「のれん」とは、M&Aにおいて基礎的かつ重要な知識です。
とはいえ、「のれん(のれん代)の意味は?M&Aとどのような関係があるのだろう」などの疑問をお持ちではないでしょうか?
この記事では、M&Aののれんとは何か、売り手・買い手視点で解説します。
のれん代の会計処理や注意点、M&Aの基本的な知識とあわせてご覧ください。
目次
- 1 M&Aにおける「のれん・のれん代」とは?
- 2 のれんとは、買収価格と売り手企業の純資産額の差
- 3 のれんの由来
- 4 M&A、のれん代の計算方法
- 5 M&A時の売買価格の出し方
- 6 M&Aの際、のれん代の会計処理とは
- 7 のれんは減価償却が必要
- 8 のれん代の償却期間は上限20年
- 9 IFRSと日本基準では償却方法が異なる
- 10 M&A、のれんの減損処理について
- 11 のれんによって減損が発生する理由
- 12 M&Aでのデューデリジェンス不足
- 13 買収後の業績悪化
- 14 マイナスの無形価値「負ののれん」に注意
- 15 M&Aでのれん代を高める方法【売り手側】
- 16 自社を評価してくれる買収先を探す
- 17 複数の買い手候補を競わせる
- 18 のれんについて理解を深めM&Aにのぞみましょう
M&Aにおける「のれん・のれん代」とは?
M&Aとは、企業・事業の買収や合併のことです。
近年、事業拡大や事業承継などのさまざまな理由から、M&Aをおこなう企業が増加しています。
M&Aの報道でよく耳にする言葉が「のれん・のれん代」です。
まずは、「のれん・のれん代」がどのようなことを表す用語なのかを解説します。
のれんとは、買収価格と売り手企業の純資産額の差
のれんとは、「M&A取引での買収価格」と「売り手企業の純資産額(資産−負債)」の差です。
M&Aでは、一般的に買収価格と売り手企業の純資産額が等しくなることはありません。
その理由は、M&Aでの買収価格が「売り手企業の純資産額」+「財務諸表に記載されない無形価値」によって算出されるからです。
のれんは、売り手にとってのブランド価値・技術力。
ブランド価値や技術力は無形価値であるため、財務諸表に計上されません。
M&Aでは、建物や機械のような有形価値に加え、ブランド力や技術力などの無形価値を総合的に判断し、将来の収益性を考慮した売買価格を算出します。
そのため、本来であれば資産として計上されない無形価値が、M&Aによって初めて「のれん」という形で浮き彫りになります。
のれんの由来
のれんは企業のブランド力・信用・顧客などを表す言葉で、飲食店などの軒先にかけられた暖簾(のれん)に由来します。
暖簾には店名が入っていることから、ブランド力・信用・顧客などの無形資産を表す専門用語として使われるようになりました。
かつて、のれんは「営業権」という会計用語で表されていました。
のれんと営業権では、考え方に違いがあります。
- のれん:のれん=M&Aでの買収価格ー売り手企業の純資産価値
- 営業権:純資産に価値をプラスする考え方(純資産+営業権=M&A価格)
要するに、のれんは引き算の考え方であるのに対し、営業権は足し算の考え方という違いです。
M&A、のれん代の計算方法
M&Aにおけるのれん代の計算方法は、「のれん=M&Aでの取引価格ー買収企業の資産価値」です。
したがって、のれん代を計算するには、M&Aでの取引価格を算出する必要があります。
M&A時の売買価格の出し方
M&A時の売買価格の算出方法は数多くありますが、おもに下記3つの方法が使われます。
- インカム・アプローチ
- マーケット・アプローチ
- コスト・アプローチ
この3つの方法のうちどれか1つもしくは組み合わせるなどして、M&Aでの売買価格を算出します。
売買価格はたとえどの方法で算出したとしても、売り手企業の持つ無形価値や買収によって起こるであろう相乗効果を考慮し、将来の収益性を見込んだ価格設定がおこなわれます。
そのため一般的に売買価格は、売り手企業の純資産額を上回り、結果として「のれん」が顕在化します。
