
従業員は雇用を失い、広告宣伝を依頼している取引先は新しい広告代理店を探さないといけません。
しかし、M&Aによって大手の傘下に入ることができれば、経営者が引退しても、会社が存続することができます。
売却益の獲得
通常、M&Aでは株式譲渡というスキームで買収が実施されます。
株主譲渡では、売り手企業の株主が保有する自社株式を買い手企業が買い取ります。
中小の広告代理店の場合、経営者が創業者としてすべての自社株式を保有していることがほとんどです。
大手広告代理店からM&Aによって得られる売却益は経営者が獲得することができます。
高齢によって、会社を引退する場合には老後資金への充当が可能です。
また、縮小傾向にある広告業界から撤退し、他の業種で新しい事業を始める時の新規開業資金として使うこともできます。
このように創業時から会社を育成してきた対価として報酬を得られる点がM&Aの魅力です。
従業員の雇用の継続
後継者がいない状態で経営者が引退せざるを得ない状況になると、広告代理店は廃業してしまいます。
廃業した会社では従業員の雇用を継続することはできません。
中小の広告代理店であっても、独自の技術やノウハウを蓄積している会社はたくさんありますが、その源泉となっているのが従業員です。
高い技術やスキルを持った従業員であっても、廃業によって仕事を失います。
しかし、M&Aによって大手に統合されれば、従業員の雇用は継続されます。
広告業界は人材不足が深刻ですので、事業価値を創出する従業員が解雇されることは少ないでしょう。
「M&Aによって従業員が解雇されるのでは?」と不安に思う経営者の方もいますが、一般的に雇用は継続されますし、基本合意の段階で雇用について合意すれば問題ありません。
広告代理店をM&Aで買収するメリット
大手広告代理店を中心にインターネット広告を扱う中小の広告代理店のM&Aが盛んに行われています。
国内市場の縮小やインターネット広告市場の拡大といった業界の変化によって、これまで以上にM&Aが注目を集めています。
経営戦略の一つとしてM&Aは有効な対策です。
ここでは、広告代理店や異業種を買い手とするM&Aのメリットについて解説します。
大型から小型まで幅広い広告事業をカバーできる
一口に「広告」といっても雑誌などの紙媒体や看板広告、テレビCMといった大型から小型まで様々なものがあります。
また、すべての広告媒体を扱っている「総合広告代理店」、特定のメディアの広告媒体に特化した専門広告代理店など事業範囲も様々です。
M&Aによって、中小の広告代理店を買収すると、これまで進出していなかった広告領域に事業展開をすることが可能になります。
大手広告代理店を中心に業界再編が進んでいますが、大手は様々な広告領域の広告代理店を買収し、あらゆるニーズに対応できる事業体制を構築しています。
広告活動の内製化によるコスト削減
広告代理店を買収し、外注していた広告活動をすべて自社で行うことを目的にM&Aを実施することがあります。
広告活動の内製化によって自社にノウハウが蓄積する仕組みが構築できます。
広告を運用して、効果を検証するためには長期間の運用と結果の分析が必要です。
内製化すれば、広告活動後の検証も容易になります。
また、内製化によって広告代理店への依頼料がかかりません。
広告の運用手数料は無視できないコストですが、広告活動を行わないわけにはいきません。
広告活動の内製化は、広告にかかる費用を削減する有効な方法です。
広告事業への新規参入
異業種が広告事業に新規参入する時には広告代理店の買収が最も有効です。
新しく広告事業を始めるためには事業計画を立案して、必要な機材や人材を一から準備する必要があります。
長い年数とお金がかかっても、最終的に成功するとは限りません。
広告業界は供給過多ですので、歴戦のライバルからシェアを奪うことは容易ではないでしょう。
しかし、既に事業が完成している企業を買収すれば、広告業界への参入が容易になります。
事業が軌道に乗るまでの時間と労力をお金で買うことができます。
広告代理店のM&Aの手順
広告代理店が広告事業を売却したい、もしくは新たに広告事業を買収したい時にどのような手順を踏めばよいのでしょうか。
これらの手順には全部で3ヶ月から12ヶ月程度かかると言われています。
M&Aを確実に成功させるためのプロセスを解説します。
広告業界に強いM&A仲介会社と契約する
M&Aを検討するときにはM&A仲介会社に依頼することが一般的です。
M&A仲介会社に依頼すれば、相手企業の選定や契約締結に必要な法務や財務の知見の提供を受けることができます。
M&A仲介会社によって得意分野や地域が異なるので、広告業界に特化した会社や広告業界でのM&A仲介の実績がある会社を選定しましょう。
M&A仲介会社とアドバイザリー契約を締結し、正式にM&Aアドバイザーとして任命します。
相手企業の選定
M&A仲介会社は売り手となる広告代理店の企業名を伏せた上で財務内容や事業内容などが記載された「ノンネームシート」を作成します。
買い手は興味をもった企業があれば、M&A仲介会社に連絡します。
M&A仲介会社はより詳細な情報が記載された企業概要書を買い手に交付し、買い手はそれを基にM&Aを検討するのです。
買い手から交渉のオファーがあれば、M&A仲介会社を通じて、売り手企業に連絡されます。
買い手・売り手双方が交渉に合意すれば、トップ会談に進むことができます。
基本合意の締結
双方の経営者がトップ会談を行い、経営理念や経営方針について共有します。
その結果、M&Aを実施することについて合意できれば、基本合意書を締結。
基本合意書には、これまでに合意した事項を記載します。
- スキーム
- 売却価額の概算
- スケジュール
- デューデリジェンス
- 保証債務
- 独占交渉権
- 秘密保持 など
基本的に基本合意書には、法的拘束力を持たせません。
ただし、基本合意の締結によって、双方がM&Aを実施する道義的責任を生じさせます。
デューデリジェンスの実施
デューデリジェンスとは、M&A実施前に売り手企業に対して行う企業調査です。
買い手が弁護士などの専門家に依頼して、売り手の財務や法務、税務などさまざまな観点から企業を調査します。
デューデリジェンスによって、適正な売却価額が決定でき、買収後のリスクがないかを確認することができます。
売り手は、デューデリジェンス前にすべての企業情報を開示しないで、調査によって問題点が判明すると信用を失ってしまうのです。
デューデリジェンスが終わると、最終合意の締結プロセスに進むことができます。
最終合意の締結
M&Aについて売却価額を含めて、合意ができたら双方が最終合意を締結します。
最終合意に記載する事項は以下のとおりです。
- 売却価額
- 表明保証
- 補償条項
- 誓約事項
- 前提条件
- 解除条件
- 債務不履行と損害賠償
- 秘密保持 など
最終合意には、法的拘束力があります。
最終合意を締結した後に解消すると、双方ともに損害賠償責任を負うことになるので、注意が必要です。
広告代理店のM&Aは双方にメリットがある
この記事では、広告代理店を売り手もしくは買い手とするM&AのメリットやM&Aを実施したい広告代理店の具体的な手続きについて解説しました。
国内市場の縮小やインターネット広告の成長によって、広告代理店のM&Aは活発に行われています。
中小の広告代理店も例外ではなく、主に売り手としてM&Aの恩恵を受けることができます。
広告代理店のM&Aを検討している場合には株式会社パラダイムシフトに相談しましょう。
株式会社パラダイムシフトは、IT領域特化型M&Aアドバイザリーであり、広告業界で活発なインターネット広告関連のM&Aについても豊富な知見があります。