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SES企業の売却ガイド!M&A動向や価格・相場、最新事例も解説

「後継者がいないまま、この先どうすれば良いのか」
「エンジニアの採用も育成も、年々難しくなっている」
「このまま事業を続けても、ジリ貧になるだけではないか」

SES(システムエンジニアリングサービス)企業を経営する中で、上記のような不安や悩みを抱えていないでしょうか。長年心血を注いできた会社だからこそ、未来を案じるのは当然のことです。

会社の売却(M&A)は、決して後ろ向きな選択ではありません。むしろ、会社の成長、大切な従業員の雇用、ご自身の豊かなリタイア後の生活を実現するための、有効な戦略的選択肢となり得ます。

本記事では、SES企業の売却を検討し始めた経営者のために、最新のM&A動向から自社の価値を正しく知るための売却価格の相場、成功に向けた具体的な手順や事例までわかりやすく解説します。

目次

SES企業の売却・M&A動向

近年、SES業界ではM&Aが活発化しています。背景には、買い手側、売り手側、市場全体の各々に明確な理由が存在します。IT人材不足やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進といった大きな潮流が、業界の構造自体を変えようとしているのです。

買い手の動向:深刻なIT人材不足を背景とした人材獲得が目的

買い手企業がSES企業を買収する主な動機は、深刻化するIT人材不足の解消です。DXの加速に伴い、あらゆる業界で優秀なITエンジニアの需要が急増しています。

しかし、エンジニアの採用と育成には、膨大な時間とコストがかかります。M&Aは、人材不足の課題を解決するスピーディーかつ効果的な手段です。

特定の技術を持つエンジニアチームを即座に獲得できるため、大手IT企業だけでなく、自社のIT部門を強化したい異業種企業にとっても、SES企業の買収は魅力的な選択肢となっています。

売り手の動向:後継者不在と業界再編への対応

売り手であるSES企業の経営者も、M&Aを重要な選択肢として捉えています。中小企業では特に、経営者の高齢化に伴う後継者不在は深刻な問題です。

廃業の選択肢は、従業員の雇用や取引先との関係を考えると容易には選べません。一方で、M&Aは事業と従業員の雇用を守りながら、第三者に会社を引き継ぐ有効な事業承継の手段となり得ます。

また、競争が激化する業界内で、大手企業の傘下に入り経営基盤を安定させたいといったニーズも、売却を後押しする大きな要因です。

市場の動向:異業種からの参入と業界再編の加速

SES業界全体のトレンドとして、異業種からのM&A参入が目立っています。金融や製造、流通といった業界の企業が自社のサービスにITを組み込むため、あるいは新規事業を創出するためにSES企業を買収するケースが増加しています。

同時に、SES企業同士のM&Aによる業界再編も加速しています。結果として、SES企業の価値は多方面から高く評価される傾向にあり、売り手市場の様相を呈しています。

売却を検討する経営者にとって追い風と言える状況です。

SES企業の売却価格と相場を徹底解剖

会社の売却を考える上で経営者が気になるのは、「自社は一体いくらで売れるのか」といった金額面の疑問です。

売却価格は、企業の価値を客観的に評価する企業価値評価(バリュエーション)に基づいて算出されます。本章では、企業価値評価の基本的な考え方と手法について解説します。

売却価格の目安を知る簡易的な計算式(年買法)

M&Aの専門知識がない方でも、大まかな相場観を把握するための簡易的な計算方法があります。年買法(ねんばいほう)と呼ばれる方法で、以下の式で算出されます。

  • 計算式:売却価格 = 時価純資産 + 営業利益 × 2~5年分

営業利益×2~5年分の部分は、企業の将来性を表すのれん(営業権)に相当します。何年分をかけるかは、企業の安定性や成長性によって変動します。

あくまでも簡易的な目安ですが、自社の立ち位置を知る第一歩として役立つ計算式です。

企業価値評価(バリュエーション)の3つのアプローチ

実際のM&A交渉では、より専門的な企業価値評価(バリュエーション)が行われます。評価方法は、主に以下の3つのアプローチに大別されます。

アプローチ概要主な手法SES企業評価での特徴
コストアプローチ企業の純資産(資産から負債を引いた額)を基準に評価する。時価純資産法資産が少ないSES企業では、単独での評価は不向き。
マーケットアプローチ類似する上場企業やM&A事例と比較して相対的に評価する。類似会社比較法客観性が高いが、適切な比較対象を見つけるのが難しい場合がある。
インカムアプローチ企業が将来生み出す収益やキャッシュフローを基準に評価する。DCF法将来性や成長性を反映でき、SES企業の評価に適している。

上記の手法を単独ではなく複数組み合わせることで、より多角的で精度の高い企業価値を算出します。

コストアプローチ(時価純資産法)

企業の貸借対照表に記載されている資産と負債を時価で評価し直し、差額(純資産)を企業価値とする方法です。客観的でわかりやすい反面、将来の収益性を評価に含められない点は要注意です。

マーケットアプローチ(類似会社比較法)