M&Aの際、のれん代の会計処理とは
会計上、のれん代は商標権や特許と同様の無形固定資産として処理するよう定められています。
さらに、無形固定資産は取得にかかった費用を分割して計上する、減価償却が定められています。
そこで、のれん代の減価償却について解説します。
のれんは減価償却が必要
減価償却とは、固定資産の取得にかかった費用をその年に計上するのではなく、権利の存続期間もしくは耐用年数に応じて分割した金額ずつ費用計上することです。
工場を建設した場合、工場は長年に渡って使用されるため、建設した年だけに建設費などの費用を計上するのは、実際の状況に即していません。
そこで、工場の耐用年数が15年であれば、費用のうち15分の1を15年間に分割し、計上します。
のれんも工場と同様で価値が永久に続くわけではありません。
たとえば、あるソフトウェア技術が現在1億円の価値だとしても、10年後には一切使われない技術になることもあります。
そのため、のれんも工場や機械と同様に一定期間内で償却する必要があります。
のれん代の償却期間は上限20年
のれん代の償却は何十年にも分割していいわけではなく、のれんの権利を存続できる上限20年以内と定められています。
しかし実際には、のれんの価値が持続する耐用年数を、のれん代の償却期間に設定することが一般的です。
減価償却はあくまでも実際の状況に即している必要があります。
仮に償却期間を長く設定しすぎた場合には、のれんの価値が持続していないとして、監査法人から指摘されかねません。
対して、のれんの償却期間を短く設定すると、1年あたりの費用計上額が大きくなりすぎるため、営業利益を圧迫する危険性があります。
そのため、のれんの償却期間は、のれんの価値が持続する耐用年数を参考に算出します。
IFRSと日本基準では償却方法が異なる
IFRS(国際財務報告基準)とは、海外の多くの国々が採用する国際的に共通した会計基準です。
このIFRSと日本基準とでは、のれん代の償却方法が異なります。
具体的には、下記の違いがあります。
- 日本基準:20年間以内の一定期間でのれんの減価償却をおこなう
- IFRS:のれんの減価償却をおこなわない
IFRSでは1年に1回、のれんの減損を確認する減損テストがあるものの、のれんの減価償却をしません。
したがってM&Aで買収したのれんは、貸借対照表に資産として計上され続けます。
ただし、減損テストで万が一のれんの価値が著しく低下したと判断された際には、費用としてまとめて計上する仕組みです。
M&A、のれんの減損処理について
のれんの減損処理によって、M&Aが失敗するケースがあります。
ちなみに、のれんの減損処理とは、M&Aで企業の買収後に収益性が低下し、のれんに対する投資額の回収ができないと判断された場合に、のれんの資産価値を減らすことです。
のれんの減損処理によって減額した分ののれん代は、損失として計上しなければなりません。
巨額のM&Aではのれん代も大きくなるため、のれんの減損処理による損失の計上で経営を続行できなくなるケースがあります。
これが、M&Aにおける代表的な失敗例です。
そうならないためにも、のれんが減損する根本的な理由を理解し、回避しなければなりません。
のれんによって減損が発生する理由
M&A後にのれんの減損処理が発生する理由はいくつかありますが、おもに下記の2つに集約されます。
- M&Aでのデューデリジェンス不足
- 買収後の業績悪化
M&Aでのデューデリジェンス不足
のれんによって減損が発生する1つ目の理由は、売り手企業の価値やリスクなどを調査する、デューデリジェンスの不足です。
M&Aでは、売り手企業の財政状況や買収後の自社へのシナジー性などを推し量ったうえで買収価格を算出します。
しかし、M&Aにおいて相手企業の情報が不足している中で買収をおこなうと、
- 高値で買収してしまい、実際の価値とかけ離れてしまう
- リストラ計画などの思わぬリスクの顕在化
- 見込んだ収益が上げられない
のような可能性があり、のれんの減損につながります。
