- バリュエーションってどういう意味?
- バリュエーションを構成する要素は?
- バリュエーションを使った価格決定プロセスは?
親族や従業員以外の第三者に会社を承継するM&A。
近年の日本では多くの企業が注目している手法ですが、たくさんの専門知識が必要です。
そうしたM&Aの中でも、初心者の方が抑えるべき用語「バリュエーション」。
バリュエーションは会社の企業価値評価のことで、会社の買収価格を決定するときの重要な判断材料です。
この記事では、M&Aのバリュエーション(企業価値評価)の概要やバリュエーションの種類、買収価格決定のプロセスなどをM&A初心者にもわかりやすく説明します。
説明する具体的な項目は、以下の通りです。
- M&Aにおけるバリュエーション(企業価値評価)とは
- M&Aで活用されるバリュエーションの種類
- バリュエーション(企業価値評価)を使った買収価格決定のプロセス
- M&Aでバリュエーションを行うときの注意点
- M&Aのバリュエーション用語を理解したその先にあるもの
この記事を読むことで、現代に適した評価方法でM&Aに重要な正しい自社評価ができます。
目次
- 1 M&Aにおけるバリュエーション(企業価値評価)とは
- 2 企業価値の構成要素
- 3 事業価値
- 4 非事業価値
- 5 バリュエーションが果たす役割
- 6 M&Aで活用されるバリュエーションの種類
- 7 インカムアプローチ
- 8 DCF法(割引キャッシュフロー法)
- 9 収益還元法
- 10 配当還元法
- 11 コストアプローチ
- 12 簿価純資産価額法
- 13 時価純資産価額法
- 14 再調達原価法
- 15 マーケットアプローチ
- 16 市場株価法
- 17 類似業種比準法
- 18 類似会社比準法(マルチプル法)
- 19 類似取引比準法
- 20 バリュエーションを使った買収価格決定のプロセス
- 21 バリュエーションを元に売り手側が企業価値を算出し、希望買収価格を提示する
- 22 バリュエーションを元に買い手側がバイヤーズバリューを算出
- 23 最終的な買収価格決定
- 24 M&Aでバリュエーションを行うときの注意点
- 25 売り手の注意点
- 26 M&Aのバリュエーション用語を理解したその先にあるもの
M&Aにおけるバリュエーション(企業価値評価)とは
バリュエーション(企業価値評価)とはM&Aを行う際の会社の査定で、売り手企業と買い手企業の価格交渉にも使われます。
バリュエーション(企業価値評価)を構成する要素はさまざまあり、企業の規模や財務状況、その時々の経済状況で判断されます。
下記では企業価値を決める「企業価値の構成要素」を解説していきます。
企業価値の構成要素
企業価値を構成する要素には以下のようなものがあります。
- 事業価値
- 非事業価値
企業価値を構成する要素は、企業が成功し持続可能な価値を提供するための要因なので、投資家やステークホルダーにとってとても重要です。
企業価値を構成する要素「事業価値」「非事業価値」について下記で詳しく解説します。
事業価値
事業価値は、企業がビジネスを通じて創造する価値の総合です。
企業の資産や収益・利益、ブランド力、将来の成長機会など、多くの要素から成り立ちます。事業価値が高ければ企業は成功し、投資家やステークホルダーに対して魅力的です。
事業価値を高めるには収益増やコスト削減、リスク管理などをして顧客からの信頼を築くことが大切です。また、競争環境や市場動向を見極め、持続的な成長戦略を採用することも重要です。
非事業価値
非事業価値は、企業の主要なビジネス活動とは直接関係しない資産や要素(不動産、株式投資、現金、特許)によって形成される価値です。
非事業価値は企業の追加的な収益を生み出すものではなく、主に資産の保全や資産価値の増加を目的としています。
企業の総合的な資産ポートフォリオの一部であり、戦略的な資産運用やリスク管理の一環として重要です。
非事業価値は企業評価や資産管理に影響を与え、ビジネスの安定性や成長に寄与します。
バリュエーションが果たす役割
バリュエーションは、以下のような企業や資産の評価プロセスで重要な役割を果たします。
- 投資判断
投資家はバリュエーションを使用して、資産や企業の適正な価値を判断し、投資の意思決定を行います。 - 資産評価
企業はバリュエーションを通じて、自社資産やプロジェクトの正確な価値を把握し、資産の最適な利用を計画します。 - M&A取引
合併や買収(M&A)において、バリュエーションは交渉や価格設定に重要な役割を果たし、取引の成功を支えます。 - 会計報告
企業はバリュエーションを通じて、財務報告における資産や負債の評価を行い、正確な財務情報を提供します。 - 資本調達
新規株式発行や融資の際に、バリュエーションは資本調達の条件を決定し、企業と投資家の利益を調整します。