事業内容や企業規模が似ている上場企業の株価などを参考に、企業価値を算出する方法です。市場の評価が反映されるため客観性が高いですが、完全に一致する比較対象企業を見つけることは困難です。

インカムアプローチ(DCF法)

将来の事業計画に基づいて企業が生み出すと予測されるフリーキャッシュフローを算出し、現在価値に割り引いて企業価値を評価する方法です。企業の将来性や成長性を反映できるため、近年のM&A、特にSES企業のような成長産業で重視される手法です。

見過ごされがちな無形資産の価値について

SES企業の本当の価値は、貸借対照表に載っている数字だけでは測れません。優秀なエンジニアチーム、独自の技術ノウハウや長年の取引で築いた顧客との信頼関係、企業のブランドイメージなどは、無形資産やのれんと呼ばれ、売却価格を大きく左右する重要な要素です。

買い手企業は、目に見えない価値に対してこそ、対価を支払います。したがって、M&A交渉では、自社の持つ無形資産の価値を明確に言語化し、客観的なデータと共にアピールする姿勢が高値売却を実現します。

SES企業の売却価格を最大化するための準備

会社の売却を成功させ、より良い条件を引き出すためには、計画的な準備が不可欠です。売却を考え始めたら、1~2年をかけて企業価値を高めるための取り組み(企業磨き)を始めましょう。

本章では、準備における5つの重要なポイントを解説します。

1. 財務の健全化と透明化:信頼の土台を築く

買い手企業が重視する点の一つが、財務の健全性と透明性です。日頃から以下の点を意識し、信頼される財務体質を構築しましょう。

  • 会計処理の適正化:税理士と連携し、誰が見ても明瞭な会計処理を行う
  • 経費の削減:不要なコストを見直し、利益率を高める
  • 契約関係の整備:顧客や従業員との契約書を法的に問題ない形に整える

2. コア技術・専門性の強化:独自の強みを磨く

他社にはない独自の強みは、企業価値を飛躍的に高めます。自社の得意分野を見極め、専門性をさらに強化しましょう。

  • 特定技術の深化:クラウド、AI、セキュリティなど、需要の高い分野での専門性を高める
  • 資格取得の奨励:エンジニアのスキルを客観的に証明する資格取得を支援する
  • 独自サービスの開発:他社が真似できない独自のサービスやツールを開発する

3. 顧客ポートフォリオの最適化:安定性と成長性を示す

特定の顧客に売上の大部分を依存している状態は、買い手から見るとリスクと判断されます。安定的かつ成長性のある事業であることを示すために、顧客のバランスを整えましょう。

  • 顧客の分散:特定の1社への依存度を下げ、複数の優良顧客との取引を増やす
  • エンドユーザーとの直接取引:下請け構造から脱却し、エンドユーザーとの直接契約を増やす
  • 長期・高単価案件の獲得:安定した収益が見込める長期契約や、利益率の高い案件の割合を高める

4. 人材戦略の強化:最も重要な資産価値を高める

SES企業にとって、エンジニアは重要な資産です。優秀な人材が定着し、成長できる環境を整えることが、企業価値の最大化に直結します。

  • 採用と育成:自社の強みに合ったエンジニアの採用計画を立て、体系的な研修プログラムを導入する
  • 離職率の低下:働きやすい環境を整備し、従業員満足度を高めることで、低い離職率を維持する
  • キャリアパスの提示:エンジニアが将来のキャリアを描けるような道筋を示す

5. 事業の見える化:属人性を排除し組織力を示す

「特定の営業担当者しか顧客との関係がわからない」「エースエンジニアがいないとプロジェクトが進まない」といった属人性の高い状態は、M&Aにおいてマイナス評価となりがちです。組織として事業が回る仕組みを構築しましょう。

  • 業務プロセスの標準化:営業手法やプロジェクト管理方法などをマニュアル化する
  • 情報共有の徹底:顧客情報や技術ノウハウを組織全体で共有する文化を醸成する

SES企業売却の手順

M&Aは、思い立ってすぐにできるものではありません。準備から最終的な契約まで、通常は半年から1年以上かかる長期的なプロジェクトです。

本章では、その全体的な流れを3つのステップに分けて解説します。

ステップ1:準備段階

売却を成功させるための土台を作る重要なフェーズです。

  • M&Aの目的を明確にする:なぜ売却するのか、何を実現したいのかを整理します
  • M&Aアドバイザーを選定する:IT・SES業界に精通した専門家と契約します
  • 企業価値評価を行う:自社の価値を客観的に把握します
  • 必要書類を準備する:ノンネームシート(社名を伏せた企業概要書)などを作成します

ステップ2:相手探しと交渉段階

アドバイザーの支援を受けながら、最適なパートナーを見つけるフェーズです。

  • 買い手候補の探索:アドバイザーのネットワークを通じて、候補企業を探します
  • 秘密保持契約の締結:詳細な情報を開示する前に、秘密保持契約を結びます
  • トップ面談:経営者同士が面談し、経営方針や企業文化の相性を確認します
  • 基本合意契約の締結:大筋の条件で合意し、独占交渉権などを定めます
  • デューデリジェンス(買収監査):買い手が、売り手企業の財務や法務などを詳細に調査します