そのため、M&Aでのれん代の妥当な価格設定をおこなう上で、デューデリジェンスは必要不可欠です。
買収後の業績悪化
2つ目の理由は、M&Aで買収後の業績悪化です。
そもそも、M&Aでの価格設定は企業の現在価値に加え、将来の収益性を見込んで算出します。
そのため、見込んだ収益性を出せない場合には投資額の回収ができないと判断され、のれんの減損処理となります。
M&A後の業績悪化のおもな要因としては、以下があります。
- M&A時点で売り手があえて業績悪化の現状を伝えなかった
- PMIが不十分だったことで、結果を出せなかった
- M&Aが目的となり、買収後の経営が疎かになった
のれんの減損を起こさないためにも、実際の価格と買収価格の差を減らす経営努力が必要です。
マイナスの無形価値「負ののれん」に注意
マイナスの無形価値「負ののれん」には注意が必要です。
負ののれんとは、M&Aでの売買価格が売り手企業の純資産を下回ったに発生するものです。
- のれん:「M&Aでの売買価格」−「売り手企業の純資産」=プラスの金額
- 負ののれん:「M&Aでの売買価格」−「売り手企業の純資産」=マイナスの金額
一見、負ののれんは、売り手企業を純資産額よりも安く買収できているため、メリットに感じます。
しかし、負ののれんが生じるのは、財務諸表には記載されない簿外負債や損害賠償請求のリスクなどが隠れているケースのため、大きなデメリットになることもあります。
なお、通常の「のれん代」は減価償却に伴い、帳簿上で損益として借方に計上されます。
しかし、負ののれんでは売り手の資産価値よりも安く買収していることから、帳簿上で利益として貸方に一括計上されます。
負ののれんが利益に計上されることで、貸借対照表では実際の事業利益との判断が難しくなり、事業の抱えるリスクが潜在化する恐れがあるため注意が必要です。
M&Aでのれん代を高める方法【売り手側】
M&Aを少しでも有利な条件で進めるために、のれん代を高く評価してもらう方法を把握しておくことが大切です。
のれん代を高く評価してもらう方法は、以下2つです。
- 自社を評価してくれる買収先を探す
- 複数の買い手候補を競わせる
それぞれ解説します。
自社を評価してくれる買収先を探す
のれん代に決まった計算方法はないため、買い手により算出方法が異なります。
売り手企業の無形価値を高く評価する企業もあれば、逆もまた然りです。
したがって、のれんを高く評価してもらうには、自社を評価してくれる買い手を探すほかありません。
自社を評価してくれる買い手を見極めるポイントは、以下です。
- 自社のノウハウ・販路を欲しがっている買い手
- 自社の事業へ新規参入を考えている買い手
自社を買収することで、大きなメリットが得られる買い手ほど評価が高くなります。
自社の強み・弱みをもとに、自社を高く評価してくれる買い手を探しましょう。
複数の買い手候補を競わせる
M&Aにおいて、1対1の交渉はお互いの考えが逆行するため、高い評価の獲得が困難です。
売り手は自社を少しでも高く評価してもらいたいものの、買い手は少しでも安く買いたいと考えるため、最終的な買収価格は両者が希望する価格の間に落ち着きます。
複数の買い手を競わせることで、買い手の心理としては「安く買収したい」と同時に「他社には取られたくない」と考えるため、より高い評価を獲得しやすくなります。
さらに、特許・商標権、高いブランド力など需要が高い無形価値がある場合には、複数の買い手に打診することで、のれんを高く評価されやすくなります。
のれんについて理解を深めM&Aにのぞみましょう
M&Aにおけるのれんについて解説しました。
のれんとは、買収価格から売り手企業の純資産を引いたものです。
買い手にとっての「のれん」は、M&A後の減損リスクがありますが、シナジー効果が期待できる資産です。
また売り手としても、自社の将来価値をM&Aの買収価格に反映できる絶好の機会になります。
パラダイムシフトでは、M&Aでの「のれん」についても豊富な知識や経験をもとにアドバイスさせていただきます。
ぜひお気軽にお問い合わせください。