バリュエーションはビジネスの戦略的な意思決定に欠かせないので、正確な評価を行うことが重要です。
バリュエーションは、売り手企業の会社価値を多面的に評価し、双方が正確な意思決定をサポートするための情報源となります。
バリュエーションにはさまざまな方法があり、どの手法を選択するかは企業の規模や財務状況、経済状況に応じて判断されます。
M&Aで活用されるバリュエーションの種類
バリュエーションという用語は大きく3つの種類に分けられます。
- インカムアプローチ
- コストアプローチ
- マーケットアプローチ
中でも、インカムアプローチがよく使われる手法ですが、場面によって他の手法を使うこともあります。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、企業の将来期待される利益から見込まれるリスクを差し引き企業価値評価を算出する手法です。
企業活動から発生した自由に使えるお金、キャッシュフローや株式リスクなどを元に評価を行います。
インカムアプローチは企業の将来性を含めて企業価値を評価しますが、売り手企業の事業計画をもとに算出します。
売り手側企業の立案者は少しでも高い価格で会社を売りたいという考えが働き、自分の会社を過大評価してしまう恐れがあります。
それにより企業価値評価が左右されることもあるため、客観的な視点で事業計画の立案を行うことが必要です。
DCF法(割引キャッシュフロー法)
DCF法は将来見込める利益を現在価値に算出する手法です。
事業計画を元に将来どの程度の利益が見込めるか、起こりうるリスクを含め算出していきます。
売り手企業が作成した事業計画書をもとに、将来のキャッシュフローを予測し、計算式に基づいて企業価値評価を行います。
他の方法では含めない無形資産やのれん代など、幅広い部分まで含められるため、M&Aの現場で一番一番多く使われる手法です。
収益還元法
収益還元法は、平均収益÷資本還元率で計算する手法です。
市場の金利や国債の利回りを含めて計算するため、株式リスクを判断するのに役立ちます。
ただし、現在の平均収益を使うため、成長する確率の高いベンチャー企業の価格算出には向いておらず、それ以外の企業に対して使われます。
配当還元法
配当還元法は会社の資本と株式配当金をもとに企業価値評価を決める手法です。
会社の株式を5%未満所有している株主が株式譲渡を行う際や、非上場企業のM&A取引、事業承継に多く用いられます。
コストアプローチ
コストアプローチは、企業の純資産を元に企業価値評価を算出します。
帳簿を元に現時点での純資産を評価するため、算出方法がわかりやすく、客観的な視点である点が最大のメリットです。
しかし、M&A本来の「企業の将来性に着目する」という大切な概念が含まれておらず、コストアプローチだけで企業価値評価を算出するのは不十分です。
その場合、他の手法と掛け合わせて行うこともあります。
簿価純資産価額法
薄価純資産価額法は証券や土地、建物などで損益が大きく、時価を算出しやすい項目を時価調整して企業価値を評価する手法です。
「貸借対照表」をもとに算出するため簡単に算出できます。
時価純資産価額法
時価純資産価額法は帳簿上の全ての資産と負債を再評価し、純資産の金額を算出する手法です。
従業員や特許技術などの無形資産も評価に含めるのが最大の特徴です。
帳簿上で価値の低かった企業でも、従業員や特許技術を含めることにより価値が上がることがあり、無形資産は企業価値を大きく左右します。
再調達原価法
再調達原価法は対象となる企業の負債や資産を再取得するために必要な原価を算出する方法です。
算出された数値は会社を再設立する費用を指し、数値によりM&Aが必要かどうか見極められます。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは株式市場をもとに他社の企業価値に着目し、該当する企業の企業価値評価を算出する手法です。
現在赤字である企業でも、他社に着目して評価を行えば、良い評価を出せる可能性もあります。
しかし、該当する企業がない場合にはこの手法は使えません。
市場株価法
市場株価法は中期的な平均株価を元に企業価値評価を算出する手法です。
大体の場合、過去1ヶ月〜3ヶ月間の平均株価をもとに算出します。
主に上場企業のM&Aで用いられます。
類似業種比準法
対象となる会社の業種で、標準的な企業をベースに企業価値評価を算出します。
標準的な企業の帳簿上で株式、配当金、利益額、純資産などに着目しながら、対象となる企業の価値を決めていきます。
類似会社比準法(マルチプル法)
類似会社比準法(マルチプル法)は対象となる会社と上場している企業の中で同じような事業を行っている標準的な企業を複数選び、その企業の株価をベースに企業価値評価を算出します。