ステップ3:最終契約段階

M&Aのプロセスを締めくくる最終フェーズです。

  • 最終条件交渉:デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な売却価格や条件を交渉します
  • 最終契約書の締結:法的な拘束力を持つ株式譲渡契約書などを締結します
  • クロージング:株式や事業の引き渡しと、対価の決済を行い、M&Aが完了します

SES企業の売却が従業員に与える影響

会社の売却を考える経営者にとって、従業員の将来は大きな懸念事項の一つです。長年苦楽を共にしてきた社員たちの雇用や待遇がどうなるのか、不安に思うのは当然のことです。

本章では、M&Aが従業員に与える影響と、経営者としてできることについて解説します。

原則、雇用は維持される

まず重要な点として、株式譲渡の手法で会社を売却した場合、従業員の雇用契約は原則としてそのまま買い手企業に引き継がれます。会社の株主が変わるだけで、法人格や従業員との雇用関係は維持されるため、M&Aを理由に一方的に解雇されることはありません。

上記の点を理解しておくだけでも、経営者の精神的な負担は大きく軽減されるはずです。

待遇への影響と大手傘下入りによるメリット

給与や福利厚生などの待遇は、買い手企業の制度に統合される過程で変化する可能性があります。しかし、必ずしも悪い方向への変化だけではありません。

むしろ、経営基盤の安定した大手企業の傘下に入ることで、以下のようなメリットが期待できるケースも多くあります。

  • 給与水準の向上
  • 福利厚生の充実(住宅手当、退職金制度など)
  • より大規模で挑戦的なプロジェクトへの参加機会
  • キャリアアップのための研修制度の充実

経営者が従業員のためにできること

従業員の不安を払拭し、スムーズな移行を実現するために、経営者には重要な役割があります。M&Aの交渉段階で、従業員の雇用維持や待遇改善を重要な条件として買い手企業に要求できます。

そして、売却が正式に決定した後は、従業員に対して誠実かつ丁寧に説明する場を設けることが不可欠です。M&Aの背景や目的、従業員の処遇について真摯に伝えることで、彼らの不安を和らげ、新しい体制への前向きな理解を促せます。

SES企業の売却事例【2025年最新】

最後に、SES業界で実際に行われたM&Aの事例をいくつか紹介します。本章で紹介する事例は、現在の市場の動向を具体的に理解する上で参考資料として活用できます。

事例1:ゆめみ × アクセンチュア

Web制作やシステム開発を手がける株式会社ゆめみは、世界的なコンサルティングファームであるアクセンチュア株式会社に株式の一部を売却しました。このM&Aの背景には、アクセンチュアが企業のDX支援を強化する上で、ゆめみの持つ高いデジタル開発能力を自社に取り込みたいといった狙いがありました。

大手コンサルティングファームが、即戦力となる開発チームを獲得するためにM&Aを活用した象徴的な事例です。

参考:アクセンチュア株式会社「アクセンチュア、株式会社ゆめみの買収に合意」

事例2:ヘルメスシステムズ × 働楽ホールディングス

システム開発やインフラ構築を行う株式会社ヘルメスシステムズは、同じくSES事業を展開する働楽ホールディングス株式会社に株式を譲渡しました。

本件事例は、同業他社同士のM&Aによる事業規模拡大の一例です。両社の技術や顧客基盤の統合によって、より競争力のあるサービスを提供し、市場でのシェア拡大を目指す戦略的な動きと言えます。

参考:株式会社働楽ホールディングス「株式会社ヘルメスシステムズ グループ化のお知らせ」

事例3:Laniakea × BTM

Webシステム開発などを手がける株式会社Laniakeaは、SES事業を株式会社BTMに事業譲渡しました。企業が自社のコア事業に経営資源を集中させるために、一部の事業を売却した事例です。

買い手であるBTMは、本件買収によって自社のSES事業を強化し、成長を加速させています。

参考:株式会社BTM「Laniakea 株式会社の事業譲受に関するお知らせ」

まとめ:SES企業の売却は従業員と自身の未来のための選択肢

本記事では、SES企業の売却について、市場の動向から価格相場、成功のための準備、具体的な手順、最新事例までを網羅的に解説しました。SES企業の売却は、もはや単なる事業整理や撤退の手段ではありません。

後継者問題や業界の競争激化といった厳しい現実を乗り越え、会社と従業員の未来を守り、経営者自身が創業者利益を確保して新たな人生を歩むための、前向きで戦略的な経営判断です。現在の市場は売り手にとって有利な状況にあり、適切な準備と戦略をもって臨めば、想像以上の成果を得ることも十分に可能です。

もし会社の将来に少しでも不安を感じているのであれば、まずは第一歩としてIT業界に精通したM&Aの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。客観的な視点から自社の価値を知り、未来の選択肢を広げることが、より良い明日への扉を開く鍵となるはずです。

M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。

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