アーンアウト条項とは何か?
M&A取引においてどのように活用されるのか?
このことを理解しておくことは、企業経営者や財務担当者にとって非常に重要です。
この記事では、アーンアウト条項の基本的な概念から、M&Aでどのように利用されるかを解説します。
この記事を読むことで、アーンアウト条項の活用方法を理解し、ビジネスチャンスに生かす準備ができるでしょう。
目次
- 1 アーンアウト条項の概要
- 2 アーンアウトの役割とは
- 3 アーンアウト条項が用いられる背景
- 4 M&Aで用いられるアーンアウト条項
- 5 アーンアウト条項が設けられる理由
- 6 アーンアウトの目的とは?
- 7 スタートアップM&Aでの増加傾向
- 8 アーンアウトの戦略的価値
- 9 アーンアウトのメリット
- 10 買い手のメリット
- 11 売り手のメリット
- 12 アーンアウトのデメリットと対処法
- 13 買い手のデメリット
- 14 売り手のデメリット
- 15 アーンアウト条項を活用する際のポイント
- 16 評価指標の設定
- 17 評価期間の合意
- 18 再売却の条件と制限
- 19 アーンアウト条項設定時の注意点とリスク
- 20 業績操作の可能性
- 21 税務上のリスクと会計処理
- 22 アーンアウト条項の導入手順
- 23 契約前の準備と検討事項
- 24 M&A契約書における条項の記載方法
- 25 実行後のフォローアップと評価
- 26 アーンアウト条項に関するまとめ
アーンアウト条項の概要
アーンアウト条項は、企業の買収や合併(M&A)において、買い手と売り手の間で将来の業績に基づいた追加報酬を設定するために使用されます。
アーンアウトの役割とは
アーンアウト条項の主な役割は、M&A取引におけるリスクとリターンのバランスを最適化することです。
具体的には、売り手が事業を売却後も一定期間、事業運営に関与し、定められた業績目標を達成することで、追加の対価を受け取る権利を持ちます。
これにより、売り手は事業が成功した場合のインセンティブを得ることができます。
買い手としては、過大な初期投資を抑えつつ、時間をかけて事業価値の評価ができるようになります。
アーンアウト条項が用いられる背景
アーンアウト条項が導入される背景には、主に企業価値の不確実性があります。
スタートアップ企業などの場合、企業価値を正確に評価することが困難であるため、将来の業績に基づいた評価が必要であり、そのために、アーンアウト条項が用いられます。
M&Aで用いられるアーンアウト条項
M&A取引において、アーンアウト条項は主に技術革新の速い業界や、急成長が見込まれる企業を対象に用いられます。
たとえば、情報技術やバイオテクノロジーの産業においては、サービス・製品開発の成果が不透明なことが多く、このようなリスクを考慮した取引が求められます。
アーンアウト条項が設けられる理由
アーンアウトの目的とは?
アーンアウト条項の主な目的は、買い手と売り手のリスクを公平に分配することです。
買い手にとっては、実際の価値以上の高額で買収するリスクを避けるための安全策となります。
一方、売り手としては、将来の業績によって、買収時に提示された金額以上の評価を得ることができるようになります。
スタートアップM&Aでの増加傾向
近年、スタートアップ企業のM&Aが増加しています。
スタートアップ企業は将来に対する不確実性を抱えていますが、創業者が築き上げた価値を適切に評価する手段として、アーンアウト条項の有用性が高まっています。
参考リンク:EY Japan
アーンアウトの戦略的価値
アーンアウト条項は、その柔軟性から戦略的な価値があります。
アーンアウト条項により、買い手は未来の不確実性を価格に反映させることができ、売り手はその業績を通じて正当な評価を受ける機会を得られるからです。
アーンアウトのメリット
買い手のメリット
1.大金を一度に支払わずに済む
買い手にとっての最大のメリットは、大金を一度に支払う必要がなくなることです。
買収初期の投資額を抑えることができ、財務負担が軽減されることで、他の事業への投資や、運転資金の確保が容易になります。
2.リスク回避
アーンアウト条項は、将来にわたって発生するかもしれない潜在的なリスクを回避するのに役立ちます。
業績が期待に満たない場合や、市場環境が変化した場合のリスクを抑えることができます。
売り手のメリット
1.より多くの資金を得られる可能性
売り手にとってのメリットは、将来的に高い業績を達成した場合に、初期の買収価格以上の追加報酬を受け取れることです。
特に成長期にある企業や、革新的な技術を持つ企業にとって、事業の成功次第で高額の報酬を獲得できるチャンスが残ることは非常に魅力的です。
2.M&Aの成約率向上
アーンアウト条項を設けることにより、買い手と売り手の意見の隔たりを緩和し、公平な取引が可能になります。
結果として、M&Aの成約率が向上し、スムーズな取引が促されます。
アーンアウトのデメリットと対処法
買い手のデメリット
1.想定よりも高い対価を追加で払う可能性
買い手にとってのデメリットは、事業の業績が予想以上に良好だった場合、当初の想定よりも高額の追加報酬を支払う必要が生じることです。
そのため、業績指標を明確に設定し、場合によっては報酬額に上限を設けることが重要です。
2.条件設定の難しさ
アーンアウト条項において、適切な業績指標や評価期間の選定は非常に複雑であり、不適切な条件は買い手に予期せぬ負担を課すことにつながります。
そのため、買収前に詳細な評価を行い、公平な評価指標を設定することが推奨されます。
また、専門家との協議を通じて条項の設計を行うことも、後のトラブルを避けるためには不可欠です。
売り手のデメリット
1.一括で対価を受け取れない
売り手にとってのデメリットは、対価の全額がすぐに受け取れない点です。
対処法としては、アーンアウトの支払い条件に最低限保証される金額を設けるか、あるいは短期間で評価される業績指標を選ぶことが有効です。