この手法は、ベースとなる企業の価値により、対象となる企業の価値の左右する特徴があります。
特殊な業種や成長速度の早いベンチャー企業などには向かない手法で、市場規模の大きい業種に使われます。
類似取引比準法
類似取引比準法は同一業種で、過去に行われたM&A取引を元に企業価値評価を算出する手法です。
ただし、M&A取引の情報が公開されているのは上場企業のみになるので、参考になる過去の取引が少ないのが現状です。
バリュエーションを使った買収価格決定のプロセス
バリュエーションを使った買収価格が決定するまでの主なプロセスは以下の通りです。
- バリュエーションを元に売り手側が企業価値を算出し、希望買収価格を提示する
- バリュエーションを元に買い手側がバイヤーズバリューを算出
- 最終的な買収価格決定
バリュエーションは最終的な買収価格ではなく、買収価格を決定するための目安となる数値です。
バリュエーションを元に売り手側が企業価値を算出し、希望買収価格を提示する
売り手企業はバリュエーションを元に、売却希望価格を決定します。
この際、適切なバリュエーションの手法で企業価値評価を決定する必要があります。
一般的には専門業者に依頼して行います。
バリュエーションを元に買い手側がバイヤーズバリューを算出
「バイヤーズバリュー」は買い手企業が妥当と考える買収価格を指す用語です。
バイヤーズバリューを考える際はバリュエーションにより算出された企業価値評価と売り手企業の事前調査の結果を合わせて算出します。
事前調査の中には想定されるシナジー効果やリスクなどが含まれます。
最終的な買収価格決定
売り手企業が買い手企業のバイヤーズバリューを承諾すると、M&Aの買収価格が決定します。
承諾できない場合には、交渉により決定します。
交渉はバリュエーションの結果を元に行われるため、正確なバリュエーションの実施は、最終的な買収価格の決定においてとても大切です。
M&Aでバリュエーションを行うときの注意点
バリュエーションを行う際の一番の注意点は、バリュエーションで企業の価値を数値化した企業価値評価とM&A取引でいくらで買収されるかを示す買収価格は全くの別物である点です。
算出された「企業価値評価」がそのまま買収価格になるわけではありません。
バリュエーションは、過去のデータや予測値を元に算出されます。
算出された数値は絶対的なものではなく、目安の数値になると考えましょう。
算出されたバリュエーションは売り手、買い手双方が、交渉の際に用いる材料として使われ、意思決定を助ける役割をします。
そのため、基準として自身で試算することもできますが、正確に行うにはプロセスが複雑で経営、会計、財務などの専門知識を必要とします。
とくに、インカムアプローチなど、将来性を算出するには実務経験も必要です。
交渉に使用する際は実績のあり信頼できる専門家に依頼し、バリュエーションを行いましょう。
売り手の注意点
売り手の注意点は、損益計算書や貸借対照表を買い手企業が見たときにわかりやすく、魅力的なものにしておくことです。
停留している資産や負債をなくしておくことも大切なポイントになります。
M&Aを考えているときは、売上が良くないから会社や事業を手放したいと考えがちですが、急いでM&Aを行うと満足のいかない買収価格になってしまうこともあります。
ベストな売り時にM&Aを行えるよう、早期対策を行うようにしましょう。
M&Aのバリュエーション用語を理解したその先にあるもの
バリュエーション用語を理解することはM&Aにおいてとても重要なプロセスですが、その先にある戦略的洞察やリスク評価も大切です。
バリュエーションは取引の価値を示す一方、適切な戦略や統合計画を策定する基盤でもあります。
さらに、市場動向や競合状況の分析、文化の違いを考慮することも欠かせません。M&Aの成功は単なる数値だけでなく、戦略的な洞察と実行力が重要な鍵となります。
複雑で専門性の高い用語も数多く出てきますが、知識をつけた上で専門家に依頼することで、適切なバリュエーションを行うことができ、M&A取引成立までの近道になるでしょう。
M&AアドバイザリーとしてM&Aに関連する一連のアドバイスと契約成立までの取りまとめ役を担っている「株式会社パラダイムシフト」は、2011年の設立以来豊富な知識や経験のもとIT領域に力を入れ、経営に関するサポートやアドバイスを実施しています。
パラダイムシフトが選ばれる4つの特徴
- IT領域に特化したM&Aアドバイザリー
- IT業界の豊富な情報力
- 「納得感」と「満足感」の高いサービス
- プロフェッショナルチームによる適切な案件組成
M&Aで自社を売却したいと考える経営者や担当者の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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