2.M&A後の業績管理リスク
アーンアウトの条項によっては、買収後の経営の自由度が制限されることがあります。
新しい経営方針や市場の変化に対応することが困難になることがあり、これが売り手にとって大きなリスクとなり得ます。
この問題に対処するには、買収後も一定の経営の自由を確保するための条項を契約に含めることが考えられます。
アーンアウト条項を活用する際のポイント
アーンアウト条項はM&A取引において重要な役割を果たしますが、その効果を最大限に発揮するためには、いくつかの重要なポイントがあります。
評価指標の設定
アーンアウト条項において最も重要なのは、買収後の業績を評価する基準の設定です。
評価指標は、買収対象のビジネスモデルや業界の特性に合わせて判断する必要があります。
指標は具体的で測定可能、かつ達成可能であることが求められ、双方の合意のもとで設定される必要があります。
評価期間の合意
評価指標と並んで、その業績をどの期間で評価するかも重要です。
評価期間が短すぎると、真の業績を反映しきれない可能性がありますし、長すぎると売り手が不利益を被ることがあります。
通常、評価期間は1年から5年の間で設定され、ビジネスの成熟度や業界の変動性に応じて調整されることが多いです。
再売却の条件と制限
アーンアウト期間中の再売却に関する条件と制限を設けることも重要です。
これは、買い手が別の企業に対象企業を売却する場合、元の売り手がどのように扱われるかを定めるものです。
通常、再売却が許可される場合でも、元の売り手がアーンアウト条項に基づいて追加報酬を受け取れるように、条件が設けられます。
これには、買い手が新しい所有者に対しても同様のアーンアウト条件を課すことや、売却価格が元の評価指標に影響を与えないようにすることなどが含まれます。
アーンアウト条項設定時の注意点とリスク
業績操作の可能性
アーンアウト条項による追加報酬は、業績指標に基づいて支払われます。
そのため、売り手が短期的な業績を良く見せるために、経理上の操作をする可能性があります。
これを防ぐためには、単年度だけでなく複数年にわたる業績を評価の基準とすることが有効です。
また、会計監査人による定期的な監査を条件とすることも有効な手段となります。
税務上のリスクと会計処理
アーンアウト条項に関連する税務や会計処理は、その複雑さから特に注意を要します。特に、国際的な取引においてはこの点がさらに重要になります。
日本基準の場合
日本においては、アーンアウトに基づく支払いは、その性質に応じて異なる税務処理が求められます。
通常、これらの支払いは費用として計上されることが多いですが、事業の資産を形成する場合には資本的支出として扱われることもあります。
また、アーンアウト支払いのタイミングによっては、税金の計算においてタイムラグが生じる可能性があり、これがキャッシュフローに影響を与えることがあります。
国際基準(IFRS)の場合
国際財務報告基準(IFRS)では、アーンアウトに関連する支払いは、業績目標の達成に基づいて条件付きで発生するため、買収日における買収対象企業の公正な価値評価に影響を与えます。
IFRSでは、これらの支払いを将来の費用として予測し、公正な価値として初期に認識することが要求される場合があります。
参考リンク:M&A 会計 実践編 第4回 条件付取得対価の会計処理
アーンアウト条項の導入手順
アーンアウト条項は、M&A取引の複雑さを増す要素の一つですが、正しく実施された場合には、取引の成功に大きく寄与します。
契約前の準備と検討事項
アーンアウト条項の導入に先立ち、対象企業のデュー デリジェンスが行われます。
これには財務、法務、運営の各側面が含まれ、将来の業績予測の精度を高めることが目的です。
また、買収する企業の文化や経営方針についても理解を深めることが重要です。
この段階で、アーンアウトの具体的な条件や評価指標、期間などが初めて検討され、関連するリスクが評価されます。
M&A契約書における条項の記載方法
アーンアウトの条項を記載する際には、双方の誤解を避けることが不可欠です。
条項には、達成すべき具体的な業績指標、評価期間、支払い条件、未達成時のペナルティ、業績達成後の支払い方法などを詳細に記述します。
また、外部の変動要因や不測の事態が業績に与える影響をどのように扱うかについても規定することが一般的です。
実行後のフォローアップと評価
アーンアウト期間中は、契約に記載された業績指標を、定期的かつ適切に確認する必要があります。
必要に応じて、買収後のビジネスプランの調整や改善措置が施されることもあります。
最終的な業績評価後、契約条件に基づいて追加対価の支払いが行われ、関連する文書の更新も行います。
アーンアウト条項に関するまとめ
アーンアウト条項は、M&A取引において重要な役割を果たすものであり、買い手と売り手双方にとって多くのメリットをもたらします。
アーンアウト条項は、将来の業績が予測しにくい企業や、急成長が見込まれるスタートアップの買収において有効です。
アーンアウト条項を利用することで、買い手は過大な初期投資を抑えつつ、売り手は業績向上による追加報酬のチャンスを保持できます。
しかし、アーンアウト条項には注意が必要です。適切でない評価指標や不公平な条件は、後の紛争の原因となることがあります。
また、税務上のリスクや会計処理の複雑さも考慮に入れる必要があります。
これらの問題を避けるためには、詳細な市場調査、適切な契約書の準備、そして専門家との協議が欠かせません。
結論として、アーンアウト条項はM&A取引における重要なツールですが、その成功は条項の設計と実行の精度に大きく依存します。
取引の各段階で慎重な計画と評価を行うことで、アーンアウト条項はその真の価値を発揮し、企業間の合意達成を促進する有力な手段となり得るでしょう。
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